FDE型伴走の最初の90日とは、現場に入って業務の地図を描き、小さく動くものをつくり、成果を数字で確かめるまでの一巡です。ベンチャーネットはこれを30日ごとに区切り、それぞれの区切りで経営者に決めてもらうことを1つずつ置いています。
90日で終わるのは、1つの業務が回り始めるところまでです。いちばん難しいのは実装ではなく、30日目に動かす数字を1つに絞ること。では、その90日の間、週ごとに何が起きるのでしょうか。
「で、具体的に何が始まるんですか」
AI導入の伴走を検討する経営者から、いちばんよく返ってくる質問です。
無理もないと思います。「現場に入ります」「一緒に進めます」と言われても、月曜の朝に何が起きるのかは分かりません。人が来るのか。何を聞かれるのか。自分は何を用意すればいいのか。
見えないものには、判断のしようがありません。だから決裁が止まります。止まっている原因は、金額ではなく解像度であることが、けっこうあります。
ベンチャーネットが実際にどう90日を区切っているかは、他社と比べる材料にしていただいて構いません。なお、FDE(Forward Deployed Engineer)そのものの説明はFDEとは?に、費用や頼み方の選択肢はFDEを中小企業で使うには?にあります。
90日を、30日ずつ3つに区切る
図:90日を30日ずつに区切り、それぞれの区切りに経営者が決めることを1つ置く。
区切りを置く理由は、はっきりしています。期限のない改善は、終わらないからです。
「うまくいったら広げましょう」で始めた取り組みは、うまくいったかどうかを判定する日が来ないまま、静かに続きます。誰も止めないし、誰も広げない。だから最初に、判定する日を3つ決めます。そして、それぞれの日に決めることは1つだけにします。決めることが多い会議は、結局どれも決まりません。
1〜4週:まだ何もつくらない1か月
最初の30日、動くものは出てきません。ここが、依頼する側からするといちばん不安な期間だと思います。やっているのは、業務を見て、聞いて、言葉にすることです。
1週目はキックオフです。ただし、この時点で課題を確定させません。経営者が挙げた課題と、現場で起きていることが違うのはよくあることで、それを先に固めると、後で全部やり直しになります。
2〜3週目は、現場に入ります。実際の業務の流れを見て、担当者に聞きます。聞くのは手順そのものより、「なぜ、そこでそう判断するのか」のほうです。
- この取引先だけ、なぜ手順が違うのか
- どういうときに、上に相談するのか
- その言葉は、隣の部署でも同じ意味で使われているのか
こうして出てきたものを、名詞・動詞・判断の基準の3層に整理していきます。これが業務の地図です。30日目に手元にあるのは、動くものではなく、この地図と、絞り込むための候補です。
4週目にゲート①です。ここで経営者に決めてもらうのは、動かす数字を1つと、始める範囲を1つ。それだけです。「見積の日数も、請求の時間も、在庫も」となると、90日では何も終わりません。1つに絞った会社のほうが、結果として2つ目・3つ目に早く着きます。
あわせて、ここで終わり方の条件も決めます。何ができていれば伴走を終えてよいのか。これを最初に決めておかないと、外部の人がいないと回らない状態が固定されます(→FDE伴走はどう終わるのか)。
5〜8週:動くものと、任せる線
ここから手ざわりが出ます。
5〜6週目は、小さく動くものを1つつくります。分厚い設計書ではなく、現場が触れるものです。範囲が1つの業務に絞れているので、この期間で出せます。
7週目は、線を引きます。どこまでAIに任せ、どこから人が決めるかです。これは技術の話ではなく、業務の責任者と一緒にやる作業になります。従来のシステムなら、仕様どおりに動けば合格でした。AIは同じ問いに毎回同じ答えを返すとはかぎらないので、その確かめ方が通用しません。
- この業務では、どこまでの精度なら任せてよいのか
- 間違えたとき、誰がどう気づくのか
- 気づいたあと、誰が直すのか
そして、この線の一番外側は動きません。AIが下書きを出し、人が決める。判断と責任は経営者に残ります。AIは道具であって、決めた責任を引き受けてはくれないからです。
8週目は、現場が実際に使ってみて、直します。ここで出る「使いにくい」の中身が、地図の描き間違いを教えてくれます。
そしてゲート②。決めることは1つ、本番に上げる日を、日付で決めることです。
図:本番に上げる日を先に決めると、残り30日を定着と測定にあてられる。
ここで「やめる」と決めてもかまいません。むしろ、やめる判断ができることのほうが健全です。日付がないと、やめる判断も下せません。
9〜13週:使われるまで直し、数字で確かめる
最後の30日で、残るものが決まります。
9〜11週目は、定着です。つくったものが日々の業務の中で使われるまで、手を離しません。現場の声を拾って直すこと、そして運用のルールと、そう決めた理由を言葉にして残すこと。後者は地味ですが、外して進めると、その仕組みは担当者の頭の中にしか存在しなくなります。人が代わった瞬間に止まる仕組みは、AIであっても属人化です。書いたものは言葉の基盤に置きます。
12週目は、効果測定です。ゲート①で決めた数字を見ます。測る数字は、AIが自分で書き換えられない現実の数字に置きます。入金、在庫、納期、締めまでの日数。AIが出した「処理件数」を成果にすると、数字だけが良くなって現実は変わらない、という状態になり得ます。
13週目にゲート③。次の90日に進むか、いったん終えるかを決めます。進む場合、2周目は目に見えて速くなります。地図がもうあり、任せる線の引き方も分かっているからです。
経営者が出る場面は、3つ
「毎週会議に出るんですか」とよく聞かれます。そうではありません。常駐でもなく、現場に入る日と、離れて手を動かす日があります。
経営者に必ず出ていただくのは、3つのゲートです。30日目・60日目・90日目。ここは代理を立てないでください。決めることが、どれも経営者にしか決められないものだからです。
- ゲート①:どの数字を動かすか=何をやめて、何に人を張るかの判断
- ゲート②:本番に上げるか、やめるか=リスクを取るかの判断
- ゲート③:次に進むか、終えるか=投資を続けるかを決める
逆に言えば、この3回以外は現場とFDEで進みます。経営者が毎週の細部に入ると、かえって現場が遠慮して本当のことを言わなくなります。ただし1週目だけは別です。「この取り組みは自分が決めたことだ」と社内に伝わっているかどうかで、現場の話しやすさが変わります。
90日で終わらないもの
正直に書いておきます。90日で終わるのは、1つの業務が回り始めるところまでです。
- 全社の業務が整うわけではありません。地図ができているのは、選んだ1つの範囲だけです
- 基幹システムの入れ替えは、90日には収まりません。既存のシステムを使ったまま進める形になります
- 社内で完全に回せる状態にも、まだなりません。そこは2周目・3周目の話です
うまくいっていない兆候も、書いておきます。30日目に数字が1つに絞れていないとき、たいてい後半で崩れます。「あれもこれも」のまま進むと、60日目に本番の日付が決められず、90日目に何を測ればいいか分からなくなるからです。
よくある質問
Q. 90日より短くできませんか?
A. 範囲をさらに絞れば短くはなります。ただ、最初の30日の観察を削ると、地図が粗いまま実装に入ることになり、8週目の手直しが増えます。結果として同じか、長くなることが多いところです。
Q. 最初に何を用意すればいいですか?現場が忙しく、詳しい人もいません。
A. 用意するのは、動かしたい数字の候補と、業務をいちばん分かっている人の2つだけです。システムに詳しい人である必要はありません。観察は業務を止めて行うものではなく、仕事をしているところを見せていただく形が中心です。それでも聞き取りの時間は要るので、範囲を1つに絞り、関わる人数を少なくします。
Q. 途中でやめられますか?
A. やめられます。むしろ60日目のゲート②は、やめる判断をするための日でもあります。終える場合も、地図と運用ルールは社内に残り、次の一歩の材料になります。
まとめ:見えないものは、決められない
FDE型伴走の最初の90日は、30日ずつ3つに区切られます。1〜4週で業務の地図を描き、5〜8週で動くものをつくって任せる線を引き、9〜13週で定着させて数字で確かめる。区切りごとに、経営者が決めることを1つずつ置きます。この形にしている理由は、期限のない改善は終わらないからです。判定する日を先に決めておくと、進めることもやめることも、どちらもできるようになります。
この90日で本当に難しいのは、実装ではありません。ゲート①で、動かす数字を1つに絞ることです。社内だけで考えると、どれも大事に見えて絞れません。どれも本当に大事だからです。数字の候補を並べるところから、ベンチャーネットがご一緒できます。売り込みではなく、まず壁打ちから。
次に読むなら
「そもそもFDEとは何か」
→ FDE(Forward Deployed Engineer)とは?仕事内容・SESとの違い・中小企業での使い方
「費用や、頼み方の選択肢を知りたい」
→ FDEを中小企業で使うには?——エンジニアを雇わずに「現場に入り込む伴走」を手に入れる方法
「30日目にできる地図の中身を知りたい」
→ 業務の地図とは——名詞・動詞・判断基準で、会社をAIに読ませる
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→ うちはAIを入れられる?——中小企業のAI導入レディネス・チェックリスト


