オープンソースERP比較|主要製品の選び方と、選ぶ前に決めること

「オープンソースのERPを比較したい」

そう考えて調べ始めると、製品名がいくつも出てきます。機能の一覧表も見つかります。

しかし、その表を眺めても判断はつきません。

理由は単純です。製品を比べる前に決めるべきことが、まだ決まっていないからです。

この記事では、その順序から整理します。

オープンソースERPそのものの考え方は オープンソースERPとは? をご覧ください。

目次

【最初に】製品より先に決めること

オープンソースERPを検討する際の判断の順序を示した図 製品を比較する前に、自社の技術力の有無と支援体制の確保という2つを決める必要があり、それが決まってはじめて製品の比較に意味が出るという順序を示した図です。 判断には順序があります ① 自社に技術者がいるか 構築・保守・障害対応を担える人がいるか ② 支援体制を確保できるか 困ったときに相談できる相手がいるか ③ ここではじめて製品の比較 ①②が「いいえ」なら、製品を比べても解決しない

なぜこの順序なのか

オープンソースERPの本質は、ライセンス費用がかからない代わりに、自分たちで担う部分が増えることです。

  • サーバの用意と維持
  • セキュリティ更新
  • バックアップと復旧
  • バージョンアップ作業
  • 障害が起きたときの対応

どの製品を選んでも、これらは発生します。

つまり、①と②が「いいえ」なら、製品選びの前に構えを整えるほうが先です。

「無料だから」という理由だけなら、立ち止まってください

正直にお伝えします。無料なのはライセンスだけです。

多くの場合、総額では有償のクラウドサービスのほうが安くつきます。それでも選ぶだけの理由があるかどうかが、本当の判断軸です。

理由になりうるのは、次のようなものです。

  • データを自社の管理下に置く必要がある
  • 業務が固有で、深いカスタマイズが必要
  • 中身を確認できることに価値を感じる
  • 特定のベンダーに縛られたくない

考え方は Odooをオンプレミスで運用する にもまとめています。

主要製品の設計思想

前提が整理できたところで、製品を見ていきます。

機能の一覧ではなく、設計思想で整理します。 機能は変化しますが、思想は簡単には変わらないからです。

オープンソースERPの主要製品を設計思想と対象規模で位置づけた図 必要な技術力の高さと対象とする企業規模の2軸で、中小企業向けで導入しやすい製品から、大企業向けで自社開発を前提とする製品までを位置づけた図です。 必要な技術力と、対象規模で分かれる 必要な技術力 → 対象規模 → Odoo オープンコア クラウド版も選べる ERPNext フルオープン(GPLv3) ローコード拡張 iDempiere ほか 自社の開発部隊が前提 独自基盤を構築する用途 中小〜中堅 大企業・特殊要件

Odoo

オープンコア型です。中核が LGPLv3 で公開され、外側に有償の Enterprise版があります。

特徴は、自社でサーバを持たない選択肢もあることです。Odoo社が提供するクラウドのサービスを使えば、インフラの面倒を見る必要がありません。

つまり、技術者がいなくても始められる道があります。 これは他のオープンソースERPと比べたときの明確な違いです。

一方で、必要な機能がどちらの版の対象かを確認する作業が発生します。

詳しくは Odoo Community版とEnterprise版の違いOdooの導入形態3つを比較 をご覧ください。

ERPNext

フルオープン型です。GPLv3 で全モジュールが提供され、無償版と有償版に機能の差がありません。

Frappe Framework というローコードの基盤の上に構築されており、画面から項目や記録の種類を追加できる設計が特徴です。

構造の詳細は OdooとERPNextの違い で扱っています。

その他の製品

iDempiere など、より古くから存在する製品もあります。

これらは自社に開発部隊があり、独自の基盤を構築したい大企業向けという位置づけで語られることが多い製品です。

中小企業が最初に検討する対象ではないと考えています。

日本で使う場合の共通課題

製品を問わず、日本で使う場合には同じ課題があります。

(1) 制度対応

インボイス制度、電子帳簿保存法、消費税の扱い。海外製のオープンソースERPは、これらを標準で完備している前提では考えないでください。

設定や追加のモジュールでの対応になります。

Odooについては Odooの日本対応状況 にまとめています。

(2) 給与計算

これははっきり書きます。日本の給与計算を海外製ERPで行う前提では考えないほうがよいです。

社会保険料、所得税、住民税、年末調整。日本固有の要件が多すぎます。

給与は国産のサービスや社労士に任せる構成が現実的です。

(3) 日本語の情報量

どの製品も、日本語のドキュメントやノウハウは限られています。

英語の情報を読める人が社内にいるかどうかが、実務では効いてきます。

(4) 支援できる事業者の数

これが最大の課題かもしれません。困ったときに相談できる相手を確保できるか。

製品の機能を比べることより、この体制のほうが結果を左右します。

判断のためのチェックリスト

次の質問に答えてみてください。

#質問「いいえ」が多いなら
1サーバの構築と保守を担える人がいますかオープンソースERPの自力運用は難しい
2夜間や休日の障害に対応できますかクラウド型か、支援契約が必須
3年1回程度のバージョンアップを計画できますか運用体制の設計から始める
4英語の情報を読める人がいますか日本語情報の多い製品を選ぶ
5困ったときに相談できる相手がいますかここが最優先の課題

1〜3が「いいえ」なら、クラウド型のサービスを選ぶほうが現実的です。

Odooの場合、自社でサーバを持たない選択肢があります。詳しくは Odoo Onlineとは? をご覧ください。

5が「いいえ」なら、まずそこを解決してください。 製品選びはその後です。

ベンチャーネットの立場

特定のオープンソースERPだけが正解だとは考えていません。

ベンチャーネットは、SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っています。オープンソースERPの検討では、次のように整理しています。

状況検討したい選択肢
技術者がおらず、制度対応も任せたいオープンソースERPは適さない。国産のクラウドサービスへ
技術者はいないが、業務を統合したいOdoo(クラウド型を選べる)
技術者がおり、ライセンス費用をゼロにしたいERPNext も有力な候補
業務が固有すぎて、どの製品にも乗らないAIスクラッチ開発という選択肢

最終行について補足します。オープンソースERPを大幅に作り込むくらいなら、必要な機能だけを自社資産として作るほうが扱いやすいことがあります。

ただしAIスクラッチ開発は、ライセンス費用がかからない代わりに開発費と保守費が別途かかります。判断材料は パッケージERPかスクラッチ開発か に整理しました。

よくある質問

Q1. 機能の比較表はありませんか?

この記事では、あえて掲載していません。

理由は2つあります。ひとつは、機能は頻繁に変わるため表がすぐ古くなること。もうひとつは、機能の有無より「自社で運用できるか」のほうが判断を左右するからです。

具体的な機能は、各製品の公式情報でご確認ください。

Q2. 結局どれが一番いいのですか?

「一番いい製品」は存在しません。 自社の技術力と支援体制によって、適する製品が変わります。

技術者がいないなら、クラウド型を選べる製品。ライセンス費用をゼロにしたいなら、フルオープン型。この順で絞れます。

Q3. 無料のERPで本当に基幹業務を回せますか?

回している会社は世界中にあります。ただし、そこには技術力か支援体制のどちらかがあります。

「無料だから」だけの理由で始めると、運用の負担で行き詰まることが多いというのが実感です。

Q4. 途中で製品を変えられますか?

移行は可能ですが、作業と費用が発生します。データ構造が製品ごとに違うためです。

だからこそ、最初の判断が重要になります。

Q5. 日本語のサポートは受けられますか?

製品によって状況が異なります。Odooには公式の有償サポートがありますが、日本語での対応範囲は事前に確認してください。

それ以外は、支援できる事業者との契約が現実的な選択肢になります。

まとめ

オープンソースERPを比較するとき、多くの人は機能の一覧から入ります。

しかし、その順序では判断がつきません。先に決めるべきことがあるからです。

① 自社に技術者がいるか。② 支援体制を確保できるか。

この2つが「いいえ」なら、製品を比べても解決しません。オープンソースERPは、ライセンス費用がかからない代わりに、自分たちで担う部分が増える選択だからです。

そのうえで、主要製品は設計思想で分かれます。

Odooはオープンコア型で、自社でサーバを持たない選択肢もあります。技術者がいなくても始められる道があるのが特徴です。

ERPNextはフルオープン型で、無償版と有償版に機能の差がありません。ライセンス費用をゼロにしたい場合に有力です。

iDempiereなどは、自社に開発部隊がある大企業向けという位置づけで語られる製品です。

そして、日本で使う場合には製品を問わず共通の課題があります。制度対応、給与計算、日本語の情報量、そして支援できる事業者の数

最後の点が、実務ではもっとも重要です。 困ったときに相談できる相手を確保できるか。ここが決まっていないなら、製品選びはその後です。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

技術者がいない会社に、自力運用を前提としたオープンソースERPを勧めることはしません。 まず「自社の構えがどうなっているか」の整理からご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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