限界利益と貢献利益の違いとは?─ 売上が伸びても利益が残らない会社が見直すべき管理会計の設計

月の売上1,500万円の営業担当と、800万円の営業担当。

会社に多くの利益を残したのは、800万円のほうでした。

前者は大幅な値引きで受注し、限界利益は売上の1割。後者は値引きがほぼなく、4割が残りました(架空の数字)。

限界利益とは、売上から変動費を引いた利益で、商品や取引の「稼ぐ力」を表します。

貢献利益とは、限界利益から個別固定費を引いた利益で、事業や部門が全社の利益にどれだけ貢献しているかを表します。

使い分けは単純です。

取引や商品を判断するときは限界利益、事業や部門を判断するときは貢献利益を見ます。

どちらも、費用を変動費と固定費に分けるところから始まります。

月次決算で損益計算書(PL)を作っていても、この2つは自然には見えてきません。

では、売上が伸びているのに利益が残らない会社は、どこから数字を組み替えればよいのか。

この記事の計算例は、すべて説明のための架空の数字です。

目次

この記事で分かること

  • 限界利益と貢献利益の計算式と、使い分け
  • 架空の数字で見る、事業の判断の具体例
  • 変動費と固定費の分け方(固変分解)と、迷いやすい費用の扱い
  • Excelで足りる段階と、システムが要る段階の見分け方
  • 管理会計の整備でよくある3つの失敗と、避け方

限界利益と貢献利益の違い

限界利益=「稼ぐ力」

限界利益 = 売上 − 変動費

変動費とは、売上に比例して増減する費用のことです。

製造業なら原材料費、商社なら仕入原価が当たります。

貢献利益=「全社の利益への貢献度」

貢献利益 = 限界利益 − 個別固定費

個別固定費とは、特定の事業や商品に直接ひも付く固定費のことです。

専任の担当者の人件費や、その事業専用の設備のリース料などが当たります。

売上が増えても減っても、その事業を続ける限りかかります。

複数の事業で共有する本社の費用などは、共通固定費と呼びます。

貢献利益の合計から共通固定費を引くと、全社の営業利益になります。

売上から営業利益までの3つの引き算 売上から変動費を引くと限界利益、個別固定費を引くと貢献利益、共通固定費を引くと営業利益になる。 売上から営業利益までの3つの引き算 売上 − 変動費 限界利益|取引・商品の稼ぐ力 − 個別固定費 貢献利益|事業・部門の貢献度 − 共通固定費 営業利益|全社の利益 事業の存廃は、配賦する前の貢献利益で見る
売上から営業利益までの3つの引き算

2つの指標の使い分け

限界利益貢献利益
計算式売上 − 変動費限界利益 − 個別固定費
意味商品・取引の稼ぐ力事業・部門の全社の利益への貢献度
判断の基準プラスなら固定費の回収に貢献プラスなら事業を続ける価値がある
使う場面個別の取引・商品の評価事業・部門の単位の存廃の判断

限界利益は「取引の単位」で見る指標です。

プラスなら、薄利でも固定費の回収に貢献しています。

マイナスの商品は、売れば売るほど赤字が膨らみます。

貢献利益は「事業の単位」で見る指標です。

ある事業部の貢献利益がマイナスで続くなら、その事業は全社の利益を食っています。

撤退や再編を考えるサインです。

言葉の使い方は、社内で先にそろえる

会社や書籍によっては、貢献利益を限界利益と同じ意味で使うこともあります。

個別固定費を引いた後か前かで、数字は大きく変わります。

管理会計を始めるときは、どちらの意味で使うかを最初に決めて、資料に書いておきます。

この記事では、1-1と1-2の式の意味で使います。

粗利益(売上総利益)との違い

粗利益は、売上から売上原価を引いたものです。

財務会計の指標で、変動費と固定費の区別を反映していません。

売上原価には、原材料費のような変動費と、工場の減価償却費のような固定費が混ざっています。

架空の数字で比べます(単位:万円)。

売上1,000、材料費400、工場の減価償却費100、工場の固定の人件費150の製品があるとします。

  • 粗利益:1,000 −(400+100+150)= 350
  • 限界利益:1,000 − 400 = 600(材料費だけが変動費の場合)

同じ製品が、粗利益では350、限界利益では600に見えます。

追加の注文を受けるかどうかは、限界利益の600で考えます。

工場の固定費は、注文が1つ増えても変わらないからです。

売上総利益の詳細は、売上総利益(粗利)とはで扱っています。

計算例|架空の数字で見る

ここからの数字は、説明のための架空の数字です(単位:万円)。

事業部ごとに見る

事業部X事業部Y全社
売上10,0008,00018,000
変動費6,0006,40012,400
限界利益4,0001,6005,600
限界利益率40%20%約31%
個別固定費2,5002,0004,500
貢献利益1,500−4001,100
共通固定費800
営業利益300

事業部Yの限界利益は、プラスです。

1つ1つの取引は、固定費の回収に役立っています。

一方、貢献利益はマイナス400。

専任の人件費や設備の費用を、稼ぐ力でまかなえていません。

撤退すれば利益が増えるとは限らない

事業部Yをやめると、限界利益1,600と個別固定費2,000がなくなります。

差し引き400、営業利益は増える計算です。

ただし、個別固定費がすべてなくなる場合の話です。

設備の契約が残る、専任の人を他の部署に移すなど、なくならない費用もあります。

それが400を超えれば、撤退で営業利益はかえって減ります。

共通固定費の800も、事業部Yをやめても残ります。

見るべきは、「その事業をやめたら、本当になくなる費用はどれか」です。

続けながら立て直す3つの道

事業部Yの貢献利益を、マイナス400からゼロに戻す道は3つあります。

道変えるもの必要な変化
価格を上げる売上数量を保ったまま、価格を5%上げる(売上8,400、限界利益2,000)
変動費を下げる変動費変動費を6,400から6,000へ、約6%下げる
個別固定費を減らす個別固定費2,000から1,600へ、400減らす

どの道が現実的かは、市場と社内の事情で決まります。

3つを同じ表で比べられるのが、貢献利益で見る利点です。

価格を2%上げ、変動費を2%下げ、個別固定費を少し減らす、といった組み合わせもあります。

撤退は、どの道も難しいと分かってから考えます。

損益分岐点を出す

損益分岐点売上高とは、利益も損失も出ない、収支がちょうど合う売上高のことです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

限界利益率は、売上に占める限界利益の割合(限界利益 ÷ 売上)です。

上の例の固定費は、個別固定費4,500と共通固定費800で、合計5,300。

限界利益率は5,600 ÷ 18,000で、約31.1%です。

損益分岐点売上高は、5,300 ÷ 0.3111…で、約17,036万円になります。

いまの売上18,000万円は、損益分岐点を約1,000万円上回るだけ。

売上が約5.4%を超えて落ちると、赤字になります。

この割合を安全余裕率と呼び、(売上 − 損益分岐点売上高)÷ 売上で出します。

小さいほど、売上の変動に弱い会社です。

固変分解があいまいなまま計算すると、限界利益率が正しく出ず、この数字も信頼できなくなります。

損益分岐点の使い方は、NetSuiteで実践するCVP分析で扱っています。

値引き1%と、変動費2円の重さ

販売単価100円、変動費60円の商品で考えます。

限界利益は1個40円です。

1%値引きして99円で売ると、限界利益は39円。

値引きは1%でも、1個あたりの限界利益は2.5%減ります。

同じ限界利益の合計を保つには、販売数量を約2.6%増やさなければなりません。

逆に、変動費を60円から58円に下げられれば、限界利益は42円になり、5%増えます。

製造業なら、歩留まりの改善がこれに当たります。

歩留まりは、投入した材料のうち、製品になった割合のことです。

値引きを抑える、変動費を下げる、数量を増やす。

どれがどれだけ効くかを、同じ物差しで比べられる。

それが限界利益の強みです。

安い注文を受けるかどうか

いつもは1個100円で売る商品に、1個80円で1,000個の注文が来たとします。

変動費は1個60円で、工場や倉庫には空きがあります。

限界利益は1個20円、1,000個で2万円のプラスです。

空きの範囲で作れるなら、固定費は増えません。

受ければ、利益は2万円増えます。

ただし、次の3つを満たすときに限ります。

  1. 空きの範囲で作れ、人や設備を増やさなくてよい
  2. 他の顧客の価格に影響しない(「あの会社には80円で売った」とならない)
  3. いつもの注文を断る必要がない

1つでも満たさなければ、限界利益だけでは判断できません。

見落とされがちなのは2つめです。

安い価格が他の顧客に知られると、いつもの取引の値下げにつながり、限界利益の合計がかえって減ります。

受けるときは、数量や納期などの条件を変え、いつもの取引と区別できる形にします。

「売上は伸びているのに利益が残らない」理由

財務会計のPLは、経営の判断に向かない

財務会計のPLは、費用を勘定科目ごとの合計で表示します。

その中に、「変動費か固定費か」の区分はありません。

変動費と固定費が1つの箱に混ざり、どちらが利益を圧迫しているか判別できないのです。

ある商品がヒットして、売上が前年比150%に伸びたとします。

その商品の変動費率が非常に高ければ、限界利益はほとんど残りません。

営業利益を見て気づいたときには、四半期が終わっています。

「忙しさは増しているのに、手元資金が増えない」も同じ構造です。

1件ごとの限界利益が小さいまま数をこなし、固定費を回収するペースが追いつかない。

だから、忙しいのに利益が残りません。

利益が残らない4つの型

型起きていること見る数字
変動費率の上昇仕入や材料の値上がりを、価格に反映できていない商品別の変動費率の推移
値引きの拡大受注を取るために、値引きが常態になっている販売単価と値引き率の推移
固定費の増加人や拠点を増やしたが、限界利益が追いついていない固定費と限界利益の伸び率の差
低収益の商品への偏り売れているのは、限界利益率の低い商品ばかり商品構成と、商品別の限界利益率

型によって、打ち手はまったく違います。

値引きの拡大なら営業の条件の見直し、固定費の増加なら投資の回収の見直しです。

財務会計のPLだけでは、この4つを見分けられません。

意思決定に使うのは「管理会計」

財務会計のPLは、税務申告や外部への報告に使うものです。

社内の判断に使うのは、管理会計です。

費用を性質で分け、経営の判断に要る情報をつくります。

財務会計管理会計
目的外部への報告(税務・株主)社内の意思決定
義務法律で義務づけ任意
集計の単位全社商品別・顧客別・部門別
時間軸月次〜四半期日次〜リアルタイム
費用の扱い勘定科目別の合計変動費と固定費に分ける

財務会計は税理士・会計士の領域ですが、管理会計は経営者の領域です。

利益が残らない原因は、変動費率の高さか、固定費の増加か、低収益の商品への偏りか。

管理会計は、あいまいだったボトルネックを数字で特定する道具です。

管理会計があると、経営者は次の問いに数字で答えられます。

  • この値引きを認めても、利益は残るか
  • どの商品を、どの顧客に売ると、最も利益が残るか
  • この事業は、固定費まで含めて会社に貢献しているか
  • 売上がどこまで落ちると、赤字になるか

どれも、財務会計のPLだけでは答えにくい問いです。

詳しくはNetSuiteで実現する管理会計の高度化と、財務会計との違いをご覧ください。

管理会計の第一歩|固変分解

費用を変動費と固定費に分けることを、固変分解と呼びます。

分け方の問いを図にすると、次のとおりです。

費用の分け方:2つの問い 売上がゼロになったらその費用もゼロになるなら変動費、ならなければ固定費。固定費は、その事業をやめたらなくなるなら個別固定費、なくならないなら共通固定費に分ける。完全な分類は目指さず、80%程度の正確さで始める。 費用の分け方:2つの問い 問い1:売上がゼロになったら、 その費用もゼロになるか なる ならない 変動費 原材料費・仕入原価 固定費 家賃・正社員の基本給 問い2:その事業をやめたら、 その費用はなくなるか なくなる なくならない 個別固定費 事業専任の人件費 専用設備のリース料 共通固定費 本社の家賃 社長・経理の人件費 完全な分類は目指さず、80%程度で始める
費用の分け方:2つの問い

変動費と固定費の判定のルール

  • 変動費:「売上がゼロになったら、その費用もゼロになるか」がYesなら変動費。原材料費、仕入原価、運送業の燃料費など
  • 固定費:売上の有無にかかわらず、時間とともに発生する費用。正社員の基本給、事務所の家賃、倉庫の賃料、保険料など

迷いやすい「グレーゾーン」

費用固定費の部分変動費の部分
人件費基本給残業代(生産量・受注量に連動)
物流費自社倉庫の賃料出荷量に連動するトラックの費用
外注費月額固定の契約案件ごとの外注

1つの勘定科目に、変動費と固定費が混ざるのは珍しくありません。

完全な分類は目指さない。

経営の判断に使えるレベルで、80%程度の正確さがあれば、実務では足ります。

精度を上げる作業に時間をかけるより、まず分けて「見える状態」にするほうが先です。

固変分解の進め方

次の手順なら、1〜2週間で最初の形ができます。

  1. 直近1年の損益計算書から、費用の科目を一覧にする
  2. 金額の大きい順に並べ、上位の科目から判定する
  3. 明らかな変動費・固定費を先に決め、迷う科目は保留にする
  4. 保留の科目は、過去12か月の金額と売上の動きを並べ、連動しているかを見る
  5. 決めた分類を1枚にまとめ、経理と事業の責任者で合意する

4つめは、売上が増えた月に費用も増えているかを見る、簡単な方法です。

連動していれば変動費に近く、動かなければ固定費に近い。

金額の小さい科目は、どちらに入れても判断への影響が小さいので、深追いしません。

ERPを使っている会社なら、勘定科目にカスタムの項目やタグを足し、変動費・固定費の印を付けます。

既存の勘定科目の体系を大きく変える必要はありません。

印が付けば、「売上 − 変動費 = 限界利益」をERPの集計で自動で出せます。

科目を新しく作るときに印も付けるルールにしておけば、分類は崩れません。

限界利益率の目安

限界利益率は、業種によって大きく違います。

仕入れて売る業種は低めに、仕入原価がほとんどないサービス業は高めに出ます。

他社の数字と比べるより、過去の自社の数字と比べてください。

個別固定費と共通固定費の分け方

貢献利益を出すには、固定費をさらに「個別」と「共通」に分けます。

判定の問いは、「その事業をやめたら、その費用はなくなるか」です。

費用分け方の例考え方
事業専任の営業の人件費個別固定費その事業のためだけに働いている
事業専用の設備のリース料個別固定費その事業だけが使う
事業専用の広告費個別固定費その事業の集客のため
本社の家賃共通固定費事業をやめても減らない
社長・経理の人件費共通固定費全事業を支えている
共有の基幹システムの費用共通固定費全事業で使っている

共通固定費を、売上の比率などで各事業に割り振ることを配賦と呼びます。

配賦の基準しだいで、事業の見え方は大きく変わります。

配賦した後の赤字を理由に事業をやめても、共通固定費は残ります。

残った事業の負担が増え、次の事業も赤字に見える。そんな連鎖が起こります。

事業の存廃の判断には、配賦する前の貢献利益を使うのが基本です。

配賦は配賦とは?業績評価が歪まないための原価配賦の考え方、固変分解はNetSuiteで変動費・固定費を「固変分解」し、利益体質の会社をつくる方法で扱っています。

判断の物差し|自社の数字をどう見るか

見る順番

  1. 全社の限界利益率:過去の自社と比べて、低すぎないか
  2. 商品別の限界利益:マイナスの商品はないか。値引きで削られていないか
  3. 事業・部門別の貢献利益:マイナスが続く事業はないか
  4. 損益分岐点との距離:売上が何%落ちたら赤字になるか

1つめで会社全体の稼ぐ力の水準を、2つめで稼ぐ力を削っている商品や値引きを見つけます。

3つめで固定費まで含めた事業の姿を、4つめで売上が落ちたときの余裕を知ります。

この順で見ると、売上を伸ばすのか、値引きを抑えるのか、固定費を減らすのか、どれが先かが見えてきます。

顧客別・チャネル別にも見る

限界利益は、顧客やチャネル(販売経路)の単位でも見られます。

顧客ごとに違う費用を、変動費に入れます。

  • 顧客ごとの値引き・リベート
  • 小口の配送が多い顧客の物流費
  • 支払の条件に伴う手数料

売上の大きい顧客が、値引きと物流費を引くと、実は限界利益が小さい。

そんなことがあります。

顧客別に見ると、価格の交渉や取引の条件を見直す材料になります。

商品を4つに分けて見る

限界利益率と販売数量で、商品を4つに分けます。

区分状態打ち手
稼ぎ頭利益率が高く、数量も多い最優先で守る
隠れた優良商品利益率は高いが、数量が少ない販売の強化で伸ばす余地がある
忙しいが儲からない商品数量は多いが、利益率が低い値引きの構造や変動費を見直す
見直しの対象どちらも低い撤退や統廃合を検討する

一度分けて終わり、ではありません。

四半期ごとに、どの商品がどこへ移ったかを見ます。

稼ぎ頭が「忙しいが儲からない」側に動いていれば、値引きや変動費の上昇が起きています。

Excelで足りる段階と、システムが要る段階

段階状況合う道具
1. 始める事業が1つ。月に1回、限界利益を見られればよいExcel
2. 分ける商品・顧客・部門で分けて見たい。月次で十分Excel+会計ソフトの部門の機能
3. 早く見る複数の事業・拠点。週次・日次で見たい統合型のERP
4. いまは整えない立ち上げ期で、まず売上をつくる段階手元の数字の把握で足りる

Excelが限界に来るのは、部門の数とデータの量が増え、集計の時間差と転記ミスが増えたときです。

ERPにはNetSuiteのほか、Odooや国産のERPもあります。

比べ方は、ERP・クラウドERPを徹底比較をご覧ください。

数字を見るときの注意

1つめは、財務会計の利益とのずれです。

財務会計の製品の原価には、工場の固定費の一部が含まれます。

作った製品が在庫に残ると、固定費の一部も在庫に残り、その期の利益が大きく見えることがあります。

限界利益で見ると、固定費はその期に全額引くため、この影響を受けません。

2つの利益が食い違ったら、在庫の増減を見ます。

2つめは、期のずれです。

値引きやリベートが売上と別の月に計上されると、月ごとの限界利益がぶれます。

3か月の平均や、前年の同じ月とも比べます。

これから始める会社と、見直す会社

これから管理会計を始める会社

最初は粗い分類で構いません。

Excelで、月ごとの売上・変動費・固定費を1行ずつ並べるだけでも始められます。

事業が複数あるなら、個別固定費と共通固定費も分けます。

まず1か月分を出し、翌月から精度を上げていきます。

ERPを使っていて、見直す会社

ERPを入れても、Excelでの加工が続いている会社は少なくありません。

原因の多くは、ERPの区分と、経営が見たい単位のずれです。

ERPでは部門別に集計できても、経営が見たいのは商品群別、といった具合です。

  • 勘定科目に、変動費・固定費の区分は付いているか
  • 経営会議の資料を、Excelで加工していないか
  • 部門・商品の区分と、実際の判断の単位は合っているか
  • 個別固定費と共通固定費を、事業ごとに分けて記録できるか

区分の追加と印の付け直しで、Excelの加工は減らせます。

誰が作り、いつ見るか

  • 作る人:経理が数字を出し、事業の責任者が中身を説明する
  • 見る場:月次の経営会議で、限界利益と貢献利益を最初の議題にする
  • 見る頻度:最初は月次で始め、慣れたら週次に早める

経理だけで作ると、「なぜこの数字か」が説明できない資料になりがちです。

事業の責任者が、自分の事業の数字として説明する形にすると、判断につながります。

業種ごとの見どころ

業種変動費の主なもの特に見るところ
製造業原材料費・外注加工費・出来高の人件費歩留まりと材料の値上がりの影響
卸売業・商社仕入原価・物流費顧客別の値引き・リベートと物流費
小売業仕入原価・販売の手数料商品構成と、値下げのタイミング
サービス業外注費・案件ごとの経費案件別の工数と外注の比率

自社の変動費の上位3つを知るのが、見どころを決める近道です。

その単価がこの1年でどう動いたかを並べるだけで、利益が残らない理由の多くが見えてきます。

経営ダッシュボードで「稼ぐ力」を見続ける

最初に決める3つの問い

経営ダッシュボードとは、KPIを毎日見て、判断して、動くための画面です。

グラフや配色より先に、次の3つを決めます。

  1. 何を見える化するか
  2. どの意思決定を支えるか
  3. 必要なKPI・データは何か

中核の指標は、売上高・販売数量・限界利益額・限界利益率の4つ。

予算との差、利益率の急な低下、売掛金の回収の遅れには、知らせる仕組みを付けます。

問いが決まらないまま作ると、「きれいだが誰も見ない画面」ができあがります。

問いが決まっていれば、画面は数枚の表とグラフで足ります。

最初の画面は、経営者が毎朝1分で見られる量に絞ります。

限界利益を起点にしたKPIツリー

KPIツリーとは、目標を現場の行動の指標に分解する設計図です。

  • KGI(最終目標):貢献利益(限界利益 − 個別固定費)
  • KPI(中間の指標):限界利益(限界利益の単価 × 販売数量)
  • Sub-KPI(現場が動かせる指標):販売単価・変動費の単価・販売数量・顧客数・受注率
限界利益を起点にしたKPIツリー 頂点のKGIは貢献利益(限界利益−個別固定費)。中間のKPIは限界利益(限界利益の単価×販売数量)。現場が動かせるSub-KPIは販売単価・変動費の単価・販売数量・顧客数・受注率。 限界利益を起点にしたKPIツリー KGI:貢献利益 限界利益 − 個別固定費 KPI:限界利益 限界利益の単価 × 販売数量 Sub-KPI:現場が動かせる指標 販売単価 変動費の単価 販売数量 顧客数 受注率 頂点に置くのは、売上ではなく貢献利益
限界利益を起点にしたKPIツリー

頂点に、売上ではなく貢献利益を置きます。

売上・変動費・固定費のどれかを動かさない限り、現場の活動は利益につながらないからです。

冒頭の2人の営業担当も、売上で並べれば1,500万円の担当が上です。

限界利益の額で並べると、800万円の担当が2倍以上になります。

KPIの設計はKPIマネジメントとはで扱っています。

役割ごとに見る指標を分け、会議は限界利益から始める

役割見る指標
経営層全社の貢献利益、KGIの進み具合
営業担当者別の限界利益、受注率
製造変動費の単価、歩留まり
経理回収の状況、資金繰り

経営者一人が見ていても、利益は動きません。

動かすのは、現場の毎日の判断です。

月次の会議は、売上の報告から始めると「売れたか、売れなかったか」で時間が終わりがちです。

次の順で見ると、「なぜ残らなかったか」に話が進みます。

順番見るもの問い
1全社の限界利益率先月より上がったか、下がったか
2下がった商品・顧客値引きか、変動費か、商品構成か
3事業別の貢献利益マイナスの事業に、手を打っているか
4次の月の打ち手誰が、何を、いつまでにやるか

打ち手は、翌月の会議の最初に結果を見ます。

打ち手と結果を並べて残すと、どの打ち手が効くかが会社の知恵としてたまります。

画面の決め方は、NetSuiteダッシュボード|経営者が毎朝見る5つの画面の決め方で扱っています。

異常に早く気づき、理由を読む

月末の集計を待たず、起きた翌日には気づける状態を目指します。

限界利益の明細が商品・顧客・部門の区分でそろっていれば、AIに理由の候補を探させることもできます。

たとえば「先週、限界利益率が下がった顧客と、その理由になった取引を挙げて」といった使い方です。

AIの答えは、担当者が元の取引を見てから使います。

区分がそろっていなければ、AIも理由を探せません。

よくある3つの失敗

失敗1:画面の見栄えから作り始める

起きること:最初の会議が、グラフの種類や色、BIツールの選定の話になる。きれいだが、誰も毎日見ないダッシュボードができる。

原因:「何を見える化し、どの判断に使うか」が決まる前に、画面を作っている。

避け方:画面の前に、第7章の3つの問いを決めます。

最初の会議では、「この数字を見て、誰が何を決めるか」を話します。

見える化の目的は、データを見せることではなく、行動を変えることです。

失敗2:固変分解の精度にこだわり、時間切れになる

起きること:グレーゾーンの費用の扱いを何か月も議論し、いつまでも限界利益が見えない。

原因:社内の判断のための管理会計に、対外的な資料と同じ厳密さを求めている。

避け方:まず80%で回します。

迷う科目は金額の大きい方に寄せるなど、決め方のルールだけを先に決めます。

粗く始めて運用しながら精度を上げるほうが、結果として早く成果が出ます。

失敗3:経営者だけが見る、Excelの延長の仕組みにする

起きること:経営層向けの画面だけがあり、現場は別の資料を作る。ERPの数字をExcelで加工してから会議に出し、「この数字は正しいのか」という疑いが残る。

原因:利益を動かすのは、現場が毎日下す判断である。なのに、現場と経営が別の数字を見ている。Excelに移した時点で、即時性と整合性が失われる。

避け方:役割ごとに見る指標を分け、同じデータの基盤から出します(第7章7-3)。

会議の資料をExcelで加工しているなら、加工の中身を洗い出し、ERPの区分や集計に移せないかを見ます。

NetSuiteで限界利益・貢献利益を見る

NetSuiteは、統合型のクラウドERPです。

世界220地域・44,000社以上で使われ(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)、190通貨・27言語に対応しています。

  • KPIとダッシュボード:ロール別のダッシュボード・レポート・KPIが事前に構成されています(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。計算式を定義すれば、自社独自のKPIも作れます
  • 分類の仕組み:部門・クラス・場所の分類で記録を分け、場所ごとなどに財務のレポートを出せます。独自の分類を足すカスタムセグメントもあります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)
  • 1つのデータベース:財務・販売・購買・在庫・生産・CRMを1つのデータベースで管理します

限界利益を事業別に出すなら、事業を部門やクラスで、商品群をカスタムセグメントで分ける、といった設計が考えられます。

ExcelやほかのERPと比べるときは、「限界利益を出すための区分が、日々の取引の入力で自然に付くか」を見ます。

月末にExcelで区分を付け直す運用では、早く見ることができません。

NetSuiteの全体像はNetSuiteとは?をご覧ください。

ベンチャーネットならこう見る|「守り→攻め→次へ」と、1業務・1KPIの90日

NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、管理会計の相談を受けると、まず会社がどの段階にいるかを見ます。

段階は3つです。

定着の先の3段階:守り→攻め→次へ 守りは業務が回ること、攻めはデータで打つこと、次へは経営が変わること。 定着の先の3段階守り|業務が回る在庫・販売・会計を1つにし、日々の業務を安定させる攻め|データで打つ売れ筋・在庫の分析、営業作業の自動化、生成AIでの集計次へ|経営が変わるKPI、管理会計、上場に向けた内部統制
定着の先の3段階:守り→攻め→次へ
  • 守り|業務が回る:販売・在庫・会計の数字がつながり、月次の損益が正しく出る
  • 攻め|データで打つ:商品別・顧客別の限界利益を見て、値引きや品ぞろえを動かす
  • 次へ|経営が変わる:貢献利益をKGIに置き、KPIと管理会計で事業の存廃まで判断する

限界利益の見える化は、「攻め」の入口です。

貢献利益で事業を判断できるようになると、「次へ」に入ります。

守りが崩れたまま、つまり販売と会計の数字が合わないまま、ダッシュボードだけを作ることはすすめません。

経理の基盤の整理やERPの導入が先になるなら、その順番をお伝えします。

攻めに入るときは、いきなり全商品・全事業を見ようとしません。

1業務・1KPIに絞って最短90日で1周目を回す進め方をとります。

たとえば「値引きの承認」という1つの業務で、「商品別の限界利益率」という1つのKPIだけを追う。

90日で見る・決める・結果を振り返るを1周させてから、対象を広げます。

最初の打ち合わせで伺うのは、次の3つです。

  • 経営者がいま、どの判断に迷っているか(値引き・商品の絞り込み・事業の存廃など)
  • その判断に要るのは、限界利益か、貢献利益か
  • 必要な区分(商品・顧客・部門)のデータが、いまどこにあるか

値引きに迷っているなら商品別の限界利益、事業の存廃なら貢献利益。

見るべき数字が決まれば、データの区分も、Excelで足りるかどうかも決まります。

立ち上げ期で、まず売上をつくる段階の会社には、いまは仕組みを整えない判断もお伝えします。

今日できること|主な費用を3つに分ける

直近1か月の損益計算書を用意し、費用の科目を3つに分けてみてください。

区分科目の例金額
変動費仕入原価・原材料費・外注費(案件ごと)
固定費家賃・正社員の給与・保険料
迷う費用残業代・物流費

迷う費用は、いったん金額の大きい方に寄せて構いません。

売上から変動費を引けば、自社の限界利益と限界利益率がおおよそ分かります。

1時間ほどで、管理会計の最初の1枚ができます。

余裕があれば、売上の大きい商品を3つ選び、それぞれの限界利益も出してみてください。

値引きの後の単価と、1個あたりの仕入原価が分かれば計算できます。

思っていたより限界利益が小さい商品が、最初に手を打つ候補です。

よくある質問

Q1. 限界利益と貢献利益、まずどちらを見るべきですか

まずは限界利益です。

取引・商品の単位で「儲かっているか」を見るなら限界利益です。

事業・部門の単位で「全社に貢献しているか」を見るときは、貢献利益を使います。

日々の判断を早くするために、中堅・中小企業はまず限界利益を見える化するのが現実的です。

貢献利益は、事業が複数ある会社や、事業別の管理を本格化させる段階で取り組みます。

Q2. 中小企業でも管理会計は必要ですか

規模にかかわらず必要です。

経営資源が限られる中小企業こそ、どこに集中するかの判断が利益を左右します。

上場企業のような厳密な原価計算の仕組みは要りません。

まず限界利益が見える状態をつくることから始めれば十分です。

一人の経営者の判断が業績に直結する会社ほど、判断の根拠になる数字の価値は大きくなります。

Q3. 固変分解を完全にしないと管理会計は始められないですか

80%程度の正確さで始めて構いません。

1つの科目に変動費と固定費が混ざる費用は、必ず出てきます。

すべてを厳密に分けようとすると、何か月もかかり、肝心の判断が遅れます。

粗い分類で始め、運用しながら精度を上げるほうが、結果として早く成果が出ます(第4章4-3)。

Q4. Excelでもダッシュボードは作れますか。ERPは本当に必要ですか

小さな段階ならExcelで作れます。

事業が成長し、データの量と部門の数が増えると、集計の時間差と転記ミスが増えます。

早く正確に見たい段階になったら、統合型のERPが有効です(第5章5-4)。

Q5. NetSuite導入と管理会計の整備、どちらを先にすべきですか

並行して進めるのが現実的です。

ただし、管理会計の基本方針は先に固めます。

限界利益・貢献利益の定義、KPIツリーの骨格、ダッシュボードの3つの問いです。

方針が先にあると、NetSuiteの設定の手戻りが減ります。

システムを入れてから考えると、必要なデータの区分が後付けになり、設定のやり直しが起こります。

Q6. 貢献利益がマイナスの事業は、すぐやめるべきですか

すぐにはやめずになくなる費用を見きわめます。

撤退しても残る費用や、共通固定費は消えません。

限界利益がプラスなら、固定費の回収には役立っています(第2章2-2)。

個別固定費を減らす、価格を見直すなど、続けながら貢献利益をプラスに戻す道も比べます(第2章2-3)。

Q7. 限界利益と粗利益は、どちらを見ればよいですか

社内の判断には限界利益が向いています。

粗利益には、変動費と固定費が混ざっています。

決算書との対応を見るときは粗利益、値引きや商品の判断には限界利益を使います。

まとめ

  • 限界利益=売上−変動費。取引・商品の稼ぐ力
  • 貢献利益=限界利益−個別固定費。事業・部門の全社への貢献度
  • 出発点は、費用を変動費と固定費に分ける固変分解。80%の精度で始める
  • 事業の判断では、「やめたら本当になくなる費用」を見る
  • 値引き・変動費・数量・固定費の打ち手を、同じ物差しで比べる
  • 限界利益の見える化は「攻め」の入口。1業務・1KPIから始める

売上1,500万円の担当と、800万円の担当。

どちらを評価するかは、限界利益で並べたときに初めて決められます。

まず、今月の損益計算書の費用を3つに分けるところから始めてください。

もう少し詳しく知りたい方へ

限界利益・貢献利益の定義づくりから、ダッシュボードでの見える化まで、ご相談をお受けしています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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