「AIで儲かっているのは、結局IT企業だけではないか」。
製造・物流・卸・人材・現場サービスの経営者から、ベンチャーネットはこの言葉をよく聞きます。
利益率が数%の商売で、AIに投資する余裕などない、と。
実は、その逆かもしれません。
利益率が低い会社ほど、AIがもたらす利益の伸びは大きくなり得ます。
この記事では、その理由を「利益の算数」から解きほぐします。
そして、社員にAIツールを配らずに利益を伸ばす実装の考え方を紹介します。
「AIで儲かるのは、IT企業の話」だと感じていませんか
原材料は上がり、人件費も上がる。
それでも価格には転嫁しきれず、利益は薄いまま。
求人を出しても人は来ず、現場は今日も残業でしのいでいる。
そんな状況で「AI活用」と言われても、遠い話に聞こえます。
高い利益率を誇るIT企業が、さらに儲けるための道具。
うちのような薄利の商売には関係ない——そう感じるのは自然なことです。
ところがいま、海外の投資家やAI実装の現場では、逆の見方が広がっています。
AIの恩恵がもっとも大きいのは、利益率がもっとも低い業種かもしれない、という見方です。
なぜそんなことが言えるのか。鍵は、利益の構造にあります。
なぜ薄利の会社ほど、AIで利益が伸びるのか
理由は2つあります。
薄利の会社では小さなコスト削減が利益を大きく動かすこと。
そして、その削減余地が「仕事の裏側」に手つかずで残っていることです。
売上を増やすより、コストを減らすほうが利益に効く
簡単な算数で確かめてみます。
売上10億円、営業利益率3%の会社を考えてください。
営業利益は3,000万円です。
この会社が利益を2倍にしたいとき、道は2つあります。
1つ目は、売上を増やす道です。
利益率が変わらないなら、売上を2倍の20億円にする必要があります。
営業・生産・物流の体制をすべて倍にする話であり、現実的ではありません。
2つ目は、コストを減らす道です。
売上10億円の会社の営業費用は9億7,000万円。
このうち、わずか3%強を削減できれば、利益は2倍の6,000万円になります。
売上を1円も増やさずに、です。
これが薄利の会社に固有の「てこの原理」です。
利益率30%の会社では、同じ3%のコスト削減をしても利益は1割しか増えません。
利益率3%の会社では、同じ削減が利益を2倍にします。
利益率が低いほど、小さなコスト削減が大きな利益に化けるのです。
図1:営業利益率3%の会社では、費用を売上の3%分減らすだけで利益が2倍になる
自社の業種の利益率水準は、中小企業庁「中小企業実態基本調査」で確認できます。
製造・卸・運輸といった労働集約型の業種では、営業利益率が数%にとどまる会社は珍しくありません。
つまり、この「てこ」がもっとも強く効く場所に、日本の中小企業の多くが立っています。
なお、業界の中で利益率の「上位5%」を目指す考え方は、儲かる会社は、業種の「異常値」である——上位5%を目指すのが経営戦略で詳しく解説しています。
利益を静かに食っているのは、”仕事の裏側の調整コスト”
では、何を削減するのか。
製品の原価や配送そのもののコストは、すでに削り尽くしている会社がほとんどでしょう。
見落とされているのは、仕事の「裏側」です。
- 配車やシフトの組み直し
- 見積・受注・請求の突き合わせと照合
- 社内承認の依頼と催促
- 顧客への進捗連絡
- 「いつもと違う」例外案件への対応
どれも、売上を1円も生まない仕事です。
しかし現場と事務方の時間を、毎日確実に消費しています。
ベンチャーネットはこれを「調整コスト」と呼んでいます。
人と人、部門と部門、システムとシステムの間をつなぐために発生する、見えにくいコストです。
調整コストが厄介なのは、どの科目にも「調整費」とは書かれていないことです。
人件費や販管費の中に溶け込んでいて、決算書には現れません。
だからこそ、削減の対象として意識されないまま残り続けます。
労働集約型の薄利ビジネスほど、この調整コストの比重は大きくなります。
人が多く、案件が多く、例外が多いからです。
そして、ここにこそAIがもっとも効きます。
調整コストは、社員に「AIを使わせる」方法では減らない
削減の対象が決まったら、次は方法です。
ここで多くの会社が選ぶ「AIツールの配布」には、構造的な弱点があります。
ソフトを配る発想と、仕組みに埋め込む発想
「では、社員にAIツールを契約して配ろう」。
そう考えたくなりますが、ここに落とし穴があります。
ソフトを配るという方法は、社員一人ひとりの努力に頼る方法です。
使い方を覚えてもらい、毎日思い出して使ってもらう必要があります。
忙しい現場ほど、新しい道具は定着しません。
数か月後、使っているのは一部の若手だけ——というのは、よくある結末です。
ベンチャーネットが勧めるのは、逆の発想です。
AIを「社員が使う道具」ではなく、「業務の下を流れる仕組み」として埋め込みます。
いま動いているメール・Excel・基幹システム・承認フローはそのままに、
その間で発生していた照合・転記・振り分け・連絡を、仕組み側が黙って処理する形です。
この形なら、社員は新しい操作を覚える必要がありません。
気づいたら、突き合わせ作業が終わっている。
承認依頼が自動で回っている。
「AIを使う努力」をしていないのに、仕事の裏側が軽くなっている。それが目指す状態です。
図2:「AIツールを配る」方式と「業務インフラに埋め込む」方式の違い
例外だけを人に回す——判断は人に残す
仕組みに埋め込むといっても、すべてを自動にするわけではありません。
定型の流れは仕組みが処理し、「いつもと違う」例外だけを人に回します。
いつもと違う大口注文。金額の合わない請求。初めての取引先。
こうした例外は、経営の判断そのものです。
AIに任せるのではなく、人がきちんと目を通し、決める。
仕組みの役割は、人がその判断に集中できるよう、定型作業を引き受けることです。
ベンチャーネットは、AIがすべてを解決するとは考えていません。
思考の作業は仕組みに任せられても、自社の商売を理解し、責任を持って決めるのは経営者と社員です。
判断と責任を人に残す設計こそが、現場に信頼されるAI実装の条件だと考えています。
データが1か所にあると、調整そのものが消えていく
調整コストの多くは、データがバラバラの場所にあることから生まれています。
受注はA社システム、在庫はExcel、請求は会計ソフト、連絡はメール。
人がその間を橋渡しするから、照合や転記や催促が発生します。
だとすれば、根本の打ち手は明快です。
データを1つの場所に集めれば、橋渡しの仕事そのものが減ります。
これが、ベンチャーネットがクラウドERP(販売・在庫・会計などを1つのデータベースで扱う統合業務システム)を勧める理由です。
NetSuiteのような単一データベースの上でなら、AIは断片ではなく商売の全体を見て働けます。
単一のデータベースが見える化・わかる化・儲かる化の3段をどう貫くかは、単一DBが、見える化・わかる化・儲かる化を貫くで全体像を描いています。
とはいえ、仕組みの設計は業種ごと、会社ごとに異なります。
どの調整コストが大きく、どこから埋め込むべきかは、現場を見なければ決められません。
しかも調整コストは、長年その仕事をしてきた人ほど「当たり前の風景」になり、内側からは見えにくいものです。
外の目が入ってはじめて「それは仕組みでなくせます」と気づける作業が、どの現場にも眠っています。
ベンチャーネットがFDE型(Forward Deployed Engineer:現場に入り込んで実装まで伴走するエンジニア)の支援にこだわるのは、このためです。
FDEという役割を中小企業の実務に読み解いた記事は、大企業のFDEを中小企業に”翻訳”する:見える化→わかる化→儲かる化をご覧ください。
「ツールを配る」と「仕組みに埋め込む」の違い
2つのアプローチの違いを整理します。
| 観点 | AIツールを配る | 業務インフラに埋め込む |
|---|---|---|
| 社員に求めること | 使い方を覚え、毎日使う努力 | 特になし(業務はそのまま) |
| 効果の出方 | 使う人だけ・使った日だけ | 業務が流れるたびに自動で |
| 定着 | 個人差が大きく、離脱しやすい | 業務の一部なので離脱がない |
| 例外への対応 | 人がツールで頑張る | 例外だけが人に届く |
| 効果の測り方 | 測りにくい(利用率頼み) | 処理件数・時間で測れる |
| 向いている会社 | 企画・開発など裁量の大きい職場 | 定型と例外が混在する現場 |
よくある失敗パターン
埋め込み型を目指す場合でも、次のつまずきがよく起きます。
失敗1:ツール配布で止まる。
全社員にAIの利用権を配って「活用推進」と呼んでしまうパターンです。
調整コストの構造には手が付かず、利用率の低さだけが残ります。
失敗2:例外まで自動化して、現場が止まる。
定型と例外を切り分けずに全部を自動化すると、例外案件で誤処理が起きます。
一度の誤処理で現場の信頼を失い、仕組みごと使われなくなります。
例外は必ず人に回す設計が先です。
失敗3:利益率の高い部門から始めてしまう。
効果が見えやすそうな花形部門から着手しがちですが、てこの原理は逆です。
調整コストが重く、利益率の低い現場ほど、同じ削減額でも利益への効きが大きくなります。
失敗4:数字を測らずに始める。
どの調整作業に何時間かかっているかを測らないまま導入すると、効果を検証できません。
まず現状の稼働を見えるようにしてから、埋め込む場所を決めます。
稼働の可視化の進め方は、稼働を可視化し固定費を変動費化するで解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 利益率が低く、AIに投資する資金の余裕がありません。
大規模なシステム刷新から始める必要はありません。
照合・転記・催促など、調整コストが集中している1業務から埋め込むのが定石です。
薄利の会社ほど、小さな削減が利益に大きく効くため、投資回収は早くなる傾向があります。
まず「どの調整に時間が消えているか」を測ることが、投資額を最小にする第一歩です。
Q2. 社員がITに強くありません。それでも使えますか。
埋め込み型では、社員が新しいツールの操作を覚える必要はほとんどありません。
いつものメールやExcelで仕事をしていれば、裏側で仕組みが動く設計にするからです。
ITに強い人材が社内にいない会社ほど、「配る」より「埋め込む」が向いています。
Q3. AIに任せて、判断を誤りませんか。
任せるのは定型の処理だけで、例外と判断は人に残します。
金額が合わない、初めての相手、いつもと違う——そうした案件は人に届く設計にします。
判断と責任を人に残すことは、ベンチャーネットがAI実装で最も重視している原則です。
Q4. どの業務から始めればよいですか。
件数が多く、ルールが決まっていて、例外が識別しやすい業務が第一候補です。
請求書の照合、受発注の転記、進捗連絡などが典型です。
逆に、判断の比重が大きい業務(価格交渉、与信、クレーム対応の中身)は後回しにします。
まとめ:薄利は弱みではなく、伸びしろ
利益率の低さは、これまで弱みとして語られてきました。
しかしAIの時代には、見方が変わります。
薄利であることは、小さなコスト削減が大きな利益に化ける「てこ」を持っているということです。
そのてこを動かす対象は、製品や配送ではなく、仕事の裏側の調整コストです。
そして動かし方は、社員にツールを配ることではなく、業務の下に仕組みを埋め込むことです。
定型は仕組みに、例外と判断は人に。
この設計ができたとき、薄利の現場は「AIで最も利益が伸びる場所」に変わります。
自社のどこに調整コストが眠っているのか。
まずはそこから、一緒に見つけていきませんか。
ベンチャーネットは、現場に入り込んで実装まで伴走するFDE型の支援で、
薄利の現場の利益構造を変えるお手伝いをしています。
気になった方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。


