質的経営資源を高める「ランチェスター戦略」とITツール

ウィズコロナ、アフターコロナ期において、多くの企業が「経営資源の調整」に追われることは確実です。これまでと同様に「ヒト・モノ・カネ・情報」を投入していては、利ザヤを稼ぐことが難しい時代となるでしょう。ニューノーマル(新常態)では、経営資源の配分を変えつつ、その「質」を向上させ、経営効率を高める必要があります。ここでは、質的経営資源を高め「小よく大を制す」経営を目指す、ランチェスター戦略の実践方法を紹介します。

目次

「弱者と強者の在り方」を説くランチェスター戦略

ランチェスター戦略とは、一言で述べるならば「市場における立場(弱者・強者)に応じて、最適な戦い方を導き出すための方法論」です。一般的には「弱者の戦略」として知られていますが、ランチェスター戦略が説いているのは弱者の立ち回りだけではありません。

ランチェスター戦略の成り立ち

ランチェスター戦略は、「ランチェスター法則」を根拠としています。ランチェスター法則は、英国の自動車・航空工学のエンジニアだった「フレデリック・ランチェスター」が研究課程で生み出した数理モデルです。この時点のランチェスター法則は、「兵力数と武器の性能のかけあわせで戦闘力を導き出す」という「戦闘の法則」でした。その後、第二次世界大戦中に、コロンビア大学の数学教授であったB.O.クープマンらの研究・応用により「クープマンモデル(ランチェスター戦略方程式)」が発表され、「戦争の法則」へと発展しました。同モデルは、連合国側の軍事作戦立案・攻撃効果分析・意思決定などに用いられたとのことです。

このように軍事目的の戦略論であったランチェスター戦略を企業経営に応用したのが、日本の経営者たちです。1972年には、クープマンモデルをベースに市場シェアの目標値を具体化した田岡信夫氏の著書「ランチェスター販売戦略」が出版されています。また、70年代後半のオイルショックを乗り越えるために多くの企業が導入し、市場の競争を勝ち抜くための企業経営ノウハウとして活用されるようになりました。

ランチェスター法則が提示する2つのルール

ランチェスター戦略が拠り所とするランチェスター法則は、「第1法則」「第2法則」と呼ばれる2つの「勝ち負けのルール」によって構成されています。以下は、2つのルールの要諦をまとめたものです。

ランチェスター第1法則

一騎打ちや局地戦、接近戦といった「原始的な戦闘」に適用される法則です。この法則では、戦闘力を以下のような式で導き出します。

戦闘力 = 兵力数 × 武器効率

兵力が同数であれば武器効率が高い側が、武器効率が同じであれば兵力数に勝る側が
勝利をおさめるという、実に単純明快な法則です。限定された範囲で強者(市場の覇者)と同数の兵力を揃えやすく、武器効率次第でより多くの損害を与え得ることから、弱者の戦略(=シェア2位以下の企業)として推奨されることが多いでしょう。

ランチェスター第2法則

複数の兵士が大量の弾薬を一定の法則でばらまく「確率戦」や広大なフィールで多数対多数がぶつかり合う「広域戦」、長距離射程の兵器を活用した「遠隔戦」などに適用される法則です。第1法則よりも近代的な戦闘を想定しています。

戦闘力 = 兵力数の二乗 × 武器効率

第2法則の場合、兵力数が2乗となるため、第1法則に比べて兵力数の重要性が高いといえます。また、同じ武器を使用していても、兵力数の差が徐々にお互いの差を押し広げていくため、時間の経過と共に兵力数で勝る側が有利になります。したがって、カネ・ヒトなどの資本が豊富な市場の覇者(1位)が採り得る選択肢といえるでしょう。つまり、強者を想定した法則です。

なぜ今ランチェスターなのか?

このようにランチェスターは、「市場の立場に応じて、今、何をすべきか」という、経営者の普遍的な悩みに対し、「少しでも”勝ちの目”を増やすためのヒント」を提供します。しかし、ランチェスター戦略自体は、決して目新しい戦略論ではありません。国内で注目された時点から数えても、すでに50年近くが経過しています。いわば「古典」です。では、なぜ今、その「古典」が再注目されているのでしょうか。理由を簡単に整理してみましょう。

オイルショック時と酷似した状況

ランチェスター戦略が広まったオイルショック時と、現在の経営環境が非常に似ている、ということが第一の理由です。当時と今を簡単に比較しても、次のように共通点が浮かび上がります。

  • オイルショック時は石油資源の高騰から消費者に「生活様式や意識の変化」があった
  • 好景気から不況への転換点

この2つは、コロナ禍における消費者意識や市場の変化に酷似しています。

誰もが弱者になり得る時代

ウィズコロナ・アフターコロナにおける「ニューノーマル」では、消費者の意識が大きく変わり、「不要不急」が一般化するでしょう。

その結果、分野によっては、品目ごとの大規模な生産調整を余儀なくされると考えられます。こうした事態に対応するため、企業の多くは量的経営資源(資金、拠点数、営業担当者数、生産規模など)の大規模な見直しが必要になります。ただし、これらには当然のことながら「痛み(解雇、機会損失、減収など)」が伴うため、耐えうるのは一部の大手企業のみです。

一方、特需によってたった数か月で過去最高益を叩き出す企業も現れており、「これまでの勝者が敗者に、強者が弱者になりうる時代」といえるでしょう。このように弱者と強者が流動的に入れ替わる時代にあって、2者それぞれが採り得る戦略を提示するランチェスターが注目されるのは、当然のことかもしれません。

差別化と集中が必須

現代は、「飽和」の時代であり、「量」よりも「質」が重視される時代です。

例えばマーケティング領域でも「顧客」から「個客」への意識変化が浸透し、限りある人・モノ・カネで、良質な製品・サービスの提供が必須になっています。こうした時代の流れに対応するため、「差別化戦略」「経営資源の1点集中」「徹底した顧客志向」などの戦略が求められるのです。言い換えれば「経営資源の質を高め、経営効率を最大化する努力」であり、ランチェスター法則では「武器効率」を高める方法とも言えます。

ランチェスター戦略とITツールによる「弱者」の生き残り方

コロナ禍後の世界では、ごく一部の企業以外は全て弱者(=市場シェア2位以下)になる可能性を考慮した経営判断が必要です。したがって、ランチェスター戦略が定義する「弱者」の戦い方を参考にしつつ、ITツールによって質的経営資源(=武器効率)を高めるべきでしょう。

弱者の基本戦略「接近」「集中」「顧客志向」

弱者が強者に勝利するための戦略は、原則として以下の3つです。

  1. 接近戦……アフターフォローや密なコミュニケーションで顧客に近づく
  2. 局地戦……限られた経営資源を一部に「集中」し、限定された範囲での勝利を積み重ねる
  3. 一騎打ち……「個客志向」で懐に入り込み、カスタマイズされたサービスを提案しながら評価を積み重ねる

また、こうした戦略は、「武器効率」によってその効果が大きく変動します。その武器とは「営業力」「マーケティング力」とも言い換えてもよいでしょう。これらは、ITツールの活用によって効率よく高めることが可能です。

ITツールの活用

Netsuite

経営資源の管理と情報一元化、顧客情報の蓄積などを通し、迅速な経営判断に役立つツールです。ERPでありながらCRMやSFAの機能も併せ持ち、中小企業であれば単一で基幹業務から営業・マーケティングまでを幅広くカバーできます。「局地戦」を想定した経営資源の集中や接近戦・一騎打ちの前提となる顧客情報の収集などが期待できます。

NetSuiteとは?導入のメリットや特徴から価格まで解説

Salesforce

SFA世界最大手であり、さまざまな業務アプリを統合的に管理・連携するプラットフォームでもあります。マーケティング・営業の各プロセスに応じたKPI管理、情報共有機能が豊富で、限られた人員でも「営業力」を高められるような工夫が盛り込まれています。

Salesforceとは?世界15万社以上が利用するサービスの特徴とメリット

Eloqua

自動化を得意とするMAツールです。マーケティング自動化および、マーケティング+営業の連結ツールとしても有用です。オンライン、オフライン双方の顧客管理に対応し、マーケティングからフィールドセールスに至るまでの情報を可視化できるようになります。「一騎打ち」に必要な「オンライン・オフランを通じた個客一人一人の濃いデータ」を取得するために欠かせないツールです。

Oracle Eloqua(エロクア)のメリット・デメリット

まとめ

本稿では、経営戦略の古典ともいえるランチェスター戦略を解説しながら、再注目される理由を紹介してきました。ランチェスター戦略は「弱者が強者に勝つための戦略」であると同時に、「いつ・誰が弱者になるかわからない時代の処方箋」とも言える理論です。ランチェスター戦略に従い、ニューノーマルを見据えた質的経営資源の強化と、ITツール群の導入・連携を検討してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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