AIを1つ入れた。その先が、分からない
AIツールを1つ導入した。文章の下書きか、議事録の整理か、問い合わせの一次対応か。ある程度は役に立っている。
ただ、その先が見えない。もっと賢いAIに乗り換えればいいのか。数を増やせばいいのか。それとも、これで打ち止めなのか。
同じ問いに、実はAIを作っている側もぶつかっていました。そして2026年に入って、その答え方がはっきり変わってきています。
1体を賢くする競争から、数を束ねる競争へ。
この記事では、その転換を「エージェントスワーム」という言葉を手がかりに整理します。中小企業がいま100体のAIを動かす話ではありません。ただ、業界がどちらへ動いているかを知っておくと、自社の打ち手も選びやすくなります。
エージェントスワームとは何か
エージェントスワームとは、1つの仕事を複数のAIに分けて、同時並行で進めるやり方のことです。スワーム(swarm)は「群れ」を意味します。
これまでのAIは、1体が順番に作業を進めていました。調べて、まとめて、書く。人が1人でやるのと同じ順序です。
エージェントスワームでは、これを分解します。調べる係、確かめる係、書く係。しかも役割を人があらかじめ決めるのではなく、AI自身がその場で分解し、必要な数だけ担当を作り、割り振ります。
数字で見ると、変化の速さが分かる
具体的な規模を見てみます。中国のAI企業Moonshot AIが公開しているモデル「Kimi」の例です。
同社が公式ブログで公表しているところによれば、2026年1月に公開されたK2.5には、次の規模が示されています。最大100体のサブエージェントが、最大1,500の協調ステップにわたって動く、というものです。単一のAIに順番にやらせる場合と比べ、実行時間は最大4.5倍短くなったと報告されています。
そして同年4月に公開されたK2.6では、300体・4,000ステップへ拡大しました。3か月で3倍です。
業界の「物語」が変わった
なぜ、この方向に進んだのか。同社のヘルプページには、率直な説明が書かれています。
2025年、AI業界の支配的な物語は垂直方向のスケーリングにありました。より大きなモデル、より多くのパラメータ。しかしそれは構造的な天井にぶつかる——単一の逐次実行というボトルネックである、と。
1体をどれだけ賢くしても、その1体が順番に処理していく限り、こなせる仕事の量には限りがある。だから横に広げる。これが「Scaling Out(外へ広げる)」という考え方です。
性能の問題が、組み立て方の問題に変わりつつあります。
なぜ「数」なのか——会社で起きることと同じ
技術の話に聞こえますが、中身は経営者に馴染みのある現象です。
一人の担当者に、長くて複雑な仕事を最初から最後まで任せたとします。前半は丁寧です。しかし後半になるほど、細部の取りこぼしが出てきます。前に決めたことを忘れる、確認を飛ばす、辻褄が合わなくなる。本人の能力の問題ではありません。一度に抱えられる量に、限りがあるからです。
AIにも同じことが起きます。長い作業を1体に通しでやらせると、後半ほど精度が落ちる。だから分ける。
ただし、分ければ済むわけではありません。分けた瞬間に、新しい仕事が生まれます。誰に何をやらせるか。終わったものをどう合流させるか。 会社で人を増やしたときに起きることと、まったく同じです。
エージェントスワームで新しいのは、この分解と割り振りをAI自身がやる点です。人が役割表を作らなくても、その場で必要な担当を作る。
自社の業務でこれをどう実践するかは、AIを”束ねて”業務を回すで扱っています。あちらは1体から2体へ、小さく始める話です。この記事で見ている100体・300体という規模は、いま中小企業が目指す数ではありません。
この変化は、経営者に何を意味するか
ここまでは業界の動きの話でした。では、経営者にとって何を意味するのか。
一つの見方があります。AIが組織の形を取り始めたということは、経営者が長年やってきた仕事が、AIの側にも必要になったということです。
誰に何を任せるか。どこで区切るか。上がってきたものをどう束ねるか。どこは人が見るか。これらは、人を雇って会社を回してきた経営者が、ずっとやってきたことです。AIの世界が同じ問題にぶつかったというのは、その仕事の価値が下がるのではなく、適用範囲が広がったということでもあります。
ただし、はっきりさせておくべきことがあります。数を増やせば賢くなるわけではありません。
100体並べても、何をやらせるかが決まっていなければ、100倍の無駄が出るだけです。人を100人雇っても、仕事の割り振りがなければ現場が混乱するのと同じです。増やすほど、設計が効いてきます。
そして、設計の一番外側にあるものは動きません。何をやる会社なのか。何を任せ、何を自分で決めるのか。その判断と責任は、経営者の手元に残ります。この線引きについてはAIに任せる仕事、手放してはいけない仕事で詳しく書きました。
人の組織とAIをどう組み合わせるかという観点は、人を雇う前に、まず”AI社員”を作るに整理があります。
よくある質問
Q. 中小企業も、100体のAIを使う時代が来ますか?
そのまま来る、とは考えていません。
100体を同時に動かして意味があるのは、大量の情報を横断的に調べるような仕事です。中小企業の日常業務は、そこまでの並列性を必要としない場面がほとんどです。
ただし、この技術が使いやすい形に降りてくることは十分あります。そのとき効くのは体数ではなく、自社の業務が分解できる形に整理されているかどうかです。
Q. 数が増えると、管理できなくなりませんか?
なります。だからこそ、増やす前に決めておくことがあります。
どこまでを自動で進めてよいか。どこで人が確認するか。おかしくなったときに止める手段があるか。この3つは、体数が1体でも100体でも必要です。むしろ体数が増えるほど、決めていないことの影響が大きくなります。
Q. いま何を準備しておけばよいですか?
自社の業務を、分けられる形に整理しておくことです。
「この仕事は、どこで区切れるか」「区切ったものを、どういう順番でつなぐか」。これを言葉にしておくと、AIに任せるときも、人に任せるときも使えます。技術が変わっても、この整理は無駄になりません。
まとめ——問われているのは、性能ではなく設計
AIの競争軸が変わりつつあります。1体をどこまで賢くできるかから、何体をどう束ねられるかへ。
この転換が示しているのは、性能の勝負が終わったということではなく、性能だけでは差がつかなくなったということです。同じ道具を使っても、何をやらせるかで結果が変わる。その差を作るのが設計です。
そして設計は、経営者が長年やってきた仕事です。誰に何を任せ、どこで区切り、どう束ね、どこを自分で見るか。相手が人からAIに広がっただけで、問いの形は変わりません。
ただ、自社の業務を分解する作業は、中にいるほど難しくなります。毎日回している仕事ほど、どこで区切れるのかが見えません。切れ目は、外から眺めたほうが見つかります。
ベンチャーネットは、レポートを書いて終わりにするのではなく、現場に入って一緒に組み立てる伴走を続けてきました。この関わり方はForward Deployed Engineer(FDE)とはで説明しています。AI業界の主戦場がモデルから実装へ移った流れは、世界の巨人が、一斉に「伴走」を始めたに整理しました。
御社の仕事は、どこで区切れるでしょうか。一度、一緒に並べてみませんか。
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