「持続可能な豊かさ」は、何を前提にしているか——マスクの未来観を、自分のルーツから読む

前回「操作を覚えても、差はつかない」で、AI時代の役割の再設計を考えました。

今回は、その再設計の先で、何を「豊かさ」と呼ぶのか、という話です。

イーロン・マスク氏がCEOを務めるTesla社は、2025年9月、「持続可能な豊かさ」を掲げる文書を公表しました。豊かさは、何を前提にしているのか。順序は変えません。まず私のルーツから。次にその想像力。最後に、私の中に何が生まれたか、です。

目次

私は、何を豊かさと呼んできたか

私が会社を始めたとき、足りなかったのはお金でした。キャッシュがない。

ただ、SEOという面白い技術は手元にありました。だから、技術を磨きながら、自然とお金が増える仕組みを作りたかった。

最初の一歩は、偶然から来ました。このキーワードで上位表示できたら稼げますよ、という話をもらったのです。そして、成果報酬でそれを貯めさせてもらう機会を得ました。

そこからは、お金が稼げるニッチなキーワードに注力しました。実績を出し、その実績を元に横へ展開する。

小さな勝ちを次の勝ちに回す順序を、私はここで覚えたのだと思います。

いま私が豊かさと呼ぶのは、経営を通してクライアントも自社も豊かにし、社会に貢献していくことです。

ただ、この定義はAIで少し揺らいでいます。何が揺らいでいるのかは、第4章で書きます。

豊かさの三つの前提 成長は無限 不足は技術と 新しい発想で埋まる 労働の再定義 単調で危険な仕事を 機械へ、時間を人へ より広い手の届き方 安く、大量に、 誰でも使える 私の会社の豊かさは、何を前提にしているか 借りた前提を、自分の前提と突き合わせる Tesla Master Plan Part IV の指針原則から筆者が整理

図1 「豊かさ」の三つの前提——Tesla社の文書が置く前提を並べ、自分の会社の前提と突き合わせる

Tesla社は何を言ったか

Tesla社の文書は、豊かさを「制約を外すこと」と定義しました。私はそこに、自分が何を制約と呼び、何を外してきたかを問われました。

イーロン・マスク氏は、Tesla社のCEOです。2025年9月1日、同社は「Master Plan Part IV」を公式サイトで公表しました。署名は「The Tesla Team」で、企業名義の文書です。以下は、そこから私が自分で訳したものです。

文書はまず、こう書き出します。人間は道具をつくる者である。Teslaは物理的な製品を大規模かつ低コストでつくり、すべての人の生活をよくすることを目標にしている、と。そのうえで、AIを物理世界に持ち込む製品とサービスをつくる、と宣言します。

私が目を留めたのは、指針原則の一つ目です。成長は無限である。ある領域の成長は、別の領域の衰退を要求しない。資源の不足は、技術の改善と、より大きな革新と、新しい発想によって埋められる、と文書は述べています。

二つ目は、労働についてです。単調な、あるいは危険な仕事やタスクは、いまや別の手段で成し遂げられる。人型ロボットの使命は、人々が好きなことをする時間を、より多く取り戻すことだ、と。

三つ目は、手の届き方です。技術的に高度な製品を、手頃な価格で、大規模に手に入るようにすることが、制約のない社会を築くために必要だ。それは、私たちの最も限られた資源である時間を、一人ひとりが最大限に使えるようにする、と文書は書いています。

もう一つ、道のりについての一文です。価値ある旅はすべて長い。そして、すべて最初の一歩から始まる、と。文書は、最初にスポーツカーをつくり、その利益で次のより手頃な製品をつくり、それを繰り返した、と振り返ります。一つの勝ちが次の勝ちにつながり、失敗があっても勢いを保てた、と。

時間が戻ってきた仕事

道具に渡していちばん大きく戻ってきたのは、時間を売るという苦痛からの解放でした。

代わりに手に入れたのは、仕事をゲーム感覚で行う楽しさです。

戻ってきた時間の使い道は、決めています。挑戦する経営者にとって必要不可欠なAIクラウドERPを構築し、その経営者の冒険を応援していくことです。ERPとは、会計・販売・在庫などの基幹業務を一つにつなぐ仕組みを指します。

ただ、そのためには自社の技術を磨き続けるしかない、と思っています。だから戻った時間は、情報収集と実験に振り替えています。

第1章と同じ形です。技術を磨きながら、仕組みで稼ぐ。対象がSEOからAIクラウドERPに変わっただけで、順序は変えていません。

私がつまずいた、四つのパターン

豊かさの前提を考えるとき、私は何度も同じところでつまずきました。心当たりがあれば、同じ道です。

パターン1:前提を借りたまま、自分の前提を書かない

  • 「成長は無限」と聞いて、そのまま自社に当てはめる
  • 何が自社の制約かを言葉にしていない
  • 外す制約が決まらないので、道具だけ増える

文書の前提は、Tesla社のものです。借りるのは想像力であって、前提そのものではありません。私の会社の制約は、私が書くしかありません。

パターン2:「時間を取り戻す」の、取り戻したあとを決めていない

  • 自動化で空いた時間が、別の作業で埋まる
  • 「好きなことをする時間」が、会社の中で定義されていない
  • 結果、豊かさが増えた実感がない

文書は、時間を「最も限られた資源」と呼びました。空いた時間を何に使うかを先に決めないと、資源は増えても豊かさは増えません。

パターン3:最初の一歩を、大きくしすぎる

  • 最初から完成した製品を出そうとする
  • 一つ目の勝ちを次に回す設計がない
  • 失敗のたびに、勢いが止まる

文書の順序は、小さな一歩を勝ちに変え、その利益で次をつくる、でした。小さな会社ほど、この順序を守るほうが遠くまで行けます。

パターン4:人に縛られる設計のまま、発想が実現するのを待っていた

  • コンサルタントを事業の軸に置いたため、人の制約に縛られた
  • 育成と採用が、そのまま事業のスピードの上限になった
  • 自分の発想を実現できる人が、社内にいなかった

私は長いあいだ、コンサルタントをビジネスの軸に置いてきました。その結果、人の制約、育成、採用に縛られました。発想はあっても、それを実現できる人がいない。

この制約は、AIで外せます。

さらにAIは、自分の想像力をわかりやすく伝える手伝いも、実現方法のサポートもしてくれる。私はそう見ています。

揺らいでいるのは、豊かさの中身のほうです。制約が外せることと、外した先に何を豊かと呼ぶかは、別の問いでした。

価値ある旅は長く、最初の一歩から始まる 最初の一歩 小さく、確実に 利益を次へ回す より手頃な次の製品 繰り返す 勝ちが勝ちを呼ぶ 豊かさ 失敗があっても、勢いが途切れない順序

図2 価値ある旅は長く、最初の一歩から始まる——小さな勝ちを次に回す順序を、自社の階段として読む

ドラッカーが「ビジョンを事業として実現する」と呼んだもの

豊かさの話は、大きな会社の話に見えます。しかし古典に当てると、一つの会社のビジョンの話でもあります。

ドラッカーは『創造する経営者』で、こう述べています。

未来において何かを起こすということは、新しい事業をつくり出すことである。新しい経済、新しい技術、新しい社会についてのビジョンを事業として実現することである。大きなビジョンである必要はない。しかし、今日の常識とは違うものでなければならない。

(P・F・ドラッカー『経営の哲学』上田惇生編訳、ダイヤモンド社。『創造する経営者』からの抜粋)

同じ『創造する経営者』から、もう一つ引きます。

将来いかなる製品やプロセスが必要になるかを予測しても意味がない。しかし、製品やプロセスについていかなるビジョンを実現するかを決意し、そのようなビジョンの上に、今日とは違う事業を築くことは可能である。

(同じく『経営の哲学』所収、『創造する経営者』からの抜粋)

Tesla社の文書は、大きなビジョンでした。ドラッカーは、大きさは要らない、と言います。要るのは、今日の常識と違うこと。私の会社の「豊かさ」の前提が、いまの常識と何が違うのか。そこが、借りた想像力を自分のものにする入り口だと読みます。

絶望し、そして欲望が生まれる

世界の最先端にいる会社の文書を読むと、私はまず絶望します。そして、その絶望から欲望が生まれます。

私が最初に思ったのは、能力の差ではありませんでした。

自分がやろうとしていることを、さらに上位の概念からマスク氏のような人がやるのであれば、自分たちがやる必要がないのかな。そう思ったりもするのです。

絶望の中身は、追いつけないことではなく、いなくてもいいのではないか、でした。

それでも、と思い直します。私の会社は、オリジナル、カスタマイズ、アライアンスを大事にしてきました。だから、カスタマイズの余地はありえる。

その余地こそが、私たちの居場所になるはずだと考えています。

ギャップは、埋めるべき欠損ではなく、燃料です。次の記事「ギャップは、埋めるものではなく、燃料である」で、この距離の測り方を扱います。

そして問いは、シリーズの出発点に戻ります。なぜ、経営者は学びつづけなくてはいけないのか。豊かさの前提は借りられるが、自分の前提は学びながら書くしかないからです。

あなたの会社の豊かさは、何を前提にしていますか。よければ、その話を聞かせてください。塾長としてではなく、同じ一歩目を探す同志として。

よくある質問

「持続可能な豊かさ」は、マスク氏個人の発言ですか?

本記事が読んだのは、Tesla社の公式文書「Master Plan Part IV」(2025年9月1日・The Tesla Team名義)です。マスク氏がCEOを務める会社の文書として扱い、個人の発言とは区別しています。

小さな会社に、無限の成長という前提は関係ありますか?

前提そのものより、順序が関係します。文書は、小さな一歩の勝ちを次に回すことを繰り返した、と書いています。小さな会社が使えるのは、この順序のほうです。

何から手をつければいいですか?

私の順序は、自社の制約を一つ、一文で書くことです。外す制約が決まらないうちは、道具は増えても豊かさは増えません。

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  • なぜ、経営者は学びつづけなくてはいけないのか

出典

  • Tesla「Master Plan Part IV」(tesla.com・The Tesla Team・2025年9月1日公開)。引用は筆者訳
  • P・F・ドラッカー『経営の哲学——いま何をなすべきか』上田惇生編訳、ダイヤモンド社(『創造する経営者』からの抜粋)
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この記事を書いた人

Takuomi Mochidaのアバター Takuomi Mochida 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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