バーチャル経営実践編~バーチャルチームの原型「The PODs」モデルとは

バーチャル経営では、「チーム型組織の特性を備えつつ、アジャイルの要素も加えた有機的な小組織」である「バーチャルチーム」を採用しています。バーチャルチームは、複数の事業に挑戦しつつ、迅速な撤退でダメージを最小化できることが強みです。このバーチャルチームの原型は、GAFAなどが採用している「The PODsモデル」です。日本ではあまり認知されていませんが、中小企業が新規事業を開始するにあたり、ぜひとも参考にすべきモデルだと考えています。

目次

Googleが採用した新世代の営業組織「The POD」

まず、The PODsの概要を簡単に紹介します。

GAFAでも採用が進む小さなアジャイル組織「POD」

The PODsはもともと、営業組織にアジャイルの要素を融合させた組織運営の方法論です。「POD」は「鞘」や「殻」のような意味を表す単語で、チームは全て「POD」という単位で定義されます。PODは、少人数でありながら「あるミッションを達成するために必要な機能をすべて持っている」組織です。

The PODsは機能別組織のように、「職能」でチームを形成しません。同じPODの中には、営業を得意とする人材もいれば、エンジニアリングを専門とする人材もいます。また、事業部制組織のように階層構造を持たず、フラットで柔軟性のある組織です。つまり「アジャイル」の考え方を色濃く反映させているのです。

もし新しい事業が「顧客が運営するメディアのアクセス数を上げ、CV率を向上させるサービス」であれば、PODには「営業担当、Webエンジニア、SEOコンサルタント、デザイナー、LPライター」などが同時に在籍することになるでしょう。さらに、このメンバーのうちのいずれかが、意思決定の権限も持つことになります。したがってPODは、「非常に小さく仮想的なアジャイル型の企業」と見ることもできるでしょう。

また、あるPODのメンバーは同時に他のPODへも参画し、自らが持つスキルを用いて複数のビジネスへ貢献することもあります。

従来型の組織との違い

従来型の組織は、組織ごとに専任の「指揮者」や「コントローラー」が設けられていました。しかし、PODにおいてこれらは専任ではありません。各PODにはリーダー的な位置づけの人材はいるものの、「旗振り」のような役割はあまり果たさず、各メンバーの裁量が大きいのです。

PODは、全く違う機能(役割)を持った人材が、それぞれの得意領域で、チーム全体の動きを考慮した働きをします。この点がアジャイル的であり、小さく・高機能で・柔軟性に富んだ組織体制を生むのです。

なぜPODなのか

VUCA時代にあっては、「常識」が長続きせず、ごく小さな変化が一瞬にして「新しい常識」へと変化していきます。また、この小さな変化を見逃さず、参入と撤退を柔軟に繰り返していくことが、組織運営の肝になりつつあります。

The PODsが目指すのは、「アジャイルの具現化」です。つまり、頻繁に起こる変化への対応力を強め、機動力を保ち、小さく始めて素早く成果を出すという考えがベースになっています。この点が、VUCA時代を生き残るための術として評価され、注目されているのだと考えられます。

また、アジャイルは本来、システム開発の手法でしたが、これを他の分野に適用するために生まれたのがThe PODsであるとも考えられます。

The PODsの強み

従来型の組織体制は、責任の所在が明確である一方、「責任者以外のメンバーが主体性を持ちにくい」という弱点がありました。つまり、自分が参画しているビジネスを「自分事」として捉えられないのです。それゆえにPDCAの質があがらず、小さな変化は見過ごされ、徐々にパフォーマンスが落ちていくという問題がありました。

一方、The PODsでは、メンバーの裁量が大きく自由度も高いために、ビジネスを「自分事」として捉える土壌が生まれます。自分事という意識の蓄積がPDCAの質を上げ、プロジェクト(事業)を成功に近づける原動力となるのです。また、たとえビジネスが失敗(撤退)した場合でも、そこから得られる経験は「自分事」であるがゆえに内容が濃く、メンバーの成長やノウハウの形成を促します。

こうして、小さな組織がアジャイル的に運営され、経験とノウハウを蓄積することによって新規事業の成功率を高めていく、という好循環が形成されるのです。

The PODsを軌道にのせるためのポイント

The PODsは、軌道に乗りさえすれば、コストとリスクを最小化しつつ、新規事業に挑戦できる優れた仕組みです。しかし、アジャイルさえ浸透しきっていない日本では、一足飛びにThe PODsを導入しようとしても、組織風土が合わずに失敗してしまうかもしれません。そこで、The PODsを軌道にのせるためのポイントを整理して紹介します。

少数意見を封殺しない

The PODsでは、メンバーの主体性を高める、小さな変化を見逃さないなどの理由から「少数意見を無下にしない」ことが大切です。事業部制組織や機能別組織であれば、指揮官(もしくはそれに準ずるポジション)以外のメンバーが発する意見には、あまり力がありません。また、どちらかと言えば「多数決」の原理が働きがちで、「大きく強い意見」だけが意思決定の動機になりがちです。

一方、The PODsには、「どのポジションのメンバーの意見も封殺しない」「多数決を重視しない」「小さな意見でも使えそうであればすぐ試す」という考えがあります。したがって、新人や経験の浅いメンバーに対しても発言の機会を十分に設け、少数意見であっても真剣に耳を傾けるという心構えが必要になるでしょう。

心理的な安全を確保し、コミュニケーションの障害を取り払う

ポジションに限らず、どのメンバーも物怖じせずに意見を発するようになれば、自然とコミュニケーションは活発になります。そのためには、スキルや経験によって差別せず、見下さず、見上げすぎないという意識が必要かもしれません。差別がなく、フラットな環境であれば、自然と自律性が引き出されて「自分事」の意識が醸成されていくのではないでしょうか。

「臨時の作戦会議」で常に軌道修正

The PODsでは、バスケットのタイムアウトやアメフトのハドルのように、「動いている最中に開催する臨時の小会議」で細かな軌道修正を行います。この臨時の小会議には、モチベーションや目的意識の共有、確認、作戦内容の修正など、複数の効果があります。ちなみに、「ハドルミーティング」はアジャイルでも重要な要素として位置づけられています。

The PODsはアメーバ経営、ランチェスターとの親和性も高い

The PODsは新しい組織運営の方法論ですが、その中身はアメーバ経営やランチェスター戦略など、伝統的な経営手法・戦略との共通点が多いです。

・アメーバ経営
日本では良く知られたアメーバ経営は、アメーバと呼ばれる小組織を基礎とします。この小組織をPODに置き換えることで、柔軟性や機動力を高めることができそうです。また、PODは活発なコミュニケーションによって人材の育成スピードを速めるという効果も期待できます。アメーバ経営で必要とされる「アメーバの長」を育成する土壌としても適しているのではないでしょうか。

・ランチェスター戦略
ランチェスターの第一法則(弱者の戦略)では、武器効率を高めることで、限定された範囲であれば強者に立ち向かうことができます。PODの運用が「高効率な武器(リソース)の活用」と考えれば、ランチェスター戦略とも組み合わせることが出来そうです。また、バーチャル経営では、ABMで限定された濃い市場を狙い、PODを運用しつつ、大手企業に浸食されることのないビジネスを展開できると考えています。

まとめ

ここでは、バーチャルチームの原型である「The PODs」について解説してきました。The PODsに準じた組織では、撤退条件を明確にするために、採算ラインの計算も重要になるでしょう。バーチャル経営では、採算ラインの計算方法として「時間当たり採算」の採用を推奨しているため、次回はこちらを紹介します。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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