「あの応募者、どうなりましたか」。採用に関わったことがある方なら、この質問に困った経験があるはずです。
書類は担当者のメールボックスの中。面接の感想は口頭で共有し、日程調整は個人のスマートフォン。そして数日が過ぎ、応募者から辞退の連絡が来ます。
採用で失注する原因の多くは選考の質ではありません。止まっていたことに誰も気づかなかった、という単純な理由です。
この「止まっている」は、目に見えるようにできます。Odoo(オドゥー:オープンソース由来の統合業務アプリ群)の採用管理(Recruitment)は、応募者を「段階」の上に並べる仕組みです。誰が今どこにいるかを、関係者全員に見せます。
採用管理アプリは、無料のCommunity版でも有償のEnterprise版でも使えるとされています。ただし、周辺の一部機能はEnterprise版が対象です。
効くのは見える化だけではありません。不採用の理由を選んで記録すると、その内訳を集計でき、次の募集を変える材料になります(不採用の記録)。
採用管理アプリを入れると、たとえば次のことが変わります。
- 止まっている応募者が、目に見えるようになる
- 面接で聞くことをそろえ、応募者を同じ物差しで比べられる
- 採用が決まった応募者を、そのまま従業員として登録できる
ただし、採用が年に1〜2名で応募も数件なら、入れる必要はありません(入れないほうがよい場合)。良い点と注意点は、採用管理のメリットとデメリットにまとめました。
では、導入前に何を決めておくべきか。とくに、入社しなかった応募者の個人情報の扱いです。答えは保持期間を先に決めるにあります。
Odooの採用管理(Recruitment)でできること
Odoo公式サイトと公式ドキュメントには、次のような機能が案内されています(出典:Odoo公式サイト、2026年8月確認/公式ドキュメント 採用管理、2026年10月確認)。
求人と応募の受付
- 求人(Job Position)を作成し、自社サイトに公開できる
- Webの応募フォームから、応募者カードが自動で作られる
- 応募に添付された履歴書を、応募者カードから参照できる
選考の管理
- 応募者は、あらかじめ決めたステージ(段階)を順に進む
- ステージに入ったタイミングで、定型メールを自動送信できる
- 面接用のフォーム(Interview Form)を作り、応募者に回答してもらえる(アンケート(Surveys)アプリが必要)
- 面接の日程を、カレンダーと連動して設定できる
不採用と分析
- 不採用の理由(Refuse Reason)を選んで記録できる
- 理由ごとに、応募者へ送るメールの文面を変えられる
- どの経路からの応募が採用につながったかを集計できる
用語:ここでいう「パイプライン」とは、応募から入社までの一連の段階のことです。営業の商談管理と同じ考え方を、採用に当てはめたものです。
Odooの採用管理のメリットとデメリット
採用管理アプリの良い点と注意点は、次のとおりです。使える版が分かっているものは、版も添えています。
メリット
- 応募者の「今どこ」が全員に見える:応募者は決めたステージを順に進み、止まっているカードが目に見える。採用管理アプリはCommunity版でも利用できるとされている。社員紹介制度のReferralsなど、周辺の一部はEnterprise版が対象
- 受付と連絡の手間が減る:Webの応募フォームから応募者カードが自動で作られる。ステージに入ったタイミングで、定型メールも自動で送れる
- 面接の物差しをそろえられる:求人ごとに面接フォームを作り、聞くことを先に決めておける。アンケート(Surveys)アプリが必要
- 不採用の理由と応募経路を集計できる:理由の内訳や、どの経路からの応募が採用につながったかが分かる
- 入社後のデータと地続きになる:採用が決まった応募者を従業員として登録し、入社後の人事評価に期待を引き継げる。課金対象は社内のユーザーで、応募者の人数では変わらない
デメリット・注意点
- 求人媒体との連携は個別に確認が要る:日本の求人媒体との連携は、媒体側の仕様に左右される
- 日本固有の採用は専用サービスが合うことが多い:Odooの採用管理は通年採用を前提とした設計。新卒一括採用への対応やスカウト・母集団形成の機能はない
- 応募者の情報は自動では消えない:保持期間、削除の担当者、応募時の説明を運用として決める必要がある
- 応募が数件なら表計算ソフトのほうが速い:価値が出るのは、選考に関わる人が複数いるとき
両方を並べると、次の図のとおりです。
注意点の避け方は、保持期間を先に決めると入れないほうがよい場合、ベンチャーネットが確かめる4つのことで説明しています。
採用管理の本質は、応募者の「今どこ」の可視化
機能を並べる前に、構造を押さえてください。
下の形にしても、変わることは1つだけです。
止まっているカードが、目に見えるようになります。
地味な変化に見えますが、採用ではこの差が結果を分けます。応募者は、複数の会社を同時に見ているからです。
ステージは、自社の言葉で決める
Odooの標準では、応募から入社までの段階があらかじめ用意されています。
そのまま使う必要はありません。自社の選考に「書類選考のあとの現場見学」があるなら、その段階を作ってください。
段階の数は問題ではありません。次に誰が動くかが、段階ごとに決まっていれば十分です。
面接フォームで、面接の評価をそろえる
効き目のある機能が、もう1つあります。面接フォームです。
Odoo公式ドキュメントでは、求人ごとに面接フォームを作り、応募者に回答してもらう運用が案内されています。
なぜ必要なのか
面接の評価は、面接官によってばらつきます。能力の差ではなく、見ている点が違うからです。
- ある人は「うちの雰囲気に合うか」を見る
- 別の人は「今の業務をすぐ回せるか」を気にする
- また別の人は「3年後に伸びるか」に目を向ける
どれも正しい観点です。問題は、そろっていないまま比べてしまうことにあります。
聞くことを先に決めておけば、応募者どうしを同じ物差しで比べられます。
作り込みすぎない
ただし、質問を増やしすぎると、面接が作業になります。
5問前後から始めて、運用しながら削るほうがうまくいきます。
不採用の記録が、次の採用に効く
見落とされがちですが、価値があるのは不採用の記録です。
不採用の理由を選んで記録すると、その内訳が集計できるようになります。
「経験不足」が多いなら、求人票の書き方が実態と合っていないのかもしれません。「辞退」が多いなら、選考のスピードを疑うべきです。
記録がなければ、来年も同じ募集を出すことになります。
ただし、記録の書き方には注意してください
不採用の理由は、応募者の個人情報とセットで残ります。
評価的な表現や、業務と関係のない属性に触れる記述は残さないでください。 運用のルールとして、先に決めておく話です。
【重要】応募者の個人情報は、保持期間を先に決める
採用管理アプリには、入社しなかった人の個人情報がたまっていきます。履歴書、連絡先、面接の記録です。
社員と違い、この人たちとは雇用関係がありません。それでも、データは残り続けます。
決めておくこと
導入前に、次の3つを決めてください。
- 応募者の情報を、どのくらいの期間保管するか
- 期間が過ぎたデータを、誰がいつ削除するか
- 応募時に、保管について何をどう伝えるか
Odooが自動でこれを判断してくれるわけではありません。 運用として決めておかないと、データは増え続けます。
日本の個人情報保護法との関係
応募者の情報の取り扱いは、法令の対象です。利用目的の明示や、保管期間の考え方には決まりがあります。
法令の解釈は、自社の規程や、必要に応じて専門家に確認してください。
権限とデータの守り方の考え方は、Odooのセキュリティとバックアップの考え方にまとめています。
採用管理のCommunity版とEnterprise版の違い
Odooには、無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。
Community版は、オープンソースとして無料で使える版です。ただし、サーバーの用意・アップデート・障害対応は自社の責任で、公式サポートの対象外です。
採用管理アプリは、Community版でも利用できるとされています。
一方で、社員紹介制度を扱うReferralsなど、人事まわりの一部のアプリはEnterprise版が対象と案内されています。
どの機能がどちらの版で使えるかは、バージョンによって変わります。 検討するときは、必ず対象バージョンで確認してください。
詳しくはOdoo Community版とEnterprise版の違いをご覧ください。
他のアプリとのつながり
採用は、入社の瞬間に人事管理へ引き継がれます。
| アプリ | つながり方 |
|---|---|
| 人事管理 | 採用が決まった応募者を、従業員として登録できる |
| 人事評価 | 入社後の評価につながる。選考時の期待を引き継げる |
| 社内チャット | 応募者ごとの記録に、選考の議論が残る |
アプリごとの詳細は、次の記事にあります。
Odooの採用管理を入れないほうがよい場合
この機能が要らない会社もあります。
| 自社の状況 | 判断の目安 |
|---|---|
| 採用は年に1〜2名。応募も数件 | 入れる必要はありません |
| 応募のほとんどが知人紹介で、選考が短い | 効果は限定的です |
| 採用が常時動いており、複数人が関わる | 効果が出やすい領域です |
| 求人媒体を複数使い、応募経路を比べたい | 集計の価値があります |
応募が数件なら、表計算ソフトのほうが速いです。
採用管理アプリの価値は、関わる人が複数いることから生まれます。1人ですべて回しているなら、その人の頭の中がいちばん速い管理台帳です。
社内会議では、次の問いに答えてみてください。2つ以上当てはまれば、検討する価値があります。
- □ 「あの応募者どうなった」という質問が、月に何度も出ている
- □ 面接官が3人以上いて、評価の基準が人によって違う
- □ 連絡の遅れが原因と思われる辞退が、この1年で複数あった
- □ 入社後の人事情報を、採用時の情報とつなげて見たい
採用管理の専用サービスという選択肢
日本には、求人媒体との連携や、新卒採用の商習慣に対応した専用サービスがあります。
新卒一括採用のように日本固有の進み方をする採用なら、専用サービスのほうが合うことが多いはずです。 Odooの採用管理は、通年採用を前提とした設計だからです。
Odooの採用管理の価値は、入社後の従業員データと地続きであることにあります。ここに意味を感じるかどうかで判断してください。
そもそも人を採るのか、外注やAIで埋めるのかから考えるなら、採用か、外注か、AIかも判断の材料になります。
採用管理を入れる前に、ベンチャーネットが確かめる4つのこと
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。採用管理の相談を受けても、画面の設定からは始めません。次の順で確かめます。
- この1年の採用の実態を聞く:応募数、選考に関わる人数、辞退が出たタイミングを伺います。応募が数件なら、この時点で「入れなくてよい」とお伝えします
- 今の選考を段階に書き出す:Odoo標準のステージを出発点に、自社に要る段階だけを足します。標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方です。各段階で「次に誰が動くか」を1人に決めます
- 応募者データの扱いを先に決める:保持期間、削除の担当者、応募時の説明の3つです。法令の解釈は、自社の規程や専門家の確認に委ねます
- どこまでをOdooに乗せるかを切り分ける:母集団形成は専用サービスに残し、選考の後半と入社後だけをOdooで扱う形もあります。3〜5年後の採用人数と人事の体制から逆算して決めます
採用管理は、人事部門だけのIT導入ではありません。面接官になる現場の管理職を巻き込む、経営のプロジェクトです。最初の面談には、採用を決める立場の方に同席していただくようお願いしています。
採用管理アプリに対応する有名SaaS(HRMOS採用・ジョブカン採用管理など)
すでに採用管理サービスを使っているなら、Odooの採用管理アプリはその置き換え候補になります。対応関係と、置き換えたときに変わることは次のとおりです。
| 使っているSaaS | Odooでの対応 | 一言で言うと |
|---|---|---|
| HRMOS採用 | 採用管理(Recruitment) | 選考パイプラインの管理は重なる。日本の求人媒体連携はHRMOSの領域 |
| ジョブカン採用管理 | 採用管理(Recruitment) | 同上。新卒採用の商習慣への対応は専用サービスが深い |
| Greenhouse | 採用管理(Recruitment) | 通年採用を前提とした設計という点で近い |
機能の違い
- Odooにあって採用SaaSにないもの:採用が決まった応募者を、そのまま従業員として登録し、工数・経費・評価と地続きで扱えること
- 採用SaaSにあってOdooにないもの:日本の求人媒体との連携、新卒一括採用の進め方への対応、スカウト機能
課金構造の違い
採用管理サービスは、求人の掲載数や利用人数で決まる体系が中心です。ただしこの領域も、価格を公開していないサービスが多く、問い合わせが前提になります。
※2026年9月時点で各社公式ページを確認しましたが、定価の記載は見当たりませんでした。
Odoo Enterprise版は、全アプリ一律のユーザー単価が公式サイトで公開されています。採用管理アプリはCommunity版でも利用できるとされ、無償で始める選択肢もあります。金額の詳細はOdooの料金体系を解説を参照してください。
Odooの課金対象は、選考に関わる社内のユーザーです。応募者の人数では変わりません。
置き換えのメリット
- 採用が決まった時点で、応募者の情報がそのまま従業員データになる
- 選考時の期待値を、入社後の人事評価に引き継げる
- 求人・選考・入社後の情報が同じ場所にあり、探す先が増えない
置き換えのデメリット・向かないケース
- 日本の求人媒体との連携は、個別の確認が必要。媒体側の仕様に左右される
- 新卒一括採用のように日本固有の進み方をする採用は、専用サービスのほうが合うことが多い
- スカウトや母集団形成の機能は、Odooにない
- 応募が年に数件なら、表計算ソフトのほうが速い
判断の分かれ目は、入社後の従業員データと地続きにしたいかどうかです。母集団形成が採用活動の中心なら、専用サービスを残す判断が現実的です。
他のアプリの対応表は、Odooで置き換えられるSaaS対応表にまとめています。
バージョンと機能の更新について
Odoo 19.0は、2025年9月にリリースされました。標準サポートの終了は、2028年9月(予定)と公式に記載があります。
その後、19.1(2026年1月)・19.2(2026年3月)・19.3(2026年5月)・19.4(2026年7月)が順に提供されました。
19.1〜19.4は、Odooオンラインで先に提供されたものです。 Odoo.shとオンプレミスは対象外でした(公式のサポート表にN/Aと明記)。
2026年9月には、次のメジャー版のOdoo 20が公開されました。Odoo.shやオンプレミスの会社も、Odoo 20に上げれば19.1〜19.4の新機能をまとめて受け取れます。
違うのは、新機能を受け取る時期です。早く使いたいならOdooオンライン。自社で管理したいならOdoo.shかオンプレミスで、年1回のメジャー版に合わせます。Odoo 20の変更点はOdoo 20の新機能まとめにまとめました。
採用管理に直接かかわる変更は、19.1〜19.4の公式リリースノートに記載が見つかりませんでした。
なお、この更新の話はEnterprise版が前提です。Community版は、19.1〜19.4のような更新の流れには乗りません(出典:Odoo公式 リリースノート・サポート表、2026年10月確認)。
よくある質問
Q1. 今使っている求人媒体と連携できますか?
日本の求人媒体との連携は、個別の確認が要ります。Odoo公式が案内しているのは、自社サイトへの求人公開と、Web応募フォームからの取り込みです。
媒体側の仕様に左右されるため、実機で試してから判断してください。
Q2. 応募者への連絡は、どこまで自動にしてよいですか?
受付の連絡までは、自動で問題ありません。ステージに入ったタイミングで、定型メールを送る設定ができるとされています。
ただし、すべてを自動にしないでください。 選考結果の連絡まで機械的だと、応募者の印象が変わります。
Q3. 面接の日程調整の手間は減りますか?
面接の予定を、カレンダーと連動して設定できるとされています。
公式ドキュメントには、面接の段階に移した応募者へ日程選択のリンクをメールで送り、応募者自身に空き時間を選んでもらう流れも案内されています。この仕組みに必要なアプリや使える版は、対象バージョンでの確認をおすすめします。
Q4. 応募者の情報は、いつまで残りますか?
自動では消えません。運用として決める必要があります。
保持期間、削除の担当者、応募時の説明。この3つを導入前に決めてください。詳しくは応募者の個人情報の保持期間をご覧ください。
Q5. 採用が決まったら、そのまま従業員になりますか?
応募者の情報から、従業員を作成できるとされています。
ただし、入社手続きに必要な情報は別途そろえる必要があります。 選考で集める情報と、雇用に必要な情報は範囲が違うためです。
Q6. Odooの採用管理のメリットとデメリットは何ですか?
選考の見える化が強みで日本固有の採用には専用サービスが合うことがあります。
応募者が今どの段階にいるかが全員に見え、採用が決まれば従業員として登録できます。採用管理アプリは、Community版でも利用できるとされています。
一方、日本の求人媒体との連携は個別の確認が要り、新卒一括採用やスカウトは専用サービスの領域です(メリットとデメリット)。
まとめ
Odooの採用管理は、求人票を出すための機能ではありません。
本質は、応募者が今どの段階にいるかを、関係者全員が同じ画面で見られることです。
止まっているカードが見えるようになると、連絡の遅れによる辞退が減ります。採用の失注は、選考の質よりスピードで起きることが多いからです。
面接フォームで聞くことをそろえれば、応募者を同じ物差しで比べられる。不採用の理由を記録すれば、来年の募集を変える材料になります。
一方で、導入前に決めておくべきことがあります。応募者の個人情報の保管期間、削除の担当、応募時の説明の3つです。
メリットは、選考の進み具合が全員に見え、入社後の従業員データとつながることです。注意点は、日本固有の採用への対応と、応募者情報の扱いにあります。
採用が年に数名で応募も数件なら、無理に入れる必要はありません。この機能は、関わる人が複数いるときに効きます。
1年後の採用会議では、不採用理由の内訳を見ながら求人票を書き直している。「あの応募者、どうなりましたか」という質問は、もう誰の口からも出ていない。そんな情景を目指してください。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「採用は既存サービス、入社後はOdoo」といった切り分けからご相談を承っています。この1年の応募数と辞退の状況をお持ちいただければ、入れるべきかどうかから一緒に考えます。
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