「今年の予算、どこにしまいましたっけ」。期の途中で、そんな会話が起きる会社は少なくありません。
予算は期初にきちんと作られます。けれど作り終えた途端に、引き出しの中の書類になります。実績と並べるのは決算のあと。そのときにはもう、打てる手は残っていません。
続かない原因は、担当者の意志ではありません。予算と実績の置き場所が分かれ、比べる作業が重いのです。裏を返せば、置き場所を寄せて比べる作業を軽くすれば、予実は毎月続けやすくなります。
予実管理(よじつかんり)とは、あらかじめ立てた計画(予算)と実際の結果(実績)を比べ、差が出た理由を確かめる仕組みです。理屈は単純ですが、続かない会社が多くあります。
たとえばOdooでは、販売チームごとに月の請求目標と実績を並べるところまでなら、基本機能で始められます。進み具合は、チームのダッシュボードに表示されます(Odooで予実を回す範囲)。
比べる作業が軽くなると、たとえば次のことが変わります。
- 毎月の転記に追われず、粗い予実を12か月続けられる
- 差額の横に理由の一行が残り、翌月の会議の質が変わる
- 部門や担当ごとに数字が分かれ、誰が動くかが決まる
- 半年たてば、どの月に費用が膨らむかといった自社の癖が見えてくる
ただし、グループ会社が多く、連結での予実が前提なら、NetSuiteのほうが要件に合うことがあります。
では、どう設計すれば毎月の比較が続くのか。答えはつまずき別の直し方にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
請求書発行など基本的な範囲の会計は、Community版(無料)でも扱えます。ただし財務諸表の出力や部門別の管理会計、複数アプリを横断した集計はEnterprise版(有償)が前提です。
続かないのは意志ではなく、比べる作業が重いから
予実管理が根づかない会社には、同じ構造があります。
- 予算は表計算ソフトで作られている
- 実績は会計システムの中にある
- 比べるには、毎月どちらかを手で写す必要がある
- 写す手間がかかるので、だんだんやらなくなる
この4行が、ほぼすべての説明です。担当者の気力の問題ではありません。毎月、転記という締め切り仕事が生まれる設計になっているのです。
予算は期初に作って保存したきりで、更新されません。実績は日々の処理で積み上がりますが、取り出す手間がいります。この置き場所の違いが、比較を止めます。
続かない仕組みは、掛け声では直りません。比べる作業が自然に成り立って、はじめて習慣になります。
PDCAとは、計画(Plan)・実行(Do)・確認(Check)・改善(Act)の頭文字をとった進め方です。中小企業で止まるのは、たいていC(確認)です。計画も実行もしているのに、確認する場がないため改善につながりません。
予実管理とは、このCを仕組みに変える取り組みです。
予実管理でつまずく4つのこと
予算の粒度が細かすぎる
勘定科目ごとに細かく予算を立てると、作る段階で消耗し、比べる段階でもう一度消耗します。細かさは精度に見えますが、続かない原因になります。
実績が出るのが遅い
翌月末にようやく前月の数字が出る。これでは、気づいたときに手の打ちようがありません。数字は、早さが精度に勝る場面があります。
差が出た理由が分からない
金額の差だけを眺めても、何が起きたのかは読み取れません。売上が届かなかったのは、件数が減ったのか、単価が下がったのか。理由が分からない差は、次の行動につながりません。
誰の責任か決まっていない
全社の数字しかないと、差を見ても誰が動けばよいか決まりません。会議で全員が困った顔をして終わります。数字が動きに変わるのは、担当が決まってからです。
予実管理のつまずきを、どう直すか
4つのつまずきには、1つずつ対応する直し方があります。粒度を粗くする、月次を早める、差の理由を残す、部門や担当で分ける。前の2つで続ける形をつくり、後の2つで数字を行動に変えます。
予算の粒度を粗くする
まずは大きな区分だけで始めます。売上、原価、人件費、その他の経費。この程度で議論はできます。粗い予実を12か月続けるほうが、細かい予実を2か月で止めるより役に立ちます。
月次を早める
月次が遅れる原因は、締めの作業より、日々の処理が滞ることにある場合が多いものです。請求や入出金が都度記録されていけば、月末にまとめて処理する量は減ります。
日々の会計処理はOdooの会計機能でできることで扱い、締めを待たずに採算を見る考え方は、受注した瞬間から、採算は見えているで紹介しています。
差の理由を記録する場所を決める
金額の差の横に置くのは、なぜそうなったかを書いた一行です。「大口の検収が翌月にずれた」「採用が前倒しで進んだ」。この一行の有無で、翌月の会議の質が変わります。
記録する場所は先に決めておきます。会議のたびに探す状態では残りません。
部門や担当で分ける
全社の数字を、部門や担当ごとに分けます。ここが管理会計の入口です。
制度として外部に報告する会計を財務会計と呼びます。これに対し、経営判断のために自社で決めた切り口で数字を見るのが管理会計です。
費用をどう分解して見るかは、費用の見える化|部門別会計・管理会計をOdooの分析会計でで詳しく扱っています。
Odooで予実管理を回すとき、どこまでが基本機能か
Odooには、無料・オープンソースのCommunity版と、有償のEnterprise版があります。予実管理は、この区別で始めどころが変わる領域です。
| やりたいこと | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 請求書発行など基本的な範囲の会計 | 使える | 使える |
| 各アプリの一覧・ピボット・グラフでの集計 | 使える | 使える |
| 販売チームごとに、月の請求目標と実績を並べる | 使える | 使える |
| 財務諸表の出力・分析会計・部門別の管理会計 | 対象外 | 前提となる |
| 複数アプリ横断で予実を一画面にまとめる | 対象外 | 前提となる |
| ホスティング・保守・公式サポート | 自社の責任 | Odooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べる。公式サポートとアップグレードを含む |
アップグレードの支援は、Odooのクラウドでも自社サーバーでも受けられます(出典:Odoo公式ドキュメント『Upgrade』、2026年10月確認)。
なお、版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
複数アプリを横断して予実を一画面にまとめるには、Enterprise版のスプレッドシート機能が前提です。一方、販売チームの月の請求目標(売上の目標額)と請求の進み具合を比べるだけなら、基本機能でも始められます。販売アプリを入れていれば、請求目標は販売チームの画面で設定します。進み具合はチームのダッシュボードに表示されます(出典:Odoo 19.0 公式ドキュメント「Sales teams」、2026年10月確認)。
費用も含めて予実を見るなら、会計アプリの「予算(Budgets)」機能があります。請求目標が販売チームの売上を追うのに対し、こちらは部門や勘定科目の単位で損益を追います。予算は次の2種類です(出典:Odoo公式ドキュメント『Budgets』、2026年10月確認)。
- 分析予算:部門やプロジェクトなど、分析会計の切り口ごとに予算を立てます。確定した仕訳から、実績(Achieved)が自動で計算されます。請求書がまだ届いていない確定済みの発注を加えた額(Committed)も並びます。
- 財務予算:損益計算書の画面で予算を作り、勘定科目ごとに金額を入れます。残高の横に予算の列が並び、その右に進み具合を示す%の列が出ます。
分析予算は、期間を指定して月次・四半期・年次の予算をまとめて作れます。予算レポートでは、実績の明細までたどれます。この機能は会計アプリの一部です。会計のフル機能はEnterprise版で、Community版は請求書発行が中心です。そのため、予算機能もEnterprise版が前提になります。
では、自社はどこから始めるのがよいか。社内で話し合うときの目安を表にしました。
| 自社の状況 | 始めどころ |
|---|---|
| まずは売上の目標と実績を毎月並べたい | Community版の販売アプリの範囲から |
| 部門ごとの損益まで毎月見たい | Enterprise版の会計と予算機能を前提に検討する |
| 販売・購買・会計の数字を一枚で経営会議に出したい | Enterprise版のスプレッドシートを前提に検討する |
| 会計は今の会計ソフトを続けたい | 会計は据え置き、販売側の予実から始める |
小さく始めて、必要になった段階で広げる。予実管理は、この進め方が取りやすい領域です。
Odooで予実管理を回すメリットと注意点
Odooで予実を回す良さは、予算と実績を同じ場所に置けることです。版ごとに書き分けると、メリットは次の5つです。
- 売上の目標と実績を並べられる:販売チームごとに月の請求目標を設定し、進み具合をチームのダッシュボードで見られる(両版)
- 実績が仕訳から計算される:分析予算では、確定した仕訳から実績が自動で計算される(Enterprise版)
- 部門やプロジェクトで損益を追える:分析会計の切り口ごとに予算を立て、予算レポートから実績の明細までたどれる(Enterprise版)
- 発注済みの額も並ぶ:Enterprise版の分析予算には、請求書がまだ届いていない確定済みの発注を加えた額(Committed)も並ぶ
- 小さく始めて広げられる:売上の予実から始め、必要になった段階で部門別の損益や横断の一画面へ広げられる
注意点は、次の4つです。
- 部門別の管理会計はEnterprise版が前提:会計のフル機能はEnterprise版で、Community版は請求書発行が中心。予算機能もEnterprise版が前提になる
- 横断の一画面はスプレッドシートが前提:販売・購買・会計の数字を一画面にまとめるには、Enterprise版のスプレッドシート機能が要る
- 理由を書く場所は運用で決める:差の理由を誰がどこに書くかは、会議の進め方とセットで決めておく
- 初年度から作り込みすぎない:あらゆる切り口で組むと運用が追いつかない。切り口は後から足せる
両方を1枚の図に並べました。
どの版から始めるかは、予実を毎月回すまでに、ベンチャーネットが確かめる順番の3つめで決めます。
予実を毎月回すまでに、ベンチャーネットが確かめる順番
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、予実管理を「システムの設定」ではなく「経営の習慣づくり」として扱います。最初に機能の話はしません。確かめるのは、次の順番です。
- 今、転記に誰が何時間使っているか:予算の置き場所と実績の出どころを並べ、毎月の手作業を洗い出します。ここが重さの正体です。
- 3〜5年後に何を見て判断したいか:その姿から逆算し、見るべき区分を4つ前後に絞ります。見える化から始め、差の理由が分かる状態へ進めます。
- 標準機能で比べられる範囲はどこか:Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で、作り込まずに回る形を探します。版の選び方もここで決めます。
- 差の理由を、誰がどこに書くか:会議の進め方とセットで決めます。責めない場にするという合意も、この段階で取ります。
- Odooが合うかどうか:合わない場合は、そうお伝えします。
たとえばグループ会社が多く、連結での予実が前提なら、NetSuiteのほうが要件に合うことがあります。財務まわりの違いはNetSuiteとOdooの財務会計の比較(NetSuiteの教科書)にまとめました。連結でどこまで自動化できるかは、グループ連結決算をNetSuiteで効率化で扱っています。
パッケージに乗らない独自の管理がある場合は、AIスクラッチ開発も選択肢です。ただしライセンスが要らない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。
よくある2つの失敗
失敗1:初年度から作り込みすぎる
最初の年から、部門も案件も商品群も、あらゆる切り口で予実を組もうとする会社があります。設計は立派ですが、運用が追いつきません。切り口は後から足せます。
失敗2:予実会議が犯人探しの場になる
理由を聞く場のはずが、詰める場になってしまう。こうなると現場は、説明しやすい数字を作るようになります。
数字が悪いこと自体は責めないと決めておく。この一点で予実管理の寿命は変わります。見せ方の基本は経営の「見える化」とはをご参照ください。
よくある質問
予実管理は毎月やる必要がありますか?
月ごとに見る形をおすすめします。四半期ごとでも意味はありますが、手を打つ余地は減ります。粒度は粗くて構いません。
予算はどのくらいの細かさで立てればよいですか?
最初は大きな区分だけで構いません。続けられる細かさが、その会社にとって正しい細かさです。
Community版だけでも予実管理を始められますか?
販売チームごとに月の請求目標と実績を並べるところからなら、始められます。財務諸表の出力や部門別の管理会計まで進めるなら、Enterprise版が前提です。
管理会計を入れると経理の負担が増えませんか?
切り口を増やしすぎれば増えます。ただし入力の時点で部門が決まる形にできれば、月末の分け直しは減ります。指標の選び方は利益の見える化|粗利・営業利益・年計表をご覧ください。
予実管理が続かない原因は何ですか?
比べる作業が重いことです。
予算は表計算ソフト、実績は会計システムと、置き場所が分かれていることが多くあります。比べるには毎月どちらかを手で写す必要があり、その手間でだんだんやらなくなります。続く形への直し方は、つまずき別の直し方にまとめました。
まとめ:予実管理は、根性ではなく設計で続く
予実管理が続くかは、根性ではなく設計で決まります。
- 予実管理とは、計画と実績を比べ、差の理由を確かめる仕組み
- 続かない原因は意志ではなく、毎月の転記という重さにある
- 粒度を粗くし、月次を早めることで、まず続く形をつくる
- 差の理由を残す場所を決め、部門や担当で分けると数字が動きになる
- PDCAで止まりやすいC(確認)を、会議ではなく仕組みで支える
粗い予実を毎月並べるだけでも、半年たてば自社の癖が見えてきます。どの月に費用が膨らむのか、どの案件がずれやすいのか。
1年後の期初、予算会議の机には12か月分の予実と、差の理由を書いた一行メモが並んでいます。来期の予算は、去年の決算書の横ではなく、その一行メモの束を見ながら組まれていくはずです。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「予算と実績を毎月比べる形にしたいが、どこから手をつけるべきか」という整理から、ご相談を承っています。今の予算表と会計データの置き場所をお聞かせいただくだけでも、始めどころは見えてきます。
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