前回「操作を覚えても、差はつかない」で、役割を設計し直す人に差がつく、という話をしました。
今回は一段外へ出て問います。役割を設計し直した先で、会社の形はどうなるのか。
この問いを、Metaの創業者マーク・ザッカーバーグ氏の言葉を借りて読みます。ただし順序は変えません。まず私のルーツから。次に彼の想像力。最後に、私の中に何が生まれたか、です。
私は、何人で会社をやってきたか
人数の話は、私にとって過去の話ではありません。
私の会社は、3人だったり、6人だったりしてきました。
若いときは、野心的なメンバーが集まっていました。ただ、つながっていたのはお金を稼ぐということでした。だから、それがうまくいかなくなると、人は分散していきました。
今も6人です。しかし中身が違います。より大きなものを一緒にやっていく、というスタイルに変わりました。同じ6人でも、何でつながっているかが違えば、別の会社です。
では、私は「人を増やす」「増やさない」を何で決めてきたか。
基準は一つです。人を増やすと、無駄な仕事が増えてしまう。
人が増えると、仕事の総量も増えます。ただし増えるのは、お客様のための仕事ばかりではありません。人を回すための仕事が増えるのです。
実は私は、この判断を8年前に文章にしています。2018年10月のブログです。
そこで私は、強い個をリスペクトして強みを生かしてもらおうと考えている以上、自分の会社が大組織となっていくのは難しいだろう、と書いていました。言い訳かもしれないけど、とも書き添えています。
そのうえで、やることをこう書いていました。プロジェクトとして少数精鋭のメンバーを決める。その強みを活かした結果、得られる果実をうまく配分する。精鋭メンバーがやるべき仕事以外は、アウトソーシングに回す。
これが私のルーツです。
ザッカーバーグは何を言ったか
ザッカーバーグ氏は、会社の数が増え、一社あたりの人数は減る、と述べました。私はその言葉に、大企業ではなく、自分たちのような会社の話を見ました。
2026年8月10日、氏は長文の書簡「The Future is for Everyone(未来はすべての人のもの)」を公開しました。以下は、その英文から私が自分で訳したものです。
氏はまず、仕事の形は変わる、と認めます。コンピュータやインターネットのときと同じで、人は適応を迫られる。それは容易ではない、と。
そのうえで、こう述べています。会社の規模は縮むかもしれない。だがそれは、仕事の総数が減ることではない。会社の数が増え、一社あたりの人数が減る、ということだ。
私が目を留めたのは、次の一文です。個人向け超知能のエージェントを持った少人数が、相当な規模の会社を運営する光景を、私たちは目にし始めるだろう。将来も、小さな会社が経済の背骨であり続ける。ただし、一つひとつの小さな会社が、はるかに大きな影響力を持てるようになる、と氏は述べています。
図1 自動化の側と発明の側——会社の数が増えるのは、発明の側に傾いたときだと氏は述べている
少人数で回す、私の一日
会社の形の話は、私の場合、今日の一手に直結します。
私が日々やっていることは、二つです。成果にフォーカスすること。人間関係で負担をかけないようにすることです。
少人数の会社では、この二つは表と裏です。人間関係に負担がかかると、その処理に時間が食われます。6人しかいなければ、食われた時間は戻ってきません。
では、それが日々のやり方としては何になっているか。テキストコミュニケーションです。私はチャットでのやりとりを重視しています。
- 書くと、成果が何かを自分で確かめてから渡すことになる
- 相手の時間を止めない。読むタイミングを相手が決められる
- 残るので、言った言わないで関係が消耗しない
会議を開けば、6人の時間が同時に止まります。テキストなら止まりません。
そしてこの習慣には、思わぬ効きめがありました。テキストで仕事が回っている会社は、AIとも仕事ができます。AIに渡せるのは、書かれたものだけだからです。
完璧を目指すより、まず回す。私はそう決めています。
私がつまずいた、四つのパターン
この未来観を読むとき、私は何度か読み違えました。心当たりがあれば、同じ道です。
パターン1:「小さい会社」を「弱い会社」と読む
- 人数が少ないことを、まず引け目に感じる
- 「うちは小さいから」が口癖になる
氏が述べているのは、規模が縮むことであって、影響力が縮むことではありません。私も長く、この二つを同じものだと思っていました。8年前のブログの「言い訳かもしれないけど」が、その証拠です。
パターン2:人を減らせばよい、と読む
- AIを入れて、まず人件費を削る算段をする
- 残った人が、今までと同じ仕事を多く抱える
会社の数が増えるのは、自動化の側ではなく、発明の側です。超知能の最大の貢献は自動化ではなく発明だ、と氏は述べています。人を減らして同じことをするのは、氏の言う構図の逆側です。
パターン3:道具を入れれば、少人数で回ると思う
- 最新のツールを入れて、研修をして、終わりにする
- 半年後、道具はあるのに仕事の形は変わっていない
少人数で回るかどうかを決めるのは、道具ではなく、全員が同じ楽譜を持っているか、です。次章で古典に当てます。
パターン4:大企業の話だと、読み飛ばす
- 「Metaの話だ」と最初のページで閉じる
- 世界の先端の言葉を、自分の現在地と結ばない
氏は、小さな会社が経済の背骨であり続ける、と述べています。読み飛ばすと、この一文に出会えません。
ドラッカーが「オーケストラ」と呼んだもの
少人数の会社は、専門家の集まりになります。しかし専門家が集まるだけでは、会社になりません。
ドラッカーは『ポスト資本主義社会』で、こう述べています。
明日の組織のモデルは、オーケストラである。二五〇人の団員はそれぞれが専門家である。チューバだけでは演奏できない。演奏するのはオーケストラである。オーケストラは、二五〇人の団員全員が同じ楽譜をもつことによって演奏する。
(P・F・ドラッカー『経営の哲学』上田惇生編訳、ダイヤモンド社。『ポスト資本主義社会』からの抜粋)
ザッカーバーグ氏の未来では、一人ひとりが超知能のエージェントを持ちます。全員が専門家になる、と言い換えてもいい。しかし「同じ楽譜」は、エージェントが配ってくれるものではありません。
楽譜とは、自社が何のために、何をする会社かという共有ビジョンです。道具は誰でも持てます。楽譜だけが、自社にしかありません。
思い返せば、私の会社が若いころに分散したのは、楽譜がなかったからです。お金を稼ぐということだけでつながっていた。それは楽譜ではなく、報酬の話でした。
さらにドラッカーは、同じ『ポスト資本主義社会』で、こうも述べています。成果を生み出すために既存の知識をいかに有効に適用するかを知るための知識が、マネジメントである、と。
知識そのものは、これから安く供給されるでしょう。残るのは、どの知識を自社の楽譜のどこに当てるかを決める知識です。経営者に残る仕事は、これだと私は理解しています。
図2 道具の層と楽譜の層——専門家が集まっても、同じ楽譜がなければ演奏にならない
絶望ではなく、既視感だった
世界の最先端にいる人の言葉を読むと、私はたいてい絶望します。自社との距離を突きつけられるからです。
しかし今回は違いました。
似ているし、やれると思った。それが正直な感想です。
8年前、私は同じ構図を自分の言葉で書いていました。当時、私はその形にスターフィッシュチームという名前を考えていました。ヒトデのことです。中心の一つの頭に指令されるのではなく、腕のそれぞれが自律して動く。そういう組織の形を指した言葉でした。
2026年、世界の最先端が、ほぼ同じ構図を語っている。私が正しかったという話ではありません。中小企業の経営者が現場で選んだ形と、超知能を作る側が見ている未来の形が、たまたま同じ方向を向いている。それだけです。
しかし、それだけで十分でした。
では、私はなぜ8年間、それを実現できなかったのか。
採用に時間がかかるからです。強みのある人を見つけて、口説いて、噛み合わせる。そこに時間を取られて、私はいつのまにか、あきらめていました。
その、あきらめていた部分を、AIに賭けると思いました。
採用でしか埋められないと思っていた腕を、AIで代替する。そうすればスターフィッシュという仕組みが、今度こそ形になる。8年前の構想に、道具が追いついた。私が読んだのは、そういう言葉でした。
ただし、ここで一つ気をつけています。似ていると感じた瞬間が、いちばん危ない。距離を測らずに、わかった気になるからです。次の記事「ギャップは、埋めるものではなく、燃料である」で、その距離の測り方を扱います。
そして問いは、シリーズの出発点に戻ります。なぜ、経営者は学びつづけなくてはいけないのか。会社が小さくなり、数が増える世界で、楽譜を書き直しつづけるのは、経営者だからです。
あなたの会社は、何人で、何の楽譜を持っていますか。よければ、その話を聞かせてください。塾長としてではなく、同じ楽譜を探す同志として。
よくある質問
ザッカーバーグの「会社は小さくなり、数は増える」とは、どういう意味ですか?
一社あたりの人数は減るが、会社の数が増え、仕事の総数は減らない、という見方です。氏は2026年8月10日の書簡で、少人数が相当な規模の会社を運営し始める、と述べています。
少人数の会社は、AIを入れれば本当に大きな仕事ができますか?
道具だけでは、できないというのが私の答えです。楽譜(共有ビジョン)は自社でしか書けません。先に楽譜、次に道具です。
中小企業の経営者は、この未来観をどう使えばいいですか?
自社の現在地との距離を測る物差しとして使う、というのが私の使い方です。距離が遠ければ絶望し、近ければわかった気になります。その距離を次の一手に変える方法を、次の記事で扱います。
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出典
- Mark Zuckerberg「The Future is for Everyone: The Path to a Positive AI Future」(Meta Newsroom・2026年8月10日公開)。引用は筆者訳
- P・F・ドラッカー『経営の哲学——いま何をなすべきか』上田惇生編訳、ダイヤモンド社(『ポスト資本主義社会』からの抜粋)
- 筆者ブログ「天才・秀才を復活させて、スターフィッシュチームを作っていく。」(2018年10月1日公開)
