人手が足りない。採用したいが、なかなか人は採れない。そう感じている経営者は少なくありません。けれど、「人を増やす」だけがDXを進める道ではありません。
この記事では、次の3つが分かります。
- なぜ「採用」だけでは人手不足が解決しないのか
- 人を増やさずにDXを進める力を、どう確保するか(4つの選択肢)
- 外部の力を借りるときの“つまずき”と、その避け方
むずかしい前提知識は要りません。上から順に読めば、自社で次の一歩を考えられるようになります。
なぜ「人を増やす」だけでは解決しないのか
人手が足りないとき、まず思い浮かぶのは「採用」です。けれど、採用だけでは追いつかないのが今の現実です。
DX(デジタル技術で仕事のやり方を変える取り組み)を進めようにも、それを担う人材がそもそも足りていません。DXを推進する人材が「不足している」と答えた日本企業は85.1%にのぼります(出典:IPA「DX動向2025」)。しかもこの割合は、数年前からほとんど改善していません。
これは、海外と比べても際立って高い数字です。同じ調査では、人材が不足していると答えた企業は米国で23.8%、ドイツで44.6%でした(出典:IPA「DX動向2025」)。日本は、人材の「量」だけでなく「質」も足りないと指摘されています。
図1:DX推進人材が「不足」と答えた企業の割合(出典:IPA「DX動向2025」)
つまり人材は、「採れば解決する」ほど市場に余っていないのです。とくに中小企業では、限られた人材をめぐる競争はさらに厳しくなります。
仮に採用できても、もう一つの壁があります。人を増やすことは、固定費を増やすことでもある、という点です。
- 採用には時間と費用がかかる
- 入社後の育成にも、さらに時間がかかる
- 一度増やした人件費は、簡単には下げられない
売上が伸びる保証がないのに、固定費だけが先に増える。これは経営にとって重い決断です。
では、なぜこれほど人手が足りないのか。その構造そのものは、関連記事「人手不足の本質と向き合う」でくわしく扱います。
ここで大事なのは、視点を一つずらすことです。「人を増やす」以外に、DXを前に進める道はないのか。次の章で、その発想を具体的に見ていきます。
「人を増やさずにDXを進める」という発想
人を増やせないなら、DXは諦めるしかないのか。そうではありません。発想を変えれば、人を増やさずに前へ進む道があります。
その出発点は、「人と仕事を本質化する」という考え方です。むずかしく聞こえますが、中身はシンプルです。
- いまの仕事を、本当に必要なものだけに絞る
- 自社でやるべきことと、そうでないことを分ける
- 足りない力は、抱え込まずに外から借りる
「人を増やす」のは、仕事の量はそのままに、こなす人手を足す発想です。一方「本質化」は、仕事のほうを見直し、人を増やさずに回る形をつくる発想です。
図2:「人を増やす」と「人と仕事を本質化する」の違い
まず効くのは、「そもそも手放せる仕事はないか」と問うことです。減らせる作業を先に減らせば、必要な人手も自然と小さくなります。この「業務を手放す」という考え方は、関連記事「業務を『捨てる』という発想」でも取り上げています。
そのうえで、それでも足りない力をどう確保するか。ここが次の論点になります。
人を増やさずに、DXを進める力をどう持つか。次の章で、現実的な選択肢を並べて見ていきます。
DXを進める力をどう確保するか(4つの選択肢)
人を増やさずにDXを進めるとき、足りない力をどう確保するか。大きく4つの選択肢があります。それぞれに向き不向きがあるので、自社に合うものを選ぶのが基本です。
① 自社で育成する
社員を一から育てる方法です。時間はかかりますが、育てば知見が自社にしっかり残ります。一方で、育成には日々の業務に加えた手間がかかり、戦力になるまでに年単位の時間を見込む必要があります。せっかく育てた人が辞めると、また振り出しに戻りやすいのも弱点です。長く腰を据えて内製したい会社向けの選択肢です。
② 情シスが兼任・キャッチアップする
既存の担当者が、本業と兼ねて対応する方法です。新たな採用コストがかからないので、すぐに始められます。ただし、一人に負担が集中しがちで、属人化(その人しか分からない状態)に陥りやすくなります。本業を圧迫し、肝心の現場業務が回らなくなるおそれもあります。当面の対応を小さく回したい会社向けです。
③ 作業ごとに個別外注する
必要な作業だけを、その都度外に出す方法です。使った分だけのコストで済むため、初期の負担は抑えられます。ただし単発で終わりがちで、作業は片づいても、進め方そのものが自社に残りにくいのが難点です。スポットの作業だけ切り出して任せたい会社向けです。
④ 外部の専門チームを活用する
足りないチーム力を、まとめて外から借りる方法です。人を増やさずに必要な力を確保でき、伴走型なら、進め方やノウハウが自社にも残っていきます。一人に頼らないため属人化も避けやすくなります。少人数で、運用まで含めて前に進めたい会社に向いています。
4つを並べて比べると、違いがはっきりします。
| 確保方法 | 必要な時間・コスト | 離職・属人化リスク | チーム力の担保 | 向いている企業 |
|---|---|---|---|---|
| ① 自社で育成する | 育成に時間/採用・教育コスト | 育てた人が辞めると振り出しに戻りやすい | 育てば自社に蓄積。ただし時間が必要 | 人員と育成の余力があり、長期で内製したい企業 |
| ② 情シスが兼任・キャッチアップ | 追加コストは小さいが本業を圧迫 | 一人に集中し、属人化しやすい | 一人ではチーム力に限界 | ごく小規模で、当面の対応を回したい企業 |
| ③ 作業ごとに個別外注 | 必要なときに使え、初期コストは低め | 自社にノウハウが残りにくい | 単発作業は補えるが運用は続かない | スポットの作業だけ任せたい企業 |
| ④ 外部の専門チームを活用 | 人を増やさず、必要なチーム力を確保 | 伴走型なら自社にも型が残り属人化を避けやすい | チームごと借りるため担保しやすい | 少人数で、運用まで含めて前へ進めたい企業 |
どれが正解、という話ではありません。自社の余力と、「何を残し、何を任せるか」で選ぶものです。
ひとつだけ、選ぶときに見ておきたい点です。外部に頼むなら、人材の質と進め方を一緒に見ておくと、あとで困りにくくなります。
少人数で、運用まで見据えて前に進めたい。そんな会社にとっては、④の「チームごと借りて、一緒に進める」形が現実的な選択肢になります。
外部の専門チームを活かすときの“つまずき”
外部の力を借りると決めても、進め方を誤るとうまくいきません。よくあるつまずきは3つ。先に知っておけば避けられます。
つまずき1:外部に「丸投げ」してしまう
要件も任せきり。打ち合わせに出ず、状況を把握していない。契約が終わると、何も残らない。
なぜ起きるか。外部に任せられるのは「作業」であって、「学び」そのものではありません。判断や蓄積まで手放して任せきると、契約が切れた瞬間に、自社には何も残っていない状態になりがちです。
どう避けるか。丸投げではなく、対等に一緒にチームを組むことです。意思決定は自社に残し、実行と進め方づくりを伴走してもらう。ベンチャーネットも、この「一緒に進める」形を大切にしています。
つまずき2:運用体制を軽く見る
導入したら終わりと考える。運用の担当を決めていない。ツールだけ入れて、使われない。
なぜ起きるか。DXは、入れて終わりではありません。手間も費用も「導入が3割、運用が7割」といわれます。一発で解決する“銀の弾”はなく、運用は地道に育てるものです。
どう避けるか。導入した後も、運用が回る体制づくりまで一緒に考えることです。ベンチャーネットは、つまずきを先回りして防ぐ伴走者でありたいと考えています。
つまずき3:一人情シス・兼任に背負わせる
担当者が一人で抱える。その人が辞めたら止まる。本業を圧迫する。
なぜ起きるか。少人数で、必要な機能をすべて自社だけでまかなうのは無理があります。結局どこかで、チームを組み直す必要が出てきます。
どう避けるか。足りないスキルは、人ではなくチームごと借りること。属人化を避け、対等に補い合う形にします。
3つに共通するのは、「任せきりにしない」という一点です。任せるところは任せ、残すところは自社に残す。この線引きを一緒に引ける相手かどうかが、外部活用の成否を分けます。
図3:外部活用の3つのつまずきと、共通の避け方
次の一手:AIに任せられる仕事を見極める
外部の力で進められるようになったら、次の一手があります。AIに任せられる仕事を見極めることです。
いまは、定型の作業や下調べなど、AIが担える仕事が増えています。うまく使えば、少ない人数でも、こなせる仕事の幅は確実に広がります。
ただし、ここでも考え方は同じです。AIに任せるのは「作業」であって、判断そのものではありません。何を任せ、何を自社に残すか。その線引きを決めるのは、人の側です。
AIは、人に取って代わるものではなく、人を支える道具として使う。そう捉えると、導入の判断もぶれにくくなります。
どの仕事をAIに任せ、どう業務に組み込むか。その具体的な進め方は、関連記事「AIエージェントに仕事を任せる考え方」でくわしく扱います。
人を増やさず、外部とAIの力を借りて前に進む。その全体像が、これで見えてきました。最後に、ここまでの話を一本の筋にまとめます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 外部の専門チームに頼むのは、ふつうの「外注」と何が違うの?
一般的な外注は、決まった作業を切り出して任せる形です。外部の専門チーム活用は、足りないチーム力ごと借りて、自社と一緒に進める形です。
丸投げではなく、意思決定は自社に残します。実行と運用の進め方づくりを伴走してもらうので、契約が終わっても、自社にやり方が残りやすくなります。対等に一緒にチームを組むイメージです。
Q2. 少人数の会社でも、人を増やさずにDXを進められる?
進められます。むしろ少人数だからこそ、足りないスキルをチームごと借りる発想が向いています。
一人情シスや兼任にすべて背負わせると、属人化して止まりやすくなります。必要なときに必要なチーム力を借り、運用が回る形を一緒につくれば、固定費を増やさずに前へ進めます。
Q3. まず何から始めればいい?
「何を自社に残し、何を任せるか」を切り分けるところからです。
いきなりツールを入れるのではなく、手放せる作業・任せる作業・自社に残す判断を整理します。そのうえで、運用まで伴走してくれる相手と、小さく始めるのが安全です。この最初の整理は、一緒に考えることができます。
まとめ:人を増やすのではなく、人と仕事を本質化する
人手が足りないとき、答えは「採用」だけではありません。仕事のほうを見直し、人を増やさずに回る形をつくる。その発想が出発点でした。
足りない力は、外部の専門チームやAIの力で補えます。大切なのは、任せきりにしないこと。作業や実行は任せても、判断と学びは自社に残す。この線引きが、会社に力を蓄えていきます。
人を増やすのではなく、人と仕事を本質化する。外部やAIに任せても、学びと判断は自社に残す。この一歩を、どこから踏み出すか。
ベンチャーネットは、その線引きと進め方を、御社と一緒に考えます。「自社だけでは決めきれない」と感じたら、まずは気軽にご相談ください。

