バーチャル経営アライアンス編~顧客×企業の新しいアライアンス「価値共創」

前回は、アライアンスの目的として「共創」を紹介しました。共創は、利害関係を超えて新しい価値観を創造することです。この共創という考え方をさらに具体化した考え方として「価値共創」があります。

目次

「価値共創」による新世代のアライアンス

アライアンスは、業務提携や同盟といった日本語で言い表されますが、その根底にあるのは「共創」の意識です。

しかし、業務提携や資本提携といった従来型のアライアンスは、共創というよりも「価値の交換」を重視する関係性でした。企業Aは資本を提供し、企業Bは資本を受け入れる代わりにノウハウや人材を共有するといった具合に、2者の間には常に取引の意識が働いていたわけです。これは「グッズドミナントロジック」に支配された間柄とも言えます。

グッズドミナントロジックは、かなり簡潔にまとめると「どちらかが設定した価値をもう片方が見定め、取引の可否を決定する」という考え方です。こうした関係性は「共創」とは言い難いものでしょう。

一方、近年はあらゆる製品・サービスがコモディティ化し、価格以外の差別化が難しくなっています。また、トレンドが頻繁に移り変わるため、「売る」ことよりも「使い続けもらう」ことのほうが重要です。つまり、サービスドミナントロジックに準じた思考が必須であり、「売ったものをいかに育て、つかい続けてもらうか」を追求しなくてはなりません。

サービスドミナントロジックは「使用価値」「文脈価値」「価値共創」の3つを柱とする考え方で、前述のグッズドミナントロジックに変わり、近年のビジネストレンドの主流になっています。以下は、グッズドミナントロジックとサービスドミナントロジックの違いを簡単にまとめたものです。

このような時代にあって、グッズドミナントロジックに準じた関係性はあまり重要ではありません。重要なのは、「買い手の使用価値/文脈価値向上に役立つ関係性=価値共創を想定したアライアンス」です。

価値共創の構成要素

では、価値共創が想定する「価値」とは何なのかをもう少し具体的に見ていきましょう。価値共創で想定するのは前述したように「使用価値」と「文脈価値」という2つの価値です。

  • 使用価値…顧客(買い手)が製品やサービスを使用/体験することで生じる価値
  • 文脈価値…買い手側の経験や心理状態など、文脈に応じて知覚される価値

従来のアライアンスでは、製品・サービス・人的資本・ノウハウなどを金銭的価値に換算し、それをベースに提携を行うことが多かったと思います。一方、価値共創を前提としたアライアンスでは、金銭的価値とは異なる価値をターゲットにしています。バーチャル経営では、この価値共創こそがこれからのアライアンスの基礎になると考えています。

なぜ今、価値共創なのか

価値共創を前提としたアライアンスは、中小企業の生存力・成長力を押し上げるものになるはずです。その理由は以下のとおりです。

VUCA時代の到来

VUCA時代が到来し、ビジネストレンドや市場形成の予測が難しくなりましたよね。新規事業を始めるにしても、ゴールを想定すること自体が困難な時代です。こうした時代だからこそ「誰も知らない正解を粘り強く求めて協力していくという対等な協調関係」が必要とされています。

文脈価値を想定することが難しい

サービスドミナントロジックが想定する2つの価値(使用価値と文脈価値)のうち、特に難しいのは「文脈価値の見極め」です。文脈価値を売り手のみで見極めることは不可能に近く、どうしても買い手から情報提供が必要になります。少し乱暴な言い方ですが、文脈価値の向上において売り手ができることは「提案」のみです。「未来の買い手」が見つけ出すであろう文脈価値をできるだけ早く把握するために、価値共創の意識が重要なのです。

差別化が事実上不可能である

さまざまなノウハウ・技術が成熟しつつある現代では、製品・サービスがもつスペックのみでの差別化が難しくなっています。特に、売り手が単独で生み出した製品・サービスは最終的にどれも大差がなく、買い手からすれば「どれも似たり寄ったりで、価格が多少違うだけ」というゴールに落ち着くことも珍しくありません。

また、差別化を急ぐあまり「価格競争」に乗ってしまうと、価値を生み出すためのリソースを奪われ、事業は先細りになる可能性が高まります。そういう意味で、VUCA時代とは「グッズドミナントロジックの限界を感じさせる時代」でもあると思います。

一方、売り手・買い手双方で製品・サービスを成熟させていく価値共創型のアライアンスであれば、価格以外の差別化が可能です。2者の関係性だからこそ生み出される独自の価値によって、差別化が可能になるでしょう。

BtoBの世界に置き換えると、

  • 企業Aと企業Bがある製品を合同で運用し、新しい運用ノウハウを生み出す
  • サービスの稼働状況を常時モニタリングし、相手方企業の業務に即したチューニングを施しつつ、フィードバックを得ることでサービスを改善していく
  • 合同運用によって生み出したノウハウを新しいサービスとして提案する

といった具合に価格や機能以外の面で新しい価値を生み出すことが、差別化の第一歩かもしれません。

価値共創型アライアンスの実践「価値共創マーケティング」

ここまでは、価値共創を前提としたアライアンスを紹介してきました。もうすこし具体的な価値共創の活用方法として、「価値共創マーケティング」がありますので簡単に紹介していきます。

価値共創マーケティングの概要

価値共創マーケティングとは、「文脈価値を高めるために、売り手・買い手双方が密に情報交換を行い、ナレッジとスキルを好感し、文脈価値向上のサイクルを回す」ことを指します。文脈価値という非常に曖昧で想定しづらい価値を2者が共同で探り当て、製品やサービスの改善につなげる施策です。

従来のマーケティング手法にも似たような内容は存在していました。しかし、価値共創マーケティングでは2者の接触頻度が高く、距離も極めて近いという点で従来型のマーケティングとは一線を画すものです。これについては、次の記事で詳しく紹介していきます。

まとめ

今回は、価値共創の考え方や価値共創型のアライアンスを紹介してきました。価値共創における文脈価値とは、視点を変えれば「一種のニッチ」であるとも言えます。特定の相手がある状況、心理状態、場所のみで知覚する価値であり、替えが効かないものだからです。替えが効かない独自の価値を育てるための関係性が価値共創型のアライアンスであり、その実現方法として価値共創マーケティングがあると考えています。次回は、価値共創マーケティングと、その実践に役立つノウハウ・ツールなどを紹介します。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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