「不具合が見つかった。どのロットが、どの取引先に出ているのか」
製造業や食品・医薬の会社では、この問いに答えるまでの時間が、信用を分けます。
NetSuiteのロット管理・シリアル番号管理とは、品目に番号を付けて、仕入から在庫・出荷までを後から追えるようにする機能です。
この「後から追える状態」を、トレーサビリティ(追跡可能性)と呼びます。
ロットはまとまりごとに、シリアルは1つずつ番号を付けます。
品目の種別は、品目を作るときに決めます。後からの切り替えは難しいからです。
ところが、番号を付けているのに、回収のときに出荷先をすぐ出せない会社があります。
番号を付けることと、追えることは、どこで分かれるのか。
この記事で分かること
- ロット管理とシリアル番号管理の違いと、使い分け
- 機能の有効化と、品目の設定の要点
- 組立品・自動採番・ビンの管理で、先に知っておく条件
- 番号を「追える状態」にする設計と、よくある3つの失敗
- 品目の種別を決める前に行う、追跡の見える化
言葉の整理
- ロット:同じ条件で作ったり仕入れたりした、ひとまとまりの品目
- シリアル番号:製品1つずつに付ける、固有の番号
- ビン:倉庫の棚や置き場を表す、置き場所の管理の単位
- SuiteApp:NetSuiteに追加して使う、公式の拡張パッケージ
回収のときに問われる3つのこと
製品に不具合が見つかったとき、最初に問われるのは次の3つです。
- どのロットが影響を受けるのか
- その在庫は、いまどこにあるのか
- すでに出荷した分は、どの取引先に渡ったのか
短い時間で答えられるかどうかで、回収の範囲も、取引先からの信頼も変わります。
規制や回収の対応が求められる食品・医薬・部品の業界では、なおさらです。
ロット・シリアルの設定は、機能の話である前に、経営の備えです。
ロット管理とシリアル番号管理の違い
Oracleのヘルプでは、2つを次のように説明しています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Lot Numbered Items」「Serial Numbered Items」、2026年9月確認)
- ロット番号品目:まとまりに番号を付けて、購入・在庫・販売を追う。ロットごとに数量と原価を持つ。ロット番号の記録に、有効期限とメモを入れられる
- シリアル番号品目:1つずつに番号を付けて、購入と販売を追う。出荷や入荷のときに特定の1つを選べる。履歴から、その品目の原価や状態を追える
ヘルプでは、生鮮品を扱う卸が、ロット番号と有効期限を付けて追う例が挙げられています。
| 観点 | ロット管理 | シリアル番号管理 |
|---|---|---|
| 追う単位 | まとまり(ロット) | 1つずつ |
| 原価の持ち方 | ロットごとの数量と原価 | 1つずつの履歴で原価を追う |
| 有効期限 | ロット番号の記録に入れられる | ― |
| 向いている品目 | 食品・原材料・医薬品など | 機器・高額品・保証を管理する品目など |
機能を有効にする
設定の入口は1か所です(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Enabling Lot Numbered Inventory」、2026年9月確認)。
- Setup > Company > Enable Features を開く
- Items & Inventory のタブを選ぶ
- Lot Tracking(ロット)か Serialized Inventory(シリアル)、または両方にチェックを入れる
- 保存する
ヘルプでは、この手順は管理者が行うとされています。
ビンの単位まで追いたい場合は、Advanced Bin / Numbered Inventory Managementもあわせて有効にします(5-3)。
ここでオンになるのは、機能だけです。
採番のルールや有効期限の運用は、別に決めなければなりません。
品目の設定
品目の種別は、作るときに決める
品目は、作るときに「ロット番号」か「シリアル」の種別を選びます。
ヘルプでは、既存の在庫品目はシリアルの品目に変換できず、新しく作る必要があるとされています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Enabling Serial Numbered Inventory」、2026年9月確認)
実務では、新しくロット・シリアルの品目を作り、在庫を移します。
追う必要がある品目は、最初からロット・シリアルで作るのが安全です。
品目の設定で先に決めることを並べると、次のとおりです。
有効期限と警告
ロット番号の記録には、有効期限を入れられます。
期限が近いロットの警告は、Setup > Accounting > Accounting Preferences で設定します。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Building a Lot Numbered Assembly」、2026年9月確認)
警告を期限の何日前に出すかは、同じ画面の Items/Transactions のタブで決めます。
項目の名前は Days Before Lot Expiration Warning です。
ロット番号と期限を印字したラベルも、Transactions > Management > Print Checks and Forms から出せます。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Viewing Lot Numbered Inventory Item Records」、2026年9月確認)
追いたい情報を項目として持つ
ロット・シリアルの品目には、番号ごとの項目を追加できます。
ヘルプでは、品質管理の手順やリコールの情報などを持たせる例が挙げられています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Lot Numbered Items」、2026年9月確認)
組立品の条件
組立品(アセンブリ)は、部品を組み合わせて1つの完成品にする品目です。
ヘルプでは、通常の組立品には、ロットやシリアルの品目を部品として含められないとされています。
組立品自体をロット番号かシリアルにすれば、含められます。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Assembly Item Records」、2026年9月確認)
| 組立品の種別 | ロット・シリアルの部品 |
|---|---|
| 通常の組立品 | 含められない |
| ロット番号の組立品 | 含められる |
| シリアルの組立品 | 含められる |
ロット番号の組立品を組み立てるときは、部品のロット番号を「LOT#(数量)」の形で入れます。
たとえば「ABC1234(100)」です。
組み立てた後の原価は、部品の値の合計になります。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Building a Lot Numbered Assembly」、2026年9月確認)
製造の全体の流れは、NetSuite製造業向け導入ガイド(生産・原価・在庫)で扱っています。
番号の自動採番(Lot Auto Numbering)
番号は、手で入れるだけでなく、自動で付けることもできます。
Oracleのヘルプでは、Lot Auto NumberingのSuiteAppを次のように説明しています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Lot Auto Numbering SuiteApp」、2026年9月確認)
- ロットとシリアルの採番の形式を決め、自動で付ける品目を選べる
- 組立品と在庫品目の両方で、ロットとシリアルの採番に対応する
- 仕入先のロット番号・製造日・原産国・Heat Code(金属の溶解の番号)などを持てる
- 対象は、発注書・入荷・インバウンド出荷の受け取り・作業指示の完了・組立・外注の製造
制約もあります。
- 採番の形式や追加の項目を、CSVで取り込めない
- ロット番号の品目や追加の項目を、SOAPやRESTのWebサービスで作成・更新できない
ヘルプでは、主にOneWorld向けに設計・テストされていると書かれています。
OneWorldは、複数の法人・国・通貨をまとめて管理するNetSuiteの構成です。
必要な機能には、Advanced Bin / Numbered Inventory Managementが含まれます。
Lot TrackingとSerialized Inventoryも必要です。
入れ直しを避けるため、Lot TrackingとSerialized Inventoryは、両方を有効にしてから入れるよう案内されています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Installing the Lot Auto Numbering SuiteApp」、2026年9月確認)
取引での使い方
入荷・出荷で番号を入れる
取引の「Serial/Lot Number」の欄に番号を入れます。
シリアルの品目は、数量の分だけ番号が要ります。
数量が2なら、番号も2つです。
番号は、空白・カンマ・改行で区切ります。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Serial Numbered Items」、2026年9月確認)
番号を入れずに数量だけを引き当て、番号を後から指定することもできます。
ただしヘルプでは、番号を指定するまで数量のずれが残るため、引き当てたときに番号も入れるよう勧めています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Selecting Lot Numbers on Transactions」ほか、2026年9月確認)
在庫の調整と、番号を変えたときの注意
棚卸の差などの調整は、Transactions > Inventory > Adjust Inventory で行います。
次の2点に注意します。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Adjusting Serialized Inventory」ほか、2026年9月確認)
- シリアルの品目は、入れる番号の数を調整の数量とそろえる
- 出荷と請求が済んだ後は、請求書の上のロット番号は表示だけ。変えても在庫には反映されない
2点目は、運用のミスが起きやすいところです。
番号を直すときは、出荷の段階で直す手順を決めておきます。
ビンまで追うかどうか
| 観点 | 基本のBin Management | Advanced Bin / Numbered Inventory Management |
|---|---|---|
| ロット・シリアルとビン | 結びつけられない | ビンに結びつけられる |
| ビンの登録 | 品目の記録に先に登録する | どの品目にも、どのビンでも使える |
| 拠点ごとの設定 | ― | 拠点ごとにビンを使うかを決められる |
| 向いている会社 | 番号を追うことが主な目的 | 倉庫の置き場まで追いたい |
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Advanced Bin / Numbered Inventory」、2026年9月確認)
店舗向けのPOS(SuiteCommerce InStore)で番号付きの品目を扱う場合は、ビンの管理との組み合わせを提供元に確かめてください。
棚卸でロット・シリアルの品目を数える方法は、NetSuite Smart Countで扱っています。
番号を「追える状態」にする
番号を付けても、たどる道を設計していなければ、回収のときに使えません。
ヘルプでは、ロット番号の記録から取引を検索できると説明されています。
そのロットが、いつ・どこで入荷・保管・移動され、組立品に使われ、販売されたか。
回収の対象のロットの販売先を洗い出す例も挙げられています。
(出典:Oracle NetSuite公式ヘルプ「Viewing Lot Numbered Inventory Item Records」、2026年9月確認)
- 原材料から先へたどる:ロットの記録の取引の検索で、使った組立品や販売先を見る
- 完成品からさかのぼる:組立の記録に入れた部品のロット番号(4-4)を見る
たどれるかどうかを決めるのは、4-3の項目と、検索の条件です。
どちらも、品目を作る前に設計しておきます。
判断の物差し|ロット・シリアル・番号なし、そしてNetSuite以外
| 自社の状況 | 合いやすいやり方 |
|---|---|
| 食品・原材料・医薬品で、期限と回収の範囲を追いたい | ロット管理 |
| 機器や高額品で、保証や修理を1つずつ追いたい | シリアル番号管理 |
| 取引先や規制から、追跡を求められていない | 番号なし。先に品目と在庫の持ち方を整える |
| 倉庫の置き場まで追いたい | ロット・シリアル+Advanced Bin / Numbered Inventory Management |
| 食品業などの業界に特化した帳票や手順が必須 | 業界向けの国産ERPも比べる |
| 独自の追跡の画面や手順がどうしても要る | NetSuiteの開発、またはAIスクラッチ開発 |
業界に特化した国産ERPの一例は、スーパーカクテルCore FOODsとはで扱っています。
在庫と販売を小さく始めたい会社は、Odooとはも参考になります。
これから入れる会社は、要件の段階で組立品に番号付きの部品が入るかを見てください。
通常の組立品には、番号付きの部品を含められないからです。
NetSuiteの価格は、ミニマム構成で月額20万円〜が出発点で、構成によって数百万円規模になることもあります。
導入費用は、ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用で見ると幅があります。
3名程度・1.5か月の150万円程度から、100名程度・1.5年の2億円程度(うち開発約7割)までです。
差を生むのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
条件は、NetSuiteの料金・費用・価格に載せています。
いまNetSuiteを使っていて、追跡を足したい会社
通常の在庫品目で運用している場合は、品目を作り直して在庫を移す計画が要ります。
- 追跡が要る品目を、取引先や規制の要求から絞る
- 新しいロット・シリアルの品目を作る
- 在庫を移す日を決め、移す前後の取引の扱いを決める
- 古い品目を使わないようにする
確かめる項目にすると、次のとおりです。
導入したパートナーの支援が終わり、設定の意図が分からないこともあります。
その場合は、いまの品目と機能の設定を一覧にすることから始めます。
在庫の管理の全体像は、NetSuiteの在庫管理でできることで扱っています。
よくある3つの失敗
失敗1:品目の種別を、後から変えようとする
起きること:通常の品目で始め、後から追跡が要ると分かる。切り替えられず、作り直しと在庫の移し替えが発生する。
原因:既存の在庫品目は、シリアルの品目に変換できません(4-1)。
避け方:要件の段階で、どの品目を・どの単位で追うかを決めます。
組立品に番号付きの部品が入る場合は、組立品自体の種別も決めます。
失敗2:機能を有効にしただけで、運用を決めない
起きること:採番のルールが人によってばらばら。期限の警告を誰も設定していない。
原因:機能の有効化は、チェックを入れれば終わります。
採番の形式・期限の警告・入力の担当は、別に決める必要があります。
避け方:自動採番のSuiteAppと期限の警告を、運用のルールとセットで決めます。
CSVやWebサービスでの取込に制約がある点も、先に押さえておきます。
失敗3:記録したのに、回収のときに使えない
起きること:番号は付けているのに、どのロットがどこへ行ったかをすぐに抜き出せない。
原因:回収を想定した項目と検索を、設計していません。
避け方:年に一度、回収の訓練として「このロットの出荷先を30分で出せるか」を試します。
出せなければ、項目と検索を見直します。
ベンチャーネットならこう見る|追跡の見える化→品目の整理整頓→種別の決定
ロット・シリアルの相談で、ベンチャーネットは品目の設定画面から入りません。
先に、追跡の要求と、いまの品目のデータを整えます。
品目の種別は後から変えにくいので、ここで決めた内容がそのまま残るからです。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットの進め方は、次の3段です。
- 追跡の見える化:取引先の契約や規制の文書から、どの品目を・どの単位で・何時間以内に追う必要があるかを書き出す
- 品目の整理整頓:使っていない品目、重複した品目を片付け、追う品目の一覧をそろえる
- 種別の決定とFit&Gap:品目ごとにロット・シリアル・番号なしを決め、組立品・ビン・自動採番の条件と照らし合わせる
2段目は、定着の手順でいう「データ整理を最初に」です。
品目のデータが散らかったまま種別を決めると、作り直しが後から出やすくなります。
標準で収まらない要求は、3つから選びます。
標準の検索で追えるなら合わせる。
独自の追跡の画面がどうしても要るなら開発する。
外部の倉庫の番号の管理は、倉庫の仕組みに残してつなぐ。
つなぎ方は、NetSuiteと物流SaaS/3PLの連携で扱っています。
最後に、回収の訓練で「たどれるか」を試してから、本番の運用に入ります。
今日できること|追跡の要求を1枚にする
1時間あれば、次の表を埋められます。
| 品目の分類 | 求めている相手 | 追う単位 | 期限・組立品に入るか |
|---|---|---|---|
| (例)原材料A | 取引先の品質の基準 | ロット | 期限あり・組立品に入る |
取引先の契約書や、業界の規制の文書を手元に置いて書き出します。
「求めている相手」が空欄の品目は、番号を付けなくてよい可能性があります。
よくある質問
Q1. ロット管理とシリアル番号管理の違いは何ですか
追う単位が違います。ロットはまとまり、シリアルは1つずつです。
ロットは、ロットごとに数量と原価を持ち、有効期限を入れられます。
シリアルは、特定の1つを選んで出荷や入荷ができます。
Q2. いまの在庫品目を、後からロット・シリアルに変えられますか
新しい品目を作るのが基本です。
ヘルプでは、既存の在庫品目はシリアルの品目に変換できないとされています。
新しい品目を作って在庫を移すのが実務です(4-1)。
Q3. 組立品の部品に、ロット・シリアルの品目を使えますか
組立品自体がロットかシリアルなら使えます。
通常の組立品には、ロット・シリアルの品目を部品として含められません(4-4)。
Q4. 食品や医薬の有効期限の管理に使えますか
使えます。ロット番号の記録に有効期限を入れられます。
期限が近いロットの警告は、会計の設定の画面で決めます(4-2)。
Q5. ロット番号は自動で付けられますか
付けられます。Lot Auto NumberingのSuiteAppを使います。
主にOneWorld向けに設計・テストされていて、所定の機能の有効化が前提です。
形式のCSVでの取込には対応していません(4-5)。
Q6. ロット・シリアルの品目を、ビンで管理できますか
できます。Advanced Bin / Numbered Inventory Managementを有効にします。
基本のBin Managementでは、ロット・シリアルの品目をビンに結びつけられません(5-3)。
まとめ
- ロットはまとまり、シリアルは1つずつを追う
- 品目の種別は作るときに決める。後からの切り替えは難しい
- 通常の組立品には、番号付きの部品を含められない。組立品自体の種別も決める
- 自動採番はLot Auto Numbering。CSVとWebサービスの制約を先に押さえる
- 追えるかどうかは、番号ごとの項目と検索の設計で決まる
「どのロットが、どの取引先に出ているのか」
この問いに30分で答えられるか。
回収の訓練で一度試すと、自社の番号がどこまで追えるかが分かります。
もう少し詳しく知りたい方へ
追跡の要件は、業界・取引先・組立品の有無で変わります。
品目の種別の決め方や、既存の品目の移し方から、ご相談をお受けしています。
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