SAP 2027年問題の解決策|NetSuiteへの移行で経営基盤を再構築する戦略ガイド

「延長保守を使えば、2030年まで先送りできるのではないか」

2027年問題の相談で、最初によく出る問いです。

答えは、「できる。ただし先送りでは終わらない」です。

SAP 2027年問題とは、SAPの基幹システム「SAP ERP 6.0」の標準の保守が、2027年末に終わる問題です。

延長保守を選べば2030年末まで使えますが、保守料は上乗せされます。

そして2030年に、同じ判断がもう一度やって来ます。

2026年9月の時点で、2027年末までは約15か月です。

規模によっては、それまでに移行を終えるのは難しくなっています。

現実的なのは、延長保守を「計画的な橋」として使い、その間に移る道です。

では、橋を渡った先は、S/4HANAか、NetSuiteのような別のクラウドERPか。

分かれ目は製品の機能ではなく、いまのSAPに積み上がったアドオンの扱いにあります。

目次

この記事で分かること

  • SAP ERP 6.0の保守の期限と、延長保守・その後の扱い(2026年9月時点のSAP公式情報)
  • 4つの対応の選択肢と、それぞれが合う会社
  • 2026年9月からの判断の順番
  • NetSuiteへの移行が合う会社と、合わない会社の条件

ERPは、会社全体の仕事(会計・販売・生産・在庫など)を一つの仕組みで管理するシステムです。

保守は、提供元が不具合の修正や法改正への対応を続けることを指します。

ECC 6.0は、SAP ERP 6.0の通称です。

SAP 2027年問題とは

公式の保守の期限

SAPの公式の保守方針は、次のとおりです(出典:SAP公式、2026年9月確認)。

期間保守の種類条件
2027年末まで標準の保守(メインストリーム保守)―
2028年初〜2030年末延長保守保守料の基準に2ポイント上乗せ
延長保守を選ばない場合・終了後個別の保守(customer specific maintenance)既知の問題の解決を、同じ料金で提供
2031〜2033年移行を支える期間限定の提供大規模で複雑な会社向け。条件あり

2031〜2033年の提供は「SAP ERP, private edition, transition option」と呼ばれます。

条件は、2030年12月31日までにSAP ERP, private editionへ移すことなどです。

2TB以上のシステムであることも条件に含まれます(出典:SAP News Center 2025年8月、2026年9月確認)。

中堅企業の多くには、当てはまりにくい条件です。

延長保守の上乗せは、いまの保守料の基準に対して2ポイントです(出典:SAP News Center 2020年2月、2026年9月確認)。

自社の場合の金額は、SAPか契約先に聞いてください。

2028年からの予算の見込みに早めに入れておくと、判断が楽になります。

S/4HANAのオンプレミス版で旧来の機能を使い続ける「コンパチビリティパック」もあります。

その利用の権利は、最終の移行期間として2026年5月末までに延びました。

この期限は、すでに過ぎています(出典:SAP News Center 2025年12月、2026年9月確認)。

後継の製品

SAPの後継の製品は「SAP S/4HANA」です。

SAPは、S/4HANAについて、2040年まで少なくとも一つのリリースを保守すると案内しています(出典:SAP公式、2026年9月確認)。

クラウドで使う道も、2つ用意されています(出典:SAP公式、2026年9月確認)。

  • RISE with SAP:オンプレミスのSAP ERP(ECCまたはS/4HANA)から、SAP Cloud ERP Privateへ移る道筋
  • GROW with SAP:S/4HANA Cloud Public Editionをもとにしたクラウドの入口。中堅中小企業を含む規模に対応し、新しくSAPを使う会社向け

オンプレミスは、自社でサーバーを持って動かす形です。

S/4HANAへの移行は、技術的には「アップグレード」より「作り直し」に近い。

実質的には、新しいシステムを入れるのと同じ規模のプロジェクトになります。

SAPの製品全体は、SAPとはで扱っています。

なぜ「問題」なのか

標準の保守が終わると、次のことが起きやすくなります。

  • 新しい弱点(脆弱性)への修正が届きにくくなる
  • 税制や会計のルールの改正への対応が、自社の負担になる
  • 障害の原因を調べて直す負担が、社内とパートナーに寄る
  • 古い仕組みに詳しい技術者が、新しいプロジェクトに移っていく
  • 延長保守を選ぶと、保守料が上乗せされる

使い続けることはできます。

ただ、時間とともにリスクと負担が増える状態に入ります。

いちばん重いのは、人の問題です。

古い仕組みの中身を知る社員やパートナーの担当者は、年々少なくなります。

障害が起きたとき、原因を調べられる人がいない。これが最も大きなリスクになりえます。

2026年9月の時点で、残り時間をどう見るか

SAP ERP 6.0の保守の期限と、決める時期 2026年9月の時点で2027年末の標準保守の終了まで約15か月。延長保守を使うかは2027年末までに決める。延長保守は2028年初から2030年末まで、保守料の基準に2ポイント上乗せ。2031〜2033年の期間限定の提供は大規模な会社向けで条件がある。 SAP ERP 6.0の保守の期限と、 決める時期 2026年9月(いま) 2027年末まで約15か月 2027年末:標準の保守が終了 延長保守を使うかは、ここまでに決める 2028年初〜2030年末:延長保守 保守料の基準に2ポイント上乗せ 2031〜2033年:期間限定の提供 大規模で複雑な会社向け。条件あり 延長保守は、移行の計画とセットの「橋」 出典:SAP公式・SAP News Center
SAP ERP 6.0の保守の期限と、決める時期

移行のプロジェクトは、おおむね次の工程を踏みます。

期間は規模・アドオンの量・移すデータの量で大きく変わるため、パートナーの見積もりで見極めます。

工程期間を左右すること
要件の整理・パートナーの選定方針が社内で決まっているか
設計・構築・データ移行アドオンの量、移す履歴の長さ
並行稼働・本番の切り替え締めの時期、並行稼働の期間

方針とパートナーがまだ決まっていない会社にとって、約15か月は短い。

2027年末に切り替えを終えるのは、規模によってはかなり厳しくなります。

逆に、次の条件がそろう会社は、間に合う可能性があります。

  • SAPを使う業務が会計など一部に限られている
  • アドオンが少なく、多くを標準に合わせられる
  • 移す履歴を短く絞れる
  • すでにパートナーの候補がある

避けたいのは、急いで質の悪い移行をすることです。

延長保守は、上乗せの料金を払って時間を買う選択です。

「先送り」ではなく、移行の計画を持ったうえで渡る「橋」と位置づけます。

延長保守を「橋」にするときの計画

延長保守を使うなら、次の3つを最初に決めます。

決めること中身決めないと起きること
切り替えの時期2030年末より前の、どの時期に切り替えるか期限の直前に作業が集中する
上乗せの費用の予算2028〜2030年の保守料の増える分移行の予算と取り合いになる
延長の間にやること棚卸し・パートナー選び・データの整理3年がそのまま過ぎる

データの整理や、使っていないアドオンの廃止は、移り先が決まる前から始められます。

移す範囲の決め方

全社を一度に移すことだけが、答えではありません。

進め方中身合う場合
一度に全部全社・全業務を同じ時期に切り替える範囲が小さく、業務の結びつきが強い
段階的に会計から、または子会社から順に移す範囲が大きく、一度に移すと負担が重い
一部だけ子会社や海外拠点だけを別の仕組みにし、本体は残す本体の業務がSAPに合っている

段階的に移す場合は、途中で古い仕組みと新しい仕組みをつなぐ期間が生まれます。

つなぐ費用と手間も、計画に入れておきます。

4つの対応の選択肢

比較軸① S/4HANAへ移る② 延長保守で使い続ける③ 別のクラウドERPへ移る
期限との関係2040年までの保守の約束がある2030年末まで提供元の方針による
費用の水準大きな投資になりやすい保守料に上乗せ構成による
業務改革の機会資産を活かしやすい反面、踏襲に流れやすいほぼない作り直す機会になる
作り込みの自由度高いいまのまま標準に合わせる前提
AIとの親和性SAPのクラウドERPに組み込まれたAIと組み合わせる古い仕組みのまま、つなぎにくいデータが一か所にそろい、外部のAIにもつなぎやすい
合う会社SAPの資産が多く複雑な大企業移行の計画があり、時間が要る会社業務を作り直したい中堅企業

4つ目の道は、④何もしないです。

2027年末以降は個別の保守に移り、短期の費用は低く見えます。

ただ、業務改革の機会はなく、AIとの親和性も低い。合う会社はほとんどありません。

「AIとの親和性」は、AIに点検や集計を任せるための土台があるか、という意味です。

この表は、経営会議で「どの道を深く調べるか」を決める入口です。

①と③の両方を候補に残し、同じ条件で見積もりを取って比べる方法もあります。

各選択肢の見方

① S/4HANAへ移る:SAPの資産(アドオン・データの構造)が多く複雑な会社に合います。

「同じSAPだから簡単」とはなりません。作り直しに近い規模を見込みます。

RISEでクラウドへ移るか、自社で持つかも、あわせて決めます。

S/4HANAには、SAPのデータの構造や業務の考え方を引き継げる長所があります。

社員がSAPの操作に慣れていることも、移行の負担を下げる材料です。

生産・販売・在庫が複雑にからむ大規模な会社ほど、この長所が効きます。

② 延長保守で使い続ける:他の経営課題と重なり、いま移行に人を割けない時期に使います。

2030年に同じ判断を迫られないよう、移行の計画とセットにします。

③ 別のクラウドERPへ移る:業務の流れを作り直したい中堅・成長企業に合います。

データ移行と業務の作り直しの両方が要り、標準に合わせる覚悟が問われます。

決める前に、アドオンのうち本当に要るものがどれだけ残るかを数えます。

④ 何もしない:SAPを使う業務が小さくなっている会社は、縮小や廃止も選択肢です。

自社の状況から4つの道を引くと、次の図のとおりです。

自社の状況から見る4つの道 SAPの資産が多く複雑ならS/4HANAへ移る。いま移行に人を割けないなら、移行の計画とセットで延長保守を使う。業務の流れを作り直したいなら別のクラウドERPへ移る。SAPを使う業務が小さくなっているなら、縮小や廃止も選択肢。 自社の状況から見る4つの道 自社の状況 合いやすい道 SAPの資産が 多く複雑 ① S/4HANAへ移る 作り直しに近い規模 いま移行に 人を割けない ② 延長保守 移行の計画とセットで 業務の流れを 作り直したい ③ 別のクラウドERP 標準に合わせる覚悟 SAPを使う業務が 小さくなっている ④ 何もしない 縮小や廃止も選択肢 ①と③を両方残し、同じ条件で 見積もりを取って比べる方法もある
自社の状況から見る4つの道

SAPとNetSuiteの機能・製品体系の比較は、SAPとNetSuiteを徹底比較で扱っています。

NetSuiteへの移行を選択肢に入れる理由

NetSuiteの基本情報

NetSuiteは、1998年にNetLedgerとして始まり、2016年にOracleの一員になりました。

自らを「世界初のクラウドカンパニー」と紹介しています(出典:NetSuite公式、2026年9月確認)。

世界220地域・44,000社以上で使われ(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)、190通貨・27言語に対応します。

基本はNetSuiteとは?クラウドERP入門で扱っています。

SAPからの移り先として検討される理由

全利用者が同じ版を使うSaaS:NetSuiteは、1年に2回、通常は春と秋にアップグレードされます。

利用者のカスタマイズは、新しい版に引き継がれると案内されています(出典:NetSuite日本公式、2026年9月確認)。

SaaSは、提供元が作った仕組みを、インターネット経由で使う形です。

版の更新を自社で計画する負担が小さくなります。

海外拠点を一つの仕組みで:OneWorld(複数の子会社を一つの環境で管理する機能)で、本社と海外拠点をまとめて管理できます。

詳しくはNetSuiteのグローバル展開機能で扱っています。

外部のAIとつなぎやすい:NetSuite AI Connector Serviceは、MCP(AIと業務の仕組みをつなぐ共通の規格)に対応しています。

ClaudeやChatGPTなどのAIツールをNetSuiteに直接つなげます(出典:NetSuite公式、2026年9月確認)。

使うAIを自社で選べる「Bring your own AI」の考え方です。

Oracleの一員として続く製品:提供元の今後を心配する声には、2016年からOracleの一員である点が材料になります。

ただし、どの製品でも、長く使うかどうかは自社の業務に合うかで決まります。

SAP S/4HANAとNetSuiteの特性

比較軸SAP S/4HANANetSuite
主な利用者大企業が中心。GROWで中堅にも広げている中堅・中小企業が中心
クラウドの形Private(RISE)とPublic Edition(GROW)がある全利用者が同じ版を使うSaaS
作り込みの考え方高度な作り込みにも対応標準に合わせる前提
海外拠点強い220地域・190通貨・27言語
価格見積もり(構成による)ミニマム構成で月額20万円〜

NetSuiteの月額20万円〜は、ミニマム構成の出発点です。

モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。

移行の費用と期間を左右する4つの要因

ライセンスより大きく動くのは、導入の費用と期間です。

ベンチャーネットが導入を支援してきた中で、差を生む要因は4つあります。

  • 機能範囲:会計だけか、販売・在庫・生産まで移すか
  • 開発:アドオンの量と、特に外部システムとの連携
  • 社内の体制:情報システムの担当が少ないと、支援を厚くする分、期間も延びやすい
  • ユーザー数:受入テストと教育の工数、社内の調整の時間

SAPで積み上げたアドオンと連携の数は、2つ目の「開発」の重さに直結します。

費用の中身はNetSuiteの料金・費用で扱っています。

費用を比べるときは、2030年までの合計で並べます。

並べる費用延長保守で使い続ける別の仕組みへ移る
保守・利用料延長保守の上乗せを含む保守料移り先の利用料と、移るまでのSAPの保守料
作業の費用法改正の改修、障害の対応導入の支援、データ移行
人の費用古い仕組みに詳しい要員の確保社内の推進体制

延長保守は安く見えても、2030年以降にもう一度、移行の費用がかかります。

NetSuiteへ移るときに知っておく制約

長所の裏返しとして、次の点は先に知っておきます。

  • 全利用者が同じ版を使うため、版の更新の時期は自社で選べない
  • 更新の前に、自社の作り込みが動くかを試す社内の作業が要る(出典:NetSuite日本公式、2026年9月確認)
  • 標準に合わせる前提のため、SAPで作り込んだ独自の流れは、業務の方を変える判断が要る
  • 自社のデータセンターでは動かせない

これらを受け入れられるかが、NetSuiteを選ぶかどうかの分かれ目です。

データ移行で決めること

  • 取引の履歴を、何年分移すか
  • 移さない履歴を、どこで見られるようにするか(参照用に残すなど)
  • 勘定科目・取引先・品目のコードを、どう整理し直すか

履歴をすべて移そうとすると、移行の期間と費用が大きく膨らみます。

進め方は基幹システムのデータ移行ガイドで扱っています。

判断の物差し

NetSuiteへの移行が合う会社

  • 売上が数十億〜数百億円で、これから事業や拠点を広げる
  • 海外子会社を、一つの仕組みで管理したい
  • いまの業務を写すのではなく、作り直すことに経営者が納得している
  • 年2回の版の更新を受け入れ、常に新しい版で使う考え方ができる

4つのうち3つ以上に当てはまれば、候補に入れる価値があります。

特に3つ目の「作り直すことへの納得」が欠けると、どの製品に移っても作り込みが膨らみます。

NetSuiteへの移行が合う会社の4つの条件 売上が数十億〜数百億円で事業や拠点を広げる、海外子会社を一つの仕組みで管理したい、業務を作り直すことに経営者が納得している、年2回の版の更新を受け入れる。4つのうち3つ以上なら候補に入れる価値があり、特に3つ目が欠けると作り込みが膨らむ。 NetSuiteへの移行が合う 会社の4つの条件 事業や拠点を広げる 売上が数十億〜数百億円 海外子会社を一つの仕組みで OneWorldで本社と海外拠点を管理 作り直すことに経営者が納得 いまの業務を写すのではない 年2回の版の更新を受け入れる 常に新しい版で使う 4つのうち3つ以上なら、候補に入れる価値がある 3つ目が欠けると、どの製品でも作り込みが膨らむ
NetSuiteへの移行が合う会社の4つの条件

別の道が合う会社

自社の状況合いやすい選択肢理由
大規模な製造業で、生産・販売・在庫が複雑にからむS/4HANASAPの資産と深い作り込みを活かせる
法令で決まった業界特有の流れが多いS/4HANA、または国産の業種特化型ERP標準に合わせる余地が小さい
自社のやり方をそのまま再現したい方針が固いS/4HANA、またはAIスクラッチ開発標準に合わせる前提のSaaSとは合わない
自社のデータセンターで動かすことが必須オンプレミスで動かせる製品NetSuiteはSaaSのため成り立たない
子会社や一部の業務だけ先に替えたい部分的なNetSuite・Odoo本体を残し、小さく移せる
SAPで使う業務が小さくなっている縮小・いまは替えない大きな投資に見合わないことがある

OdooとNetSuiteの比べ方はOdooとNetSuiteを徹底比較、自社開発との比べ方はAIでスクラッチ開発とERPで扱っています。

まだ決めていない会社と、延長保守で使い続ける会社

まだ方針を決めていない会社

2026年9月から、次の順で進めます。

  1. 今月中:2027年問題を経営会議の議題にする。情報システムの案件ではなく、経営の課題として扱う
  2. 3か月以内:いまのSAP環境を棚卸しする(アドオン・作り込み・データの量・使っている部門)
  3. 2026年内:①〜④の方針と、延長保守を使うかを決める
  4. 2027年前半:パートナーを選び、移す範囲とデータを絞り込む。提案を比べるときは、同じ条件の提案依頼書(RFP)を渡す
  5. 延長保守の期間:構築・データ移行・並行稼働を進め、2030年末より前に切り替える

棚卸しでは、アドオンごとに「誰が・何のために・どのくらいの頻度で」使っているかを書きます。

使っている人が分からないアドオンは、やめられる候補です。

2027年末に間に合わせるかどうかも、棚卸しの結果を見て決めます。

RFP(提案依頼書)は、パートナーに課題と要件を伝え、提案を求める文書です。

書き方はERP導入を成功させるRFPの作り方で扱っています。

延長保守で使い続ける(予定の)会社

延長保守を選ぶかどうかは、2027年末までに決める必要があります。

選ばない場合は、個別の保守に自動で移るとSAPは案内しています(出典:SAP News Center 2020年2月、2026年9月確認)。

延長保守は2030年末までです。

いまのうちに、次の3点を押さえておきます。

  • 延長保守の上乗せを含めた、2028〜2030年の保守料の合計
  • 2030年末までに移る範囲と、移らない範囲
  • 延長保守の期間に、古い仕組みに詳しい要員を確保できるか

大規模な会社には、2031〜2033年の期間限定の提供もあります。

ただし、2030年末までにprivate editionへ移すなどの条件があり、何もしないで延ばせるものではありません。

延長の間に、いまのSAPへ新しいアドオンを足し続けると、移すものが増えます。

移行の担当を決めないまま日々の運用だけを続けるのも、避けたい形です。

2028年の初めには、移る範囲とパートナーが決まっている状態を目指します。

保守の期限を前にした判断の全体は、基幹システムの保守切れリスクとはで扱っています。

よくある3つの失敗

失敗1:経営層が「情報システム任せ」にする

起きること:経営会議で進みが議題に上がらず、業務の部門の合意がないまま進む。結果、いまの業務の踏襲になり、作り込みが膨らむ。

原因:SAPの移行を、システムの入れ替えと見ていた。実際は、業務の流れと組織を作り直す経営のプロジェクトである。

避け方:経営層・CFO・情報システムを一つの推進体制に入れ、月に一度、決める場を設けます。

その場で決めるのは、移す範囲の追加や削除、業務の部門から出た例外の要望の扱い、予算と日程の見直しです。

失敗2:いまのアドオンを棚卸しせず、すべて持ち込む

起きること:「SAPでできていたことを全部」という要望で、なぜ要るのか誰も説明できない機能まで残る。新しい仕組みが前より複雑になる。

原因:古い仕組みの資料が残っておらず、「今と同じ動きを」と要件にした。標準に合わせる方針(Fit to Standard)も、要件の段階で例外が積み上がった。

避け方:アドオンを一覧にし、第8章の3つの選択で仕分けます。

例外の要望が出るたびに「なぜ標準でできないのか」を問い直します。

Fit to Standardは、標準の機能に業務を合わせる進め方です。

考え方は「業務属人化」がDXを止めるで扱っています。

失敗3:SAPからの移行の経験がないパートナーを選ぶ

起きること:データ移行の段階で「想定外」が続き、途中で止まる。費用と期間が大きく膨らむ。

原因:SAPは独自のデータの構造を持つ。勘定科目や組織のコードを移り先に当てはめるには、両方の知識が要る。

業務の作り直しの経験がないと、標準に合わせる議論を主導できず、中盤で止まる。

避け方:パートナーに、次の3点を聞きます。

  • SAPからの移行の進め方(データの対応づけ・整理・検証の手順)
  • SAPと移り先の両方を分かる人がいるか
  • 過去のプロジェクトで、作り込みをどう減らしたか

ERP導入の失敗の一般論は、ERP導入はなぜ失敗するのかで扱っています。

ベンチャーネットならこう見る|移り先が決まる前に、アドオンを3つに仕分ける

「移り先さえ決まれば、あとは今の機能を移すだけ」

2027年問題の相談で、よく聞く考え方です。

ベンチャーネットは、移り先の製品を決める前に、業務の見える化から始めます。

SAPで積み上げたアドオンには、もう使っていない帳票や、手作業で補っている業務が混ざっています。

その一覧をそのまま要件にすると、S/4HANAでもNetSuiteでも、要らない機能まで運ぶことになります。

ベンチャーネットの進め方:見える化→整理整頓→Fit&Gap→3つの選択 業務の見える化、整理整頓、移る先の製品の標準機能とのFit&Gap、そして標準に合わせる・開発する・残すの3択で決める。 ベンチャーネットの進め方業務の見える化いまの業務フローを現場に聞いて描く整理整頓やめる・まとめる・そろえる業務を決めるFit&Gap移る先の製品の標準機能と照らし合わせる3つの選択標準に合わせる/開発する/残す製品が決まっていても、見える化から始める
ベンチャーネットの進め方:見える化→整理整頓→Fit&Gap→3つの選択

型1:見える化→整理整頓→Fit&Gap

  1. 業務の見える化:いまの業務の流れを、現場に聞いて描く
  2. 整理整頓:やめる・まとめる・そろえる業務を決める
  3. Fit&Gap:残った業務を、移り先の標準機能と照らし合わせる

Fit&Gapは、業務と機能の合う・合わないを一つずつ見る作業です。

やめる業務を2段目で決めておくと、照らし合わせる数が減ります。

この3段は、延長保守の期間に、移り先が決まる前から進められます。

型2:標準に合わせる/開発する/残す

Fit&Gapで合わなかったアドオンは、3つのどれかに決めます。

  • 標準に合わせる:業務のほうを、移り先の標準機能に寄せる
  • 開発する:追加の開発や、外部の仕組みとの連携で補う
  • 残す:新しいERPには載せず、別の仕組みや運用で続ける

1つ目が多いほど、移ったあとの更新が軽くなります。

2つ目は、第4章で見たとおり費用と期間を押し上げやすい選択です。

仕分けの結果、S/4HANAの方が合うと分かれば、そうお伝えします。

パートナーに求める3つの視点

視点見ること
SAPからの移行の経験SAP特有のデータの構造を、移り先に当てはめた経験があるか
経営の作り直しとして伴走できるか「この業務は本当に要るか」「決める場はいつか」を問えるか
標準に合わせることを最後まで貫けるか例外の要望に対し、標準でできる別の流れを示せるか

ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。

仕事の多くは、ゼロからの導入より、他社のあとの引き継ぎ・立て直しと、他システムとの連携が占めます。

選び方の全体は、NetSuiteパートナーの選び方で扱っています。

今日できること|SAP環境の「棚卸し表」を1枚作る

次の表を、1時間で埋めてみてください。

分からない欄は、情報システムの担当に聞く項目になります。

項目自社の答え
いまの保守の契約と、更新の時期
アドオン・作り込みのおおよその数
SAPを使っている部門と人数
つないでいる周りの仕組み
2030年までに増える拠点・事業・海外
方針を決める期限と、決める人

「方針を決める期限と、決める人」が空欄なら、それが最初の課題です。

表ができたら、経営会議には次の3点だけを出します。

  1. 保守の期限と、延長保守を使う場合の費用の増え方
  2. 棚卸しで分かった規模(アドオンの数・部門・データの量)
  3. 方針を決める期限と、それまでに集める情報

選択肢の比較は、この3点がそろってからで間に合います。

よくある質問

Q1. 延長保守を使えば、2030年まで先送りできますか

使えますが先送りは解決になりません。

延長保守は2028年初〜2030年末で、保守料の基準に2ポイント上乗せされます。

2030年に同じ判断を迫られないよう、移行の計画とセットで使います(第1章・第2章)。

Q2. 2027年末までに移行は間に合いますか

規模と範囲で分かれます。

会計など一部の業務だけで、アドオンが少なく、パートナーの候補があれば間に合う可能性があります。

そうでなければ、延長保守を橋にする計画も並べて考えます(第2章)。

Q3. 延長保守の後は、どうなりますか

個別の保守(customer specific maintenance)に移ります。

既知の問題の解決は同じ料金で提供されると、SAPは案内しています。

大規模な会社向けには、2031〜2033年の期間限定の提供もあります(第1章)。

Q4. S/4HANAとNetSuite、どちらを選ぶべきですか

規模・SAP資産の量・業務改革の意欲・海外展開で決まります。

SAPの資産が多く複雑な大企業はS/4HANA、業務を作り直したい中堅企業はNetSuiteが合いやすいです。

詳しい比較はSAPとNetSuiteを徹底比較をご覧ください。

Q5. NetSuiteへの移行には、どれくらいの費用がかかりますか

ライセンスはミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。

モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、数百万円規模になることもあります。

導入の費用と期間は、機能範囲・開発・社内の体制・ユーザー数の4つで決まります(第4章)。

Q6. 製造業でもNetSuiteに移れますか

標準でできる範囲を見極めて業務を作り直すのが基本です。

特殊な流れが極めて多い場合は、慎重に検討します。

製造業向けの比較は製造業向けERP15選をご覧ください。

Q7. 移行を支援するパートナーは、どう選べばよいですか

SAPからの移行の経験と作り込みを減らした実績を見ます。

経営層と対等に話し、業務の方を変える判断を支えられるかも見ます(第7章・第8章)。

質問集はベンチャーネットに聞く|NetSuite導入でよく受ける質問でも扱っています。

まとめ

  • SAP ERP 6.0の標準の保守は2027年末まで。延長保守は2030年末までで、保守料が上乗せされる
  • 延長保守を使うかは2027年末までに決める。選ばない場合は個別の保守に移る
  • 2026年9月の時点で残り約15か月。規模によっては、延長保守を「計画的な橋」として使う方が現実的
  • 選択肢は、S/4HANA・延長保守・別のクラウドERP・何もしない、の4つ。部分的な置き換えもある
  • 移り先を決める前に、アドオンを「標準に合わせる/開発する/残す」に仕分ける

延長保守で2030年まで使うことはできます。

ただ、その3年を橋にできるかどうかは、今月、方針を決める期限と決める人を決めるかで変わります。

もう少し詳しく知りたい方へ

SAPの保守の期限を前に、どの道を選ぶかを整理したい。

棚卸しの段階から、ご相談をお受けしています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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