【中小企業向け】情シスアウトソーシングの限界と、止まらないIT基盤の作り方

月曜の朝、会計システムに誰もログインできない。

ひとりで情シスを担う担当者は、今日は休みです。

外注先に電話すると、「管理者のパスワードは御社でお持ちでは」と返ってくる。

情シスアウトソーシングとは、社内の情報システム業務の全部または一部を、外部の会社に任せることです。

人を採れない中小企業にとって、現実的な手段の一つです。

ただ、外に出すだけでは、冒頭の朝は防げません。

外に出してよいのは、手順が決まった作業です。

契約・管理者の権限・システムの構成の記録は、社内に残します。

そのうえで、基幹システムをクラウドに寄せれば、作業の量そのものが減ります。

では、どこで線を引けば、1人が休んでも辞めても止まらない会社になるのか。

表と具体的な場面で、その線を引いていきます。

目次

この記事で分かること

  • 情シスアウトソーシングと情シスBPOの違い
  • 外に出す業務と、社内に残す業務の線引き
  • 情シスの外注で失敗する3つのパターンと避け方
  • 外注先を選ぶときに、契約前に聞く項目
  • 基幹システムをクラウドに寄せて、運用の手間そのものを減らす考え方

情シスは、社内のパソコン・ネットワーク・業務システムを管理する部署や担当者のことです。

ひとり情シスは、その仕事を1人で担っている状態を指します。

情シスアウトソーシングとは|情シスBPOとの違い

外に任せる範囲は、会社ごとに違う

典型は、目に見えるIT業務の外注です。

  • ヘルプデスク(社員からの問い合わせ対応)
  • パソコンのキッティング(初期設定をして使える状態にすること)
  • ネットワークやサーバーの監視

「IT丸投げ」のイメージで語られることもあります。

実際には、どこまで任せるかの設計で、成果が大きく変わります。

情シスBPOとの違い

よく似た言葉に情シスBPOがあります。

BPO(Business Process Outsourcing)は、業務の流れ全体を、運用の責任ごと外部に任せる形です。

比較の軸情シスアウトソーシング情シスBPO
任せる範囲業務の一部(作業の単位)業務の流れ全体(運用の責任を含む)
契約の形作業ごとの請負・準委任包括的な運用の委託
全体をまとめる人自社委託先が運用を主に担う
対象の例ヘルプデスク、キッティング、障害の対応情シスの機能全般(運用・保守・改善の提案)
意思決定への関わり自社が判断し、委託先は実行委託先も改善の提案や運用の設計に関わる
向く会社社内に情シス担当者がいる情シスがいない、またはひとり情シス

作業の単位で外注しても、それを束ねる人は社内に要ります。

情シスがいない会社ほど、業務の流れごと任せる形が合いやすくなります。

どちらを選ぶか|3つの判断基準

  • 社内に情シス担当者がいるか:いれば作業の単位の外注でも回る。いなければBPO寄り
  • どこまで支援を求めるか:基幹システムやデータの活用まで相談したいならBPO寄り
  • 付き合い方:長く一緒に改善したいならBPO、スポットで足りるならアウトソーシング

ただし、BPOでも「すべてを任せてよい」わけではありません。

何を外に出し、何を社内に残すか|線引きの表

情シスの仕事を、6つに分けます。

業務例外に出せるか社内に残すもの
ヘルプデスク・パソコンの支援問い合わせ対応、キッティング◎ 出しやすいよくある質問の記録を自社でも持つ
ネットワーク・サーバーの運用監視、保守、クラウドの管理◎ 出しやすい構成の記録と、管理者の権限の控え
セキュリティの運用ウイルス対策、ログの監視○ 一部は出せる事故のときに誰が何を決めるか
業務システムの運用・保守基幹システム・会計・販売管理の運用△ 相手を選ぶ業務のルール、マスタ(取引先や品目の元データ)の管理の責任
契約・アカウントの管理ベンダーとの契約、ID・権限✕ 出さない契約の一覧、管理者の権限の最終的な持ち主
IT戦略・システムの選定中期のIT計画、製品の選定✕ 判断は出さない何を優先するかを決める権限

経営に近い仕事ほど、外に出しにくい。

外に出してよいのは「作業」で、社内に残すのは「決める権限」と「鍵」と「全体の地図」です。

  • 鍵:管理者のIDや権限、契約の名義
  • 全体の地図:どのシステムがあり、何がどこにつながっているかの記録

この3つが外注先にしかない状態が、「任せきり」の正体です。

外注先が替わるときや、契約をやめるときに、身動きが取れなくなります。

手順や記録が整った仕事ほど、AIに点検や下書きを任せやすくもなります。

問い合わせの記録から回答の案を作る、監視の記録を要約する、といった使い方です。

一方、契約や製品の選定は判断と責任が中心で、決めるのは経営です。

線引きで迷いやすい3つのケース

クラウドサービスの管理者の権限

設定の作業は、外注先に任せてかまいません。

ただし、最上位の管理者のIDは自社の名義で持ち、外注先には作業に要る範囲の権限だけを渡します。

パソコンや機器の購入

機種の選定や手配は外に出せます。

何台をいつ入れ替えるかは予算の判断なので、案を出してもらい、決めるのは社内です。

基幹システムの小さな設定の変更

項目の追加や帳票の修正は、外注先に頼みやすい作業です。

その変更が業務のルールを変えるかどうかは、社内で判断します。

「作業の依頼」と「ルールの変更」を分けて記録すると、後で経緯を追えます。

迷ったら、やり直しがきくかどうかで考えます。

やり直しがきく作業は外へ。取り返しのつきにくい判断は社内へ。

線引きに迷ったときの見分け方:やり直しがきくか やり直しがきく作業(クラウドの設定、機種の選定・手配、項目の追加や帳票の修正)は外に出す。取り返しのつきにくい判断(最上位の管理者のID、入れ替えの台数と時期、業務のルールの変更)は社内に残す。 線引きに迷ったときの見分け方 やり直しがきくか 作業か、取り返しのつきにくい判断か きく きかない 外に出す (作業) 社内に残す (判断) ・クラウドの設定作業 ・機種の選定・手配 ・項目の追加・  帳票の修正 ・最上位の管理者のIDを  自社の名義で持つ ・何台をいつ  入れ替えるか ・業務のルールを  変えるかどうか
線引きに迷ったときの見分け方:やり直しがきくか

なぜ中小企業で情シスアウトソーシングが必要になるのか

採用できない・育てられない・続かない

ひとり情シスの会社には、3つの悩みが重なります。

  • 採用できない:IT人材の獲得競争で、大企業の給与や知名度に勝ちにくい
  • 育てられない:教える先輩がいないため、仕事を通じた育成が成り立たない
  • 続かない:給与や将来の道筋の面で、長く勤める理由を作りにくい

経営者個人の責任というより、多くの中小企業に共通する構造の問題です。

IT人材の不足は、公的な試算でも示されている

経済産業省の委託調査は、2030年のIT人材の需給ギャップを約16万〜79万人と試算しています。

IT需要の伸び方の前提によって、幅があります(出典:経済産業省「IT人材需給に関する調査」2019年3月公表、2026年9月確認)。

2019年の試算です。

数字そのものより、「足りない状態が続く」という向きを読むのが妥当でしょう。

人を採って解決する前提は、中小企業ほど立てにくくなります。

経営者から、IT課題の深さが見えにくい

  • 動いているから問題ないと見える:表面上は動いているため、中のリスクが見えない
  • 数字に出ない:売上や利益と違い、経営の指標に表れにくい
  • 言葉の壁:担当者の報告が技術の言葉で、経営の判断に使いにくい

気づいたときには手遅れ。そうした事態は、この見えにくさから生まれます。

見えにくさを減らす近道は、担当者や外注先に、経営の言葉で質問することです。

たとえば月に1回、次の3つを聞いてみてください。

  • 「いま一番止まると困るシステムは何で、止まったら何日で戻せるか」
  • 「あなたが1週間休んだら、誰が代わりに対応できるか」
  • 「半年以内に期限が来る契約や保守はあるか」

答えに詰まる質問があれば、そこがリスクの場所です。

情シスの外注で失敗する3つのパターン

外注の失敗は、外注先の腕より、頼み方で起きることが多くあります。

失敗ひとことで言うと関わる線引き
1. ヘルプデスクだけで安心経営に近い仕事が手付かずIT戦略・業務システムの運用
2. 分けて頼んで責任が宙に浮く取りまとめる人がいない障害のときの窓口
3. 任せきりで鍵と地図が外に出る属人化が社外に移るだけ契約・アカウントの管理

失敗1:ヘルプデスクだけ外に出して、安心してしまう

起きること:問い合わせ対応やキッティングを外注し、経営者は「IT負担が減った」と安心する。

半年後、基幹システムの入れ替えの話が出ると、社内で進められる人が誰もいない。

原因:外注を「人手の補充」として捉えていた。

データの活用やセキュリティの統制といった、経営に近い仕事が手付かずのまま残る。

兆候:外注先との会話が、問い合わせの件数と対応の報告だけで終わっている。

避け方:外注先を決める前に、第2章の表で自社の仕事を仕分けます。

経営に近い仕事は、誰が決めるかを先に決めておきます。

そのうえで、基幹システムの運用まで話ができる相手を選びます。

失敗2:複数の会社に分けて頼み、責任が宙に浮く

起きること:ヘルプデスクはA社、ネットワークはB社、基幹システムの保守はC社。

トラブルのたびに各社が「うちの範囲外です」と言い、調整が経営者に集まる。

原因:「それぞれ専門の会社に任せる」大企業の考え方を、そのまま当てはめた。

大企業には、各社を束ねる情シス部門がある。中小企業にはそれがない。

兆候:障害のたびに、経営者が複数の会社に電話をかけている。

避け方:調整を引き受ける窓口を1つに決めます。

1社にまとめるか、複数のまま「取りまとめ役」を契約で決めるかは、規模で選びます。

どちらでも、障害のときに最初に連絡する先と、切り分けの責任を契約に書きます。

失敗3:任せきりにして、鍵と地図が外に出てしまう

起きること:ひとり情シスが退職し、外注先に聞いても全体が分からない。

管理者のパスワードは誰が持っているのか。契約はいつ更新なのか。

外注先の担当が替われば、同じ説明を一からやり直すことになる。

原因:属人化(仕事が特定の人にしか分からない状態)が、社内の1人から外注先の1人に移っただけだった。

兆候:「管理者のパスワードは外注先に聞けば分かる」が社内の答えになっている。

避け方:鍵と地図は社内で持ちます。

管理者の権限の一覧、契約の一覧、システムの構成の記録を、自社が読める場所に置きます。

外注先には、これらを最新に保つことを作業として頼みます。

3つの失敗の兆候と避け方を図にすると、次のとおりです。

外注の失敗の兆候と避け方 ヘルプデスクだけで安心している兆候は会話が件数の報告だけのこと。仕事を仕分けて決める人を先に決める。責任が宙に浮く兆候は障害のたびに経営者が電話すること。窓口を1つにする。鍵と地図が外に出る兆候はパスワードを外注先に聞くこと。鍵と地図は社内で持つ。 外注の失敗の兆候と避け方 1 ヘルプデスクだけで安心 兆候:会話が件数と対応の報告だけ → 仕事を仕分け、決める人を先に決める 2 分けて頼み、責任が宙に浮く 兆候:障害のたびに経営者が電話する → 調整を引き受ける窓口を1つに 3 任せきりで鍵と地図が外へ 兆候:「パスワードは外注先に聞く」 → 鍵と地図は社内で持つ
外注の失敗の兆候と避け方

セキュリティの面からの備えは、中小企業のランサムウェア対策で扱っています。

本質は「人」ではなく「仕組み」で情シスを持つこと

放っておくと表に出る3つのリスク

  • 止まるリスク:ひとり情シスの退職で、運用が突然止まる
  • 属人化のリスク:知識・パスワード・契約の情報が1人に集まり、引き継げない
  • 戦略が止まるリスク:日々の対応に追われ、データの活用など経営に効く仕事が進まない

見落とされやすいのは3つ目です。

ITは、動いていればよいものではありません。

経営の判断を速めるための道具です。

「止まらないIT基盤」の3つの条件

ベンチャーネットは、特定の人に頼らず業務が続く状態を組織として保つIT基盤を「止まらないIT基盤」と呼んでいます。

条件は3つです。

  • 知識を分けて持つ:誰が抜けても業務が続くよう、手順と構成を記録に残す
  • 運用を複数の人で支える:1人の担当に頼らない体制にする
  • 決める権限を経営者の手元に残す:外に任せても、契約と判断は手放さない

外注は、このうち1つ目と2つ目を支える手段にすぎません。

仕組みで持つために、整えるもの

「仕組みで持つ」と言うと、抽象的に聞こえるかもしれません。

中身は、4つの記録と、1つの定例です。

整えるもの中身誰が最新に保つか
権限の一覧どのシステムの管理者を、誰が持っているか外注先が更新し、社内が確認
契約の一覧契約先・更新日・解約の条件社内
構成の記録どのシステムが何とつながっているか外注先が更新し、社内が読める場所に置く
手順の記録決まった作業と、障害のときの連絡の順番外注先が作り、社内が確認
定例の振り返り月に1回など、起きたことと次の打ち手を話す社内が主催

定例で聞くのは、技術の細かい話ではありません。

  • 先月、止まりかけたことや、ひやりとしたことはあったか
  • 4つの記録は、最新になっているか
  • 次の半年で、期限が来るもの(契約・保守・機器)は何か

この3点を経営の言葉で話せる外注先なら、任せきりになりにくくなります。

基幹システムをクラウドに寄せて、「運用の手間そのもの」を減らす

外注は、仕事を「誰がやるか」を変えます。

クラウドへの移行は、仕事の「量」を変えます。

情シスがいない会社ほど、この二つを組み合わせる意味があります。

クラウドERPは、会計・販売・在庫などの基幹業務をまとめて扱うシステム(ERP)を、インターネット経由で使う形です。

自社でサーバーを持たずに済みます。

社内で抱える作業がどう変わるか

作業自社でサーバーを持つ場合クラウドERPの場合
サーバーの購入・入れ替え自社で計画し、数年ごとに実施提供元が持つ
製品の更新(バージョンアップ)自社で時期を決め、作業する提供元が更新する。自社は影響の確認が中心
保守の期限への対応期限が来ると、入れ替えの判断が要る提供元が更新を続け、入れ替えを決める場面が減る
バックアップ自社で仕組みを作る提供元の仕組みに加え、自社で残すデータを決める
権限・マスタ・業務のルール自社自社(ここは残る)

NetSuiteを例にとると、大型のリリースは年2回です。

顧客のアカウントは、数か月かけて段階的に更新されます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Release Delivery」、2026年9月確認)。

更新の前には、Release Preview(新しいリリースを試すための確認用アカウント)を使えます。

いまの業務の流れが新しいリリースで動くかを、事前に試せます。

(出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Overview of Release Preview」、2026年9月確認)

更新の「作業」は減り、「確認」が社内に残る。

この確認を外注先と分担すれば、ひとり情シスでも回しやすくなります。

  • 外注先:リリースの内容を読み、自社に関わりそうな変更を洗い出す
  • 社内:洗い出された変更のうち、業務に影響するものを現場と照らし合わせる
  • 両方:結果を記録し、次のリリースで同じ確認を繰り返せるようにする

分担の流れを図にすると、次のとおりです。

更新の確認の分担(NetSuiteの例) NetSuiteの例。提供元が大型のリリースを年2回、段階的に適用する。外注先が自社に関わる変更を洗い出し、社内が業務への影響を現場と照らし合わせ、両方で結果を記録して次に繰り返す。記録を重ねるほど確認の手順が仕組みになる。 更新の確認の分担(NetSuiteの例) 提供元 大型のリリースを年2回 数か月かけて段階的に更新 外注先 リリースの内容を読み、 自社に関わる変更を洗い出す 社内 業務に影響するものを 現場と照らし合わせる 両方 結果を記録し、次のリリースで 同じ確認を繰り返せるようにする 記録を重ねるほど、 確認の手順そのものが仕組みになる
更新の確認の分担(NetSuiteの例)

記録を重ねるほど、確認の手順そのものが「仕組み」になっていきます。

保守の期限が迫っている場合は基幹システムの保守切れリスク、データの残し方はNetSuiteのバックアップとデータエクスポートで扱っています。

クラウドにしても、社内に残る仕事

  • 誰にどの権限を与えるかを決める
  • 取引先や品目などのマスタを正しく保つ
  • 業務のルールを変えたときに、設定に反映するかを決める
  • 更新の前に、自社の業務が動くかを見る

どの製品でも、これらは社内に残ります。

第2章の「社内に残すもの」と、そのまま重なる仕事です。

データが1か所にそろえば、AIに任せられる点検も増えます。

たとえば、権限を棚卸しする表の下書きや、重複したマスタを探す作業です。

データが表計算や複数のシステムに散らばったままでは、こうした点検は任せにくいままです。

クラウドに寄せる順番

一度にすべてを移す必要はありません。

  1. 止まると困る業務から見る:受注・請求・会計など、売上や支払に響く業務
  2. 保守の期限が近いものから見る:サーバーや製品の入れ替えの時期が迫っているもの
  3. 担当が1人しかいないものから見る:その人が辞めると誰も触れないもの

3つが重なる業務が、最初の検討対象です。

基幹システムがそこに入ることが多いため、外注の範囲と一緒に考えます。

クラウドERPの基本は、クラウドERPとは?で扱っています。

外注先を選ぶときの確認項目

価格の安さだけで選ぶと、「決められた範囲しか動かない」「担当が替わると引き継がれない」が起きます。

比べる軸は、月額よりも続けられるかどうかです。

聞くこと聞き方の例見るところ
担当が替わったときの引き継ぎ「担当が替わるとき、何をどう引き継ぎますか」手順や記録が決まっているか
複数の人で支える体制「担当が休んだとき、誰が対応しますか」1人の担当に頼っていないか
記録の持ち主「構成や手順の記録は、こちらでも読めますか」自社が読める場所に置けるか
契約を終えるときの扱い「契約を終えるとき、何を返してもらえますか」権限と記録の返し方が決まっているか
基幹システムの理解「基幹システムの運用や入れ替えの相談にも乗れますか」業務の話ができるか
経営との対話「定期的に、経営側と振り返る場はありますか」改善の提案が経営の言葉で出てくるか
障害のときの窓口「ほかの会社の範囲のトラブルは、誰が切り分けますか」取りまとめの責任が決まっているか

費用は「月額」ではなく「続けるための費用」で比べる

「月額10万円で全部対応します」という提案は、魅力的に見えます。

ところが、範囲外の依頼のたびに別料金になる、担当が替わると引き継がれない、といったことが起きがちです。

その穴を埋めるのは、結局は社内の誰かです。

  • 範囲外の依頼にかかる追加の費用
  • 担当が替わったときに、説明し直す社内の時間
  • 契約を終えるときに、記録や権限を取り戻す手間
  • 障害のときに、経営者が調整に使う時間

月額が安くても、これらが大きければ、合計の費用は高くなります。

認定パートナーかどうかは入口

ERPの公式な認定パートナーかどうかは、製品の知識を見る手がかりの一つです。

ただ、認定は入口にすぎません。

上の表への答え方で、運用まで一緒に考える相手かどうかが分かります。

伴走型と丸投げ型の支援の違いは伴走型のNetSuite導入支援とは?、パートナーの選び方はパートナービジネスとは?が参考になります。

個人のフリーランスを探している場合は、NetSuite業務委託・フリーランスとは?をご覧ください。

判断の物差し|どの形が合うか

情シスBPOとクラウドERPの組み合わせが合う会社

  • 情シスがいない、またはひとり情シスで、退職の不安がある
  • 基幹システムの入れ替えを考えている、または入れたが使いこなせていない
  • 複数の外注先の調整に、経営者が時間を取られている
  • 自社のサーバーや保守の期限への対応を、減らしたい

ヘルプデスクの外注だけの場合との違い

比べる軸ヘルプデスクの外注だけ情シスBPO+クラウドERP
任せる範囲問い合わせ対応・キッティング・障害の対応運用・改善の提案まで含む業務の流れ全体
経営に近い仕事関わらない基幹システムやデータの活用まで相談できる
外注先の数分けて頼むことが多く、調整が要る窓口を1つにしやすい
属人化のリスク外注先の担当の交代で、対応の質が変わる記録を組織として持つ前提で組める
社内に残る作業サーバーの保守や更新の作業も残る作業が減り、「決めること」が中心になる

ヘルプデスクの外注だけが悪いわけではありません。

専任の情シスが複数いて統制が取れている会社なら、作業の単位の外注で足ります。

別の形が合う会社

  • 業務が比較的単純で段階的に広げたい:Odooのように、必要なアプリから始められるERPも候補
  • 独自の業務が中心で標準の型に合わない:AIを使ったスクラッチ開発も選択肢。ただし、作った後の運用の担い手を先に決める
  • 大きな困りごとがなく保守の期限も先:いまは入れない。第2章の線引きと、鍵と地図の整理から始める

製品の比べ方は、OdooとNetSuiteを徹底比較や、AIでスクラッチ開発とERP、どちらを選ぶべきかで扱っています。

どの形でも、「決める権限」と「鍵」と「全体の地図」を持つ人を、社内に1人決めます。

ITの専門家である必要はありません。経営者自身でも務まります。

これから外注する会社、いま外注していて見直す会社

これから外注を検討する会社

  1. 第2章の表で、自社の仕事を6つに仕分ける
  2. 「社内に残すもの」の持ち主を決める
  3. 基幹システムを、いまのまま持つかクラウドに寄せるかを考える
  4. そのうえで、外に出す範囲を決めて、外注先を比べる

3を飛ばすと、サーバーの保守のように「本来は減らせる作業」まで外注の範囲に入ります。

減らせたはずの作業に、外注の費用を払い続けることになります。

いま外注していて、見直しを考えている会社

きっかけは、外注の契約の更新、担当の交代、基幹システムやサーバーの保守の期限、ひとり情シスの退職や異動です。

このとき、まず次の3つがそろっているかを見ます。

  • 管理者の権限と契約の一覧が、社内にあるか
  • システムの構成の記録が、自社でも読めるか
  • 契約を終えるとき、何を返してもらえるかが決まっているか

そろっていれば、外注先を替える判断も、続ける判断もしやすくなります。

そろっていなければ、見直しの前に、いまの外注先と一緒に整える作業から始めます。

ひとり情シスが辞める前にやること

退職や異動が決まったら、残りの期間でやることを絞ります。

  1. 第11章の「鍵と地図」の一覧を、本人と一緒に埋める
  2. 管理者のIDを、個人の名義から会社の名義に移す
  3. 毎月・毎年の決まった作業(更新・支払・点検)を書き出す
  4. 本人しか知らない「つまずきやすい所」を聞き取る

4は記録に残りにくい部分です。

短いメモでよいので、本人の言葉のまま残します。

基幹システムの入れ替えまで含めるなら、基幹システムのリプレイスとは?もあわせてご覧ください。

ベンチャーネットならこう見る|「外に出す/クラウドで減らす/社内に残す」

外注先を探している会社から相談を受けても、ベンチャーネットはすぐに外注の範囲の話をしません。

先に、情シスの仕事を3つの行き先に分けます。

情シスの仕事の3つの行き先 情シスの仕事を、外に出す作業、クラウドで減らす作業、社内に残す決めることの3つに分ける。 情シスの仕事の3つの行き先 情シスの仕事を6つに分ける 外に出す|作業 ヘルプデスク・キッティング・監視 クラウドで減らす|作業の量 サーバーの入れ替え・製品の更新 社内に残す|決めること 決める権限・鍵・全体の地図 外注は「誰が」、クラウドは「どれだけ」を変える
情シスの仕事の3つの行き先:外に出す/クラウドで減らす/社内に残す
  • 外に出す:手順が決まった作業。ヘルプデスク、キッティング、監視など
  • クラウドで減らす:外に出す前に、なくせる作業。サーバーの入れ替えや製品の更新
  • 社内に残す:決める権限・鍵・全体の地図。外注しても手放さない

順番に意味があります。

2つ目を飛ばすと、減らせたはずの作業に外注の費用を払い続けます。

3つ目を決めずに外注先を選ぶと、外注先の得意な範囲に合わせて、自社の線引きが決まってしまいます。

基幹システムの運用は、誰が何を持つか

線引きの表で「△ 相手を選ぶ」とした業務システムの運用・保守。

NetSuiteの場合を例に、分担を示します。

担い手持つもの
日本オラクルライセンス、トレーニング、製品のサポート
導入パートナー(ベンチャーネットの場合)要件定義、設定、カスタマイズ、アドオン開発、保守、PM(Oracleとの調整を含む)
自社決める権限、鍵、全体の地図。業務のルールとマスタの責任

ベンチャーネットの支援は、常駐なしのリモートで、国内のチームが担います。

契約は請負契約に対応し、準委任も相談できます。

情シスが少ない会社でも進められる体制を組み、既存システムとの連携も引き受けます。

週次の定例と課題管理表で、決めたことと経緯を文書で残す進め方です。

第5章の「定例の振り返り」と「記録」を、そのまま形にしたものと言えます。

実際の仕事も、ゼロからの導入より、他社のあとの引き継ぎ・立て直しと、他システムとの連携が多くを占めます。

冒頭の月曜の朝のような状態から相談が始まることも、珍しくありません。

最初の打ち合わせで伺うのは、主に次の3つです。

  • いま止まったら一番困る業務は何か
  • その業務の鍵と地図を、誰が持っているか
  • 減らした後に残る「決める仕事」を、誰が持つか

この順で見ると、NetSuiteが合わない結論になることもあります。

その場合は、Odoo・国産ERP・いまの仕組みのまま整える、といった形をそのままお伝えします。

今日できること|「鍵と地図」の一覧を作る(1時間)

表計算を開き、次の表を埋めてみてください。

システム・サービス管理者のIDを持つ人契約の更新日・保守の期限構成の記録の場所
(例)会計システム情シス担当1名のみ4月1日・未確認担当者のパソコンの中

対象は、会計・販売・メール・ファイルの共有・ネットワークの機器などです。

全部を埋められなくてもかまいません。

「持つ人」に1人の名前しか入らない行が、止まるリスクのある場所です。

「未確認」や空欄が多い行は、外注先と一緒に最初に整える場所になります。

時間が余れば、各行に「止まったら困る度合い(高・中・低)」を書き足します。

「高」で持ち主が1人の行から、手をつけてください。

この表は、外注先やパートナーに相談するときの資料にも、そのまま使えます。

よくある質問

Q1. 情シスアウトソーシングと情シスBPOの違いは何ですか

作業の単位か業務の流れ全体かの違いです。

アウトソーシングは作業の一部を、BPOは運用の責任を含めて業務の流れ全体を任せます。

情シスがいない会社ほど、BPOのほうが合いやすくなります(第1章)。

Q2. 情シスの仕事は、全部外注できますか

作業は出せますが、決める権限と鍵と全体の地図は社内に残します。

契約、管理者の権限、システムの構成の記録が外注先にしかないと、担当の交代や契約の終了で身動きが取れなくなります(第2章)。

Q3. 何から外注すべきですか

手順が決まっていて自社で記録を持てる作業からです。

ヘルプデスクやキッティングは外に出しやすい作業です。

ただし、先に「社内に残すもの」の持ち主を決めておきます(第2章・第9章)。

Q4. 外注先が1社だけだと、かえって危なくないですか

見るべきは社数より、取りまとめの責任と記録の持ち主です。

1社でも、記録が自社で読めて、契約を終えるときの返し方が決まっていれば、替えることができます。

複数の会社に頼む場合は、取りまとめ役を契約で決めます(第4章 失敗2)。

Q5. クラウドERPにすると、情シスは不要になりますか

サーバーや更新の作業は減りますが、決める仕事は残ります。

NetSuiteでは、大型のリリースを提供元が段階的に適用します。

権限・マスタ・業務のルール、更新の前の確認は、自社の仕事として残ります(第6章)。

Q6. NetSuiteと運用の支援を組み合わせると、費用はどのくらいですか

NetSuiteはミニマム構成で月額20万円〜が出発点で、構成によって変わります。

モジュール・ユーザー数・オプションによっては、数百万円規模になることもあります。

NetSuiteの最終的な金額の提示は、Oracleの営業が行います(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。

支援の範囲によっても、総額は変わります。

Q7. パートナーを選ぶとき、一番大事な基準は何ですか

経営の課題から逆算してIT基盤の話ができるかです。

作業をこなせる会社は多くあります。

契約前の対話で、自社の課題を理解しようとするか、提案が経営の言葉で出てくるかを見てください(第7章)。

まとめ:情シスを「人」ではなく「仕組み」で持つ

  • 情シスアウトソーシングは、社内の情報システム業務の全部または一部を外に任せること
  • 外に出すのは作業、社内に残すのは決める権限と鍵と全体の地図
  • 失敗は3つ。ヘルプデスクだけで安心する、責任が宙に浮く、任せきりで鍵と地図が外に出る
  • 外注先は、月額の安さより続けられるかどうかで比べる
  • 基幹システムをクラウドに寄せると、運用の作業そのものが減る
  • 行き先は3つ。外に出す、クラウドで減らす、社内に残す

NetSuiteは、世界220地域・44,000社以上で使われているクラウドERPです(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。

ただ、合うかどうかより先に決めることがあります。

月曜の朝、担当者が休んでいても、社内の誰かが鍵のありかを言える。

その状態を、第11章の一覧から作り始めてください。

もう少し詳しく知りたい方へ

情シスがいない、またはひとり情シスの会社で、何を外に出し、何を社内に残すかは、業務とシステムの状況によって変わります。

ベンチャーネットでは、現状の整理から、基幹システムの導入と運用の進め方までご相談をお受けしています。

NetSuiteが合わない場合は、その理由と別の選択肢をお伝えします。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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