受注した瞬間から、採算は見えている——「締めてから分かる」経営を抜け出す

月次の数字が出るのは、翌月の10日や15日。そのころには、値引きも、追加の外注も、残業も、すべて済んでいます。数字を見て「思ったより残らなかった」と気づいても、打てる手はもう残っていません。

この記事では、なぜ締めてからしか分からないのか、その構造を解きほぐします。そして、受注の時点で採算を見るための考え方と、明日から始められる3つのことを整理します。

目次

数字が出るころには、打つ手がない

「先月は忙しかった。けれど、思ったほど残っていない」。

多くの経営者が、月末から翌月にかけて、この感覚を味わっています。売上は伸びた。現場も動いた。それなのに利益が薄い。理由を探ろうとしても、分かるのは「終わったこと」だけです。

たとえば、こんな場面があります。

  • 大口の引き合いに、少し値引きして応じた。その1件の採算は、締めるまで誰も計算していない
  • 納期が厳しく、外注を追加した。原価が膨らんだことは、請求書が回ってきて初めて分かる
  • 見積の段階で「これくらいなら大丈夫だろう」と判断した。その勘が当たっていたかは、後から分かる

どれも、判断そのものが間違っていたとは限りません。問題は、判断した時点で確かめる材料がなかったことです。

そして翌月、同じことがまた起きます。数字を見るのが遅いのではなく、見るタイミングと判断するタイミングがずれている。ここを直さないかぎり、この繰り返しからは抜けられません。

なぜ、締めてからしか分からないのか

原因は、経理の努力不足ではありません。決算書という仕組みが、そもそも受注や仕掛の段階を映すようにできていないのです。

決算書は、外に向けて会社の成績を示すためのものです。税務署や銀行に、決まったルールで報告する。だから、記録するタイミングも決まっています。数字が動くのは、納品したとき、請求したとき、支払ったとき。つまり取引が終わった後です。

受注した瞬間には、まだ何も記録されません。生産の途中も、原価は仕掛のまま止まっています。決算書は「遅れている」のではなく、そもそもその時点を映していない。ここが出発点です。

制度会計と管理会計は、目的が違う

会計には、大きく2つの顔があります。

  • 制度会計:税務申告や外部への報告のための会計。ルールが決まっており、税理士・会計士の専門領域です
  • 管理会計:社内の判断のための会計。ルールは自社で決めてよく、経営者の領域です

「締めてから分かる」のは制度会計の話であって、それが悪いわけではありません。むしろ正確であるべきものです。足りないのは、その手前で判断に使うもう一つの物差しのほうです。

利益の指標そのもの(限界利益・貢献利益・営業利益などの違い)は、限界利益と貢献利益の違いとは?で整理しています。この記事が扱うのは、指標の種類ではなく「いつ分かるか」という時間軸です。

受注した時点で、採算はおおむね決まっている

では、その手前で何を見ればいいのか。ひとつの式から始めます。

売上高 = 直接原価 + 付加価値

  • 直接原価:仕入や外注など、他社が生み出した価値に支払った分
  • 付加価値:自社が生み出した分。ここから人件費や家賃といった費用をまかない、残りが利益になります

この式が効くのは、値上げを考えるときです。

同じ「20万円の値上げ」でも、結果は逆になる もとの状態:売上100万円 = 直接原価60万円 + 付加価値40万円 A:仕入が上がった分だけ値上げした 直接原価 80万円(+20万円) 仕入・外注の値上がり分 付加価値 40万円 変わっていない → 売上は120万円に増えたが、利益の源は40万円のまま。利益は増えない B:自社の価値を認めてもらって値上げした 直接原価 60万円 変わっていない 付加価値 60万円(+20万円) 自社が生み出した分が増えた → 売上は同じ120万円。ただし利益の源が20万円増える。利益が増える 見るべきは売上の大きさではなく、付加価値がいくら残るか そしてそれは、見積を出した時点でほぼ決まっている

図1:同じ20万円の値上げでも、原価の上昇分を転嫁しただけなら利益は増えません。増えるのは、自社が生み出した価値(付加価値)が増えたときです。

仕入が20万円上がったので20万円値上げした。売上は増えます。けれど、自社が生み出した分は40万円のままです。忙しさだけが増えて、残る額は変わりません。

一方、仕様や納期、対応の質で「その価格に見合う」と認めてもらえたなら、付加価値そのものが増えます。増えた分だけ、利益が増える。

ここで大事なのは、この差が生まれるのは受注の前後だということです。どんな仕様で、いくらで、いつまでに、どんな条件で回収するか。それが決まった時点で、その仕事の採算はおおむね確定しています。締めた後に分かるのは、その結果を数えただけです。

だから見るべき順番は、こうなります。締めてから採算を確かめるのではなく、受注する前に、その1件でいくら残るかを見る

お金になるまでを、段階で見る

もうひとつ、時間軸で見るときの視点があります。受注した仕事が現金になるまでを、いくつかの段階に分けて見ることです。

受注した仕事が、現金になるまで 受注 採算が決まる 生産・仕入 原価がぶれる 納品 ここで初めて記録 請求 出すまでの日数 入金 現金になる 決算書が数字を持つのは、この線から右だけ 受注と生産の段階は、記録に現れない。だから「締めてから分かる」ことになる 段階ごとに「どこで詰まっているか」を見る 受注は薄利で取っていないか/原価は見積からぶれていないか/納品後に請求が滞っていないか 詰まっている場所が分かれば、打つ手も決まる

図2:受注から入金までを段階に分けると、決算書が映しているのは後半だけだと分かります。段階ごとに詰まりを見れば、打ち手が決まります。

同じ「利益が薄い」でも、原因は段階ごとに違います。受注の段階で薄利だったのか。生産の段階で原価がぶれたのか。納品の後、請求が滞っていたのか。入金までが長く、資金が回らなかったのか。

決算書を見ても、この区別はつきません。合計された数字が並ぶだけだからです。段階に分けて見ると、はじめて「どこを直せばいいか」が見えます。

利益は出ているのに手元にお金が残らない、という問題も、この段階で見ると原因がはっきりします。この点は利益は出ているのに、お金がないで詳しく扱っています。

明日から始める、3つのこと

大がかりな仕組みを入れる前にできることがあります。順番に3つだけ挙げます。

1|主力商品の付加価値を、1つ計算してみる
売上から、仕入や外注などの直接原価を引く。それだけです。主力の1商品、あるいは代表的な1案件で構いません。売上に対する割合(付加価値率)まで出すと、次から見積のときの基準になります。

2|見積書に、採算の見込み欄を1つ作る
社外に出す見積書ではなく、社内で持つ控えのほうです。「この案件の付加価値は、いくらの見込みか」を1行書く。これだけで、値引きの判断が変わります。判断の前に数字を見る習慣が、ここから始まります。

3|段階のどこで詰まっているかを、月に1回だけ見る
受注・生産・納品・請求・入金のうち、いま自社でいちばん時間がかかっているのはどこか。厳密な集計は要りません。感覚でも、まず場所を特定することが先です。

段階見る数字(まずは1つ)
受注付加価値の見込み額・見込み率
生産・仕入見積の原価と、実際の原価の差
納品納品から請求までの日数
請求請求から入金までの日数
入金月々の入金額のばらつき

3つとも、Excelでも始められます。大切なのは精度ではありません。判断の前に数字を見るという順番を、社内につくることです。

よくある質問

Q. うちの規模でも、こうした管理は必要ですか?
A. 規模が小さいほど、1件の採算が全体に効きます。案件数が少ないぶん、大口を1件薄利で受けただけで、その月の利益が消えることもあります。むしろ小さい会社ほど、受注時点で見る価値があります。

Q. Excelでもできますか?
A. 始めるだけなら、できます。主力商品の付加価値を1つ出し、見積の控えに見込みを書く。ここまでは表計算で十分です。難しくなるのは、案件数が増え、毎月続けようとしたときです。

Q. 税理士にお願いしている月次と、何が違うのですか?
A. 目的が違います。税理士の月次は、制度に沿って正確に記録するためのもので、これは欠かせません。ここで扱っているのは、その手前で自社の判断に使う数字です。どちらかを選ぶ話ではなく、両方が要ります。

Q. 原価が正確に出せません。始められませんか?
A. 始められます。最初から精密な原価計算を目指すと、たいてい途中で止まります。仕入と外注など、はっきり紐づく費用だけで構いません。粗くても、受注のたびに同じ基準で見ていれば、比較はできます。

Q. どの数字から見ればいいですか?
A. 主力商品の付加価値率を1つです。ここが決まると、値引きの判断基準ができます。段階ごとの日数は、その次で構いません。

Q. 現場に負担がかかりませんか?
A. 新しい入力を増やすと、たいてい続きません。すでに入力しているデータ(受注、仕入、納品、請求)から自動で出せる形にするのが基本です。ここは仕組みの設計しだいで、負担の大きさが変わります。

まとめ:一度計算することと、毎月回すことは違う

数字が出るころには打つ手がない。その原因は、決算書が受注や生産の段階を映していないことにあります。だから、締めた後の数字とは別に、受注の時点で採算を見る物差しが要ります。

その物差しの中心が、付加価値です。売上の大きさではなく、自社が生み出した分がいくら残るか。それは見積を出した時点で、おおむね決まっています。そして受注から入金までを段階に分けて見れば、どこで詰まっているかが分かります。

ここまでは、Excelでも今日から始められます。

ただ、実際にやってみると、次の壁に当たります。一度計算することと、毎月回し続けることは、まったく別だという壁です。案件が増えれば集計が追いつかない。担当者が変われば止まる。入力を増やせば現場が嫌がる。結局、忙しい月ほど数字が出なくなります。

続けるには、数字が勝手に集まる状態をつくるしかありません。受注、仕入、納品、請求、入金。この流れが一つにつながっていれば、付加価値も、段階ごとの日数も、あらためて集計しなくても出てきます。基幹システムが果たすのは、本来こういう役割です。

そして、どの数字を見て、どこで線を引くか。これは製品を入れれば決まるものではなく、自社の商売の形に合わせて決める設計の話です。ここは当事者だけでは見えにくいところでもあります。ベンチャーネットは、この設計から一緒に考えるお手伝いをしています。

数字を意思決定に変える考え方の全体像は「わかる化」——見える化した数字を、意思決定に変えるへ。見るべき指標を整理したい方は中小企業が見るべき経営指標へ。日々の数字を画面で見る形にする話はKPIダッシュボードの作り方と回し方へ。それぞれ続きを用意しています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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