「延長保守を使えば、2030年まで先送りできるのではないか」
2027年問題の相談で、最初によく出る問いです。
答えは、「できる。ただし先送りでは終わらない」です。
SAP 2027年問題とは、SAPの基幹システム「SAP ERP 6.0」の標準の保守が、2027年末に終わる問題です。
延長保守を選べば2030年末まで使えますが、保守料は上乗せされます。
そして2030年に、同じ判断がもう一度やって来ます。
2026年9月の時点で、2027年末までは約15か月です。
規模によっては、それまでに移行を終えるのは難しくなっています。
現実的なのは、延長保守を「計画的な橋」として使い、その間に移る道です。
では、橋を渡った先は、S/4HANAか、NetSuiteのような別のクラウドERPか。
分かれ目は製品の機能ではなく、いまのSAPに積み上がったアドオンの扱いにあります。
この記事で分かること
- SAP ERP 6.0の保守の期限と、延長保守・その後の扱い(2026年9月時点のSAP公式情報)
- 4つの対応の選択肢と、それぞれが合う会社
- 2026年9月からの判断の順番
- NetSuiteへの移行が合う会社と、合わない会社の条件
ERPは、会社全体の仕事(会計・販売・生産・在庫など)を一つの仕組みで管理するシステムです。
保守は、提供元が不具合の修正や法改正への対応を続けることを指します。
ECC 6.0は、SAP ERP 6.0の通称です。
SAP 2027年問題とは
公式の保守の期限
SAPの公式の保守方針は、次のとおりです(出典:SAP公式、2026年9月確認)。
| 期間 | 保守の種類 | 条件 |
|---|---|---|
| 2027年末まで | 標準の保守(メインストリーム保守) | ― |
| 2028年初〜2030年末 | 延長保守 | 保守料の基準に2ポイント上乗せ |
| 延長保守を選ばない場合・終了後 | 個別の保守(customer specific maintenance) | 既知の問題の解決を、同じ料金で提供 |
| 2031〜2033年 | 移行を支える期間限定の提供 | 大規模で複雑な会社向け。条件あり |
2031〜2033年の提供は「SAP ERP, private edition, transition option」と呼ばれます。
条件は、2030年12月31日までにSAP ERP, private editionへ移すことなどです。
2TB以上のシステムであることも条件に含まれます(出典:SAP News Center 2025年8月、2026年9月確認)。
中堅企業の多くには、当てはまりにくい条件です。
延長保守の上乗せは、いまの保守料の基準に対して2ポイントです(出典:SAP News Center 2020年2月、2026年9月確認)。
自社の場合の金額は、SAPか契約先に聞いてください。
2028年からの予算の見込みに早めに入れておくと、判断が楽になります。
S/4HANAのオンプレミス版で旧来の機能を使い続ける「コンパチビリティパック」もあります。
その利用の権利は、最終の移行期間として2026年5月末までに延びました。
この期限は、すでに過ぎています(出典:SAP News Center 2025年12月、2026年9月確認)。
後継の製品
SAPの後継の製品は「SAP S/4HANA」です。
SAPは、S/4HANAについて、2040年まで少なくとも一つのリリースを保守すると案内しています(出典:SAP公式、2026年9月確認)。
クラウドで使う道も、2つ用意されています(出典:SAP公式、2026年9月確認)。
- RISE with SAP:オンプレミスのSAP ERP(ECCまたはS/4HANA)から、SAP Cloud ERP Privateへ移る道筋
- GROW with SAP:S/4HANA Cloud Public Editionをもとにしたクラウドの入口。中堅中小企業を含む規模に対応し、新しくSAPを使う会社向け
オンプレミスは、自社でサーバーを持って動かす形です。
S/4HANAへの移行は、技術的には「アップグレード」より「作り直し」に近い。
実質的には、新しいシステムを入れるのと同じ規模のプロジェクトになります。
SAPの製品全体は、SAPとはで扱っています。
なぜ「問題」なのか
標準の保守が終わると、次のことが起きやすくなります。
- 新しい弱点(脆弱性)への修正が届きにくくなる
- 税制や会計のルールの改正への対応が、自社の負担になる
- 障害の原因を調べて直す負担が、社内とパートナーに寄る
- 古い仕組みに詳しい技術者が、新しいプロジェクトに移っていく
- 延長保守を選ぶと、保守料が上乗せされる
使い続けることはできます。
ただ、時間とともにリスクと負担が増える状態に入ります。
いちばん重いのは、人の問題です。
古い仕組みの中身を知る社員やパートナーの担当者は、年々少なくなります。
障害が起きたとき、原因を調べられる人がいない。これが最も大きなリスクになりえます。
2026年9月の時点で、残り時間をどう見るか
移行のプロジェクトは、おおむね次の工程を踏みます。
期間は規模・アドオンの量・移すデータの量で大きく変わるため、パートナーの見積もりで見極めます。
| 工程 | 期間を左右すること |
|---|---|
| 要件の整理・パートナーの選定 | 方針が社内で決まっているか |
| 設計・構築・データ移行 | アドオンの量、移す履歴の長さ |
| 並行稼働・本番の切り替え | 締めの時期、並行稼働の期間 |
方針とパートナーがまだ決まっていない会社にとって、約15か月は短い。
2027年末に切り替えを終えるのは、規模によってはかなり厳しくなります。
逆に、次の条件がそろう会社は、間に合う可能性があります。
- SAPを使う業務が会計など一部に限られている
- アドオンが少なく、多くを標準に合わせられる
- 移す履歴を短く絞れる
- すでにパートナーの候補がある
避けたいのは、急いで質の悪い移行をすることです。
延長保守は、上乗せの料金を払って時間を買う選択です。
「先送り」ではなく、移行の計画を持ったうえで渡る「橋」と位置づけます。
延長保守を「橋」にするときの計画
延長保守を使うなら、次の3つを最初に決めます。
| 決めること | 中身 | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 切り替えの時期 | 2030年末より前の、どの時期に切り替えるか | 期限の直前に作業が集中する |
| 上乗せの費用の予算 | 2028〜2030年の保守料の増える分 | 移行の予算と取り合いになる |
| 延長の間にやること | 棚卸し・パートナー選び・データの整理 | 3年がそのまま過ぎる |
データの整理や、使っていないアドオンの廃止は、移り先が決まる前から始められます。
移す範囲の決め方
全社を一度に移すことだけが、答えではありません。
| 進め方 | 中身 | 合う場合 |
|---|---|---|
| 一度に全部 | 全社・全業務を同じ時期に切り替える | 範囲が小さく、業務の結びつきが強い |
| 段階的に | 会計から、または子会社から順に移す | 範囲が大きく、一度に移すと負担が重い |
| 一部だけ | 子会社や海外拠点だけを別の仕組みにし、本体は残す | 本体の業務がSAPに合っている |
段階的に移す場合は、途中で古い仕組みと新しい仕組みをつなぐ期間が生まれます。
つなぐ費用と手間も、計画に入れておきます。
4つの対応の選択肢
| 比較軸 | ① S/4HANAへ移る | ② 延長保守で使い続ける | ③ 別のクラウドERPへ移る |
|---|---|---|---|
| 期限との関係 | 2040年までの保守の約束がある | 2030年末まで | 提供元の方針による |
| 費用の水準 | 大きな投資になりやすい | 保守料に上乗せ | 構成による |
| 業務改革の機会 | 資産を活かしやすい反面、踏襲に流れやすい | ほぼない | 作り直す機会になる |
| 作り込みの自由度 | 高い | いまのまま | 標準に合わせる前提 |
| AIとの親和性 | SAPのクラウドERPに組み込まれたAIと組み合わせる | 古い仕組みのまま、つなぎにくい | データが一か所にそろい、外部のAIにもつなぎやすい |
| 合う会社 | SAPの資産が多く複雑な大企業 | 移行の計画があり、時間が要る会社 | 業務を作り直したい中堅企業 |
4つ目の道は、④何もしないです。
2027年末以降は個別の保守に移り、短期の費用は低く見えます。
ただ、業務改革の機会はなく、AIとの親和性も低い。合う会社はほとんどありません。
「AIとの親和性」は、AIに点検や集計を任せるための土台があるか、という意味です。
この表は、経営会議で「どの道を深く調べるか」を決める入口です。
①と③の両方を候補に残し、同じ条件で見積もりを取って比べる方法もあります。
各選択肢の見方
① S/4HANAへ移る:SAPの資産(アドオン・データの構造)が多く複雑な会社に合います。
「同じSAPだから簡単」とはなりません。作り直しに近い規模を見込みます。
RISEでクラウドへ移るか、自社で持つかも、あわせて決めます。
S/4HANAには、SAPのデータの構造や業務の考え方を引き継げる長所があります。
社員がSAPの操作に慣れていることも、移行の負担を下げる材料です。
生産・販売・在庫が複雑にからむ大規模な会社ほど、この長所が効きます。
② 延長保守で使い続ける:他の経営課題と重なり、いま移行に人を割けない時期に使います。
2030年に同じ判断を迫られないよう、移行の計画とセットにします。
③ 別のクラウドERPへ移る:業務の流れを作り直したい中堅・成長企業に合います。
データ移行と業務の作り直しの両方が要り、標準に合わせる覚悟が問われます。
決める前に、アドオンのうち本当に要るものがどれだけ残るかを数えます。
④ 何もしない:SAPを使う業務が小さくなっている会社は、縮小や廃止も選択肢です。
自社の状況から4つの道を引くと、次の図のとおりです。
SAPとNetSuiteの機能・製品体系の比較は、SAPとNetSuiteを徹底比較で扱っています。
NetSuiteへの移行を選択肢に入れる理由
NetSuiteの基本情報
NetSuiteは、1998年にNetLedgerとして始まり、2016年にOracleの一員になりました。
自らを「世界初のクラウドカンパニー」と紹介しています(出典:NetSuite公式、2026年9月確認)。
世界220地域・44,000社以上で使われ(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)、190通貨・27言語に対応します。
基本はNetSuiteとは?クラウドERP入門で扱っています。
SAPからの移り先として検討される理由
全利用者が同じ版を使うSaaS:NetSuiteは、1年に2回、通常は春と秋にアップグレードされます。
利用者のカスタマイズは、新しい版に引き継がれると案内されています(出典:NetSuite日本公式、2026年9月確認)。
SaaSは、提供元が作った仕組みを、インターネット経由で使う形です。
版の更新を自社で計画する負担が小さくなります。
海外拠点を一つの仕組みで:OneWorld(複数の子会社を一つの環境で管理する機能)で、本社と海外拠点をまとめて管理できます。
詳しくはNetSuiteのグローバル展開機能で扱っています。
外部のAIとつなぎやすい:NetSuite AI Connector Serviceは、MCP(AIと業務の仕組みをつなぐ共通の規格)に対応しています。
ClaudeやChatGPTなどのAIツールをNetSuiteに直接つなげます(出典:NetSuite公式、2026年9月確認)。
使うAIを自社で選べる「Bring your own AI」の考え方です。
Oracleの一員として続く製品:提供元の今後を心配する声には、2016年からOracleの一員である点が材料になります。
ただし、どの製品でも、長く使うかどうかは自社の業務に合うかで決まります。
SAP S/4HANAとNetSuiteの特性
| 比較軸 | SAP S/4HANA | NetSuite |
|---|---|---|
| 主な利用者 | 大企業が中心。GROWで中堅にも広げている | 中堅・中小企業が中心 |
| クラウドの形 | Private(RISE)とPublic Edition(GROW)がある | 全利用者が同じ版を使うSaaS |
| 作り込みの考え方 | 高度な作り込みにも対応 | 標準に合わせる前提 |
| 海外拠点 | 強い | 220地域・190通貨・27言語 |
| 価格 | 見積もり(構成による) | ミニマム構成で月額20万円〜 |
NetSuiteの月額20万円〜は、ミニマム構成の出発点です。
モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。
移行の費用と期間を左右する4つの要因
ライセンスより大きく動くのは、導入の費用と期間です。
ベンチャーネットが導入を支援してきた中で、差を生む要因は4つあります。
- 機能範囲:会計だけか、販売・在庫・生産まで移すか
- 開発:アドオンの量と、特に外部システムとの連携
- 社内の体制:情報システムの担当が少ないと、支援を厚くする分、期間も延びやすい
- ユーザー数:受入テストと教育の工数、社内の調整の時間
SAPで積み上げたアドオンと連携の数は、2つ目の「開発」の重さに直結します。
費用の中身はNetSuiteの料金・費用で扱っています。
費用を比べるときは、2030年までの合計で並べます。
| 並べる費用 | 延長保守で使い続ける | 別の仕組みへ移る |
|---|---|---|
| 保守・利用料 | 延長保守の上乗せを含む保守料 | 移り先の利用料と、移るまでのSAPの保守料 |
| 作業の費用 | 法改正の改修、障害の対応 | 導入の支援、データ移行 |
| 人の費用 | 古い仕組みに詳しい要員の確保 | 社内の推進体制 |
延長保守は安く見えても、2030年以降にもう一度、移行の費用がかかります。
NetSuiteへ移るときに知っておく制約
長所の裏返しとして、次の点は先に知っておきます。
- 全利用者が同じ版を使うため、版の更新の時期は自社で選べない
- 更新の前に、自社の作り込みが動くかを試す社内の作業が要る(出典:NetSuite日本公式、2026年9月確認)
- 標準に合わせる前提のため、SAPで作り込んだ独自の流れは、業務の方を変える判断が要る
- 自社のデータセンターでは動かせない
これらを受け入れられるかが、NetSuiteを選ぶかどうかの分かれ目です。
データ移行で決めること
- 取引の履歴を、何年分移すか
- 移さない履歴を、どこで見られるようにするか(参照用に残すなど)
- 勘定科目・取引先・品目のコードを、どう整理し直すか
履歴をすべて移そうとすると、移行の期間と費用が大きく膨らみます。
進め方は基幹システムのデータ移行ガイドで扱っています。
判断の物差し
NetSuiteへの移行が合う会社
- 売上が数十億〜数百億円で、これから事業や拠点を広げる
- 海外子会社を、一つの仕組みで管理したい
- いまの業務を写すのではなく、作り直すことに経営者が納得している
- 年2回の版の更新を受け入れ、常に新しい版で使う考え方ができる
4つのうち3つ以上に当てはまれば、候補に入れる価値があります。
特に3つ目の「作り直すことへの納得」が欠けると、どの製品に移っても作り込みが膨らみます。
別の道が合う会社
| 自社の状況 | 合いやすい選択肢 | 理由 |
|---|---|---|
| 大規模な製造業で、生産・販売・在庫が複雑にからむ | S/4HANA | SAPの資産と深い作り込みを活かせる |
| 法令で決まった業界特有の流れが多い | S/4HANA、または国産の業種特化型ERP | 標準に合わせる余地が小さい |
| 自社のやり方をそのまま再現したい方針が固い | S/4HANA、またはAIスクラッチ開発 | 標準に合わせる前提のSaaSとは合わない |
| 自社のデータセンターで動かすことが必須 | オンプレミスで動かせる製品 | NetSuiteはSaaSのため成り立たない |
| 子会社や一部の業務だけ先に替えたい | 部分的なNetSuite・Odoo | 本体を残し、小さく移せる |
| SAPで使う業務が小さくなっている | 縮小・いまは替えない | 大きな投資に見合わないことがある |
OdooとNetSuiteの比べ方はOdooとNetSuiteを徹底比較、自社開発との比べ方はAIでスクラッチ開発とERPで扱っています。
まだ決めていない会社と、延長保守で使い続ける会社
まだ方針を決めていない会社
2026年9月から、次の順で進めます。
- 今月中:2027年問題を経営会議の議題にする。情報システムの案件ではなく、経営の課題として扱う
- 3か月以内:いまのSAP環境を棚卸しする(アドオン・作り込み・データの量・使っている部門)
- 2026年内:①〜④の方針と、延長保守を使うかを決める
- 2027年前半:パートナーを選び、移す範囲とデータを絞り込む。提案を比べるときは、同じ条件の提案依頼書(RFP)を渡す
- 延長保守の期間:構築・データ移行・並行稼働を進め、2030年末より前に切り替える
棚卸しでは、アドオンごとに「誰が・何のために・どのくらいの頻度で」使っているかを書きます。
使っている人が分からないアドオンは、やめられる候補です。
2027年末に間に合わせるかどうかも、棚卸しの結果を見て決めます。
RFP(提案依頼書)は、パートナーに課題と要件を伝え、提案を求める文書です。
書き方はERP導入を成功させるRFPの作り方で扱っています。
延長保守で使い続ける(予定の)会社
延長保守を選ぶかどうかは、2027年末までに決める必要があります。
選ばない場合は、個別の保守に自動で移るとSAPは案内しています(出典:SAP News Center 2020年2月、2026年9月確認)。
延長保守は2030年末までです。
いまのうちに、次の3点を押さえておきます。
- 延長保守の上乗せを含めた、2028〜2030年の保守料の合計
- 2030年末までに移る範囲と、移らない範囲
- 延長保守の期間に、古い仕組みに詳しい要員を確保できるか
大規模な会社には、2031〜2033年の期間限定の提供もあります。
ただし、2030年末までにprivate editionへ移すなどの条件があり、何もしないで延ばせるものではありません。
延長の間に、いまのSAPへ新しいアドオンを足し続けると、移すものが増えます。
移行の担当を決めないまま日々の運用だけを続けるのも、避けたい形です。
2028年の初めには、移る範囲とパートナーが決まっている状態を目指します。
保守の期限を前にした判断の全体は、基幹システムの保守切れリスクとはで扱っています。
よくある3つの失敗
失敗1:経営層が「情報システム任せ」にする
起きること:経営会議で進みが議題に上がらず、業務の部門の合意がないまま進む。結果、いまの業務の踏襲になり、作り込みが膨らむ。
原因:SAPの移行を、システムの入れ替えと見ていた。実際は、業務の流れと組織を作り直す経営のプロジェクトである。
避け方:経営層・CFO・情報システムを一つの推進体制に入れ、月に一度、決める場を設けます。
その場で決めるのは、移す範囲の追加や削除、業務の部門から出た例外の要望の扱い、予算と日程の見直しです。
失敗2:いまのアドオンを棚卸しせず、すべて持ち込む
起きること:「SAPでできていたことを全部」という要望で、なぜ要るのか誰も説明できない機能まで残る。新しい仕組みが前より複雑になる。
原因:古い仕組みの資料が残っておらず、「今と同じ動きを」と要件にした。標準に合わせる方針(Fit to Standard)も、要件の段階で例外が積み上がった。
避け方:アドオンを一覧にし、第8章の3つの選択で仕分けます。
例外の要望が出るたびに「なぜ標準でできないのか」を問い直します。
Fit to Standardは、標準の機能に業務を合わせる進め方です。
考え方は「業務属人化」がDXを止めるで扱っています。
失敗3:SAPからの移行の経験がないパートナーを選ぶ
起きること:データ移行の段階で「想定外」が続き、途中で止まる。費用と期間が大きく膨らむ。
原因:SAPは独自のデータの構造を持つ。勘定科目や組織のコードを移り先に当てはめるには、両方の知識が要る。
業務の作り直しの経験がないと、標準に合わせる議論を主導できず、中盤で止まる。
避け方:パートナーに、次の3点を聞きます。
- SAPからの移行の進め方(データの対応づけ・整理・検証の手順)
- SAPと移り先の両方を分かる人がいるか
- 過去のプロジェクトで、作り込みをどう減らしたか
ERP導入の失敗の一般論は、ERP導入はなぜ失敗するのかで扱っています。
ベンチャーネットならこう見る|移り先が決まる前に、アドオンを3つに仕分ける
「移り先さえ決まれば、あとは今の機能を移すだけ」
2027年問題の相談で、よく聞く考え方です。
ベンチャーネットは、移り先の製品を決める前に、業務の見える化から始めます。
SAPで積み上げたアドオンには、もう使っていない帳票や、手作業で補っている業務が混ざっています。
その一覧をそのまま要件にすると、S/4HANAでもNetSuiteでも、要らない機能まで運ぶことになります。
型1:見える化→整理整頓→Fit&Gap
- 業務の見える化:いまの業務の流れを、現場に聞いて描く
- 整理整頓:やめる・まとめる・そろえる業務を決める
- Fit&Gap:残った業務を、移り先の標準機能と照らし合わせる
Fit&Gapは、業務と機能の合う・合わないを一つずつ見る作業です。
やめる業務を2段目で決めておくと、照らし合わせる数が減ります。
この3段は、延長保守の期間に、移り先が決まる前から進められます。
型2:標準に合わせる/開発する/残す
Fit&Gapで合わなかったアドオンは、3つのどれかに決めます。
- 標準に合わせる:業務のほうを、移り先の標準機能に寄せる
- 開発する:追加の開発や、外部の仕組みとの連携で補う
- 残す:新しいERPには載せず、別の仕組みや運用で続ける
1つ目が多いほど、移ったあとの更新が軽くなります。
2つ目は、第4章で見たとおり費用と期間を押し上げやすい選択です。
仕分けの結果、S/4HANAの方が合うと分かれば、そうお伝えします。
パートナーに求める3つの視点
| 視点 | 見ること |
|---|---|
| SAPからの移行の経験 | SAP特有のデータの構造を、移り先に当てはめた経験があるか |
| 経営の作り直しとして伴走できるか | 「この業務は本当に要るか」「決める場はいつか」を問えるか |
| 標準に合わせることを最後まで貫けるか | 例外の要望に対し、標準でできる別の流れを示せるか |
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
仕事の多くは、ゼロからの導入より、他社のあとの引き継ぎ・立て直しと、他システムとの連携が占めます。
選び方の全体は、NetSuiteパートナーの選び方で扱っています。
今日できること|SAP環境の「棚卸し表」を1枚作る
次の表を、1時間で埋めてみてください。
分からない欄は、情報システムの担当に聞く項目になります。
| 項目 | 自社の答え |
|---|---|
| いまの保守の契約と、更新の時期 | |
| アドオン・作り込みのおおよその数 | |
| SAPを使っている部門と人数 | |
| つないでいる周りの仕組み | |
| 2030年までに増える拠点・事業・海外 | |
| 方針を決める期限と、決める人 |
「方針を決める期限と、決める人」が空欄なら、それが最初の課題です。
表ができたら、経営会議には次の3点だけを出します。
- 保守の期限と、延長保守を使う場合の費用の増え方
- 棚卸しで分かった規模(アドオンの数・部門・データの量)
- 方針を決める期限と、それまでに集める情報
選択肢の比較は、この3点がそろってからで間に合います。
よくある質問
Q1. 延長保守を使えば、2030年まで先送りできますか
使えますが先送りは解決になりません。
延長保守は2028年初〜2030年末で、保守料の基準に2ポイント上乗せされます。
2030年に同じ判断を迫られないよう、移行の計画とセットで使います(第1章・第2章)。
Q2. 2027年末までに移行は間に合いますか
規模と範囲で分かれます。
会計など一部の業務だけで、アドオンが少なく、パートナーの候補があれば間に合う可能性があります。
そうでなければ、延長保守を橋にする計画も並べて考えます(第2章)。
Q3. 延長保守の後は、どうなりますか
個別の保守(customer specific maintenance)に移ります。
既知の問題の解決は同じ料金で提供されると、SAPは案内しています。
大規模な会社向けには、2031〜2033年の期間限定の提供もあります(第1章)。
Q4. S/4HANAとNetSuite、どちらを選ぶべきですか
規模・SAP資産の量・業務改革の意欲・海外展開で決まります。
SAPの資産が多く複雑な大企業はS/4HANA、業務を作り直したい中堅企業はNetSuiteが合いやすいです。
詳しい比較はSAPとNetSuiteを徹底比較をご覧ください。
Q5. NetSuiteへの移行には、どれくらいの費用がかかりますか
ライセンスはミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。
モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。
導入の費用と期間は、機能範囲・開発・社内の体制・ユーザー数の4つで決まります(第4章)。
Q6. 製造業でもNetSuiteに移れますか
標準でできる範囲を見極めて業務を作り直すのが基本です。
特殊な流れが極めて多い場合は、慎重に検討します。
製造業向けの比較は製造業向けERP15選をご覧ください。
Q7. 移行を支援するパートナーは、どう選べばよいですか
SAPからの移行の経験と作り込みを減らした実績を見ます。
経営層と対等に話し、業務の方を変える判断を支えられるかも見ます(第7章・第8章)。
質問集はベンチャーネットに聞く|NetSuite導入でよく受ける質問でも扱っています。
まとめ
- SAP ERP 6.0の標準の保守は2027年末まで。延長保守は2030年末までで、保守料が上乗せされる
- 延長保守を使うかは2027年末までに決める。選ばない場合は個別の保守に移る
- 2026年9月の時点で残り約15か月。規模によっては、延長保守を「計画的な橋」として使う方が現実的
- 選択肢は、S/4HANA・延長保守・別のクラウドERP・何もしない、の4つ。部分的な置き換えもある
- 移り先を決める前に、アドオンを「標準に合わせる/開発する/残す」に仕分ける
延長保守で2030年まで使うことはできます。
ただ、その3年を橋にできるかどうかは、今月、方針を決める期限と決める人を決めるかで変わります。
もう少し詳しく知りたい方へ
SAPの保守の期限を前に、どの道を選ぶかを整理したい。
棚卸しの段階から、ご相談をお受けしています。
- SAPからの置き換えを検討している方:基幹システムリプレイス(ERP乗り換え)支援
- 移り先の候補として、NetSuiteの画面を見たい方:NetSuite 無料体験デモ
- S/4HANAも含めて、自社に合う道を相談したい方:お問い合わせ

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