3社に声をかけたら、3社からまったく違う提案書が届いた。1社は大企業向けのような大がかりな構成、1社は会計ソフトの置き換えだけ。もう1社は、こちらの業種を取り違えていた。
「RFPを作ってからベンダーに声をかけてください」。解説記事にはそう書いてあります。ただ、「7つの構成要素」「6つのステップ」を見て手が止まった方も多いはずです。
本格的なRFPでなくても、伝えるべきことが伝われば、的外れな提案は防げます。RFP(提案依頼書)とは、課題や実現したいことを伝え、解決策を提案してもらう文書です。中小企業なら、伝えるのは「困りごと・対象範囲・予算の目安・時期・重視する点」の5つで、メール1本でも構いません。
困りごとは、「受注情報をExcelで管理しており、月末の集計に3日かかっている」のように場面と数字で書きます(メールで送る最低限フォーマット)。
5項目を伝えると、たとえば次のことが変わります。
- 業種や規模を取り違えた提案が届きにくくなる
- 各社に同じ内容を送るので、返ってきた提案を並べて比べられる
- 隙のない資料を目指して、何か月も止まりにくくなる
ただし、選定に専任で数週間あてられる担当者がいる会社には、本格的なRFPが向いています。進め方の良い点と負担は、最低限アプローチの良い点と、気をつけることに並べました。
では、返ってきた提案は何を見て比べればよいのか。総額だけを並べたときに見落としやすい点は、返ってきた提案の比べ方で取り上げます。
なお、Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。どちらを選ぶかは、提案を受けたあとの比較段階で考えれば十分です。
中小企業に「本格的なRFP」が向かないことがある理由
本格的なRFPが不要だという話ではありません。
体制が整っている中堅企業なら、要件を7つの要素にまとめ、6つの手順で仕上げるRFPは、認識のズレを防ぐ強い手段になります。
困るのは、形式を作ること自体が目的になってしまう中小企業があることです。
中小企業にとって本当のリスクは、RFPが完璧でないことではありません。何も伝えずに声をかけ、業種も規模も違う会社向けの提案書が、そのまま返ってくることです。
自社がどちらに当てはまるかは、次の表で見当をつけてください。
| 自社の状況 | 向いている進め方 |
|---|---|
| 選定に専任で数週間あてられる担当者がいる | 7要素・6ステップの本格的なRFP |
| 複数の拠点・部門の要件を1つにまとめる必要がある | 本格的なRFP(社内の合意形成を兼ねる) |
| 経営者か兼任の担当者が、本業の合間に進める | この記事の最低限アプローチ |
| 対象業務が販売・在庫・会計など数業務に収まる | この記事の最低限アプローチ |
本格的なRFPで進める場合の作り方は、ERP導入を成功させるRFPの作り方|失敗しない書き方とテンプレート活用法で扱っています。
中小企業のRFPで最低限伝えるべき5つのこと
本格的なRFPの7要素を真似る必要はありません。伝わっていないと提案が的外れになりやすい項目を、5つに絞りました。
| # | 伝えるべきこと | 具体的に書く内容 |
|---|---|---|
| 1 | 今、何に困っているか | Excelの二重入力、月次集計に時間がかかる、など具体的な困りごと |
| 2 | 対象にしたい業務の範囲 | 販売管理だけか、会計・在庫まで含めるか |
| 3 | 予算の目安 | 正確な上限でなくてよい。レンジで示す |
| 4 | 稼働してほしい時期 | 繁忙期を避けたい、決算月までに、など |
| 5 | 何を重視して選ぶか | 費用の安さか、サポート体制か、使いやすさか |
この5つが伝われば、ベンダーは「自社に合う提案かどうか」を自分で判断できます。伝わらなければ、当て推量で提案書を作るしかありません。
予算を先に伝えることへの不安
「予算を先に伝えると、その金額いっぱいの提案しか来ないのでは」と心配される方がいます。
気持ちは分かります。それでも、伝えないことのほうがリスクは大きい。レンジが分からないまま作られた提案は、桁が一つ違うことも珍しくありません。的外れな提案を比べる時間のほうが、よほど無駄になります。
正確な金額でなく、「◯◯〜◯◯の範囲で検討している」という幅で十分です。
提案依頼書の最低限フォーマット:文書でなくメールでもよい
「フォーマット」と聞くと、体裁の整った文書を想像するかもしれません。最低限アプローチなら、メール1本でも構いません。
形式は問いません。最低限伝えるべき5つのことが、抜けなく書かれていれば足ります。
件名:システム導入のご相談(御見積・ご提案のお願い)
・現状の課題
(例)受注情報をExcelで管理しており、月末の集計に3日かかっている
・対象にしたい業務範囲
(例)受注・在庫管理。将来的には会計との連携も検討したい
・予算の目安
(例)初期費用と月額利用料をあわせて、年間◯◯程度を想定
・希望する稼働時期
(例)来年度の決算月(◯月)までに本稼働したい
・重視する点
(例)費用よりも、導入後のサポート体制を重視したい
上記をふまえたご提案と、概算のお見積りをお願いできますでしょうか。
このメールを、複数のベンダーに同じ内容で送ってください。比較を意味のあるものにするには、「各社に同じ内容を送ること」が何より大切です。聞く内容を社ごとに変えると、返ってきた提案を並べても比べられません。
送信前に、次の点を社内で確かめておくと安心です。
- □ 困りごとが「業務効率化」のような抽象語でなく、場面と数字で書けている
- □ 対象範囲に「今回は含めない業務」も書いてある
- □ 予算の幅について、決裁する人の了解を取っている
- □ 稼働時期の理由(決算、繁忙期など)が一言添えてある
- □ 重視する点が1つに絞れている
送る前に済ませておく、最低限の現状整理
メールを送る前に、準備がひとつだけ要ります。現状の業務を、ざっくりとでも書き出しておくことです。
ここを飛ばすと、ベンダーからの質問に答えられず、やり取りが何往復も続きます。
- 今、どの業務を何で管理しているか(Excel、紙、既存システムなど)
- 誰が担当しているか
- データがどこに、どんな状態であるか
この工程を丁寧に行うことを、本来は「要件定義」(システムで何を実現するかを決める作業)と呼びます。時間が取れるなら、Odoo導入の要件定義の進め方で紹介している5ステップのうち、最初の「現状の棚卸し」だけでも目を通してください。メールの中身が、ぐっと具体的になります。業務の書き出しを選定や稟議の資料につなげる流れは、見える化の成果物を、システム選定につなぐ——RFI・RFP・稟議にまとめています。
最低限アプローチの良い点と、気をつけること
5項目のメールと現状整理で進めるやり方は、体制の限られた中小企業向けの近道です。得られることと、先に知っておきたい負担を並べます。
良い点は、次の4つです。
- 的外れな提案を防げる:5項目が伝われば、ベンダーは自社に合う提案かどうかを自分で判断できる
- 時間も人手も少なくて済む:体裁の整った文書でなく、メール1本でも構わない
- 提案を同じ条件で比べられる:各社に同じ内容を送るので、返ってきた提案を並べて比べられる
- 止まらずに動き出せる:隙のない資料を目指して、何か月も動けなくなる事態を避けやすい
気をつけることは、次の4つです。
- 現状の整理は省けない:業務の書き出しを飛ばすと、ベンダーからの質問に答えられず、やり取りが何往復も続く
- 予算の幅を先に伝える:決裁する人の了解を取ったうえで、レンジで示す
- 総額だけでは比べられない:内訳の項目名をそろえ、「安い理由」を確かめる
- 向かない会社もある:専任の担当者がいる会社や、複数の拠点・部門の要件をまとめる会社は、本格的なRFPが向く
内訳の比べ方は返ってきた提案の比べ方、止まらないための目安はありがちな2つの失敗で扱っています。
返ってきた提案と見積もりをどう比較するか
提案が届いたら、次は比べる作業です。ここにも、中小企業が見落としやすい点があります。
総額だけを見比べると、含まれる作業の範囲が違うことに気づけません。ある提案が安く見えても、業務設計や教育・定着支援が含まれていないだけ、ということがあります。
一般的な費用の項目は、Odoo導入にかかる費用の構造にまとめたとおりです。提案書を並べる前に読んでおくと、内訳のどこを確かめるべきかが分かります。
比べるときは、次の観点で見てください。
- 総額ではなく、内訳の項目名をそろえて比べる
- 「安い理由」を必ず確かめる(何が含まれていないのか)
- 最低限伝えるべき5つのことの5番目「重視する点」に照らして、最終判断をする
ありがちな2つの失敗
失敗1:本格的なRFPを目指して、止まってしまう
隙のない資料を作ろうとしてテンプレートを探し続け、社内の意見もまとまらない。そのまま、何か月も動けなくなるケースです。
選定が止まっている間も、いまの非効率はそのまま続きます。資料の完成度より、まず動くことが大切な場面があります。
失敗2:何も伝えずに、とりあえず声をかけてしまう
逆のパターンです。「まず話を聞いてみよう」と、現状も予算も伝えずにベンダーへ連絡してしまう。
ベンダーは業種も規模も分からないまま、一般的な提案しか出せません。何度か商談を重ね、ようやく本題に入る。そんな遠回りになります。
どちらの失敗も、最低限伝えるべき5つのことを最初に伝えていれば防げます。
ベンチャーネットが提案依頼の前に一緒に確かめること
5項目を整理してメールを送る。ここまでは、多くの中小企業が自社で対応できます。
それでも「業務の伝え方が合っているか自信がない」「提案を見比べる目に自信がない」なら、外部の力を借りるのも一つの手です。ベンチャーネットが相談を受けたときは、メールを書く前に次の順で確かめます。
- 困りごとを、経営の言葉に言い換える:「集計に3日かかる」が、数字が遅れて判断が遅れる問題なのかを確かめます。数字をまず見える化したいのか、原因の分析や利益の出る判断までを狙うのかで、提案の中身が変わるためです。
- 3〜5年後の姿から、対象範囲を決める:今の困りごとだけで範囲を決めると、拠点や人員が増えたときに作り直しになります。数年後の事業の形から逆算して、「今回やる業務」と「後で足す業務」を分けます。
- 標準機能に業務を合わせられるかを見る:ERPは標準機能に業務を合わせるほど、費用も期間も読みやすくなります(OdooとFit to Standard)。どうしても譲れない自社独自の業務だけを、メールの「対象範囲」に書き添えます。
- 製品を決めずに、規模と要件で候補を振り分ける:規模が大きく複雑ならNetSuite、中小〜中堅ならOdoo、と見立てます。パッケージに乗らない固有業務が中心ならAIスクラッチ開発も候補です。ただしその場合、ライセンスがなくても開発費・保守費が別途かかります。
- 合わないなら、合わないと伝える:確かめた結果、今はERPを入れる時期ではないと判断することもあります。その場合も、理由をそのままお伝えします。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。特定の製品を前提にしないので、提案依頼の前段から一緒に整理できます。
RFP(提案依頼書)のよくある質問
RFPを作らず、口頭で伝えるだけではだめですか?
複数のベンダーに声をかけるなら、必ず文書かメールにしてください。小規模な依頼なら、口頭でも伝わることはあります。
口頭の内容は、ベンダーごとに解釈がずれます。同じ条件で比べるためにも、5項目は文字にして残してください。
この記事のメール例をそのまま使ってもいいですか?
そのまま使って構いません。ただし5つの項目は、自社の実情に合わせて具体的に書き換えてください。
「業務効率化のため」のような抽象的な表現のままだと、ベンダーの解釈に幅が出ます。それでは、5項目を用意した意味が薄れます。
ベンダーから追加の質問が来たら、誰が答えればいいですか?
窓口は1人に決め、各社への回答内容もそろえてください。ある社にだけ詳しく答えると、その社の提案だけ精度が上がり、比較が公平でなくなります。
業務の細かい質問は担当者に聞いて構いません。ただし回答は、窓口から全社に同じ内容で返すのが基本になります。
RFPと見積依頼(RFQ)は何が違いますか?
RFP(提案依頼書)は、課題や実現したいことを伝え、解決策そのものを提案してもらう文書です。RFQ(見積依頼書)は、仕様が決まっている前提で、金額だけを尋ねる文書です。
最低限アプローチでは、2つを厳密に分ける必要はありません。5項目には、課題と予算感の両方が含まれているためです。
中小企業がRFPを用意するメリットは何ですか?
的外れな提案を防ぎ同じ条件で比べられることです。
5項目が伝われば、ベンダーは自社に合う提案かどうかを判断できます。各社に同じ内容を送れば、返ってきた提案を並べて比べられます。一方で、専任の担当者がいる会社や、複数の拠点・部門の要件をまとめる会社には、本格的なRFPが向いています(本格的なRFPが向かないことがある理由)。
まとめ:中小企業のRFPは5項目を同じ条件で伝える
中小企業のシステム選びは、隙のないRFPを作ることが目的ではありません。5項目を、同じ条件で複数のベンダーに伝えることが大切です。
- 伝えるべきは「困りごと・対象範囲・予算感・時期・重視する点」の5つ
- 形式は文書でなくメールでよい。ただし各社に同じ内容を送る
- 送る前に、現状の業務をざっくりとでも棚卸ししておく
- 提案を比べるときは、総額でなく内訳の項目名で見る
- 動けなくなるくらいなら、まず動くことを優先する
1年後、手元には各社に送った同じ文面のメールと、内訳の項目名をそろえた比較表が残っています。「なぜこのベンダーにしたのか」と後から聞かれても、その2つを開けば、選んだ経緯をそのまま説明できます。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
5項目のメールを書く手前で迷っている段階でも、「何を、どう伝えれば的外れな提案を防げるか」の整理からご相談を承っています。
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