「うちは特定のカテゴリに寄りすぎていないか」
年に一度くらい、誰かが口にする問いです。そして、たいてい結論が出ないまま次の話題に移ります。
理由は単純で、偏っているかどうかを判断する物差しがないからです。
感覚では「寄っている気がする」。しかし何をもって寄りすぎと言うのか、去年と比べて増えたのか減ったのか、誰も数字で言えません。
もう1つ、見落とされやすいことがあります。偏りは、意図して作られたものではないという点です。
毎回、利益の大きいほうを選ぶ。それを1年続けると、仕入は自然に寄ります。ひとつひとつの判断は正しいのに、積み重なると偏る。ここが厄介なところです。
この記事では、その偏りを数字にする方法と、減らすときに何を諦めることになるのかを整理します。
📌 この記事で分かること
- 「仕入の偏り」には3つの顔があり、扱い方が違うこと
- なぜ偏るのか。偏りが「良い判断の副産物」である理由
- 偏りを1つの数字で測る考え方と、測るときのいちばんの難所
- 利益と偏りが、必ずしもトレードオフではない理由
読了時間の目安:約11分
「仕入の偏り」には3つの顔がある
偏りという言葉は、いくつかの違うものを指しています。まず分けておきます。
3つの偏り
| 偏りの種類 | 何が寄っているか | 主なリスク | 気づくタイミング |
|---|---|---|---|
| 仕入先の偏り | 発注金額が特定の取引先に集中 | その1社が止まると供給が止まる。価格交渉力も落ちる | 相手に何かあったとき |
| カテゴリの偏り | 仕入予算が特定の商品群に集中 | 市況や流行が変わると、まとめて外れる | 売れ行きが落ちたとき |
| 時期の偏り | 発注が特定の月に集中 | 資金繰りと倉庫が特定月に圧迫される | 資金が足りなくなったとき |
3つとも「集中」という点では同じですが、測り方も対処も違います。
仕入先の偏りは、取引先ごとの与信や債権の管理と一体で考える領域です。卸売・商社での扱い方は卸売・商社のNetSuite活用ガイド、多通貨・三国間貿易を含む商社の事情は商社・専門商社のNetSuite活用で扱っています。
この記事が扱うのは、カテゴリの偏り
3つのうち、いちばん見えにくいのがカテゴリの偏りです。
仕入先の偏りは、取引先リストを見れば分かります。時期の偏りも、月別の発注額を並べれば分かります。
カテゴリの偏りは違います。商品はいつもどおり動いていて、どの発注も理由があって行われています。平常時には、何も問題が起きていないように見えます。
問題が現れるのは、市況が変わったときです。そのときには配分を変える時間がありません。
なぜ仕入は偏るのか——偏りは最適化の副産物
偏りの話をすると、「誰かが偏らせている」という前提で議論が始まりがちです。実際は違います。
利益で選ぶと、良いものに寄る
仕入の判断は、たいてい利益で行われます。粗利率の高いカテゴリ、回転の速いカテゴリに、予算を厚く配る。
これは正しい判断です。同じ100万円を使うなら、利益の大きいほうに使うべきです。
ただ、この判断を毎月繰り返すと何が起きるか。利益の大きいカテゴリの比率が、少しずつ上がっていきます。
寄せるほど成績は上がる。だから止まらない
厄介なのは、寄せるほど短期の成績が良くなることです。
粗利率が改善する。在庫回転が上がる。仕入先との取引量が増えて条件も良くなる。偏りが進むほど、数字は良くなります。
だから誰も止めません。止める理由が数字に現れないからです。
これが「偏りは最適化の副産物」という意味です。誰かが間違えたのではなく、正しい判断を積み重ねた結果として偏ります。
偏りが姿を現すのは、前提が変わったとき
偏りのコストは、平常時にはゼロです。
現れるのは、前提が変わったときだけです。主力カテゴリの需要が落ちる。原材料が高騰する。規制が変わる。競合が同じ市場に入ってくる。
このとき、寄せていた分だけ、まとめて外れます。
そして配分は、すぐには変えられません。すでに発注してしまった在庫があり、仕入先との約束があり、売り場の設計があります。
個別の発注判断をどう組み立てるかは、サプライチェーンの全体最適とは?で扱っている「部分最適の罠」とも重なります。1つずつは正しいのに、全体では困った状態になる。同じ構造です。
偏りを1つの数字で測る
では、どう測るのか。集中度という考え方を使います。
集中度とは何か
集中度とは、仕入金額が特定のカテゴリにどれだけ寄っているかを、1つの数字で表したものです。
考え方はシンプルです。各カテゴリが仕入全体に占める割合を出し、その割合を掛け合わせて足し上げます。
割合を掛け合わせるところが要点です。シェアの大きいカテゴリは、掛け合わせるとさらに大きくなります。だから一部に寄っているほど、合計の値が大きくなります。
数式を覚える必要はありません。表計算ソフトでも計算できますし、考え方さえ分かっていれば十分です。
値の読み方
値は0から1の間に収まります。
- 1に近い:ほぼ1つのカテゴリに寄っている
- 小さい:多くのカテゴリに均等に散っている
たとえば10カテゴリに完全に均等なら0.1、1カテゴリに全額なら1.0です。
何%以下が良い、という一般的な基準はありません。業種によって適正な水準が違うからです。専門店は寄っていて当然ですし、総合的な卸は散っているのが普通です。
使い方は、自社の推移を見ることです。去年の値と今年の値を比べる。四半期ごとに並べる。上がり続けているなら、その理由を確認する。
いちばんの難所は、カテゴリの切り方
ここが実務の山場です。
集中度の計算そのものは簡単ですが、「何をカテゴリと呼ぶか」で値が変わります。
同じ商品群を、大分類で5つに束ねれば集中度は高く出ます。小分類で50に割れば低く出ます。どちらも間違いではありませんが、比べるには切り方をそろえる必要があります。
切り方を決めるときの目安は1つです。「このカテゴリがまとめて落ちたら困る」と言える単位で切る。
市況が動いたとき、どの範囲がまとめて影響を受けるのか。そこが本当のリスクの単位です。会計上の商品分類や、仕入先の都合で決まった分類とは、一致しないことのほうが多くなります。
この作業には、商品の知識と市場の知識の両方が要ります。だから、計算ではなく、この切り方を決めるところに時間がかかります。
利益と偏りは、トレードオフとは限らない
「偏りを減らせば、利益は落ちる」
多くの方がそう考えます。利益の大きいカテゴリから予算を引き上げるのだから、当然に見えます。
ところが、必ずしもそうならない場合があります。
検証で起きたこと
ベンチャーネットが発注の配分を検証したときの結果です。30商品・5カテゴリへの予算配分を、条件を変えて計算しました。検証用のサンプルデータによる計算例であり、実際の商品構成では数字が変わります。
| 配分の決め方 | 利益 | 集中度 |
|---|---|---|
| 経験則にもとづく配分(利益率の高い順) | 35.0万円 | 0.263 |
| 条件を踏まえて見直した配分(利益優先) | 49.2万円 | 0.235 |
| 見直した配分(偏りの抑制を強めた場合) | (資料に記載なし) | 0.210 |
| 差(利益優先の場合) | +14.2万円 | 低下(=偏りが減った) |
利益優先で見直しただけでも、利益が増え、同時に偏りも減りました。トレードオフになっていません。
さらに偏りの抑制を強めれば、集中度は0.210まで下げられました。利益を取るか、偏りを抑えるか。その加減を条件として選べるということです。
なぜ両方よくなるのか
理由は、出発点にあります。
経験則の配分は、利益の面でも最適ではなかったからです。
経験則は、過去にうまくいった比率を引き継ぎます。それは当時の条件では良い配分でしたが、条件が変わった後もそのまま使われます。結果として、利益の面でも偏りの面でも、最適な位置から離れていきます。
最適から離れた位置にいるとき、どちらの方向に動いても改善します。トレードオフが現れるのは、両方の面で限界まで詰めた後の話です。
トレードオフは、その先にある
もちろん、突き詰めればトレードオフは存在します。
利益を最大にする配分と、偏りを最小にする配分は、別の場所にあります。両方を同時に完全には満たせません。
ただ、多くの会社が立っているのはそのはるか手前です。まず「どちらの面でも改善できる余地」を使い切るほうが先になります。
なお、偏りを測る計算は、シェアを掛け合わせる形になります。この形の条件は、項目数が増えると組み合わせの数が急に増えるため、手作業では扱いにくくなります。計算の仕組みそのものはデータドリブン経営の次の一手|量子アニーリングで実現する経営最適化で扱っています。本記事では技術の中身には立ち入りません。
自社の偏りを測る3つの問い
いま自社がどれくらい偏っているかは、3つ確認すれば見当がつきます。直近12か月の仕入実績があれば足ります。
問い1:上位3カテゴリで、仕入金額の何%を占めていますか
集中度の計算をする前に、この1つで大まかな感触がつかめます。7割を超えているなら、上位の動きが全体を決めている状態です。
問い2:その比率は、3年前と比べてどう動きましたか
上がっているなら、偏りが進んでいます。ここで重要なのは、上がったこと自体は悪くないという点です。気づかずに上がっていたかどうかが問題です。
問い3:上位カテゴリが2割落ちたら、利益はいくら減りますか
金額で答えられるでしょうか。答えられない場合、偏りのリスクを評価する材料が手元にないことになります。
3つとも答えられなかったとしても、珍しいことではありません。多くの会社がその状態です。
つまずく3つのパターン
ここからは、偏りの見直しが行き詰まる典型を3つ挙げます。
売り込みのために書くのではありません。「測ってはみたが、結局何も変わらなかった」を避けてほしいからです。いずれも担当者の力量の話ではなく、進め方と仕組みの構造の話です。
偏りを「均等に分ければいい」と考える
こんな状態になっていませんか
- 「全カテゴリに満遍なく」という方針が出ている
- 売れないカテゴリにも一定の予算が割り当てられている
- 分散させた結果、利益が落ちたという経験がある
なぜ起きるのか
偏りを「悪いもの」として捉えているためです。
悪いものだと考えると、なくす方向に振れます。しかし均等配分は、利益を最大にする配分からも、リスクを最小にする配分からも離れた場所にあります。単に何も考えていない配分です。
集中には強みもあります。まとめて仕入れれば条件が良くなり、在庫も効率的に回せます。
どう回避するか
目標を「均等にする」ではなく、「いまの集中度を把握し、許容できる水準を決める」に置き換えてください。
水準は会社が決めるものです。攻めるなら高くてよく、守るなら低くします。決めてあることが重要で、値そのものに正解はありません。
偏りを平常時に測っていない
こんな状態になっていませんか
- 偏りの話が出るのは、主力カテゴリが落ちた後
- 月次で見ているのは売上・粗利・在庫金額だけ
- 「今年は寄りすぎた」という振り返りが、毎年出ている
なぜ起きるのか
平常時には、偏りのコストがゼロだからです。
第2章のとおり、偏っているほど短期の数字は良く見えます。悪化の兆候が数字に現れないため、見る理由がありません。
そして問題が現れたときには、配分を変える時間がありません。発注済みの在庫があり、仕入先との約束があります。
どう回避するか
集中度を、月次で見る数字の中に入れてください。
毎月大きく動く数字ではないので、見るのは四半期でも構いません。大切なのは、問題が起きる前から並んでいることです。並んでいれば、上がり始めたときに気づけます。
生販在を1つの場で調整する会議に持ち込むのも有効です。進め方はPSI会議とはで扱っています。
去年の実績を、そのまま来年の配分にする
こんな状態になっていませんか
- 来期の仕入計画が、前年実績の比率をベースに作られている
- 伸びたカテゴリには、前年より多く配分している
- 配分の根拠を聞くと「去年これだけ売れたから」と返ってくる
なぜ起きるのか
前年実績は、最も説明しやすい根拠だからです。誰も反対できません。
ただ、この方法には構造的な性質があります。売れたカテゴリに厚く配る → さらに売れる → 翌年もっと厚く配る。偏りが自分自身を強化していきます。
しかも、この循環の中では売れなかったカテゴリが「売れないから」ではなく「配分が薄かったから」売れていない可能性を検証できません。
どう回避するか
配分の出発点を、前年実績から需要の見込みに変えてください。
前年実績は、前年の配分の結果でもあります。需要そのものではありません。この2つを分けて考えるだけで、配分の議論が変わります。
ベンチャーネットが大事だと考えているのは、偏りを減らすことそのものではありません。偏りは、減らすものではなく、知っておくものです。知らないまま偏っているのと、知ったうえで偏っているのは、まったく違います。後者なら、前提が変わったときにすぐ動けます。
ベンチャーネットの対応
仕入の配分と偏りの管理について、ベンチャーネットは次の範囲で対応しています。
- カテゴリの切り方を決める作業。「まとめて落ちたら困る単位」で切り直すところに同席します。ここがいちばんの難所です
- 集中度を出す仕組みづくり。毎月の数字として自動で出るところまで設計します
- 許容水準の言語化。どこまでの集中を受け入れるかを、経営の判断として言葉にするところまで支援します
- 基幹システムでの実装。カテゴリのマスタをどう持つか、月次のレポートにどう載せるか、既存の運用に合わせて設計します
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品に誘導しない立場を取っています。
最初にご相談いただくのは、たいてい計算の話ではなくカテゴリの切り方の話になります。ここが決まれば、あとは仕組みに載ります。
そして、仕入先が1社しかない会社や、単一カテゴリの専門店に、この測り方をおすすめすることはありません。 偏っているのが前提の事業では、測っても打ち手につながらないためです。
取り組む価値が出るのは、複数のカテゴリを扱っていて、そのうち一部が仕入額の大半を占めているときです。
在庫・購買をシステムでどう回すかは、NetSuiteで販売管理・在庫管理・購買管理を行うためのポイント3選で扱っています。
よくある質問
Q1. 集中度は、どれくらいの値なら安全ですか
一般的な基準はありません。業種によって適正な水準が違うためです。
専門店や単一カテゴリの卸は、高くて当然です。総合的な品揃えの卸は、低いのが普通です。他社と比べる意味も薄くなります。
使い方は、自社の推移を見ることです。去年と今年を比べ、上がっていればその理由を確認する。下がっていれば、何がそうさせたかを確認する。値そのものより、動きに意味があります。
Q2. 偏りを減らすと、必ず利益は落ちますか
落ちるとは限りません。第4章のとおり、経験則にもとづく配分は、利益の面でも最適から離れていることがあります。
その場合、配分を見直すと利益と偏りの両方が改善します。トレードオフが現れるのは、両方の面で限界まで詰めた後です。
まず自社がどのあたりに立っているかを確認してください。多くの会社は、両方を改善できる余地を残しています。
Q3. カテゴリは、どの粒度で切ればよいですか
「このカテゴリがまとめて落ちたら困る」と言える単位が目安です。
市況や流行が動いたとき、どの範囲がまとめて影響を受けるのか。そこが本当のリスクの単位です。
会計上の商品分類や、仕入先ごとの区分とは一致しないことのほうが多くなります。既存の分類をそのまま使うと、リスクが見えないまま数字だけが出てしまいます。
切り方を変えると値も変わるため、一度決めたら当面は変えない運用にしてください。比較できなくなります。
Q4. Excelで計算できますか
計算自体はできます。カテゴリごとの仕入金額の割合を出し、掛け合わせて足すだけです。
難しくなるのは、「偏りを抑えつつ利益を最大にする配分」を探すときです。条件がシェアの掛け合わせの形になるため、項目数が増えると組み合わせの数が急に増えます。
計算の仕組みそのものはデータドリブン経営の次の一手で扱っています。
なお、道具を選ぶ前に、カテゴリの切り方と許容水準を決めるほうが先です。入力が決まっていなければ、どの道具を使っても答えは出ません。
Q5. 仕入先の偏りと、カテゴリの偏りは、どちらを先に見るべきですか
供給が止まるリスクが具体的にあるなら、仕入先の偏りが先です。1社に依存していて、その1社に何かあれば事業が止まります。緊急度が違います。
そうでなければ、カテゴリの偏りから始めてください。仕入先の偏りは取引先リストを見れば分かりますが、カテゴリの偏りは測らないと見えないためです。
なお、2つは連動していることがあります。特定カテゴリに寄っている会社は、そのカテゴリの主要な仕入先にも寄っていることが多くなります。片方を測ると、もう片方も見えてきます。
まとめ:偏りは、知っておくもの
この記事の要点を整理します。
- 「仕入の偏り」には3つの顔がある。仕入先・カテゴリ・時期。この記事はカテゴリの偏り
- 偏りは意図の産物ではない。利益で選び続けた結果として、自動的に生まれる
- 寄せるほど短期の数字は良くなる。だから平常時には止まらない
- 偏りは集中度という1つの数字で測れる。計算より、カテゴリの切り方が難所
- 利益と偏りは、必ずしもトレードオフではない。経験則の配分は、どちらの面でも最適から離れていることがある
偏りを減らすことが目的ではありません。知らないまま偏っているのと、知ったうえで偏っているのは、まったく違います。
今日できること
1つだけ、今日試せることがあります。
直近12か月の仕入金額を、カテゴリ別に並べて、上位3つの合計が全体の何%かを出してみてください。
7割を超えているでしょうか。それとも4割くらいでしょうか。
そして、3年前の同じ数字と比べてみてください。上がっているなら、その間に何があったかを思い出せるはずです。思い出せるなら、それは意図した集中です。思い出せないなら、気づかないうちに寄っていたことになります。
もう少し詳しく知りたい方へ
自社の仕入が、いまどれくらい偏っているのか。カテゴリの切り方からご相談いただけます。
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需要予測から在庫・発注までを一本でつなぐ考え方は、サプライチェーンの全体最適とは?で扱っています。
