顧客にとっての価値は何か——売り手の思い込みを捨てる

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その提案、なぜ刺さらないのか

自社の製品には自信がある。機能も他社に負けていない。なのに、提案がなぜか決まらない。そんな経験はないでしょうか。

提案書には、自慢の機能がいくつも並んでいます。価格も悪くない。説明も丁寧にした。それでも、お客様の反応はどこか鈍い。

このとき、私たちはつい「説明が足りなかったのか」と考えます。もっと機能を、もっと丁寧に。けれど、足しても足しても、手応えは変わりません。

問題は、説明の量ではないのかもしれません。「何を伝えるか」の前に、「お客様は、本当は何を求めているのか」を見落としているのです。

顧客は、本当は何を買っているのか

経営学者のピーター・ドラッカーは、顧客についてひとつの問いを残しています。「顧客にとっての価値は何か」。

ここで大事なのは、視点の向きです。「我々は何を売りたいか」ではなく、「お客様は何を買いたいか」。出発点を、自社から顧客へ移すということです。

ドラッカーは、企業が売っていると思っているものと、顧客が実際に買っているものは、しばしば違うと指摘しました。顧客が買っているのは製品そのものではなく、その製品が運んでくる「価値」のほうです。製品やサービスは、価値を届けるための媒体にすぎません。

たとえば、同じ時計でも、ある人は「時間を知る」ために買い、ある人は「満たされた気持ち」のために買います。売り手から見れば同じ商品でも、買われている価値は人によって違う。だから「顧客価値とは何か」という問いに、ひとつの正解はありません。お客様ごとに、確かめにいくしかないのです。

(※「顧客価値」とは、顧客がその商品やサービスから受け取る便益のこと。機能やスペックそのものではなく、それによって叶う状態を指します。)

ベンチャーネットも、ドラッカーを学ぶ場でこの問いに向き合いました。そして、自分たちが長く抱えていた「思い込み」に気づくことになります。

売り手の思い込みを、ベンチャーネットはこう捨てた

私たちの提案は、長いあいだ「機能」から始まっていました。これができます、あれもできます——優れた機能を前に出せば、価値は伝わるはずだ。そう信じていたのです。

けれど、機能を前面に出した提案ほど、決まりにくい。この事実に向き合ったとき、私たちは出発点そのものを変えました。提案を、機能からではなく「お客様の経営課題」から始めるようにしたのです。

「何を解決したいのか」「いま、どこで困っているのか」。そこを起点にすると、同じ製品でも、お客様にとっての意味が変わります。機能の説明は、課題が見えたあとで、初めて意味を持ちました。

思い込みを捨てるのは、勇気がいります。ベンチャーネットには、かつて売上の約3割を支えていたサービスがありました。検索エンジンの世界が変わっていくのを見て、私たちはそれを自ら手放す決断をしました。楽に結果が出る、慣れたやり方。それでも「お客様にこの先も価値を届けられるか」を基準に、捨てる方を選んだのです。

捨てるのが先、つくり直すのは後。顧客にとっての価値から考えるとは、こういう順番のことだと、私たちは身をもって学びました。

機能を売る 売り手起点の思い込み 「我々は何を売りたいか」 機能とスペックを並べる 良い機能だから売れるはず → 提案が、なぜか刺さらない 思い込みを 捨てる 価値を届ける 顧客起点 「お客様は何を買いたいか」 経営課題と成果から入る 買われているのは「成果」 →「成果を売る」へ

図:機能起点の「売る」から、顧客起点で「価値を届ける」への転換。ベンチャーネットが顧客の問いから学んだ、出発点の置き換え。

何が変わったか——「成果を売る」へ

出発点を顧客へ移すと、社内のいろいろなものが変わっていきました。

ひとつは、合言葉です。「機能を売る」のではなく「成果を売る」。お客様が本当に欲しいのは、機能の一覧ではなく、その先に生まれる成果だからです。私たちは自分たちのサービスを、そう言い換えました。

もうひとつは、成果のものさしです。かつては自社の売上や利益で、自分たちの成果を測っていました。けれど、それではお客様への貢献が見えません。そこで、ものさしを「お客様の成功」、つまりお客様側の数字や成果に置き換えました。

そして、価値を確かめる習慣です。何をすべきか見えないとき、答えは社内ではなく、お客様の現場にあります。私たちは、お客様のもとへ定期的に通うことを、仕事の決まりごとにしました。価値は、机の上ではなく、観察からしか見えてこないからです。

たとえば、基幹システム(会社の販売・在庫・会計などを束ねる中核の仕組み)の導入をお手伝いするとき。お客様が本当に求めているのは、新しいシステムそのものではありませんでした。「成果のあがる仕事に変わること」。買われていたのは機能ではなく、その先の状態だったのです。

あなたの会社は、機能を売っていないか

ここまで読んで、ひとつ問いかけたいことがあります。あなたの会社は、いま「機能」を売っていないでしょうか。

そして、もうひとつ。あなたの会社のお客様が、本当は何を買っているのか——その「価値」を、言葉にできるでしょうか。

正直に言えば、これは簡単な問いではありません。自社の価値ほど、自社からは見えにくいものはないからです。毎日その製品と向き合っているからこそ、「お客様の目」を持つのが難しい。私たち自身も、学びの場という「外の視点」を借りて、ようやく自分たちの思い込みに気づけました。

「お客様のために」と思っているのに、いつのまにか「自分たちの売りたいもの」に話がすり替わっている。これは、どんな会社にも起こります。気づけないのは、能力の問題ではなく、距離の問題なのです。

まとめ:自社の価値は、外からの視点で磨かれる

顧客にとっての価値は、売り手の頭の中にはありません。それは、お客様の現場と、自社を外から見る視点の、両方からしか見えてきません。

「良い機能だから売れる」という思い込みを、いったん横に置く。そして「お客様は、本当は何を買っているのか」を、お客様と一緒に確かめにいく。そこから、価値を軸にした経営が始まります。

ベンチャーネットは、自社でこの問いに向き合い、つまずきながら出発点を変えてきました。機能から価値へ、売上から顧客の成功へ——その「捨てて、組み直す」道を、まず自分たちで一度通ってきました。だからこそ、同じ問いに立つ経営者の隣で、「外からの視点」として伴走できると考えています。答えを差し出すのではなく、自社の価値を一緒に確かめる手順を、先に通った者として共有する。自社の価値を一人で見極めるのは、思っているより難しいものです。その最初の一歩を、一緒に言葉にするところからお手伝いします。

  • 価値の「届け方」を設計する次の一歩へ → 〔5-3 価値提案を研ぎ澄ます〕
  • なぜ今、経営を問い直すのか → 〔序-3〕
  • ビジネスモデル・価値提案の総論(対応する幹記事)と相互リンク
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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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