この記事でわかること
- 現在地と未来の距離を、欠損ではなく燃料として扱う考え方
- 見える化・わかる化・儲かる化という、距離の測り方
- 距離を前にして動けなくなる、四つのつまずき
世界の先頭にいる人たちの言葉を、順に読んできました。
何を見て、どんな未来を語っているのか。一人ずつ、本人が公に出した文書に当たってきました。
読んだのは、経営の参考にするためではありません。自分がいまどこにいるのかを、確かめるためでした。
読み終えて、いま感じていることがあります。
方向は、合っている。
そのうえで、距離はあります。私はその距離を、埋めるものではなく燃料として扱うことにしました。では、どう測り、どう燃料に変えるのか。
距離の話は、書き方を誤ると煽りになります。だから、先に自分の現在地から書きます。
ギャップとは何か——埋めるものではなく、燃料である
ギャップとは、いまいる場所と、これから向かう先との距離のことです。この記事では、欠損ではなく燃料として扱います。
私が受け取ってきた学びは、五つの段階でつながっています。
図1 ギャップが生まれる五段階——本記事が担うのは④と⑤
① 先人の智慧を学ぶ。② 自分と自社のルーツから欲望を見つける。③ 世界の先頭が見ている未来を知る。ここまでは、これまでの記事で扱いました。
この記事が引き受けるのは、④と⑤です。現在地と未来との差を自覚し、その差を原動力に変える段階です。原動力とは、人や会社が動きはじめるときの、最初の力のことです。
距離を欠損と読むか、燃料と読むか。ここで行き先が変わります。
過去を跳躍台に変える話は、別の記事で扱いました。こちらは、未来との距離を燃料に変える話です。
欠損と読むと、目的は「埋めること」になります。ところが、資金や人の差は短期には埋まりません。
私が感じている距離——方向は、合っている
外を測る前に、まず内を測ります。
最初に確かめたのは、方向でした。向かう先が食い違っていれば、測る意味はありません。
食い違ってはいませんでした。方向は、合っている。まずそう思いました。
では、差はどこに出ているのか。
使えるお金と、人です。そして、規模です。数えれば数えるほど、差は大きく見えます。
ただ、その差については、いま少し違う見方をしています。
その差は、今後AIで埋められる可能性がある。そう考えるようになりました。埋まると断言できる材料は、まだ持っていません。
差の大きさは、それで変わるわけではありません。変わるのは、その差を前にして手が止まるかどうかです。
距離の測り方——見える化・わかる化・儲かる化
距離は、感覚で測るものではありません。仕事で長く使ってきた三つの段階を、そのまま物差しにしました。
三つの段階は、こうです。
- 見える化:誰が何を言っているかを、文章にすること
- わかる化:その内容を、自分で肚に落とすこと
- 儲かる化:自社の前提条件・制約条件・ポジショニング・業界の具体を入れて考えること
もともとは、経営を良くしていくときの手順です。未来を読むときにも、同じ順番が効きました。
図2 距離の測り方——三段階を通ると、最後に欲望が動く
見える化——他人の言葉を、自分の文章にする
最初にやったのは、誰が何を言っているのかを文章にすることでした。
一人ずつ順に読んで、書いていきました。この間は、まだ他人の話のままです。それでも、見えるようにしないと何も始まりません。
わかる化——肚に落ちるまで、自分で考える
次に、読んだ内容を自分で肚に落とす段階に入ります。ここは時間がかかりました。
書いてある言葉をなぞるだけでは、肚には落ちません。自分の言葉に置き換えて、もう一度書く。その繰り返しでした。
儲かる化——自社の条件を入れて考える
三つ目が、自社の条件を入れて考える段階です。
前提条件、制約条件、ポジショニング、業界の具体。これらを入れて初めて、読んだ内容が自分の商売の話になります。
そして、この段階まで来たときに、欲望が動きました。
やりたいことが、自分の側から出てきたのです。順番を飛ばさなかったことが、効いたのだと思っています。
一連の記事を読んで書くという作業は、振り返れば、この三段階の実演でした。
測ったあとに、何が起きたか
距離を測り終えたあと、私の側で動いたことがあります。ここが⑤にあたります。
まず、自分が見ている未来を想像しました。次に、それを動画にしました。
動画化は以前から考えていましたが、コストが高くて手を出しませんでした。それが、AIで作れるようになったのです。
そこから先も同じです。AIを使って開発し、実装し、テストする。できたものをもとに、お客様と商談する。
商談の目的は、売り込むことではありません。お客様の側で欲望が動くかどうかです。動けば、そこから先は一緒に進み、途中で発見していく。
これは、特別なことではありません。
稲盛和夫氏の『六つの精進』(サンマーク出版)に、「努力を重ねれば創意工夫が生まれる」という一節があります。行き詰まって必死に考えているからこそ、新しいヒントが出てくる、という趣旨です。
工夫が先にあって努力が続くのではありません。必死に考えているうちに、工夫のほうがやってくるのです。
距離を前にして動けないとき——四つのつまずき
距離の扱いには、つまずきやすい場所が四つあります。二つ目は、私自身が長くはまっていたものです。
一、距離を「埋めるべき欠損」として読む
読むほどに焦りが増える。「うちの規模では無理だ」と結論して閉じる。情報は増えるのに、決めたことは増えない。
差を欠損と読んだ時点で、行き先が「埋めること」に固定されるからです。
私も距離は感じています。それでも方向は合っている。そう思えるかどうかで、同じ距離が別の意味になります。
二、「規模がなければ大きなことはできない」と決めてしまう
規模で勝てない領域には挑まない。大きな会社の事例を、別の話として切り離す。人数の少なさを、制約としてだけ数える。
業界の常識を、自分の可能性の上限として飲み込んでしまうからです。
私自身がそうでした。この業界では企業規模が重視されます。少人数の組織に大きなことは難しい、と思っていました。
いまは、想像力の勝負であれば可能性はある、と考えています。
三、「見える化」で止まる
要約と名言のメモだけが増える。読んだ直後は動くのに、数日で戻る。学んだことが、自社の話にならない。
書き出した段階は、まだ他人の話だからです。肚に落とし、自社の条件を入れるまで進まないと、欲望は動きません。私も、読んで書くだけでは動きませんでした。
四、距離の外側に立ってしまう
世界の潮流を語って社内を急かす。「うちは遅れている」と繰り返す。自分の現在地は測らないまま、人に測らせる。
距離を人に見せる側に回った瞬間、話は煽りになります。自分がどこにいるかを書いていないからです。順序が逆で、内が先です。
明日、一つだけやってみる
最近読んだ先端の話を一つ選び、自社の前提条件や制約条件を入れて考え直してみてください。書き出すだけの見える化で止めないことが肝心です。
よくある質問
距離の扱いについて、経営者の方からよく受ける問いです。いずれも、私自身が最初に引っかかった場所です。
なぜ、わざわざ距離を測るのですか
測らないと、次に動く方向が決まらないからです。
先人の智慧を学び、自分のルーツを掘るところまでは、多くの経営者がやっています。そこに先頭の未来との差が加わって、初めて方向がはっきりします。
規模も資金も違う相手と比べて、意味があるのですか
順位づけが目的なら、意味は薄いと思います。方向の確認なら、意味があります。
差は、使えるお金と人、そして規模に出ています。その差はAIで埋められる可能性がある、というのが現時点の見方です。
距離を測ると、何が変わりますか
自分の側から、やりたいことが出てきます。
三つの段階を順に通った結果、以前はコストが高くてやらなかったことに手をつけました。
埋めるのではなく、燃やす
距離は、埋めるためにあるのではありません。動くための燃料です。
測り方は、見える化・わかる化・儲かる化の三段階でした。すでに自分たちが持っていたものを、未来に向けて使っただけです。
測り終えたときに出てきたのは、これでした。
創業のときにやりたいと思った熱を、もう一度。
新しい何かではありませんでした。一度持っていて、いつのまにか置いてきたものです。距離を測るという作業は、それを取りに戻る作業でもありました。
ここまでは、一人でできます。
ただ、この五段階を個人ではなく組織で回すと、話が変わります。では、どこから入ればいいのか。次の記事では、その入り口にあたる共有ビジョンのつくり方を扱います。
そしてこの話は、学びつづけるとはどういうことか、という最初の問いに戻ります。学びとは、成果を生む力を更新しつづけることでした。
あなたの現在地は、いまどこにありますか。よければ、同じ三段階で一度測ってみてください。
出典
- 稲盛和夫氏の『六つの精進』(サンマーク出版)。「努力を重ねれば創意工夫が生まれる」の一節はこの本による
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