今月も売上は立った。数字だけ見れば、悪くない。それなのに、期末になると「思ったほど残っていない」。多くの経営者が、この感覚を抱えています。
原因は、努力や勉強の不足ではありません。「どの利益を見るか」という物差しが、整理されていないことにあります。
この記事では、粗利・限界利益・貢献利益・営業利益・純利益という5つの利益を、1本の地図として整理します。読み終えるころには、「この仕事は儲かっているのか」に、自分の言葉で答えられるようになります。
売上はあるのに、なぜ手元に残らないのか
「この受注、受けていいのか」「この事業、続けていいのか」。日々の経営は、こうした判断の連続です。
ところが、判断の拠り所になるはずの「利益」を見ようとすると、決算書には似た名前の数字がいくつも並んでいます。売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益。さらに本や記事では、限界利益や貢献利益という言葉も出てきます。
どれも「利益」なのに、数字はそれぞれ違う。どれを見て判断すればいいのか分からない。その結果、いちばん分かりやすい「売上」だけを追ってしまう。手元に残らない構造は、ここから生まれます。
実は、5つの利益にはそれぞれ役割があります。役割さえ分かれば、迷いは大きく減ります。順に見ていきましょう。
「利益」と呼ばれる数字は、1つではない
最初に、全体の地図を示します。5つの利益は、大きく2つの系統に分かれます。
- 決算書の利益:粗利(売上総利益)・営業利益・純利益。税務署や銀行など、外に向けて会社の成績を示す数字
- 管理会計の利益:限界利益・貢献利益。決算書には載らない、経営者が社内の判断のために使う数字
図1:5つの利益の地図。決算書の利益(粗利・営業利益・純利益)は外向きの成績表、管理会計の利益(限界利益・貢献利益)は内向きの判断の道具。「儲かる化」の物差しは管理会計側にある。
どちらが正しい、という話ではありません。役割が違うのです。決算書の利益は、ルールに沿って作られた過去の成績表。管理会計の利益は、これからの打ち手を決めるための道具です。
なお、決算書にはもう1つ「経常利益」という数字もあります。経常利益を含めた経営指標の全体像は、中小企業が見るべき経営指標とは?で整理していますので、そちらをご覧ください。この記事では、「儲かる化」に直結する物差しから見ていきます。
儲かる化の物差し①:限界利益——1件売るごとに、いくら残るか
最初の物差しは限界利益です。限界利益とは、売上高から変動費を引いた利益のこと。「1件売るごとに、手元に残る分」を表します。
ここで費用を2つに分けます。
- 変動費:売上に比例して増減する費用。仕入、材料費、外注費など
- 固定費:売上が増えても減っても、あまり変わらない費用。家賃、正社員の人件費など
計算式は次のとおりです。
限界利益 = 売上高 − 変動費
たとえば、売上100万円の仕事で、仕入と外注に60万円かかったとします。限界利益は40万円。売上に対する割合(限界利益率)は40%です。
この40万円が、家賃や人件費といった固定費の回収に回り、残りが会社の利益になります。だから限界利益は、「その仕事を受けるべきか」「いくらで売るべきか」という日々の判断の物差しになります。
もう1つ、限界利益が分かると「損益分岐点」も計算できます。固定費を限界利益率で割った金額が、赤字と黒字の境目になる売上高です。固定費が月300万円、限界利益率が40%なら、月750万円が分岐点。ここを超えた分から、利益が積み上がっていきます。
なお、この物差しがいちばん力を発揮するのは値決めの場面です。値付けの考え方は、値付けは、利益を動かす最大のレバーで詳しく扱っています。
儲かる化の物差し②:貢献利益——その事業は、会社に貢献しているか
2つ目の物差しは貢献利益です。複数の事業や商品を持つ会社で、「どの事業を伸ばし、どれを見直すか」を考えるときに使います。
先に、大事な注意点をお伝えします。貢献利益という言葉は、会計の世界で2通りの意味で使われています。
- 定義A:貢献利益 = 限界利益 − 個別固定費
- 定義B:貢献利益 = 売上高 − 変動費(限界利益と同じ意味)
どちらかが間違いというわけではありません。書籍や記事によって使い方が分かれています。この記事では、事業ごとの判断に役立つ定義Aで話を進めます。
定義Aの鍵は、固定費をさらに2つに分けることです。
- 個別固定費:その事業だけにかかる固定費。その事業専用の広告費や、専任担当者の人件費など
- 共通固定費:会社全体にかかる固定費。本社の家賃や、管理部門の人件費など
図2:利益の階段。売上高から変動費を引いた残りが限界利益。そこから個別固定費を引いた残りが貢献利益(定義A)。貢献利益が、会社共通の固定費の回収と利益の源になる。
図の例では、この事業の貢献利益は250万円のプラスです。つまりこの事業は、共通固定費の回収と会社の利益に、250万円分「貢献」しています。
逆に貢献利益がマイナスなら、その事業は続けるほど会社の足を引っ張っている可能性があります。撤退や縮小を検討する材料になります。ただし、立ち上げ期で成長が見込める事業なら、いまの数字だけで切るべきではありません。貢献利益はあくまで判断の材料であって、決めるのは経営者です。
決算書の利益はどう読むか:粗利・営業利益・純利益
次に、決算書側の3つを整理します。こちらは毎期かならず目にする数字です。
粗利(売上総利益)は、売上高から売上原価を引いた利益です。商品やサービスそのものの儲けを表します。限界利益と似ていますが、切り口が違います。売上原価は「その商品にかかった費用」で区切るため、製造業などでは工場の減価償却費のような固定費も含まれます。変動費だけを引く限界利益とは、この点で一致しません。
営業利益は、粗利から販売費・一般管理費(人件費や家賃など)を引いた利益です。本業でいくら稼いだかを示す、本業の成績表です。
純利益(当期純利益)は、税金や臨時の損益まで反映した、最終的に手元に残る利益です。配当や内部留保の原資になるため、会社の体力を示す数字といえます。
利益率を計算するときは、「利益 ÷ 売上高 × 100」が基本形です。ただし、分子にどの利益を置くかで意味が変わります。粗利率は商品力、営業利益率は本業の稼ぐ力、というように、目的に合わせて使い分けます。
5つの利益の使い分け(比較表)
ここまでの5つを、一覧で整理します。
| 利益 | 計算式 | 何がわかるか | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
| 粗利(売上総利益) | 売上高 − 売上原価 | 商品・サービスそのものの儲け | 商品力の点検 |
| 限界利益 | 売上高 − 変動費 | 1件売るごとに残る分 | 値決め・受注可否・損益分岐点 |
| 貢献利益(定義A) | 限界利益 − 個別固定費 | 事業ごとの会社への貢献度 | 事業・商品の取捨の検討 |
| 営業利益 | 粗利 − 販管費 | 本業で稼ぐ力 | 本業の成績の点検 |
| 純利益 | 税金等も引いた最終利益 | 最終的に手元に残る分 | 会社の体力・配当の原資 |
迷ったときの使い分けはシンプルです。日々の値決めと受注は限界利益で。事業の続け方は貢献利益で。外向きの成績は営業利益と純利益で。物差しを場面で使い分けることが、「儲かる化」の第一歩です。
よくある質問(FAQ)
利益の指標について、経営者からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 純利益とは何ですか?
売上からすべての費用と税金を引いて、最終的に会社に残る利益です。
正式には「当期純利益」と呼びます。営業利益に本業以外の損益や臨時の損益を加減し、税金を引いて求めます。配当や内部留保の原資になるため、株主や金融機関がよく見る数字です。日々の打ち手を考える場面では、純利益より限界利益・貢献利益のほうが直接役立ちます。
Q2. 粗利と営業利益の違いは何ですか?
引く費用の範囲が違います。粗利は売上原価だけを引いた利益、営業利益はそこからさらに販管費を引いた利益です。
粗利が大きくても、人件費や家賃などの販管費が重ければ、営業利益は小さくなります。「商品は儲かっているのに、会社としては残らない」という状態は、この2つを見比べると発見できます。
Q3. 利益率はどう計算しますか?どの利益率を見ればいいですか?
基本形は「利益 ÷ 売上高 × 100」です。どの利益を分子に置くかで、見えるものが変わります。
商品力を見たいなら粗利率、本業の稼ぐ力なら営業利益率です。そして値決めや受注の判断には、限界利益率がいちばん直接効きます。まずは自社の主力商品の限界利益率を1つ計算してみることをおすすめします。
Q4. 貢献利益がマイナスの事業は、やめるべきですか?
すぐに結論を出す必要はありません。貢献利益は判断の材料であって、答えそのものではないからです。
マイナスが続く事業は、共通固定費の回収に貢献できていない状態です。撤退や縮小は有力な選択肢になります。一方で、立ち上げ期の事業や、他の事業に顧客を送り込む役割を持つ事業なら、数字がマイナスでも続ける価値があります。数字は判断を助けますが、最後に決めるのは経営者です。
まとめ——まず、主力商品の限界利益率を1つ出してみる
5つの利益を、1本の地図として整理してきました。
- 管理会計の利益(限界利益・貢献利益):値決め・受注・事業の取捨という、日々の判断の物差し
- 決算書の利益(粗利・営業利益・純利益):外に向けた成績表であり、会社の体力の点検表
大事なのは、どれか1つを覚えることではなく、場面に合わせて物差しを持ち替えることです。
最初の一歩としておすすめなのは、主力商品の限界利益率を1つ計算してみることです。売上と、仕入・外注などの変動費が分かれば、今日から計算できます。
その先に、物差しを打ち手につなげる各論があります。自社の利益率を業種の中でどう位置づけるかは、儲かる会社は、業種の「異常値」であるへ。利益と手元のお金のずれに悩んでいるなら、利益は出ているのに、お金がないへ。利益率そのものをAIで改善する打ち手は、利益率が低い会社ほど、AIで利益が伸びるへ。数字を意思決定につなげる考え方の全体像は、「わかる化」——見える化した数字を、意思決定に変えるをご覧ください。
なお、実際にやってみると、費用を変動費と固定費にどう仕分けるかで迷う場面が必ず出てきます。外注費は変動か、リース料はどちらか。ここは業種や契約形態によって答えが変わる、実務の難所です。自社の数字でこの仕分けに迷ったら、ベンチャーネットが一緒に整理するお手伝いをします。物差しを揃えるところから、「儲かる化」は始まると考えています。


