知能の値段が、電気代に近づく——アルトマンの「穏やかな特異点」を、自分のルーツから読む

前回は、ザッカーバーグ氏の言葉を借りて、会社の形が小さく多くなる未来を読みました。一人の射程が伸びる、という話でした。

今回は、その射程を伸ばしている当のもの、つまり知能の値段の話です。

OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏は、知能のコストはやがて電気代に近づく、と書きました。順序は変えません。まず私のルーツから。次に彼の想像力。最後に、私の中に何が生まれたか、です。

目次

高くて使えなかったものが、安くなった日

私が高くて使えなかったものは、三つあります。

SEOをやるときの、記事の外注。高額なパソコン。そして、高額なセミナーです。

どれも、当時の私には手が届きませんでした。だから、知恵のほうを使いました。手元にある情報を、どうすればお金に変えられるか。そればかり考えていた時期です。

三つのうち、実際に安くなって手が届いたのは、記事の外注でした。ツールが出てきて、値段が下がったのです。

高いものが安くなる。その経験を、私は自分の商売の中で一度しています。だから、知能の値段の話は、他人事に聞こえません。

前を見ると垂直、振り返ると平ら——同じ一本の曲線 時間 できること 現在地 振り返ると、平らに見える 前を見ると、垂直に見える 驚きは、日常になり、やがて前提になる

図1 前を見ると垂直、振り返ると平ら——アルトマン氏の言う「一本の滑らかな曲線」を、現在地から見る

アルトマンは何を言ったか

アルトマン氏は、知能のコストがやがて電気代に収斂する、と述べました。私はその一文に、自分が通ってきた「安くなった日」の続きを見ました。

サム・アルトマン氏は、OpenAIのCEOです。2025年6月10日、氏は個人ブログに「The Gentle Singularity(穏やかな特異点)」と題した文章を公開しました。以下は、そこから私が自分で訳したものです。

氏はまず、こう書き出します。私たちは事象の地平線を越え、離陸は始まった。人類はデジタルの超知能を築く手前にいるが、少なくとも今のところ、それは思ったより奇妙ではない、と。

年次の見立ては、本人の記載のとおりです。2025年は、本当の認知的な仕事をこなすエージェントが到着した年。2026年は、新しい洞察を見つけ出すシステムが到着しそうな年。2027年は、現実世界で作業するロボットが到着するかもしれない年、と氏は書いています。

私が目を留めたのは、値段の話です。データセンターの生産が自動化されるにつれ、知能のコストは最終的に電気代の近くへ収斂するはずだ、と氏は述べます。文章の終わり近くには、「計測する必要がないほど安い知能」は手の届く範囲にある、ともあります。

もう一つ、仕事についての一文です。仕事のクラスがまるごと消えるような、非常に難しい局面はある。しかし歴史が手がかりになるなら、人は新しくやることと、新しく欲しいものを見つけ出す、と氏は書いています。

そして、この文章の題名の由来です。奇跡はやがて日常になり、そして前提になる。これが特異点の進み方だ、と。前を見ると垂直に見え、振り返ると平らに見えるが、一本の滑らかな曲線である、と氏は述べています。

安くなった知能を、私は何に使っているか

いま私が空いた時間で作っているのは、跳躍台です。

欲望を動かすための知恵を集めて、AI時代へ飛ぶための台を作る。この記事を書いている作業そのものが、それにあたります。

集める作業には、AIに渡しているものと、渡していないものがあります。

渡しているのは、文字起こしと整理です。渡していないのは、自分の過去を集めてくる作業のほうです。

過去に自分が興味を持って学んだこと。そこにこそ、これからの道が示されていると思っています。だから、そこは自分でやります。

私がつまずいた、四つのパターン

知能が安くなる話を聞いて、私は何度か判断を誤りました。心当たりがあれば、同じ道です。

パターン1:安くなったものを、たくさん使うことが目的になる

  • 生成した文書や案の数で前進を測る
  • 何のために使うかを決める前に、使い始める
  • 出力は増えるが、決めることは増えない

安くなったのは知能で、目的ではありません。氏の文章は「私たちは良いアイデアによって制約される」と述べています。安い知能を回すほど、問いの側の貧しさが露わになります。

パターン2:「消える仕事」の話を、自分の会社の外の話だと思う

  • 大企業や専門職の話として聞く
  • 自社の一つひとつの仕事に当てはめない
  • 気づいたときには、取引先の側が先に変わっている

氏は仕事のクラスがまるごと消える局面を「非常に難しい」と認めています。小さな会社の仕事も、クラス単位で見れば同じ曲線の上にあります。

パターン3:奇跡が日常になった瞬間に、驚きを忘れる

  • 半年前にできなかったことを、もう当然だと思う
  • 次に何が前提になるかを考えない
  • 曲線を振り返ってばかりで、前を見ない

「奇跡は日常になり、前提になる」という一文は、慣れの速さへの警告でもあります。振り返れば平らに見える曲線を、私は何度も平らだと誤解しました。

パターン4:少数で大きな仕事ができる、と読み違えていた

  • 人数が少なくても、大きな仕事は回せると思っていた
  • 組織をつくることを、後回しにした
  • 階層を軽く見て、そのぶんの時間を失った

私は長いあいだ、少数でも大きな仕事はやれると思っていました。

実際にやってみて、そうではないと学びました。大きな仕事には組織が要ります。そして、階層を守らないと回りません。

射程が伸びるのと、階層が要らなくなるのは、別の話でした。私が読み違えたのは、そこです。

ただし、AIでそれすら変わるかもしれない。いまはそう思っています。

知能が安くなったあとに、残るもの 安くなるもの 知識を集める 文章や案をつくる 計算し、照合する → 電気代に近づく 安くならないもの 何のためにやるか(目的) どの知識を結びつけるか 何を欲しいと決めるか → 会社ごとに違う ドラッカーの六つの条件は、仕事の目的を考えさせることから始まる 安くなった側を回すほど、右側の貧しさが露わになる

図2 知能が安くなったあとに、残るもの——電気代に近づく側と、会社ごとに違う側を分ける

ドラッカーが「結合」と呼んだもの

安くなった知能の話は、道具の話に見えます。しかし古典に当てると、知識の生産性の話でもあります。

私はこれを、自分の商売で実測しました。AIによって、記事は量産できるようになりました。

しかし、顧客が動くような記事は作れません。未来と現在のギャップを見せて、これが欲しかったんだ、と思わせる記事。そこだけは量産できないのです。

そのための材料は、自分に読書を強いて集めるしかない。安くなったのは知識のほうで、結びつけるほうは安くなりませんでした。

ドラッカーは『ポスト資本主義社会』で、こう述べています。

成果を生み出すために、既存の知識をいかに有効に適用するかを知るための知識が、マネジメントである。

(P・F・ドラッカー『経営の哲学』上田惇生編訳、ダイヤモンド社。『ポスト資本主義社会』からの抜粋)

知識そのものは安くなる。しかし「適用するための知識」は、安くなりません。同じ『ポスト資本主義社会』から、もう一つ引きます。

結合こそ、偉大な芸術家のみならず、ダーウィン、ボーア、アインシュタインなど偉大な科学者の特性である。(中略)だが結合によって知識の生産性をあげることは、かなりの程度学ぶことができる。

(同じく『経営の哲学』所収、『ポスト資本主義社会』からの抜粋)

さらに『明日を支配するもの』では、知識労働者の生産性を上げる六つの条件を挙げています。その最初に置かれているのが「仕事の目的を考えさせる」でした。

(同じく『経営の哲学』所収、『明日を支配するもの』からの抜粋)

アルトマン氏は「良いアイデアによって制約される」と書きました。そして氏は、長くからかわれてきた「アイデアの人」たちに、日の当たる時代が来ようとしている、と続けます。

制約になるのは知能ではなく、アイデアのほうだ、という含意です。ドラッカーの言葉で言えば、目的と結合が制約になる。安くなるのは知能で、この二つは会社ごとに違う、と私は読みます。

絶望し、そして欲望が生まれる

世界の最先端にいる人の言葉を読むと、私はまず絶望します。そして、その絶望から欲望が生まれます。

私が最初に感じたのは、能力の差ではありませんでした。

私は、仕事をゲームのような感覚でやってきました。成功したらお金がもらえるゲームは、とても楽しかった。

その大好きなゲームが、無くなってしまう。読み終えて残ったのは、その感じでした。

絶望の中身は、追いつけないことではありません。すでに手にしていたものが、失われる予感のほうです。

そして、その奥にもう一つあります。AIで組織や階層すら変わるのなら、人間もいらなくなるのかもしれない。

ここに答えは出しません。出せていない、というのが正直なところです。宙吊りのまま、次の記事へ持っていきます。

ギャップは、埋めるべき欠損ではなく、燃料です。次の記事「ギャップは、埋めるものではなく、燃料である」で、この距離の測り方を扱います。

そして問いは、シリーズの出発点に戻ります。なぜ、経営者は学びつづけなくてはいけないのか。知能が安くなるほど、目的を考える側の学びが、差になるからです。

あなたの会社で、安くなった知能は何に使われていますか。よければ、その話を聞かせてください。塾長としてではなく、同じ曲線の上にいる同志として。

よくある質問

「知能の値段が電気代に近づく」とは、AIが無料になるという意味ですか?

無料ではありません。アルトマン氏は、データセンターの生産が自動化されるにつれ、コストが電気代の近くへ収斂するはずだ、と述べています。私の読みでは、安くならない側(目的・結合)に差が移る、という意味です。

小さな会社に、特異点の話は関係ありますか?

年次の予測は、本人の記載どおりに読むだけで十分です。関係があるのは「奇跡が日常になり、前提になる」速さです。取引先の前提が変わると、小さな会社の仕事も変わります。

何から手をつければいいですか?

私の順序は、安くなった知能を回す前に、仕事の目的を一文で書くことです。ドラッカーの六つの条件の最初がそれでした。目的が書けない仕事は、安い知能を回しても増えるだけです。

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  • なぜ、経営者は学びつづけなくてはいけないのか

出典

  • Sam Altman「The Gentle Singularity」(blog.samaltman.com・2025年6月10日公開)。引用は筆者訳
  • P・F・ドラッカー『経営の哲学——いま何をなすべきか』上田惇生編訳、ダイヤモンド社(『ポスト資本主義社会』『明日を支配するもの』からの抜粋)
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この記事を書いた人

Takuomi Mochidaのアバター Takuomi Mochida 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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