前回「己の為に学ぶ」で、AI時代になぜ学ぶのかを考えました。答えは、誰かのためではなく己のために学ぶ、でした。
今回は一段上がって、こう問います。学び方そのものは、どう更新するのか。
この問いを、世界の最先端にいる一人の言葉を借りて読みます。Google DeepMindのデミス・ハサビス氏です。ただし順序は変えません。まず私のルーツから。次に彼の想像力。最後に、私の中に何が生まれたか、です。
私の学び方は、いつ変わったか
私の学び方は、あるとき「知る」で止まらなくなりました。きっかけは、岡本吏郎先生の教えとAIの仕組みが、同じ構造に見えた瞬間です。
以前の私は、知って終わりでした。本を読み、話を聞き、なるほどと思って閉じる。それで学んだつもりになっていました。
変わったのは、岡本先生からフィードバックの教えを受けたときです。要旨はこうです。すべてのことは、フィードバックする。
同じ頃、AIがフィードバックループで最適化されていく話を聞きました。試して、返りを見て、直す。その繰り返しで賢くなる。
二つが重なって、世の中の仕組みが肚に落ちました。人も会社も、同じ輪の中にいる。返りが来ない学びは、検証されないまま消えるのだと。
それ以来、私の学び方は三段になりました。
- 知る
- 自分の身の回りの具体で、同じことが起きていないか探す
- なければ、わざとやってみて、どんなフィードバックがあるかを試す
三段目まで回して、初めて学んだと言える。これが私のルーツです。
図1 私の学び方の輪——知って終わらせず、フィードバックが返る場に置く
ハサビスは何を言ったか
ハサビス氏は、次世代に必要な技能を「学び方を学ぶ」と呼びました。私はその言葉に、自分の三段の輪と同じ骨格を見ました。
デミス・ハサビス氏は、Google DeepMindの共同創業者でCEOです。2024年のノーベル化学賞を分かち合った科学者でもあります。
2025年9月、氏はアテネでギリシャ首相と対談しました。その全文書き起こしが、ギリシャ首相府の公式サイトで公開されています(2025年9月13日)。以下は、そこから私が自分で訳したものです。
氏はまず、AIが週ごとに変わる今、10年先の予測は難しいと述べます。確かなのは、大きな変化が来ることだけだ、と。
そのうえで、次世代に必要なものを挙げました。数学や科学や人文の知識に加えて、「learning to learn」——学び方を学ぶという「メタスキル」です。
自分はどんな条件で最もよく学べるか。新しい主題で、自分の学習速度をどう上げるか。確かなのは、キャリアを通じて学びつづけなければならないことだ、と氏は述べています。
私が目を留めたのは、もう一つの発言です。同じ対談で氏は、シリコンバレー流の「速く動いて壊す」には与しない、と述べました。代わりに使うのは科学の方法です。広く展開する前に、システムを理解しようとする。
理解してから広げる。試して、返りを見て、直す。私の三段の輪と、骨格が同じでした。
もう一つあります。異なる分野をつなぐ発見の機会は大きいが、それは情報に触れるだけでは起きない。自ら取りに行き、本当に吸収した場合にのみ起きる、と氏は述べています。
取りに行く。この言葉は、次の章で私の日常に戻ってきます。
一手一手が、フィードバックする
学び方の話は、私の場合、今日メールを打つかどうかに直結します。一手一手が、フィードバックを返すからです。
学び方を学ぶ、と言うと大きな話に聞こえます。私にとっては、日々の所作の話です。
今日メールを打つ。今日電話をする。それをしなければ、すべてが後倒しになります。返事も、次の判断も、その次の一手も。
逆に、今やれば新情報が手に入ります。その情報で経営を考え直し、修正できます。一手一手が、フィードバックする。これが私の実感です。
小さな例を一つ。
連絡が来ない商談がありました。待つという手もあります。しかし私は、自分からあえて取りに行きました。結果、その商談の確度を確認できました。
待った側には、何も入ってきません。取りに行った側にだけ、情報が入ります。ハサビス氏の言う「取りに行く」は、私にはこの場面のことでした。
完璧を目指すより、まず回す。フィードバックは、回した者にしか返りません。
図2 待つ側と取りに行く側——同じ一日で、情報が入る側が分かれる
私がつまずいた、四つのパターン
学び方を更新する途中で、私は何度も同じところでつまずきました。心当たりがあれば、同じ道です。
パターン1:「学び方を学ぶ」を、勉強法の話だと思う
- 速読やメモ術、AIツールの使い方ばかり集める
- 講座を渡り歩く
- 「何を学ぶか」のリストは増えるが、行動は変わらない
学びの中身(技法)と、学び方そのもの(メタ)の混同です。私も長く、技法を集める側にいました。変わったのは技法ではなく、順序でした。
パターン2:知って、終わりにする
- 本や動画で「なるほど」と思って閉じる
- 会議で共有して満足する
- 半年後に同じ話を聞き、また「なるほど」と思う
知識が、フィードバックの返る場に置かれていません。返りがなければ、学びは検証されないまま消えます。
知ったら、身の回りで同じことが起きていないか探す。なければ、わざと起こしてみる。それだけです。
パターン3:待てば、そのうち分かると思う
- 先方の返事を待つ
- 「AIが進めば楽になる」と様子見する
- 今日のメール・電話を、明日に回す
待つ側に立つと、一手ごとに返るはずのフィードバックが止まります。第3章の商談が私の答えです。取りに行った側にだけ、情報は入ります。
パターン4:うまくいったあとに、慢心する
- 過去の成功パターンで判断する
- 「自分は分かっている」と、人の話を途中で遮る
- 若手やAIの出す答えを、軽く見る
慢心すると謙虚さを失い、謙虚さを失うと学びを失います。その結果、時代から取り残されます。輪を回していても、受け取る姿勢が閉じれば情報は入りません。
私の解毒剤は、自分より先を見ている人の言葉を直接読むことです。それが最後の章につながります。
ドラッカーが「学習の機関」と呼んだもの
私の三段の輪は、個人の話に見えます。しかし古典に当てると、組織の話でもあります。
ドラッカーは『新しい現実』で、こう述べています。
組織はすべて学習と教育の機関である。
(P・F・ドラッカー『経営の哲学』上田惇生編訳、ダイヤモンド社より)
さらに『ポスト資本主義社会』では、知識社会で生産性を上げるには、組織そのものが学ぶ組織、教える組織とならなければならない、と述べています。
(同じく『経営の哲学』所収、『ポスト資本主義社会』からの抜粋)
学ぶ組織とは、リーダー一人が輪を回すことではありません。今日の一手が返りを持つ、と社員も肚落ちしている状態です。
ハサビス氏の言葉は個人に向けたものでした。ドラッカーはそれを組織に広げます。私の役目は、まず自分の輪を人に見せることだと思っています。
絶望し、そして欲望が生まれる
世界の最先端にいる人の言葉を読むと、私はまず絶望します。そして、その絶望から欲望が生まれます。
ハサビス氏は、資源量に縛られない世界を「radical abundance」と呼びました。私はこれを「根源的な豊かさ」と訳しています。エネルギーや材料や医療の突破口が重なった先に、それがありうる、と氏は述べています。
その言葉を知ると、自分の現在地との距離が見えます。正直に言えば、絶望します。
しかし私の場合、絶望のあとに欲望が生まれます。この距離を、自分の学び方で縮めたい。慢心からは決して生まれない欲望です。
ギャップは、埋めるべき欠損ではなく、燃料です。次の記事「ギャップは、埋めるものではなく、燃料である」で、この距離の測り方を扱います。
そして問いは、シリーズの出発点に戻ります。なぜ、経営者は学びつづけなくてはいけないのか。学び方を学ぶとは、その問いを、毎日の一手で更新しつづけることでした。
あなたの学び方が変わった瞬間は、いつでしたか。よければ、その話を聞かせてください。塾長としてではなく、同じ輪を回す同志として。
よくある質問
「学び方を学ぶ」とは、勉強法を身につけることですか?
違います。学び方そのものを見直す力(メタスキル)のことです。
私の場合は、技法が増えたのではなく、順序が変わりました。知る、身の回りで探す、なければ起こして返りを取る。この三段です。
経営者は忙しくて学ぶ時間がありません。どうすれば?
学びを別枠の時間にしない、というのが私の答えです。
今日のメール、電話、商談の一手一手が、フィードバックを返す場になります。取りに行くほうが、後倒しがなくなる分、時間は減ります。
ハサビスのような最先端の話は、中小企業の経営に関係ありますか?
技術の話としては、直接は関係ありません。関係があるのは「学び方」です。
世界の先端との距離を知ると絶望しますが、その距離が欲望を生みます。次の記事で、この距離の測り方を扱います。
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出典
- Prime Minister of the Hellenic Republic「Prime Minister Kyriakos Mitsotakis’ conversation with Demis Hassabis」(2025年9月13日公開・対談は2025年9月)。引用は筆者訳
- P・F・ドラッカー『経営の哲学——いま何をなすべきか』上田惇生編訳、ダイヤモンド社(『新しい現実』『ポスト資本主義社会』からの抜粋)
- 岡本吏郎先生の教え(フィードバック)は、筆者が受けた講義の要旨
- The Nobel Prize「Demis Hassabis – Facts」(nobelprize.org、Nobel Prize in Chemistry 2024)
