ホームページは作った。会計ソフトも入っている。それなのに、受注残や在庫は担当者に電話しないと分からない。「うちもそろそろ、システムを何とかしないと」と思いながら、何から手をつけるか決まらずに年度が過ぎていく。
投資が足りないのではありません。途中で止まっているのです。裏返せば、次の1段をどこに置くかが分かれば、IT投資は手応えに変わります。
中小企業庁は、中小企業白書と同時に小規模企業白書を公表しています。その2025年版には、デジタル化・DXの取組をまとめた節があります(出典:中小企業庁「2025年版 小規模企業白書」、2026年9月確認)。最も多い取組はホームページにとどまり、効果の差が開くのは顧客情報や受発注を社内でまとめる段階からです(結果を出す3つの事実)。
次の1段を社内側に置くと、たとえば次のことが変わります。
- 受注残や在庫の数を、担当者に聞かずに経営者が確かめられる
- 受注の内容を、販売・在庫・請求で打ち直さずに済む
- 補助金などの支援制度が使えるかを、製品を選ぶ前に確かめられる
- 社内で保守を担える人がいるかに合わせて、Odooの版を選べる
ただし、海外展開や連結決算が視野に入る規模なら、NetSuiteのような上位のERPが選択肢です。
一方で、白書ではどの段階でも「費用」と「人」の不足を挙げる声が多いとされます。では、その壁を、先へ進んだ会社はどう越えたのか。答えは「費用」と「人」を越えるための3つの判断にあります。この進め方の良い点と注意点は、1段ずつ上がる進め方の良い点と、気をつけることに並べました。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と、有償のEnterprise版があります。費用の面から見た両者の違いは、「費用を抑えたい」が版選びで裏目に出るときの表にあります。
中小企業のデジタル化の現状:取組は広がっても手応えが薄い
白書は、デジタル化の進み具合を4つの段階に分けて調べています。紙や口頭による業務が中心の状態を「段階1」とし、取組が進むほど段階2、3、4と上がる区分です。
2024年の調査では、段階1と答えた事業者の割合が、2023年比で大きく減りました。取り組む会社は着実に増えています。
ただ、取り組むことと、効果が出ることは別です。すべての段階で最も回答割合が高い取組は、「自社ホームページの作成・更新」でした。大事な投資ですが、受注処理や在庫の把握が楽になるわけではありません。
白書から読み取れる、結果を出す3つの事実
事実1:始まりはホームページ、差がつくのはその先
白書では、「顧客データの一元管理」や「営業活動や受発注管理のオンライン化」で、段階2と段階3の回答割合の差が大きいと示されています。
ホームページは、どの段階でも多い取組です。一方で、社内の情報をまとめる取組には、ある線を越えた会社だけが手をつける。ここが効果の差になります。
事実2:進んだ会社ほど、効果を実感している
白書では、取組段階が進んだ事業者ほど、「とても効果を感じている」「ある程度効果を感じている」と答える割合が高いとされます。
裏返せば、途中で止まった会社ほど手応えを得にくい。費用は発生しているのに、業務の形が前のままだからです。
事実3:詰まる場所は、どの段階でも同じ
白書では、いずれの段階でも「費用の負担が大きい」または「DXを推進する人材が足りない」と答える割合が高いとされます。段階が上がっても、この2つは消えません。
先へ進んだ会社が、お金と人に恵まれていたわけではありません。同じ壁を前に、越え方を決めただけです。
次の一手にも差が出ます。段階4と段階3では、約2割が「生成AIやIoTの活用」へ向かいます。一方、段階1では約半数が「特にない」という回答でした。以上は、中小企業庁が公表している白書で確認できます。
自社の現在地を確かめる5つの問い
白書の段階は、自社の現在地を測る物差しにもなります。経営会議で、次の問いに答えてみてください。
- □ 受注残や在庫の数を、担当者に聞かずに経営者が確かめられる
- □ 顧客情報が、営業担当者ごとのExcelや名刺ではなく1か所にある
- □ 受注の内容を、販売・在庫・請求で打ち直していない
- □ ホームページ以外に、この3年で社内業務のための投資をした
- □ デジタル化を進める担当者が、兼務でも名前で決まっている
これらの問いは、白書の区分と同じではありません。現在地をつかむための目安です。白書で差が大きかったのは、2つ目と3つ目にあたる取組でした。ここに「はい」と言えないなら、次の1段はそこに置くのが筋です。
DXの課題「費用」と「人」を越えるための3つの判断
判断1:使える支援制度を先に確認する
費用の壁は、自社の予算だけで考えると動けません。デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)のような支援制度が使えるかを、検討の初期に確認します。
制度には対象経費や申請時期の定めがあり、選定後に調べると間に合わないことがあります。詳しくはOdoo導入と補助金をご覧ください。
判断2:投資の順番を「社内側」に寄せる
効果の差が開くのは、顧客情報や受発注を社内でまとめる段階でした。対外的な発信より先に、社内で二度打ちしている場所を止める。順番を変えるだけで、手応えが変わります。中小企業のDXとOdooも参考になります。
判断3:人の不足は、外から埋める前提で組む
推進役の不在は、社内の努力だけでは短期に解消しません。兼務の担当者を置くだけでは進まないためです。だからこそ、外部の支援を使う判断が要ります。自力だけで越えないことは、妥協ではなく設計です。
外部の人が現場に入り込んで実装まで伴走する形は、FDE(Forward Deployed Engineer)とは(バーチャルブログ)で紹介しています。
「費用を抑えたい」がOdooの版選びで裏目に出るとき
Odooで費用と人の両方に影響するのが、版の選択です。費用を抑えたい会社ほどCommunity版に目が向きますが、そこに見落としやすい点があります。
| 観点 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 費用 | 無料・オープンソース(ソースコードが公開された形態) | 有償のサブスクリプション |
| ホスティング | 自社で用意(Odooオンラインは対象外) | Odooオンラインでのホスティングを含む |
| 公式サポート | 対象外 | 含む |
| バージョンアップ | 自社で対応 | 含む |
| 社内に必要な人 | サーバーと保守を担える人が要る | 運用の担当者がいれば進めやすい |
| 使える業務範囲 | 顧客・商談の管理、販売、在庫、購買、製造などの基本機能 | 上記に加え、会計のフル機能やOdoo Studioなど |
Odoo Studioを使うには、Enterprise版の中でも「カスタムプラン」が必要です。スタンダードプランには含まれません。
版ごとの対応範囲は、改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
無料になるのは、ライセンスの部分です。サーバーの用意、障害対応、バージョンアップは、自社の仕事として残ります。「費用」の壁を下げる代わりに、「人」の壁を高くする選択になり得るのです。詳しくはOdoo Community版とEnterprise版の違いをご覧ください。
中小企業のIT投資でよくある2つの失敗
失敗1:予算がついた年に、いちばん大きいものから買う
補助金や好決算を機に、一気に全社分を入れようとする例です。準備が追いつかず、現場が使う前に息切れします。一度に4段跳ぶより、次の1段を確実に上がることが先です。
失敗2:「無料だから」で版を決める
初期費用だけでCommunity版を選び、運用開始後に、保守を担う人がいないと気づく例です。人をどう手当てするかを先に決め、その前提に合う版を選びます。
次の1段を決めるために、ベンチャーネットが最初に確かめること
白書の段階を1つ上げる相談を受けたとき、ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、製品の話より先に次の4つを順に確かめます。ERPはIT投資ではなく、経営の仕組みを変えるプロジェクトだと考えているからです。
- 二度打ちの場所を特定する:受注から請求までで、同じ内容を何回入力しているかを一緒に洗い出します。効果の差が開く「社内側」の起点がここです。
- 3〜5年後の姿から逆算する:人数、拠点、取引の形がどう変わるかを先に聞きます。今の課題だけで選ぶと、数年後に入れ替えの二度手間が起きるためです。
- 標準機能に業務を合わせられるかを見る:Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で、変えてよい業務と譲れない業務を分けます。
- 「人」の手当てと版の選択をそろえる:社内で保守を担える人がいるかで、Community版かEnterprise版か、外部の支援をどこまで使うかを決めます。
進める順番は、見える化、わかる化、儲かる化です。まず数字が見える状態をつくり、次にその意味が分かる状態にして、利益につなげる工夫はその後で考えます。この3段の全体像は、バーチャルブログの儲かる化とは——見える化・わかる化の先で、利益に変えるための地図にまとめています。
扱う製品はOdooに限っていません。確かめた結果Odooが合わなければ、合わないとお伝えします。
1段ずつ上がる進め方の良い点と、気をつけること
次の1段を社内側に置き、費用と人の手当てを先に決める。この進め方で得られることと、覚悟しておきたいことを並べます。
良い点は、次の4つです。
- 手応えが出やすい:対外的な発信より先に、社内で二度打ちしている場所を止める。効果の差が開く段階に、投資を向けられる
- 支援制度の確認が間に合う:補助金が使えるかを検討の初期に確かめるので、選定後に調べて間に合わない事態を避けやすい
- 二度手間を避けやすい:3〜5年後の人数・拠点・取引の形から逆算するので、数年後の入れ替えが起きにくい
- 版選びが裏目に出にくい:保守を担える人がいるかを先に確かめ、その前提に合う版を選ぶ
気をつけることは、次の3つです。
- 一気には進めない:一度に全社分を入れると、準備が追いつかず息切れする。次の1段を確実に上がることが先になる
- 無料でも人の仕事は残る:Community版で無料になるのはライセンスの部分。サーバーの用意、障害対応、バージョンアップは自社の仕事として残る
- 外部の支援を前提に組む:推進役の不在は、兼務の担当者を置くだけでは短期に解消しない
両方を1枚の図に並べました。
版の選び方は「費用を抑えたい」が版選びで裏目に出るときに、一気に進めたときのつまずきはIT投資でよくある2つの失敗にまとめました。
よくある質問
白書の「段階」は、自社を評価する基準として使えますか?
おおよその現在地の確認に使えます。紙や口頭が中心なら段階1に近く、顧客情報や受発注をまとめられていれば先の段階です。自社の現在地を確かめる5つの問いも、あわせてお使いください。
ホームページへの投資は無駄だったということですか?
無駄ではありません。白書でも、最も回答割合が高い取組です。問題は、そこで止まると、社内業務の効果まで届かない点にあります。
補助金が採択されるまで、検討は待つべきですか?
待たないほうが進みます。何を解決したいかの整理は、制度の結果にかかわらず必要です。課題整理と並行して確認します。
中小企業のIT投資は、何から手をつけるべきですか?
社内で二度打ちしている場所を止めることからです。効果の差が開くのは、顧客情報や受発注を社内でまとめる段階でした。対外的な発信より先に、受注から請求までの打ち直しを減らします(結果を出す3つの事実)。
規模が大きくなったら、Odooでは足りなくなりますか?
海外展開や連結決算が視野に入る規模では、NetSuiteのような上位のERPが選択肢です。グローバルで複雑な要件なら、SAPも視野に入ります。
パッケージに乗らない固有業務が中心なら、AIスクラッチ開発という道もありますが、開発費と保守費が別途かかります。中小企業向けERPとはもご参照ください。
まとめ
2025年版の小規模企業白書から読み取れることは、次の5点です。
- 取り組む事業者は増え、段階1と答える割合は減っている
- どの段階でも最多の取組は、自社ホームページの作成・更新
- 効果を実感する割合は、段階が進んだ事業者ほど高い
- 顧客データの一元管理や受発注のオンライン化は、段階2と3の差が大きい
- 費用の負担と推進人材の不足は、どの段階でも共通の課題
結果を分けるのは金額の大小ではなく、「どこまで進んだか」です。進んだ会社も、壁を自力だけで越えたわけではありません。制度を使い、外の力を借りて1段ずつ上がっただけです。
1年後の月曜の朝、受注残と在庫の数字を、担当者に電話せずに経営者が自分で確かめている。今期のうちに次の1段をどこに置くかを決めることが、その朝への近道です。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「白書の段階でいうと自社は今どこか、次の1段に何が必要か」という整理から、ご相談を承っています。
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