経営のシステム化は3段で進める|見える化→わかる化→儲かる化とOdooでの実現方法

月初の経営会議。先月の粗利を聞くと、経理から「来週には出ます」と返ってくる。

ようやく出た数字は前月より落ちている。けれど、どの商品が原因かは誰にも分からない。結局「来月は頑張ろう」で会議が終わる。

システムを入れても、こうした会議が変わらない会社は珍しくありません。原因の多くは、製品選びではなく順番にあります。

経営のシステム化とは、判断の材料をそろえ、判断の回数を増やすことです。そのために、見える化→わかる化→儲かる化の3段を順に上がります。この順番を飛ばすと、高機能な仕組みを入れても効果が出ません。

Odooは、販売・購買・在庫・会計が同じ基盤の上に載っています。受注から請求まで転記がなく、記録が自動的に貯まっていきます(第1段の見える化)。

3段を順に上がると、たとえば次のことが変わります。

  • 社長が見たいときに、その場で数字を見られる
  • 粗利が落ちた理由を、商品別・顧客別にたどれる
  • 月次が早く締まり、1年に手を打てる回数が増える
  • 打った手の結果を数字で確かめ、次の手を決められる

ただし、第2段以降は記録が一巡するまで評価できません。進め方の良い点と負担は、3段を順に上がる良い点と、気をつけることに並べました。

では、自社はいまどの段で止まっているのか。確かめる問いは3段のチェックリストにあります。

Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。ここで取り上げるアプリには、Enterprise版でのみ提供されるものが含まれるため、該当箇所で区別を示しています。

目次

経営の「システム化」は道具の話ではない

システム化という言葉は、「ツールを導入すること」と同じ意味で使われがちです。

しかし、ツールを入れただけでは経営は変わりません。変わるのは、「判断の材料がそろい、判断の回数が増えたとき」です。

2つを並べると、違いがはっきりします。

何の話か例
道具の話会計ソフトを入れた
経営の話先月の粗利が、今月3日に分かるようになった

前者は手段、後者は結果です。システム化を検討するときは、後者から逆算します。

そして後者にたどり着くには、3つの段を順に上がることになります。3つの段を1枚の地図に描いたのが、「見える化・わかる化・儲かる化」の全体地図です。

経営のシステム化 3つの段 下から見える化(事実)、わかる化(解釈)、儲かる化(打ち手)と積み上がる3段の構造。下の段が固まらないうちに上の段へ進むと、上の段は機能しない。 経営のシステム化は3段で上がる 第3段 儲かる化 打ち手 打った手が数字に返ってくる。 次の手を決められる 第2段 わかる化 解釈 なぜその数字になったかを、 分解して読める 第1段 見える化 事実 いま数字がどうなっているかが、 待たずに分かる ※ 下の段が固まらないうちに上の段へ進むと、 上の段は機能しません
経営のシステム化 3つの段(下から上へ)

第1段:見える化|いまの数字を待たずに知る

見える化とは、「いま数字がどうなっているかが、待たずに分かる状態」です。

できていない会社で起きていること

  • 先月の売上を知るのに、月末から2週間かかる
  • 在庫数を聞くと「確認します」と返ってくる
  • 部門ごとに数字が違い、どれが正しいか分からない

3つに共通するのは、数字が人の作業を経ないと出てこないことです。

誰かがExcelを集め、見比べ、整えて、ようやく数字になる。この工程がある限り、速さと正確さは担当者の負荷しだいです。

到達した状態

日々の業務がそのまま記録として残り、集計を待たずに現在値が見られる状態です。

判断の基準は単純で、「社長が見たいと思ったときに、その場で見られるか」。答えが「はい」なら、第1段は越えています。

Odooではどう実現するか

Odooは、販売・購買・在庫・会計といった業務が同じ基盤の上に載っています。

受注を登録すれば在庫が動き、出荷すれば請求につながる。転記が発生しないため、記録が自動的に貯まっていきます。

ただし、会計のフル機能はEnterprise版での提供です。無料のCommunity版は請求書発行など基本的な会計にとどまるため、見える化の範囲が限られます。詳しくはCommunity版とEnterprise版の違いをご覧ください。

Excel管理からの移行は、Excel管理からOdooへにまとめました。

第2段:わかる化|数字の理由を分解して読む

わかる化とは、「なぜその数字になったかを、分解して読める状態」を指します。

見える化だけでは足りない理由

粗利が前月より落ちた。この事実が分かっても、打ち手は決まりません。

必要なのは、落ちた理由の分解です。どの商品か、どの顧客か、値引きなのか原価なのか。ここまでたどれて初めて、次の行動が決まります。

多くの会社が止まるのは、この段です。数字は出る。ただし、そこから先に進めない。

見えることと分かることの違いは、「見える」と「わかる」は違うで詳しく扱っています。

到達した状態

ひとつの数字から、その内訳へ、さらに元の取引へと降りていける状態です。

会議で「この数字の中身は?」と聞かれたとき、その場で答えられる。これが目安になります。

Odooではどう実現するか

同じデータを別の切り口で見る仕組みが、各アプリの一覧・ピボット・グラフとして標準で備わっています。顧客別、商品別、担当者別、期間別への切り替えに、集計のやり直しは要りません。

グラフの数字をたどると元の取引にたどり着くため、根拠の確認もできます。

この段で結果を左右するのは、機能よりも設計です。どの単位で分解したいかを先に決めておかないと、後から分けられません。

たとえば商品ごとの粗利を見たいなら、原価をどう入れるかを最初に決めておく必要があります。この設計はOdoo導入の要件定義の進め方で扱っています。

第3段:儲かる化|打った手を数字で確かめる

儲かる化とは、「打った手が数字に返ってきて、次の手を決められる状態」です。

何が変わるのか

第2段までは、過去を読む力の話でした。第3段は、未来に働きかける話になります。

  • 値引き方針を変えたら、粗利がどう動いたか
  • 特定の顧客への訪問を増やしたら、受注がどう変わったか
  • 在庫の持ち方を変えたら、資金繰りがどう改善したか

打ち手と結果が結びつけば、経営が試行錯誤できるようになります。数字を利益に変える打ち手の全体は、儲かる化とはにまとめました。

到達した状態

判断の頻度が上がっている状態です。

月次が20営業日かかる会社は、年に12回しか振り返れません。5営業日で締まる会社は、月中の修正も含めれば倍以上の回数、手を打てます。

同じ1年でも、試行の回数が違う。この差が、数年で開いていきます。

Odooではどう実現するか

ダッシュボードで主要な指標を定点観測し、変化に気づける状態を作ります。何を置くかは社長のコックピットをOdooで作るにまとめました。

AI関連の機能が役立つのは、読み取りや下書きといった作業の下ごしらえです。ただし「どう手を打つか」を決めるのは人の仕事です。方針が言葉になっていないまま任せると、判断の根拠を説明できなくなります。

3段を飛ばすと何が起きるか|経営のシステム化でよくある失敗

現場でよく見る失敗は、飛ばした段ごとに次のとおりです。

飛ばした段起きること
第1段を固めずに第3段へ立派なダッシュボードを作ったが、元データがそろわず数字が信用されない
第1段を固めずに第2段へ分解しようとしても、必要な項目が記録されていない
第2段を飛ばして第3段へ数字は速く出るが、悪化の理由が分からず打ち手が精神論になる
3段すべてを一度にプロジェクトが肥大し、要件が固まらないまま期間だけ延びる

とくに多いのは1行目です。

経営ダッシュボードは目に見える成果物なので、最初に作りたくなります。しかし元になる記録が整っていないと、表示される数字が現場の実感と合いません。

一度「あの数字は当てにならない」と思われると、後から精度を上げても見てもらえなくなります。信用の回復には、構築より時間がかかるものです。

導入時の失敗パターン全般はOdoo導入の失敗パターンと回避策にまとめています。

3段を順に上がる良い点と、気をつけること

順番を守る進め方には、得られることと、先に覚悟しておきたい負担があります。

良い点は、次の5つです。

  • 数字が信用されやすい:記録を先に整えるので、表示される数字が現場の実感と合いやすい
  • 転記の手間が減る:受注・在庫・請求が同じ基盤でつながり、記録が自動的に貯まる
  • 小さく始められる:第1段は、販売と在庫など1〜2領域に絞って始められる
  • 手を打てる回数が増える:月次が早く締まるほど、1年に振り返れる回数が増える
  • 道具が変わっても考え方は同じ:Odoo・NetSuite・AIスクラッチ開発のどれでも、3段の順番は変わらない

気をつけることは、次の4つです。

  • 効果を測れるまで時間がかかる:第2段以降は、記録が一巡してデータが貯まるまで評価できない
  • 分解の単位を先に決める:原価の入れ方などは、最初に決めないと後から分けられない
  • ダッシュボードは後回しにする:目に見える成果物なので、最初に作りたくなる
  • Community版では範囲が限られる:会計のフル機能はEnterprise版での提供になる

両方を1枚の図に並べました。

3段を順に上がる良い点と、気をつけること 良い点は、数字が信用されやすい、転記の手間が減る、小さく始められる、手を打てる回数が増える、道具が変わっても考え方は同じであること。気をつけることは、効果を測れるまで時間がかかる、分解の単位を先に決める、ダッシュボードは後回しにする、Community版では範囲が限られること。 3段を順に上がる良い点と注意点 良い点 数字が信用されやすい 記録を先に整える 転記の手間が減る 受注・在庫・請求が同じ基盤でつながる 小さく始められる 第1段は1〜2領域に絞る 手を打てる回数が増える 月次が早く締まるほど振り返れる 道具が変わっても考え方は同じ どの道具でも3段の順番は変わらない 気をつけること 効果を測れるまで時間がかかる 第2段以降は記録が一巡してから 分解の単位を先に決める 後から分けられない設計がある ダッシュボードは後回しにする 目に見えるので最初に作りたくなる Community版では範囲が限られる 会計のフル機能はEnterprise版 止まっている段によって、次の一手は変わる
3段を順に上がる良い点と、気をつけること

止まっている段によって、次の一手は変わります。段ごとの次の一手は、3段のチェックリストの表にまとめました。

3段のチェックリスト:自社はいまどの段にいるか

3つの段には、それぞれ越えたかどうかを測る問いがあります。答えに詰まったところが、いま止まっている段です。

3つの段と、自社の位置を測る問い 見える化、わかる化、儲かる化の3段を順に並べ、各段の到達状態と、自社がその段を越えているかを測る確認の問いを示した図。多くの会社は第1段の途中にいて、着手すべきは記録の仕組みそのものである。 3つの段と、自社の位置を測る問い 答えに詰まったところが、いま止まっている段です 第1段 見える化 いま数字がどうなっているかが、待たずに分かる 確認の問い 先月の粗利は、今月の何日に分かりますか 第2段 わかる化 なぜその数字になったかを、分解して読める 確認の問い 粗利が落ちた理由を商品別に分解できますか 第3段 儲かる化 打った手が数字に返り、次の手を決められる 確認の問い 直近1年で方針を変えた回数は何回ですか 多くの会社は第1段の途中にいます。 数字は出るが遅い、あるいは信用されていない 着手すべきは、新しい分析ツールではなく 記録の仕組みそのもの ※ 前の段が固まらないうちに次へ進むと、 次の段は機能しません
3つの段と、自社の位置を測る問い

経営会議で、そのまま読み上げてみてください。答えに詰まった□が、いま止まっている段です。

第1段の確認(見える化)

  • □ 先月の粗利が、今月の何日に分かるかを即答できる
  • □ その数字は、誰かの手作業を経ずに出てくる

第2段の確認(わかる化)

  • □ 粗利が落ちた理由を、商品別・顧客別に分解できる
  • □ その分解が、会議のその場で終わる

第3段の確認(儲かる化)

  • □ 直近1年で、数字を見て方針を変えたことがある
  • □ 変えた結果を、数字で確かめられた

多くの会社は第1段の途中にいます。数字は出るが遅い。あるいは、出るが信用されていない。

止まっている段によって、次の一手は変わります。

止まっている段次に着手すること後回しでよいこと
第1段受注・在庫・請求の記録を一か所に集める分析ツール、ダッシュボードの作り込み
第2段分解したい単位(商品・顧客・原価)を決める新しいアプリの追加
第3段打ち手と結果を並べて見る定例の場を作る指標の数を増やすこと

第1段で止まっているなら、次に手を付けるのは新しい分析ツールではなく、記録の仕組みそのものです。

止まっている段から始める進め方と、道具の選び方

ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品を前提にせず、次の順で進めます。

  1. 止まっている段を確かめる:自社の段を測る問いを、社長と現場の両方に聞きます。答えがずれていれば、そこが最初の論点です
  2. 3〜5年後に見たい数字から逆算する:どの単位で粗利を見たいか、何を月に何回判断したいかを先に言葉にします
  3. 第1段の範囲を絞る:販売と在庫など、記録を集める業務を1〜2領域に限ります。標準機能に業務を合わせるFit to Standardが基本です
  4. 道具を規模と要件で選ぶ:下の3つから、課金の仕組みと対象規模で振り分けます
  5. 合わなければ、合わないと伝える:Odooが向かない条件なら、その時点で別の選択肢を示します

道具の振り分けは、次の表のとおりです。

自社の状況合ってくる道具
中小から中堅で、必要な業務から小さく始めたいOdooが現実的な選択肢
グローバル展開やグループ経営の管理が視野にあるNetSuiteが合ってくる
業務が固有すぎてパッケージに乗らない必要な機能だけを開発するAIスクラッチ開発(開発費・保守費は別途)

AIスクラッチ開発はライセンス料がかからない一方で、開発費と保守費が別途かかります。どの道具も、金額の優劣ではなく課金の構造と対象規模の違いで選びます。判断の軸はOdooとNetSuiteの違いとパッケージERPかスクラッチ開発かで扱いました。

どの道具を選んでも、3段の順番は変わりません。道具より先に、いまどの段にいるかを確かめてください。

経営のシステム化についてよくある質問

3段すべてを終えるのに、どれくらいかかりますか?

期間は、範囲によって大きく変わります。

ひとつの業務領域に絞れば、第1段は数か月で形になることが多い印象です。ただし第2段以降は、記録が一巡してデータが貯まらないと評価できません。

最初の3か月の進め方はOdoo導入 最初の90日プランにまとめました。

第1段を飛ばして、第3段のダッシュボードだけ先に作れませんか?

おすすめできません。

第3段のダッシュボードは、第1段で貯めた記録を材料にしています。材料がないまま表示する数字は、結局どこかで人が手入力することになります。

手入力が残る限り、更新の遅れと入力ミスがついて回る。第1段の課題が、形を変えて残るだけです。

Community版でも3段を実現できますか?

実現できるのは一部にとどまります。

Community版は無料ですが、会計のフル機能をはじめ一部の機能が含まれません。また、サーバーの用意と保守は自社で行う前提です。

見える化の範囲が限られるため、第2段以降の分解にも制約が出ます。

すでに会計ソフトを使っています。入れ替えが必要ですか?

すぐに入れ替える必要はありません。

まず第1段の範囲、たとえば販売と在庫からOdooに寄せる進め方があります。会計を移すかどうかは、記録が一巡してから判断しても遅くありません。

ただし、二重管理が続くと転記が残ります。移行するかどうかの判断時期は、最初に決めておいてください。

見える化・わかる化・儲かる化の違いは何ですか?

扱うものが事実・解釈・打ち手と違います。

見える化は、いま数字がどうなっているかが、待たずに分かる状態です。わかる化は、なぜその数字になったかを分解して読める状態を指します。儲かる化は、打った手が数字に返ってきて、次の手を決められる状態です。

3つは下から順に積み上がります。各段の到達状態とOdooでの実現方法は、第1段の見える化から順に説明しています。

まとめ:見える化→わかる化→儲かる化の順番を守る

システム化は道具の話ではありません。判断の材料と頻度の話です。

経営のシステム化は3段で上がります。第1段の見える化で、待たずに現在値が分かる。第2段のわかる化で、なぜそうなったかを分解して読める。第3段の儲かる化で、打った手が数字に返り、次の手が決まる。

順番を飛ばすと、上の段は機能しません。とくに、記録が整う前に作ったダッシュボードは、数字の信用を失います。

1年後の月初の会議では、粗利が落ちた商品と顧客を画面でたどりながら、来月の値引き方針をその場で決めている。「来週には出ます」という返事は、もう聞こえなくなっています。

もう少し詳しく知りたい方へ

自社がどの段で止まっているか、判断に迷う場合はご相談ください。いまの会議資料や数字の出し方を伺ったうえで、最初に固める範囲を一緒に整理します。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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