「人を増やしたのに、思ったほど成果が増えない」。そう感じたことのある経営者は少なくないはずです。頭を使う仕事の生産性は、工場の生産性と同じようには上がってくれません。この記事では、その難しさとどう向き合うかを、ベンチャーネット自身の学びを通じて考えます。
頭の仕事の生産性は、なぜ「見えない・上がらない」のか
工場の生産性は、比較的かんたんに数えられます。1時間に何個つくれたか。不良がどれだけ減ったか。数字がそのまま成果になります。
ところが、企画・営業・開発といった「頭を使う仕事」は、そうはいきません。資料を10本つくった人が、5本の人より2倍優秀とは言えない。時間をかけたから良い、というものでもない。
経営者の側から見ても、もどかしさが残ります。優秀な人ほど忙しそうにしている。けれど、その人が何に時間を使い、どこで本当の成果を生んでいるのかは、なかなか見えません。
人を増やせば売上が増える——という単純な足し算が、頭の仕事では通じない。ここに、多くの会社が抱える難しさがあります。
肉体労働の生産性は上がった。では、頭の仕事は?
この難しさを早くから見抜いていたのが、経営学者のピーター・ドラッカーでした。
ドラッカーは、生産性を「肉体労働の生産性」と「知識労働の生産性」に分けて考えました。知識労働とは、知識を使って成果を生む仕事のことです。
肉体労働の生産性は、機械化と設備投資で大きく高められます。かつてフォードが自動車を安く売れるようになったのも、製造ラインを機械化して生産性を引き上げたからでした。
ところが、頭を使う仕事には、この方法が効きません。高価な機器を入れても、医師や設計者の生産性がそのまま上がるわけではない。ドラッカーは、知識労働の生産性こそ、これからの経営の最大の課題だと説きました。
では、頭の仕事の生産性は、いったい何で決まるのでしょうか。
生産性は「自分で設計する」もの——知・好・楽
ベンチャーネットは、ドラッカーのマネジメントを学び直すなかで、ひとつの答えにたどり着きました。
それは、知識労働の生産性は「命じられて上がるものではない」ということです。号令をかけても、ノルマを課しても、頭の仕事は思うように動きません。働く本人が、自分自身で生産性を設計する。これがドラッカーの考え方の核心でした。
では、どうすれば人は自分で設計できるのか。ベンチャーネットがたどり着いた鍵は、「熱中できる状態」をどうつくるかでした。
ここで手がかりにしているのが、「知・好・楽」という言葉です。知る人は好む人にかなわない。好む人は楽しむ人にかなわない。古くから伝わるこの順序は、そのまま生産性の話でもあります。
やらされて「知っている」だけの状態と、その仕事を「好きで楽しんでいる」状態とでは、生み出すものがまるで違う。だから経営者の仕事は、人を急かすことではなく、人が熱中できる状態を整えることになります。
では、何を整えるのか——生産性を左右する6つの要因
「熱中する状態を整える」と言われても、漠然としています。そこでベンチャーネットは、ドラッカーが挙げた、生産性に影響する要因を、自社を点検する観点として捉え直しました。次の6つです。
- 知識:その仕事に必要な知識が、必要な人に届いているか
- 時間:頭を使う仕事に、まとまった時間を確保できているか
- 製品ミックス:何に力を注ぎ、何をやらないかを決めているか
- プロセスミックス:どの工程を自社でやり、どこを外に任せるか
- 組織体制:仕事の中身に合った組織のかたちになっているか
- 活動のバランス:日々の業務と、未来への仕込みのバランスがとれているか
図:知識労働の生産性を左右する6つの要因。ドラッカーの整理を、ベンチャーネットが自社を点検する観点として捉え直したもの。
どれも、新しい道具を買えば解決するものではありません。自社の仕事の組み立てを見直す、地道な問いの連なりです。
近年は、AIが頭の仕事を助けてくれる場面も増えました。下調べや文章の下書きを任せれば、時間は確かに浮きます。
ただし、何に熱中し、何を捨てるかを決めるのは、やはり人間です。「思考はアウトソースできるが、理解はアウトソースできない」とも言われます。AIに作業を任せても、自社の生産性をどう設計するかという判断まで手放すわけにはいきません。
正直なところ、数字をどこまで決めるかは難しい
ここまで書いてきて、正直に申し添えたいことがあります。知識労働の生産性は、「測れば上がる」ような単純な話ではない、ということです。
たとえば、目標の数字をどこまで厳密に決めるべきか。これは経営者をいつも悩ませます。細かく決めすぎると現場が窮屈になり、ざっくりしすぎると指針になりません。ベンチャーネット自身も、この匙加減には迷い続けています。それでも、「知・好・楽が生まれているか」という軸だけは手放さずに、自社の生産性と向き合ってきました。
頭の仕事の生産性に、すべての会社に当てはまる正解はありません。業種が違えば、整えるべき順番も変わります。ここで歯切れよく「こうすれば上がります」と言えないことこそ、この問題の本当の難しさだと考えています。
規模ではなく、熱中できる状態を設計する
知識労働の生産性は、確かに難問です。けれど、「自分で設計するものだ」と捉え直すと、見え方が変わってきます。
人をやみくもに増やして規模を追わなくても、一人ひとりが熱中できる状態をつくれれば、生み出す成果は変えられる。生産性とは、頭数の問題ではなく、設計の問題だからです。
とはいえ、「知・好・楽」も6つの要因も、当事者ほど自社では見えにくいものです。毎日その中で働いていると、どこに無駄があり、どこに熱中の芽があるのかが、かえって分かりにくくなります。
自社の生産性の設計図を描くとき、外からの視点がひとつ加わるだけで、論点はずいぶん整理されます。ベンチャーネットも、経営者の方とご一緒に、こうした問いを一つずつ解きほぐすお手伝いをしています。
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