「人事もERPにまとめられますか」
会計・販売・在庫を比べ終えた方から、最後に出てくる質問です。
答えを先にお伝えします。人事まわりで比べるべき業務は、5つのうち2つだけです。
残りの3つは、どちらの製品を選んでも結論が変わりません。
この記事では、その見分け方を扱います。
会計まわりは会計・請求・経費、販売まわりは販売・CRM・店舗、在庫まわりは在庫・購買・製造で扱いました。
先に立場をお伝えします。ベンチャーネットはNetSuite認定パートナー(Solution Provider)であり、あわせてOdooの導入支援も行っています。どちらか一方に誘導する立場ではありません。
📌 この記事で分かること
- 人事まわりの5業務のうち、どれが比較の対象になるか
- 比較から外してよい業務を見分ける3つの問い
- 外した後、ERPに残るのは何か
- 勤怠を、どこで線引きするか
- この領域だけでERPを選ぶ理由が立たない、その理由
この領域で見るべきこと|比べる前に外す
判定は3つ
親ハブの記事と同じ定義を使います。
①標準で足りるとは、NetSuiteの標準機能に同じ業務範囲があり、追加の開発が要らない状態のことです。
②拡張で補うとは、標準にはないものの、項目・レコード・ワークフローを組み合わせて作れる状態のことです。
③連携するとは、相手側の商流や法制度への対応が価値の源泉であり、専用のサービスを残してつなぐ状態のことです。
45アプリ全体の対応表はOdooのアプリはNetSuiteで何に当たるかにあります。
ここまでの3本と、問いが変わります
人事の領域には、製品を変えても結論が変わらない業務が多く含まれます。
そこを先に外さないと、比較に時間がかかるだけで判断に近づきません。
5業務の判定表|結論は製品で変わるか
先に結論を置きます。いちばん右の列を見てください。
| 業務 | Odooのアプリ | NetSuiteでの実現 | 判定 | 結論は製品で変わるか |
|---|---|---|---|---|
| 従業員マスタ | Employees | 従業員の情報は標準。人事機能の範囲は🌏要確認 | ①/③ | 変わる |
| 採用 | Recruitment | 標準にはない。採用は専用サービスに任せる | ③ | ほぼ変わらない |
| 勤怠・休暇 | Attendances/Time Off | 休暇の残数は人事機能の範囲。労基法に沿った計算は外側 | ②/③ | 変わらない |
| 給与 | Payroll | 日本の給与計算には対応していない | ③ | 変わらない |
| 人事評価 | Appraisals | 評価は人事機能の範囲(🌏要確認)。簡易なシートは作れる | ②/③ | 変わる |
給与は、どちらの製品でも外側です。
Odoo側の対応表でも「置き換え対象外」と整理されています。日本の社会保険・源泉徴収・年末調整は、専用のサービスにしかありません。
これは製品の優劣ではありません。業務の性質が結論を決めています。
🌏 人事機能の提供範囲は、契約内容と地域によって変わります。導入時に最新の公式情報でご確認ください。
NetSuiteの人事機能そのものはNetSuite SuitePeople(HR)とは、海外拠点の給与はSuitePeople 米国給与とはで扱っています。
比較から外してよい業務の、3つの見分け方
ここが本記事の核です。
自社の人事業務を1つずつ、3つの問いに通してください。
1つでも「はい」なら、その業務は比較の対象から外せます。
問い1:どちらの製品でも、結局は外側のサービスに置くことになるか
給与がこれに当たります。
NetSuiteもOdooも、日本の給与計算には対応していません。
どちらを選んでも、給与のサービスは別に契約することになります。
この場合、比べる意味がありません。
確かめるのは「どちらが優れているか」ではなく、「どちらも同じように外側に置けるか」だけです。
問い2:法改正のたびに、追従し続ける必要があるか
労基法に沿った勤怠の計算がこれに当たります。
割増の計算、時間外の上限の管理、有給の付与と取得の記録。
これらは制度が変われば直す必要があります。専用のサービスは、その追従そのものを提供しています。
ERPの中に同じものを作ると、法改正のたびに自社で直すことになります。
販売・CRM・店舗の記事の第6章で挙げた「②になる条件」の2つ目(法規制の変化が遅い)を満たさない、典型的な例です。
問い3:ERPは、そのデータを受け取れれば足りるか
採用がこれに当たります。
応募者の管理、面接の日程調整、選考の進捗。これらはERPの中で動く必要がありません。
ERPが要るのは、入社が決まった後——従業員として登録され、部門と人件費に反映される段階からです。
この場合も、比較の対象から外せます。確かめるのは受け取り方だけです。
3つに通すと、こうなります
| 業務 | 問い1 | 問い2 | 問い3 | 比較対象 |
|---|---|---|---|---|
| 給与 | はい | はい | — | ❌外す |
| 勤怠の法定計算 | — | はい | — | ❌外す |
| 採用 | — | — | はい | ❌外す |
| 従業員マスタ | いいえ | いいえ | いいえ | ⭕残る |
| 人事評価 | いいえ | いいえ | いいえ | ⭕残る |
5業務のうち3業務が外れました。
外すと、ERPに残るのは2つだけ
外した後に残るものを整理します。人事の領域でERPが担うのは、次の2つです。
人の台帳
誰が、どの部門に、いつから所属しているか。
この情報は、会計・販売・在庫のすべてから参照されます。
誰が承認できるか、誰の工数を原価に載せるか、誰が経費を申請できるか。すべて従業員の情報が前提です。
だから人の台帳は、ERPの中にある必要があります。
専用の人事サービスに置いたままにすると、承認や原価の仕組みが人事サービスを見に行くことになり、連携が増えます。
承認の仕組みそのものはNetSuiteの承認ワークフローで扱っています。
人にかかるお金
人件費が、どの部門・どの案件・どの製品に、いくら乗っているか。
給与の計算そのものは外側でも、その結果の金額は会計に入ります。
そして原価や採算を見るときには、工数と組み合わせて使います。
- 工数をどう取るか → 工数管理を「現場の作業」で終わらせない
- 製造原価としての労務費 → 製造業の労務費管理とは
- 人件費をどう見るか → 人件費は「削る」ではなく「活かす」
人の台帳が外側にあると、何が起きるか
「人事サービスに従業員の情報があるのだから、ERPには要らない」
そう考えて台帳を外側だけに置くと、次の3つが起きます。
| 起きること | 理由 |
|---|---|
| 承認の設定が、毎回手作業になる | 誰が承認者かを判定するには、部門と役職がERPの中に要る |
| 原価に人件費が乗らない | 工数を入力した人の所属が分からないと、部門にも案件にも配れない |
| 退職者の権限が残る | 人事サービスで退職にしても、ERP側は別のデータを見ている |
3つとも、人事の問題ではなく会計と原価の問題として表面化します。
だから発覚が遅れます。月次の締めで数字が合わない、監査で権限の棚卸しを求められる、といった形で出てきます。
外側に置くのは手続きで、台帳そのものはERPにも要る。この区別が要点です。
残った2つは、どちらの製品でも扱えます
人の台帳と人にかかるお金は、NetSuiteにもOdooにもあります。
差が出るとすれば、他の領域とどれだけつながっているかです。
そしてそれは、会計や在庫の設計で決まる話になります。人事の領域だけでは決まりません。
勤怠|打刻と計算は外側、残数と工数はERP側
勤怠は、ひとまとまりに見えて中身が分かれます。ここを分けないと、判断を誤ります。
| やること | どこで | 理由 |
|---|---|---|
| 出退勤の打刻 | 外側 | 現場の端末・スマートフォンで毎日使うもの |
| 労基法に沿った労働時間の計算 | 外側 | 法改正への追従が価値の源泉 |
| 時間外の上限の管理 | 外側 | 同上 |
| 休暇の残数の把握 | ERP側でも可 | 従業員の情報の一部として持てる |
| 案件・工程ごとの工数 | ERP側 | 原価と採算につながる |
打刻と法定計算は外側、工数はERP側。これが基本の線引きです。
休暇の残数は、どちらでも持てます。
ただし2か所で持つと必ず食い違うので、どちらが正とするかを先に決めてください。
勤怠と工数は、別のものです
現場でいちばん混乱するのがここです。
- 勤怠:その人が、何時から何時まで働いたか(労務管理のため)
- 工数:その人が、どの案件・どの工程に何時間かけたか(原価と採算のため)
同じ日の同じ8時間でも、目的も、必要な粒度も違います。
勤怠だけを取って工数がない状態では、採算は見えません。逆も同じです。
分担の設計で決める3つのこと
外側のサービスを残すと決めたら、次の3つを先に決めてください。
| # | 決めること | 決まっていないと |
|---|---|---|
| 1 | どちらが従業員の情報を正とするか | 入社・異動のたびに二重入力になる |
| 2 | いつ、何を渡すか | 月次の締めで数字が合わない |
| 3 | 退職時に、どう止めるか | アカウントが残り続ける |
3つ目がいちばん抜けます。
入社の流れは設計されても、退職の流れは後回しになりがちです。人事サービス側で退職にしても、ERP側のアカウントが生きていることがあります。
渡すものは、2種類だけ
| 渡すもの | 向き | 内容 |
|---|---|---|
| 従業員の情報 | 人事サービス → ERP | 氏名・部門・役職・入退社日 |
| 給与の結果 | 給与サービス → ERP | 部門ごとの人件費の金額(仕訳) |
給与の明細そのものをERPに入れる必要はありません。
会計に必要なのは、部門ごとの合計の金額です。個人別の明細を持ち込むと、権限の設計が一気に重くなります。
この領域では、ERPを選ぶ理由が立ちません
正直に書きます。
人事・勤怠・給与の領域だけで、NetSuiteとOdooのどちらかを選ぶ理由は立ちません。
理由は3つです。
- 給与は、どちらも外側。比較の材料になりません
- 勤怠の法定計算も、どちらも外側。同じく材料になりません
- 残った2つ(人の台帳と人件費)は、どちらにもある
では何で決まるのか。他の領域です。
会計の深さ、在庫の深さ、販売の形。そこで製品が決まったあと、人事はその製品に合わせて分担を設計します。
順番が逆になっている検討を、よく見かけます。
「人事もまとめたい」から始めると、外側に置くしかない業務の比較に時間を使うことになります。
この領域でお伝えすることは1つだけです。
人事は、製品を決める材料になりません。決まった後に、分担を設計してください。
つまずく3つのパターン
パターン1:「人事も一元化できます」を前提に検討を始める
現象
ERPで人事をまとめる前提で要件を作る。給与の要件を詰める段階で「日本の給与には対応していない」と分かり、設計をやり直す。
構造的な原因
一元化の範囲を確かめずに始めているためです。会計・販売・在庫が一元化できるので、人事も同じだと考えてしまいます。
回避策
第3章の3つの問いを、要件を作る前に通してください。外れる業務が分かれば、要件の範囲が最初から正しくなります。
パターン2:勤怠と工数を、1つの仕組みで済ませようとする
現象
勤怠の打刻データから工数を作ろうとする。案件ごとの内訳が取れず、採算が見えないまま運用が始まる。
構造的な原因
目的が違う2つのデータを、同じものとして扱っているためです。勤怠は労務管理、工数は原価と採算のためのものです。
回避策
勤怠と工数は別に設計してください。現場の入力は1回にまとめる工夫ができますが、持つデータは分けます。
パターン3:退職の流れを設計しない
現象
入社時の登録は自動化したが、退職の処理が手作業のまま。退職者のアカウントが残り、棚卸しで発覚する。
構造的な原因
入社は頻度が高く、退職は散発的なためです。設計の議題に上がりにくく、運用開始後に問題になります。
回避策
分担を設計する段階で、退職の流れを必ず含めてください。「人事サービスで退職にしたら、ERP側で何が起きるか」を1行で書けるようにします。
ベンチャーネットの対応
ベンチャーネットは、NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であり、あわせてOdooの導入支援も行っています。
SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、特定の製品に誘導しない立場を取っています。
この領域では、次の3つを引き受けます。
- 比較の範囲を絞る:3つの問いを一緒に通し、比べなくてよい業務を外します
- 分担の設計:従業員の情報をどちらが正とするか、いつ何を渡すか、退職時にどう止めるかまで決めます
- 連携の実装と保守:人事サービス・勤怠サービス・給与サービスとの接続を設計・実装し、直し続けます
そして、この領域を製品選定の材料にしないようお伝えします。
人事だけでERPを決めることはできません。決まった後の分担設計が、ベンチャーネットの仕事です。
今日できること|3つの問いに通す
人事まわりの業務を書き出し、3つの問いに通してください。
- どちらの製品でも、結局は外側のサービスに置くことになるか
- 法改正のたびに、追従し続ける必要があるか
- ERPは、そのデータを受け取れれば足りるか
1つでも「はい」なら、その業務は比較の対象から外してください。
残ったものが、この領域で検討すべき範囲です。
多くの会社で、残るのは人の台帳と人にかかるお金の2つになります。
45アプリ全体で同じ棚卸しをするなら、OdooのアプリはNetSuiteで何に当たるかの対応表を使ってください。
もう少し詳しく知りたい方へ
いま使っている人事・勤怠・給与のサービスを書き出していただければ、分担の設計から一緒に始められます。
この領域は製品選定の材料にならない、ともお伝えします。
よくある質問
Q1. NetSuiteで日本の給与計算はできますか
できません。Odooも同じです。
社会保険料の計算、源泉徴収、年末調整は、日本の給与サービスにしかありません。
どちらの製品を選んでも、給与のサービスは別に契約することになります。詳しくはSuitePeople(HR)とはにまとめています。
Q2. では、ERPに人事を入れる意味はありますか
あります。ただし範囲は2つです。
人の台帳(誰がどの部門にいるか)と、人にかかるお金(人件費がどこに乗っているか)。
この2つは、承認・原価・採算のすべてから参照されます。ERPの中にある必要があります。
Q3. 勤怠はERPで扱えませんか
打刻と労基法に沿った計算は、外側に置いてください。
法改正への追従が要る領域で、専用のサービスはその追従そのものを提供しています。
一方、案件ごとの工数はERP側です。勤怠と工数は別のものとして設計してください(第5章)。
Q4. 従業員の情報は、どちらが正にすべきですか
人事サービス側を正にするのが基本です。
入社・異動・退職の手続きは人事サービスで行うためです。ERP側は、その結果を受け取ります。
ただし会社によって運用が違うので、どちらが正かを先に決めることのほうが大事です。2か所で編集できる状態が、いちばん問題になります。
Q5. 給与の明細をERPに入れるべきですか
必要ありません。
会計に要るのは、部門ごとの合計の金額です。個人別の明細を持ち込むと、誰がどこまで見られるかという権限の設計が重くなります。
Q6. 人事でERPを決められないなら、何で決めるのですか
会計・販売・在庫のいずれかです。
それぞれの判断材料は、会計・請求・経費、販売・CRM・店舗、在庫・購買・製造の3本にまとめています。
人事は、製品が決まった後に分担を設計する領域です。
まとめ:比べる前に、比べなくてよいものを外す
この記事の要点を整理します。
- 人事まわりの5業務のうち、比較の対象になるのは2つだけ
- 外す見分け方は3つ。どちらも外側になるか/法改正に追従し続けるか/データを受け取れれば足りるか
- 給与はどちらの製品でも外側。勤怠の法定計算も同じ
- 残るのは、人の台帳と人にかかるお金の2つ
- 勤怠は分ける。打刻と法定計算は外側、工数はERP側
- この領域だけでERPを選ぶ理由は立ちません
「人事もまとめたい」から検討を始めると、外側に置くしかない業務の比較に時間を使うことになります。
比べる前に、比べなくてよいものを外してください。
そこからご相談いただければ、分担の設計は短時間で済みます。
