SaaSの本質とは|クラウドとオンプレミスの違い、標準機能に業務を合わせる理由

「標準機能に合わせてください、と言われました。でも、うちのやり方にも理由があります」

システムを検討中の経営者から、よくこう言われます。長年かけて整えた手順を、ソフトの都合で変えろと言われたように聞こえるからです。

ただ、この「合わせる」は我慢を求める言葉ではありません。改善を受け取り続けるための条件です。

SaaSとは、ソフトをインターネット経由でサービスとして使う形態です。その本質は、多くの会社が同じ一つのソフトを共有していることにあります(SaaSの本質)。共有しているから、標準に合わせた会社ほど、更新のたびに届く改善をそのまま受け取れます。差が表に出るのは、使い始めて2年目、3年目です。

この仕組みが分かると、たとえば次のことが変わります。

  • 自社が要望していない改善も、更新のたびに手元に届くと分かる
  • 作り込む部分を、何年面倒を見るかで判断できる
  • Odooオンライン・Odoo.sh・オンプレミスを、何を預けるかで選べる
  • 作り込みが少ないほど、更新のたびの点検と手直しが減る

とはいえ、全部を合わせればよいわけでもありません。競争力の源泉になっている業務まで標準に寄せると、強みが薄まります。そうした業務が標準に乗らないなら、AIスクラッチ開発という選択肢もあります(開発費と保守費が別途かかります)。

では、どの業務を合わせ、どの業務を守るのか。仕分けの順番は合わせる業務と守る業務を仕分ける手順にあります。

CommunityとEnterpriseの区別について

この記事で扱う3つのホスティング形態のうち、OdooオンラインはEnterprise版が対象で、Community版は対象外です。ノーコードで画面や項目を調整するOdoo Studioも、Enterprise版のカスタムプランが前提です。

目次

SaaSの本質は「同じソフトウェアを大勢で共有している」こと

SaaS(Software as a Service)は、ソフトをインターネット経由でサービスとして使う形態です。これを、月々払いのソフトだと理解している方は少なくありません。

しかし、料金の払い方は結果にすぎません。本質は、多くの利用者が同じ一つのソフトウェアを共有している点にあります。

かつての受託開発は、自社のためだけに作ったソフトを、自社だけで使う形でした。SaaSは逆です。同じソフトを、世界中の会社が同時に使います。

導入したあとに、違いが現れる 自社向けに作り込むと、改造した部分は自社の持ち物になり、更新のたびに点検と手直しが要るため面倒を見る範囲が増える。標準機能に合わせると、全利用者の要望が標準に集まり、更新のたびに改善が届くため、他社の改善を受け取れる。 導入したあとに、違いが現れる 自社向けに作り込む 改造した部分は自社の持ち物 更新のたびに点検と手直し → 面倒を見る範囲が増える 標準機能に合わせる 全利用者の要望が標準に集まる 更新のたびに改善が届く → 他社の改善を受け取れる 同じ土台を共有しているからこそ、 合わせた分だけ改善が返ってくる
作り込んだ場合と標準に合わせた場合の、導入後の違い

この違いが表に出るのは、導入時ではありません。使い始めて2年目、3年目です。

「SaaSは終わる」という議論が出てきたいま、何がソフトとして残り、何が会社の手元に残るのか。この問いは、NetSuiteの教科書のAI時代に「消えるシステム」と「残るシステム」で取り上げています。

共有しているから導かれる3つのことと、標準に合わせる意味

提供する側は、1社のためだけに改造できない

同じソフトを共有している以上、1社の都合で手を入れれば、他の利用者にも影響します。だから提供側は、特定の1社のための改造を受け付けません。

冷たい対応ではなく、共有という前提からくる帰結です。

代わりに、全利用者の要望が標準機能に集まる

その代わり、提供側は世界中の利用者から寄せられた要望を集め、多くの会社の役に立つものを標準機能として改善し続けます。

自社が要望していない改善も、更新のたびに手元に届くということです。

標準に合わせるほど、改善を受け取り続けられる

標準機能に合わせておくほど、更新のたびに届く改善をそのまま使えます。

逆に作り込むほど、更新のたびに自社で面倒を見る部分が増えます。改造した箇所は、提供側ではなく自社の持ち物になるからです。

「標準に合わせる」は、我慢ではありません。改善を受け取り続けるための条件です。

この考え方は、Fit to Standard(業務のほうをソフトの標準機能に寄せる進め方)と呼ばれます。具体的な進め方は、Fit to Standardの記事にまとめました。

標準に合わせる良い点と、合わせることの代償

標準に合わせることには、得られるものと、払う代償の両方があります。並べると次のとおりです。

良い点は、次の3つです。

  • 改善をそのまま使える:標準機能に合わせておくほど、更新のたびに届く改善をそのまま使える
  • 頼んでいない改善も届く:全利用者の要望が標準機能に集まり、自社が要望していない改善も手元に届く
  • 面倒を見る範囲が増えない:改造した箇所は自社の持ち物になる。作り込まなければ、更新のたびの点検と手直しが増えない

代償は、次の3つです。

  • 現場の負担:やり方を変える負担が現場にかかる。手順を覚え直す時間も、慣れるまでの不安も、現場が引き受ける
  • 強みを消すおそれ:競争力の源泉になっている業務まで、標準に寄せて消してはいけない。そこは他社と差がつく部分である
  • 区切りを決める責任:どこを譲り、どこを譲らないか。この区切りは担当者ではなく、経営者が決めるべき論点になる

両方を1枚の図に並べました。

標準に合わせる良い点と、合わせることの代償 良い点は、改善をそのまま使える、頼んでいない改善も届く、面倒を見る範囲が増えないこと。代償は、現場の負担、強みを消すおそれ、区切りを決める責任。 標準に合わせる良い点と代償 良い点 改善をそのまま使える 更新のたびに届く改善を使う 頼んでいない改善も届く 全利用者の要望が標準に集まる 面倒を見る範囲が増えない 作り込まなければ点検と手直しが増えない 合わせることの代償 現場の負担 手順を覚え直す時間と慣れるまでの不安 強みを消すおそれ 競争力の源泉まで標準に寄せない 区切りを決める責任 譲る・譲らないは経営者が決める
標準に合わせる良い点と代償

区切りの決め方は合わせる業務と守る業務を仕分ける手順に、一律に寄せたときの失敗は標準に合わせるときによくある2つの失敗にまとめました。

クラウドとオンプレミスの違い:何を預け、何を自社で持つか

クラウドとオンプレミスに、優劣はありません。違うのは、何を自社で持ち、何を預けるかです。

Odooオンライン:用意と保守を預ける

Odooオンラインは、Odooが提供するクラウドです。サーバーの用意、保守、バージョンアップを預けます。

Community版は対象外で、Enterprise版が前提です。詳しくはOdooオンラインの記事で説明しています。

Odoo.sh:開発環境がついたクラウド

Odoo.shも、クラウド上で動かす形態です。こちらは開発環境がついており、独自の追加機能を載せて動かせます。

預ける部分と、自社で持つ部分。その中間にあたる形です。

オンプレミス:すべて自社で持つ

オンプレミスは、自社のサーバーでOdooを動かす形態です。用意も保守も自社の責任になる代わりに、自由度は高くなります。

自社で持つ形であれば、Community版も動かせます。3形態の違いはホスティング形態の記事にまとめました。

何を預け、何を自社で持つか Odooオンラインは用意・保守・更新を預ける形でCommunity版は対象外。Odoo.shは開発環境つきのクラウドで独自の追加を載せられる。オンプレミスは自社サーバーで動かし、自由度は高く責任も自社。この順に自社で持つ範囲が広がる。 何を預け、何を自社で持つか 下へ行くほど、自社で持つ範囲が広がる ①Odooオンライン 用意・保守・更新を預ける Community版は対象外 ②Odoo.sh 開発環境つきのクラウド 独自の追加を載せられる ③オンプレミス 自社サーバーで動かす 自由度は高く責任も自社 優劣ではなく、どこまで預けるかの違いで選ぶ
Odooの3つのホスティング形態と、預ける範囲の違い

自社に合う形態を、会議で確かめる表

社内で話し合うときは、次の表を叩き台にしてください。左の状況に近いほど、右の形態が候補になります。

自社の状況候補になりやすい形態
社内にサーバーを見る人がいない。更新も任せたいOdooオンライン(Enterprise版)
標準で足りない部分を、独自の追加機能で補いたいOdoo.sh(Enterprise版)
社内に保守を担える人がいて、自社で持ちたい理由があるオンプレミス(Community版も可)
まだ決めきれない標準でどこまで回るかを先に確かめる

形態は、作り込みの量と一緒に考えてください。作り込みが増えるほど、自社で持つ部分も増えるからです。

OdooのCommunity版とEnterprise版で何が変わるか

Odooに当てはめると、次のようになります。

項目Community版Enterprise版
ライセンス無料・オープンソース有償サブスクリプション
Odooオンライン対象外ホスティングに含まれる
保守・バージョンアップ自社の責任サブスクリプションに含まれる
公式サポート対象外含まれる
Odoo Studio(ノーコードでの画面・項目の調整)対象外利用できる
基本の業務アプリ(CRM・販売・在庫・購買・製造など)利用できる利用できる

Odoo Studioを使うには、Enterprise版の中でも「カスタムプラン」が必要です。スタンダードプランには含まれません。

版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。

合わせる業務と守る業務を仕分ける、ベンチャーネットの手順

ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、特定の製品を前提にしません。製品の話より先に、業務の仕分けから入ります。

ステップ1:3〜5年後の会社の姿を先に聞く
拠点や人数、扱う商品がどう変わるかを伺います。守るべき業務は、今ではなく数年後の姿で決まるからです。

ステップ2:業務を「合わせる」「守る」に分ける
経理の締めや発注のように、どの会社でも似た手順の業務は標準に寄せます。見積もりの出し方など、他社と差がつく業務は守る側に置きます。

ステップ3:守る業務を、標準の設定で吸収できるか試す
いきなり作り込まず、設定と項目の調整でどこまで回るかを確かめます。作り込みは、それでも足りない部分だけに絞ります。

ステップ4:作り込む部分を、何年面倒を見るかで判断する
年1回の更新のたびに誰が点検と手直しを担うのかを決め、担い手が決まらない作り込みは見送る判断もします。

この順で進めても標準に乗らないなら、Odooが合わないと率直にお伝えします。そのときに一緒に考えるのが、規模や要件に合う別の選択肢です。

ステップ2の仕分けを、NetSuiteとOdooのアプリで比べたい場合は、OdooのアプリはNetSuiteで何に当たるかが手がかりになります。「標準で足りる・拡張で補う・連携する」の3つで整理した対応表です。

標準に合わせるときによくある2つの失敗

失敗1:区切りを決めないまま、すべてを標準に寄せてしまう

「標準に合わせるのが正解」と聞いて、全業務を一律に寄せるのは行き過ぎです。

差別化の源泉まで平らにならすと、強みが薄まります。合わせる業務と守る業務を、分けて決めてください。

失敗2:作り込みの負担を、導入時の費用だけで見てしまう

作り込むかどうかを、開発時の負担だけで決める会社は多いです。あとで重くなるのは、更新のたびに発生する点検と手直しのほうです。

何年面倒を見るのかを先に確認するだけで、判断は変わります。その考え方を詳しく書いたのがカスタマイズの記事です。

よくある質問

SaaSとクラウドは同じ意味ですか?

厳密には違います。クラウドは、システムをインターネットの先に置く形態を広く指す言葉です。SaaSはそのうち、完成したソフトを共有して使う形です。

オンプレミスを選ぶと、改善は受け取れないのですか?

受け取れます。新しいバージョンを自社で適用すれば、改善は手元に入ります。違うのは、その作業を誰が担うかです。

Community版は無料と聞きましたが、費用はかからないのですか?

ライセンスは無料です。ただし、サーバーの用意、保守、バージョンアップは自社で担います。

公式サポートの対象外でもあります。無料という言葉だけで判断しないでください。

どうしても標準に合わない業務がある場合は?

段階を踏んで考えます。まず確認するのは、設定や項目の調整で吸収できるかどうかです。

それでも合わず、その業務が競争力の源泉なら、AIスクラッチ開発という選択肢もあります。ただし、ライセンスは不要でも、開発費と保守費が別途かかります。

逆に規模が大きくなり、海外展開や連結決算が視野に入るなら、NetSuiteなど上位のERP。グローバルで複雑な要件なら、SAPも視野に入ります。

標準機能に合わせるメリットとデメリットは何ですか?

改善を受け取り続けられる一方で現場の負担があります。標準機能に合わせておくほど、更新のたびに届く改善をそのまま使えます。一方で、やり方を変える負担は現場にかかります。競争力の源泉になっている業務まで、標準に寄せて消してはいけません(標準に合わせる良い点と代償)。

まとめ

要点は次の5つです。

  • SaaSの本質は、多くの利用者が同じソフトを共有していること
  • 共有しているから、提供側は1社のための改造ができない
  • 代わりに、全利用者の要望が標準機能として改善され続ける
  • だから標準に合わせることは、改善を受け取り続ける条件になる
  • クラウドとオンプレミスは、何を預け、何を自社で持つかの違い

差が出てくるのは、最初のバージョンアップを越えたあたりからです。

1年後、次のバージョンの案内が届いた日を想像してください。標準に寄せた会社は新機能の使い道を話し合い、作り込んだ会社は改造箇所の点検表づくりから始めることになります。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「どの業務を標準に合わせ、どの業務を自社の強みとして守るか」という整理から、ご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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