「メール配信もECも、ERPの中でできるなら、まとめたほうが楽ですよね」
販売や会計を比べ終えた方から、よく出てくる質問です。
マーケ・Web・ECの7業務とは、メール配信・MA・SNS管理・Webサイト・EC・イベント・アンケートのことです。
この領域は、NetSuiteにもOdooにも機能があります。
ただし、専用のサービスのほうが深い領域です。
だから、問うべきは「できるか」ではありません。
どこまで寄せるかです。
では、その線はどこに引けばよいのか。
物差しは1つで足ります。そのデータが、お金からどれだけ離れているかです。
会計まわりは会計・請求・経費、販売まわりは販売・CRM・店舗、在庫まわりは在庫・購買・製造、人事まわりは人事・勤怠・給与で扱いました。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、あわせてOdooの導入支援も行っています。
どちらか一方に誘導する立場ではありません。
📌 この記事で分かること
- マーケティング・Web・ECの7業務が、それぞれ①②③のどれになるか
- ERPに寄せる範囲を決める物差し「お金からの距離」
- 寄せない業務から、何をERPに戻せばよいか
- ECは、なぜ「売り方」で結論が分かれるのか
- この領域が、製品選びの材料になる場合とならない場合
この領域で見ること|できるかより、どこまで寄せるか
判定は3つ
判定の言葉は、親ハブの記事と同じ定義です。
①標準で足りるとは、NetSuiteの標準機能に同じ業務範囲があり、追加の開発が要らない状態のことです。
②拡張で補うとは、標準にはないものの、項目・レコード・ワークフローを組み合わせて作れる状態を指します。
③連携するは、相手側の商流や法制度への対応が価値の源泉であり、専用のサービスを残してつなぐ状態です。
45アプリ全体の対応表はOdooのアプリはNetSuiteで何に当たるかにあります。
ここまでの4本と、問いが変わる
| 記事 | 読者の問い |
|---|---|
| 会計・請求・経費 | 残すか、寄せるか(③になる理由) |
| 販売・CRM・店舗 | 作るか、あきらめるか(②になる条件) |
| 在庫・購買・製造 | どこまでの深さが要るか |
| 人事・勤怠・給与 | そもそも比べる必要があるか |
| 本記事 | ERPにどこまで寄せるか |
在庫・購買・製造は、ERPの標準がいちばん厚い領域でした。
マーケティング・Web・ECは、その逆です。
ERPにも機能はありますが、専用のサービスのほうが深く、進化も速い。
そのため「ERPでできるか」と問うと、たいてい「できる」と返ってきます。
決めるべきなのは、できる範囲のうち、どこまでを寄せるかです。
7業務の判定表
親ハブの対応表と、Odoo側の対応表を並べます。
| 業務(Odooのアプリ) | NetSuiteでの実現 | NetSuite側の判定 | Odoo側の関係 |
|---|---|---|---|
| メール配信(Email Marketing) | CRMのキャンペーン機能で簡易な配信は可能。規模と到達性は専用サービス | ①/③ | 同等 |
| MA(Marketing Automation) | 本格的なMAは標準にない | ③ | 一部重なる |
| SNS管理(Social Marketing) | 標準にはない | ③ | — |
| Webサイト(Website) | EC・サイトの機能はあるが、コーポレートサイトの用途には不向き | ③ | 一部重なる |
| EC(eCommerce) | ECの機能(追加ライセンス)。既存ECとの連携が一般的 | ①/③ | 一部重なる |
| イベント(Events) | 簡易なイベント管理は拡張で作れる。申込・決済は連携 | ②/③ | 一部重なる |
| アンケート(Surveys) | 標準にはない。回答を顧客に紐づける簡易な仕組みは拡張で作れる | ② | 同等 |
MA(マーケティングオートメーション)とは、見込み客への連絡や情報提供を、行動に応じて自動で行う仕組みのことです。
NetSuite側は、③が多く並びます。
Odoo側も「同等」は2つだけ。SNS管理(対応表に行なし)を除く残りは「一部重なる」です。
Odoo側の対応表は第6章で、専用のサービスが業務の中心になっている場合は残して連携する、としています。
どちらの製品から見ても、専用のサービスを残す場面が多い領域です。
寄せる範囲の決め方|お金からの距離
この領域のデータは、お金に近いものから遠いものまで幅があります。
お金に近いデータほどERPに寄せ、遠いデータほど専用のサービスに任せます。
冒頭の問いへの答えは、この物差しです。
3つの層
| 層 | どんなデータか | 例 | 置き場所 |
|---|---|---|---|
| 第1層:お金と在庫が動く | 受注・出荷・請求・入金に直結する | ECの注文、イベントの有料申込の売上 | ERPに寄せる |
| 第2層:顧客が誰かが決まる | 見込み客が、取引先・顧客になる | 問い合わせ、資料請求、申込者、回答者 | つないでERPの顧客に戻す |
| 第3層:反応を測る | 見られた・開かれた・押された | メールの開封、サイトの閲覧、SNSの反応 | 専用のサービスに任せる |
3つの層は、AIの使いやすさとも重なります。
| 層 | AIとの親和性 | 理由 |
|---|---|---|
| 第1層 | 高い | 注文と在庫がERPの1か所にあれば、売上の要約や傾向の下書きをAIに任せやすい |
| 第2層 | 中くらい | 顧客が2つの仕組みで別人になっていると、AIも同じ顧客として扱えない |
| 第3層 | 専用のサービス側で高い | 反応の分析は、専用のサービスが備えるAIの機能に任せるほうが早い |
第1層は、ERPに寄せる
注文が入れば、在庫が引き当てられ、出荷され、請求され、入金されます。
この流れが途中で別の仕組みに分かれると、転記と照合が生まれます。
店の画面は、専用のサービスに置いても構いません。
ただし、注文が入った瞬間から先はERPの流れに乗せます。
第2層は、つないで戻す
見込み客の情報は、はじめはマーケティングの仕組みの中にあります。
それが商談になり、取引になった時点で、ERPの顧客になります。
ここで避けたいのは、同じ会社・同じ人が、2つの仕組みで別人になることです。
問い合わせをくれた人と、後で注文をくれた人が同じだと分かれば、どの施策が売上につながったかが見えます。
第3層は、専用のサービスに任せる
メールの開封率、ページの閲覧数、SNSの反応。
量が多く、細かく、変化も速いデータです。
ERPに入れても、会計や在庫の判断には使いません。
専用のサービスで分析し、必要なら結果の要約だけを経営の資料に載せれば足ります。
物差しが「お金からの距離」である理由
在庫・購買・製造の記事では、「深さが自社に要るか」を測りました。
この領域では、深さはたいてい専用のサービスのほうにあります。
深さで測ると、すべてが専用のサービスに流れます。
すると、注文や顧客の情報まで外に出て、ERPの中の数字とつながらなくなります。
お金からの距離で測れば、深さは専用のサービスに任せられます。
それでいて、お金に関わる部分だけはERPに残せます。
7業務を3つの層に置くと
第2章の7業務を、3つの層に置いてみます。
| 業務 | 主な層 | ERPに寄せるもの | 専用のサービスに任せるもの |
|---|---|---|---|
| EC | 第1層 | 注文・在庫・出荷・請求・入金 | 店の画面・集客・決済の手段 |
| イベント | 第1層/第2層 | 有料の申込の売上、申込者の顧客情報 | 告知・申込の受付画面・当日の運営 |
| アンケート | 第2層 | 回答と、回答した顧客の紐づけ | 質問の設計・配信 |
| メール配信 | 第2層/第3層 | 配信先の顧客情報 | 配信・開封の計測・到達性の管理 |
| MA | 第2層/第3層 | 商談になった見込み客 | 行動の記録・自動の連絡・点数づけ |
| Webサイト | 第3層 | 問い合わせの内容 | サイトそのもの・閲覧の分析 |
| SNS管理 | 第3層 | (原則なし) | 投稿・反応の分析 |
どの業務も、ERPに寄せるのは一部だけ。
そして寄せる部分は、どれも「注文」か「顧客」のどちらかです。
イベントとアンケートは、作る余地がある
イベントとアンケートは、親ハブで②(拡張で補う)とされています。
- イベント:申込を記録し、見込み客や顧客に紐づける簡易な仕組みは作れる
- アンケート:回答を顧客に紐づける簡易な仕組みは作れる
どちらも、第2層の「顧客が誰か」を残すための仕組みです。
告知や集客まで作り込む必要はありません。そこは専用のサービスのほうが深いからです。
作るかどうかは、販売・CRM・店舗の記事の「②になる条件」に当てはめて決めます。
ECは「売り方」で結論が分かれる
7業務のうち、ECだけは第1層の比重が大きく、判断が重くなります。
そして、どう売るかで結論が変わります。
売り方ごとの分かれ方を図にすると、次のとおりです。
| 売り方 | 考え方 | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| 自社ブランドの直販、取引先向けの受発注 | ERPと一体のEC(NetSuiteではSuiteCommerce)が候補になる | SuiteCommerceとは |
| 国内のモールが売上の中心 | 外部のECとつなぎ、注文を一元化する | NetSuiteのEC連携 |
| 既存のカート(Shopifyなど)で売る | カートとERPをつなぐ | Shopify×NetSuite連携の方法 |
公開中のSuiteCommerceの記事では、日本の多くの会社の組み合わせを、自社サイトはERPと一体、モールは外部との接続、と整理しています。
Odoo側の対応表も、ECを「一部重なる」としています。
決済・配送・アプリの広さで、専用のプラットフォームが先行しているためです。
大規模なECを業務の中心にしている会社は、残す判断が現実的だとしています。
どちらの製品でも、ECの画面をどこに置くかより、注文をどこに集めるかが先です。
注文が集まる場所は、第1層の考え方どおりERPです。
戻すデータの設計で決める3つのこと
専用のサービスを残すと決めたら、次の3つを先に決めます。
| # | 決めること | 決まっていないと |
|---|---|---|
| 1 | 顧客をどちらで作るか | 同じ会社がERPとマーケティングの仕組みで別々に登録され、重複する |
| 2 | 何をERPに戻すか | 開封や閲覧まで戻そうとして、連携が重くなる |
| 3 | いつ戻すか | 商談になった見込み客が、ERPに現れるのが遅れる |
戻すのは、層の境目を越えたときだけ
2つ目の「何を戻すか」は、第3章の層で決まります。
- 第3層から第2層に上がったとき(問い合わせ、申込、回答)に、顧客の候補として戻す
- 第2層から第1層に上がったとき(注文、有料の申込)に、取引として戻す
層を上がらないデータは、戻しません。
開封や閲覧は、何度起きても第3層のままです。
逆向きに渡すものもある
ERPから専用のサービスへ渡すものもあります。
たとえば、すでに取引のある顧客かどうか。
これが分かれば、既存の顧客に新規向けの案内を送るような、ちぐはぐな連絡を避けられます。
渡すのは「取引の有無」程度で足ります。
請求の金額まで渡す必要はありません。
この領域が製品選びの材料になる場合、ならない場合
正直に書きます。
マーケティング・Web・ECの領域だけで、NetSuiteとOdooのどちらかを選ぶ理由は、多くの場合立ちません。
どちらの製品でも、深い部分は専用のサービスに任せることが多いからです。
ただし、材料になる場合が2つあります。
小さく、1つの仕組みで始めたい場合
Odooは、Webサイト・EC・メール配信を、同じデータベースの上のアプリとして持っています。
専用のサービスを増やさず、1つの仕組みで小さく始めたい会社には、この形が軽く感じられるはずです。
注文以降の流れが重い場合
複数の拠点や子会社、複数の販路の注文を、在庫・会計と一体で扱う必要がある場合です。
決め手はECの画面ではなく、注文から先の深さになります。
それは在庫・購買・製造や会計・請求・経費の領域で決まる話です。
どちらでもないなら、他の領域で決める
どちらにも当てはまらないなら、この領域は製品を決める材料にしないでください。
製品が決まった後に、第3章の層に沿って寄せる範囲を設計すれば十分です。
つまずく3つのパターン
3つのパターンを、先に図で示します。
パターン1:「ERPでもできる」を理由に、すべて寄せる
現象
メール配信もアンケートも、ERPの中で始める。
配信の規模が大きくなって、到達性や分析の不足に気づき、専用のサービスを追加で入れる。
結局、2つの仕組みで同じ顧客を管理することになる。
構造的な原因
「できるか」だけで判断し寄せる範囲を決めていないためです。
この領域は、ERPの機能が入口として使える一方、深さは専用のサービスにあります。
回避策
第3章の3つの層で、業務ごとに寄せる範囲を先に決めてください。
第3層の業務は、最初から専用のサービスに任せる前提で設計します。
パターン2:すべて外に出し、注文と顧客までERPから離れる
現象
EC・メール・イベントを、すべて専用のサービスで運用する。
注文と顧客の情報がそれぞれに散らばり、どの施策が売上につながったか分からない。
構造的な原因
深さの物差しだけで判断したためです。
深さで測ると、この領域はすべて専用のサービスに流れます。
回避策
第1層(注文)と第2層(顧客)は、必ずERPに戻す設計にします。
画面は外でも、注文と顧客の置き場所はERPです。
パターン3:開封や閲覧まで、ERPに戻そうとする
現象
「データはすべてERPに集めるべきだ」と考え、メールの開封やページの閲覧まで連携する。
連携の量が増え、止まったときの影響も大きくなる。
構造的な原因
一元化をすべてのデータを1か所に置くことだと考えているためです。
会計や在庫の判断に使わないデータまで集めても、判断は速くなりません。
回避策
6-1のとおり、層の境目を越えたときだけ戻すと決めてください。
第3層のデータは、専用のサービスで見れば十分です。
ベンチャーネットならこう見る|3つの層は「標準に合わせる/開発する/残す」
ベンチャーネットは、標準で収まらない業務を「標準に合わせる/開発する/残す」の3つから選びます。
この領域では、3つの層がそのまま3つの選択に重なります。
| 層 | 選択 | この領域でやること |
|---|---|---|
| 第1層:お金と在庫 | 標準に合わせる | 注文から入金までを、ERPの標準の流れに乗せる |
| 第2層:顧客 | 開発する | 申込や回答を顧客に紐づける仕組み、戻す連携を作る |
| 第3層:反応 | 残す | 専用のサービスを残し、つなぎ方だけ決める |
ただし、選ぶのは業務の見える化のあとです。
いま使っているECやマーケティングの仕組みと、そこから手で転記している数字を先に書き出します。
転記が多い業務ほど、第1層か第2層に置くべきものが外に出ています。
NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているのがベンチャーネットです。
仕事は、ゼロからの導入より、他社のあとの引き継ぎや他システムとの連携が多くを占めます。
この領域でも、ECや専用のサービスとの接続の設計・実装と、申込・回答を顧客に紐づける仕組みの開発を引き受けます。
そして、この領域だけで製品を決めないよう、はっきりお伝えします。
決め手になるのは、多くの場合、注文から先の深さです。
今日できること|7業務を3つの層に置く
いま使っている、またはこれから使いたいマーケティング・Web・ECの仕組みを書き出してください。
そして、それぞれが扱うデータを3つの層に置きます。
- 第1層:お金と在庫が動くか(注文・申込の売上)
- 第2層:顧客が誰かが決まるか(問い合わせ・申込者・回答者)
- 第3層:反応を測るだけか(開封・閲覧・SNSの反応)
第1層と第2層に置いたものが、ERPに寄せる、または戻す範囲です。
第3層は、専用のサービスに任せます。
45アプリ全体で同じ棚卸しをするなら、OdooのアプリはNetSuiteで何に当たるかの対応表を使ってください。
よくある質問
Q1. NetSuiteでメール配信はできますか
簡易な配信はできます。
親ハブの対応表では、CRMのキャンペーン機能で簡易な配信は可能、規模と到達性は専用のサービス、としています。
配信の規模が大きい場合や、開封を細かく分析したい場合は、専用のサービスとつなぐ形が現実的です。
Q2. MAは、ERPの中に入れるべきですか
本格的なMAは専用のサービスに任せるのが基本です。
MAが扱う行動の記録は、第3章の第3層に当たります。
ERPに戻すのは、商談になった見込み客だけで足ります。
CRM・SFA・MAの違いはNetSuiteのCRMとはで解説しています。
Q3. ECは、ERPと一体のものを選ぶべきですか
売り方で変わります。
自社ブランドの直販や取引先向けの受発注なら、ERPと一体のECが候補になります。
国内のモールが売上の中心なら、外部のECとつなぐ形が一般的です(第5章)。
どちらの場合も、注文はERPに集めます。
Q4. コーポレートサイトをERPで作れますか
おすすめしません。
親ハブの対応表でも、NetSuiteのサイトの機能は、コーポレートサイトの用途には不向きとしています。
サイトは第3層です。
専用のサービスで作り、問い合わせの内容だけを戻してください。
Q5. この領域でNetSuiteとOdooのどちらかを選ぶことはありますか
多くの場合ありません。
例外は2つ。1つの仕組みで小さく始めたい場合と、注文から先の流れが重い場合です(第7章)。
それ以外は、会計・販売・在庫の領域で製品を決めた後に、寄せる範囲を設計してください。
まとめ:深さは任せて、お金と顧客は残す
- マーケティング・Web・ECは、ERPにも機能はあるが専用のサービスのほうが深い領域
- 決めるべきは「できるか」ではなく、どこまで寄せるか
- 物差しはお金からの距離。第1層(お金と在庫)は寄せる/第2層(顧客)はつないで戻す/第3層(反応)は任せる
- 戻すのは、層の境目を越えたときだけ
- ECは売り方で分かれる。ただし、注文はどちらの場合もERPに集める
- この領域だけでは製品を決めない
深さで測ると、すべてが外に流れます。
お金からの距離で測れば、深さは専用のサービスに任せながら、注文と顧客はERPに残せます。
まずは、いま使っている仕組みを3つの層に置いてみてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
いま使っているECやマーケティングの仕組みを書き出していただければ、寄せる範囲の設計から一緒に始められます。
この領域だけでは製品を決めない、ということもお伝えします。
