稼働から3か月。営業会議で商談一覧を開くと、半分の案件が先月のまま止まっている。理由を聞くと、返ってくるのは「このシステム、使いづらいんですよ」の一言です。
多くの経営者は、これを画面の話として受け取ります。しかし一人ずつ話を聞くと、画面そのものが原因であることは多くありません。
声の中身を仕分けてから手を打てば、画面を直す前に片づく声も少なくありません。「使いづらい」の中身は、たいてい4つのどれかです。入力の目的が分からない。入力しても自分に返ってこない。手順が前と違う。決めていなかったルールが、システムで決まってしまった。
たとえば営業担当には、自分の商談一覧を先に用意します。Odooでは、標準の一覧やグラフ集計が両版で使えます(入力した情報が本人に返る導線)。
仕分けてから手を打つと、たとえば次のことが変わります。
- 直さなくてよい画面まで直して、費用だけが増えることを避けられる
- 商談の記録が報告作業で終わらず、担当者自身の一覧に返る
- 部署ごとに違った手順が、経営の前提と現場の手順として決まる
ただし、仕分けた結果、Odooの標準が業務に合わないと分かることもあります。進め方の良い点と負担は、定着設計の良い点と、気をつけることに並べました。
では、仕分けた声に、誰がどう手を打つのか。経営が決めて降ろすか、現場の声を積み上げるか。どちらか一方だけではうまくいかない理由と答えは、決める層を分ける進め方にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには、無料で使えるCommunity版と、有償のEnterprise版があります。この記事では、画面や項目をノーコード(プログラムを書かずに設定する方式)で調整するOdoo Studioに触れます。これはEnterprise版のカスタムプランが前提の機能で、各アプリの基本機能は両版で使えます。
「使いづらい」を額面どおり受け取ると、費用だけが増える
いちばん起こりやすいのは、その言葉をそのまま要件にすることです。入力欄を減らす、画面を分ける、部署専用の一覧を作る。
修正は積み上がり、直すたびに標準の状態から離れます。バージョンアップのたびに、その修正の確認も必要になります。
厄介なのは、ここまでやっても定着しない場合があることです。原因が画面になかったのなら、当然の結果です。
まず声の中身を分解する。画面に手を入れるかどうかは、そのあとで判断します。
システムが使いづらい原因は、4つの中身に分かれる
何のために入力しているのか分からない
目的が伝わっていない状態です。目的が分からない作業は、画面が整っていても面倒に感じます。操作性ではなく、説明の問題です。
入力しても自分に返ってこない
打った情報が、自分の仕事を楽にしていない状態です。営業担当が商談を記録しても、見るのが上長だけなら報告作業にすぎません。会社の役に立つことと、本人に返ることは別です。入力が増えたと感じる仕組みは、「ERPで現場の仕事が増えた」はなぜ起きるのかで整理しています。
今までのやり方と手順が違う
純粋な慣れの問題で、手が覚えた順番と違うから遅く感じます。時間が解決する部分が大きく、画面を直しても根っこは変わりません。ほかの中身と混ぜると、直さなくてよい所まで直してしまいます。
決めていなかったことが、システムで決まってしまった
いちばん見落とされやすい中身です。担当者ごとに違った手順が、システムでは一本に決まります。必要なのは画面の修正ではなく、業務ルールの決定です。
4つの中身と、打ち手を決める人
社内で声を仕分けるときは、次の表が使えます。
| 中身 | 現場からの聞こえ方の例 | 打ち手 | 決める人 |
|---|---|---|---|
| 目的が分からない | 「これ、誰が見るんですか」 | 入力の目的を説明する | 経営・導入責任者 |
| 自分に返ってこない | 「入れても何も変わらない」 | 本人が使う一覧を先に作る | 現場の担当と責任者 |
| 手順が違う | 「前のほうが早かった」 | 時間を置き、手順書で支える | 現場(待つ判断は経営) |
| ルールが決まっていない | 「うちの部署は違うやり方なので」 | 業務ルールを決めて文章にする | 経営が前提、現場が手順 |
表のどれにも当てはまらず、具体的な操作の指摘だけが残る。そこで初めて、画面の調整を検討します。
定着の進め方は、トップダウンにもボトムアップにも弱点がある
声を仕分けても、手を打つ進め方を誤れば定着しません。定着の進め方は大きく2通りあり、どちらにも弱点があります。
トップダウンだけでは、使われない仕組みができる
経営が決めて降ろすやり方は、決断が速く、全体最適にもなりやすい進め方です。弱点は、実務の細部を知らないまま設計が固まること。決めた側には見えず、使う側が毎日ぶつかります。決定に関わらない現場に、やらされ感が残るのもこのやり方です。
ボトムアップだけでは、全体がばらける
現場の要望を積み上げるやり方は、実務に合い、納得感も生まれます。弱点は、部署ごとの最適が寄せ集まること。ぶつかったとき決める人もおらず、議論が止まります。
決める層を分けると、両方の弱点が同時に消える
経営が決めるのは、「何を達成するか」と「どこは譲らないか」の2つだけです。現場が決めるのは「その中でどうやるか」。手順や担当、入力のタイミングのことです。
経営が細部まで決めないので、実務と合わない設計が減ります。現場は範囲の中で自ら決めるため、やらされ感も、議論が止まったままの状態も起きにくくなります。詳しくはOdooを社内に定着させる方法をご覧ください。
システムを定着させる実務と、Odooでの位置づけ
入力した情報が本人に返る導線を作る
入力しても自分に返ってこないへの打ち手です。営業担当なら自分の商談一覧、現場担当なら自分の作業予定を先に用意します。Odooでは、標準の一覧やグラフ集計が両版で使えます。
最初に使う人を絞る
全部署で一斉に始めると、声の中身が混ざって分解できません。いちばん詰まっている担当から始めれば、その人が説明役になります。
運用ルールを文章にして残す
決めていなかったことが、システムで決まってしまったへの打ち手です。誰がいつ何を登録するかを、短くてよいので文章にします。システムだけでは定着しません。変わったら書き換える運用も要ります。
画面や項目の調整を考えるのは、ここまでやったあとです。Odoo Studioはカスタムプランが前提の機能で、ノーコードで項目や画面を調整できます。ただ、調整できること自体は、調整すべき理由になりません。
標準に業務を合わせる考え方とカスタマイズの判断基準もご覧ください。
| 項目 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 各アプリの基本機能 | 使える | 使える |
| 標準の一覧・グラフによる集計 | 使える | 使える |
| ノーコードでの画面調整(Odoo Studio) | 対象外 | 使える |
| 権限・認証の基本的な仕組み | 共通 | 共通 |
| ホスティング・保守 | 自社で担う | Odooオンライン・Odoo.sh・自社サーバーから選べ、公式サポートがつく |
Odoo Studioを使うには、「Enterprise版の中でもカスタムプラン」が必要です。スタンダードプランには含まれません。
版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
定着設計の良い点と、気をつけること
声を分解し、決める層を分けて手を打つやり方は、画面の修正から入るより手前で時間を使います。得られることと、先に知っておきたい負担を並べます。
良い点は、次の4つです。
- 直す画面が絞られる:分解してから画面を触るので、修正が積み上がって標準の状態から離れることを避けやすい
- 入力が本人に返る:自分の商談一覧や作業予定を先に用意し、入力を報告作業で終わらせない
- 実務と合わない設計が減る:経営は「何を達成するか」と「どこは譲らないか」だけを決め、細部は現場が決める
- やらされ感と議論の停滞が起きにくい:現場は、経営が決めた範囲の中で手順や担当を自ら決める
気をつけることは、次の4つです。
- 経営が前提を示す必要がある:「現場に任せた」と手を引くと、部門間の調整が終わらない
- 声を出した人に直接聞く手間がかかる:誰が、どの業務のどの場面で詰まっているかを聞く
- 慣れには時間が要る:手順の違いは時間が解決する部分が大きく、待つ判断は経営が持つ
- 画面の調整は版とプランで変わる:ノーコードで調整するOdoo Studioは、Enterprise版のカスタムプランが前提になる
経営が手を引いたときに起きることは、よくある2つの失敗で扱っています。
「使いづらい」と言われた会社で、ベンチャーネットが最初に確かめること
この声が出たとき、ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、画面の修正から入りません。次の順で確かめます。
- 声を出した人に、直接聞く:誰が、どの業務のどの場面で詰まっているかを聞きます。「みんなが言っている」は材料になりません。聞き方の型は業務ヒアリングの進め方にまとめています。
- 4つの中身に仕分ける:4つの中身と、打ち手を決める人の表で振り分けます。複数が混ざっていれば、分けて扱います。
- 経営が決めるべき前提を洗い出す:ルールの不在に当たる声は、経営の判断待ちであることが多いものです。何を達成し、どこは譲らないかを先に決めていただきます。
- 標準機能のまま運用を変えられるかを見る:Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で、運用の変更で済むかを先に検討します。
- それでも残る指摘だけを、調整の対象にする:画面を直すのは最後です。調整するなら、バージョンアップ時の確認まで含めて判断します。
ERPは、ITではなく経営のプロジェクトです。そのため「使いづらい」の少なくない部分は、経営の決定で片づくとベンチャーネットは考えています。
Odooの標準が業務に合わないと分かるのも、仕分けた結果のひとつです。そのときは合わないとお伝えし、規模や要件に合う別の選択肢を一緒に考えます。
よくある2つの失敗
失敗1:声を集めた人が、そのまま決めてしまう
要望は、分解する前の生の声です。慣れの問題とルールの不在と見返りの不足が、混ざっています。集める人と決める人が同じでも構いません。ただ、分解の工程は挟みます。
失敗2:経営が「現場に任せた」と言って手を引く
譲らない前提を誰も示さないため、部門間の調整が終わりません。結局、声の大きい部署の要望が通ります。経営が持つのは細部ではなく、目的と前提です。
「使いづらい」とシステム定着のよくある質問
現場が「使いづらい」と言い続ける場合、画面を直せば解決しますか?
画面を直すだけで解決するとは限りません。まず中身を分解してから判断します。
目的の共有不足や見返りの不足が原因なら、画面を直しても声は消えません。分解しても具体的な操作の指摘が残るなら、そこは調整の対象です。
経営が決めたルールに現場が従わないときは、どうすればよいですか?
そのルールが「何を達成するか」なのか「どうやるか」なのかを、まず確かめてください。後者まで経営が決めていると、反発が起きやすくなります。やり方は現場に返します。
定着までの期間は、どのくらい見ておけばよいですか?
一律の目安は示せません。会社の規模や対象業務で変わるためです。
数か月たっても同じ声が続くなら、慣れ以外の原因が残っていると考えたほうが現実的です。
標準機能に合わない業務がある場合は、どう判断すればよいですか?
まず、その業務が本当に自社固有かを確かめます。ルールを決めていなかっただけ、というケースが少なくありません。
そのうえでの選択肢は、規模や要件によって次のとおりです。
- 中小から中堅で、標準的な業務を統合するならOdoo
- 海外展開や連結決算が視野に入るなら、NetSuiteなど上位のERP
- グローバルで要件が複雑なら、SAPも候補
パッケージに乗らない固有業務が中心なら、AIスクラッチ開発もあります。ただし、開発費と保守費が別にかかります。
システムが定着しない原因は何ですか?
多くの場合は画面より手前の4つの中身にあります。
入力の目的が分からない、自分に返ってこない、手順が前と違う、ルールが決まっていない、の4つです。手を打つ進め方がトップダウンかボトムアップの片方だけでも、定着しにくくなります。決める層の分け方は決める層を分ける進め方で説明しています。
まとめ:「使いづらい」は分解してから手を打つ
- 「使いづらい」が画面の問題であることは、実は多くない
- 中身は「目的」「見返り」「慣れ」「ルールの不在」の4つに分かれる
- トップダウンにもボトムアップにも弱点があり、片方だけでは埋まらない
- 経営は「何を達成するか」と「どこは譲らないか」だけを決め、現場は「どうやるか」を決める
- 決める層を分けることが、両方の弱点を同時に減らす打ち手になる
定着は、機能の多さでは決まりません。1年後の営業会議で「使いづらい」と誰かが言ったとき、「それは4つのうちどれ?」と聞き返す声が上がる。その会社では、画面を直す前に決めるべきことが、もう決まり始めています。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「『使いづらい』の中身を分解したうえで、経営と現場のどちらが何を決めるかを整理したい」という整理から、ご相談を承っています。
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