月の粗利300万円のA店と、280万円のB店。
稼いでいるのはA店です。
ところが1時間あたりで比べると、B店が500円上回ります(数字は架空)。
この「1時間あたりの粗利」が、人時生産性(にんじせいさんせい)です。
人時生産性とは、従業員1人が1時間働いて生み出す粗利を示す指標で、「粗利 ÷ 総労働時間」で計算します。
人手を増やせない中で、同じ人数のまま粗利をどう増やすか。その答えを測る物差しになります。
では、B店のほうが良い店なのか。
そう言い切れないところに、この指標の使い方の難しさがあります。
この記事で分かること
- 人時生産性の計算式と、架空の数字での読み方
- 労働生産性との違い
- 粗利を増やす打ち手と、時間の使い方を変える打ち手
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階の見分け方
- よくある3つの失敗と、その避け方
人時生産性とは|定義と計算式
計算式は次のとおりです。
人時生産性 = 粗利 ÷ 総労働時間
- 粗利(売上総利益):売上から、売上原価を引いた利益
- 総労働時間:正社員・パート・アルバイトなど、全員の実際の労働時間の合計
たとえば、2人が2時間働いて12,000円の粗利を出したとします。
人時生産性は、12,000円 ÷(2人 × 2時間)= 3,000円です。
この指標の強みは、働き方が違う人をまとめて測れることです。
パートや短時間勤務の人が多くても、「1時間あたり」で見るので公平に比べられます。
粗利の考え方は、売上総利益(粗利)とはで詳しく扱っています。
総労働時間に何を含めるか
数字を比べる前に、分母の範囲を決めておきます。
- 残業時間を含めるか(含めるのが基本)
- 本部や間接部門の時間を、店舗や部門に割り振るか
- 研修や会議の時間を含めるか
範囲が部門ごとに違うと、比べても意味がありません。
最初に決めた範囲を、毎月同じ形で使い続けます。
労働生産性との違い
似た指標に労働生産性があります。
見る単位と、使う場面が違います。
| 観点 | 労働生産性 | 人時生産性 |
|---|---|---|
| 計算式 | 付加価値額 ÷ 労働投入量 | 粗利 ÷ 総労働時間 |
| 見る単位 | 従業員数または労働時間 | 1時間あたり |
| 向く場面 | 全社・経営全体の評価 | 現場・店舗・シフト単位の管理 |
| 多様な雇用形態 | 人数ベースだと捉えにくい | パート・時短も公平に測れる |
ざっくり言えば、労働生産性は経営全体を、人時生産性は現場を見る指標です。
付加価値で全社の生産性を見たい場合は、労働生産性とはをあわせてご覧ください。
なぜ今、人時生産性が問われるのか
背景には、次の4つの変化があります。
- 労働力人口の減少:少子高齢化で、人の確保が難しくなっている
- 働き方改革:長時間労働の是正で、限られた時間での成果が問われる
- 雇用形態の多様化:正社員以外が増え、人数だけでは測りにくい
- より細かい経営管理の必要:競争が激しく、細かい単位での判断が要る
人を増やして売上を伸ばす道は、細くなっています。
限られた人で、より多くの粗利を上げる。
人時生産性は、この課題に向き合うための分かりやすい物差しです。
生産性が上がりにくい背景は、なぜ日本の中小企業は生産性が上がらないのかで扱っています。
業種別の目安|他社の平均とどう比べるか
業種ごとの平均値は、公的な統計や業界の資料で示されることがあります。
ただし、比べる前に定義をそろえる必要があります。
- 分子が「粗利」か「付加価値」か
- 労働時間に、パートや本部の時間を含めるか
- 何年の、どの規模の会社の数字か
定義が違う数字と比べても、自社が高いか低いかは判断できません。
同じ業種でも、商品の単価や営業時間で数字は大きく変わります。
他社の平均より、自社の数字の動きのほうが役に立ちます。
部門・店舗・月ごとに並べて、どこが上がり、どこが下がったかを見ます。
人時生産性を上げる打ち手|分子と分母に分けて考える
打ち手は、分子(粗利)を増やすか、分母(労働時間)の使い方を変えるかに分かれます。
| 打ち手 | 効く側 | 中身の例 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| 粗利の高い商品・顧客に人を寄せる | 分子 | 粗利の高い商品の提案に、時間を多く使う | 高。商品別・顧客別の粗利から、AIで候補を洗い出しやすい |
| 価格と提供価値を見直す | 分子 | 値上げ、付加価値のあるサービスの追加 | 中。試算はAIで補助できるが、判断は人 |
| 人員の配置を合わせる | 分母 | 忙しい時間帯に人を厚く、暇な時間帯に薄く | 高。時間帯別の売上と勤務のデータがあれば、配置案を作りやすい |
| 業務を減らす・簡単にする | 分母 | 不要な会議や二重入力をやめる、手順を標準化する | 中。手順書の作成や整理にAIが使える |
| 定型作業を自動化する | 分母 | 集計・転記・請求書の作成をシステムやRPAに任せる | 高。データが1か所にあるほど自動化しやすい |
RPAは、パソコンでの定型作業を自動化する仕組みです。
AIとの親和性は、生成AIにデータの分析や作業を任せやすいかどうかを示します。
分母を削る打ち手には、限界があります。
分子の粗利には、理屈のうえでは上限がありません。
分子を増やす打ち手を先に考えると、頭打ちを防げます。
自社の数字をどう見るか|架空の2店舗で考える
※以下の数字は、説明のための架空の数字です。
| 店舗 | 月の粗利 | 総労働時間 | 人時生産性 |
|---|---|---|---|
| A店 | 300万円 | 1,000時間 | 3,000円 |
| B店 | 280万円 | 800時間 | 3,500円 |
冒頭の2店舗です。
数字だけ見ると、B店のほうが効率がよく見えます。
しかし、次の問いに答えるまでは判断できません。
- B店は、人が足りずに接客の質や売り逃しが起きていないか
- A店は、忙しくない時間帯に人が多すぎないか
- 両店で、総労働時間の範囲(残業・本部の時間)はそろっているか
月単位の数字だけでは、原因は分かりません。
時間帯別・曜日別に分けると、人の厚い時間と粗利の出る時間のずれが見えてきます。
たとえばA店で、平日の午後に人が多く、粗利が少ないと分かったとします。
この時間の人を夕方に回せば、同じ総労働時間でも粗利が増える可能性があります。
人を減らさずに、数字を上げる道です。
判断の物差し|Excelで足りる段階と、システムが要る段階
見分け方を図にすると、次のとおりです。
Excelで足りる段階
- 店舗や部門が少なく、月1回の集計で十分
- 粗利は会計ソフト、労働時間は勤怠の仕組みから、毎月すぐ出せる
- 見たいのは月単位の数字だけ
この段階では、まずExcelで毎月の数字を並べる習慣を作ります。
システムが要る段階
- 店舗・部門・商品別に、週単位や日単位で見たい
- 粗利と労働時間を合わせる作業に、毎月数日かかっている
- 商品ごとの原価が正確に分からず、粗利が当てにならない
- 部門ごとに集計のやり方が違う
こうした状態なら、販売・原価・会計のデータを1か所にそろえる仕組みを考える時期です。
Excelからの移り時は、ExcelからNetSuiteへ移行すべきタイミングで扱っています。
NetSuite以外が合う場合
- POSと勤怠の仕組みで数字が出る店舗数なら、いまの仕組み+Excel
- 販売・在庫から順に広げたいならOdoo、業種特有の帳票を重く見るなら国産ERP
- 総労働時間の範囲も決まっていないなら、いまはシステムを入れない
NetSuiteが合いやすいのは、複数の拠点や事業の数字を、同じ物差しで見たい会社です。
測り始める会社と、頭打ちの会社
これから人時生産性を測り始める会社
最初は、全社の1か月分の数字を1つ出すことから始めます。
次に、部門や店舗に分けます。
精度より、同じ範囲で毎月出し続けることを優先してください。
3か月並べると、自社の数字の動きが見えてきます。
すでに測っているが、数字が頭打ちの会社
多くの場合、分母の労働時間を削る打ち手を出し尽くしています。
次は、分子の粗利を見る段階です。
- 商品別・顧客別の粗利が、正確に出ているか
- 粗利の高い仕事に、人の時間が向いているか
- 集計の仕組みが、担当者の手作業に頼っていないか
いまの基幹システムで商品別の粗利が出せないなら、仕組みの見直しも選択肢です。
保守期限が近ければ、その機会に原価の持ち方から考え直す手もあります。
人時生産性でよくある3つの失敗
失敗1:分母の労働時間だけを削る
起きること:残業を減らし、1件あたりの時間を切り詰める。「早く終わらせた人」が評価される空気になる。短期的に数字は上がるが、やがて頭打ちになる。
原因:計算式だけ見ると、分母を削るほど数字は上がる。知的労働やサービスの仕事では、手を抜いた分だけ提供価値も下がる。選ばれる理由を失えば、粗利そのものが減る。
避け方:指標を入れる前に、「何のために上げるのか」をチームで話します。
値上げや、粗利の高い仕事への配置換えなど、分子を増やす議論を必ず並べます。
失敗2:どんぶり計測で、数字が当てにならない
起きること:粗利が正確に分からない。労働時間がタイムカード頼りで、実態とずれる。部門ごとに集計方法が違う。
原因:分子も分母もあいまいなまま、人時生産性を計算している。誤った数字をもとに改善しても、打ち手が的外れになる。
避け方:まず、正しく測れる状態を作ります。
総労働時間の範囲をそろえ、商品ごとの原価を正しく持つことが先です。
失敗3:一部の部門だけ改善して、全体が変わらない
起きること:ある部門の数字は上がったが、全社の粗利は増えない。別の部門の負担が増えている。
原因:部門ごとに仕組みが分かれ、全社を同じ物差しで見られない。一部門の最適化が、他部門へのしわ寄せを生む。
避け方:全社・部門・現場を同じ物差しで見られるよう、データを1か所にそろえます。
部門の数字と全社の数字を、同じ会議で並べて見ます。
NetSuiteで人時生産性を見える形にする
NetSuite(ネットスイート)は、会計・販売・在庫・顧客管理などを1つにまとめるクラウド型の基幹システムです。
世界220地域・44,000社以上で使われています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。
いまNetSuiteの標準で使えること
- 1つのデータベース:各機能が共通のデータベースを持ち、情報がリアルタイムに更新されます
- 役割別のダッシュボード:経営者・管理者・担当者ごとに、必要な指標を画面に置けます
- 部門・場所ごとの数字:取引や従業員に部門を付け、部門や場所ごとの財務レポートを出せます
出典:Oracle NetSuite公式「What Is NetSuite?」(2026年9月確認)
出典:Oracle NetSuiteヘルプ「Classifications Overview」(2026年9月確認)
粗利を部門・店舗別に正しく出せると、人時生産性の分子が確かになります。
開発で補えること
労働時間のデータは、勤怠の仕組みから取り込むか、NetSuiteで持つかを設計で決めます。
時間帯別の人時生産性など、自社独自の集計画面が要る場合は、開発で補う方法があります。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、アドオン開発「NetSuiteリブート」で対応しています。
今後の提供を待つこと
NetSuiteのAIの機能は、順次追加されています。
日本での提供状況は機能ごとに違うため、アカウントの担当に確認してください。
ベンチャーネットならこう見る
人時生産性の相談で、ベンチャーネットが最初に伺うのは次の3つです。
- 何のために上げたいのか:人を増やせないからか、粗利を増やしたいからか
- 分子の粗利は正しく出ているか:商品別・顧客別の原価が分かるか
- いまの仕組みで出せるか:出せるなら、Excelで始める
システムを考えるのは、3番目で「出せない」と分かってからです。
型1:1業務・1KPIで、最短90日の1周目
最初から全店・全部門で追いません。
1つの店舗のシフト作りなど、1つの業務に絞り、KPIは人時生産性の1つだけ。
これなら、最短90日で「測る→配置を変える→結果を見る」の1周を回せます。
1周目では、現場の勘と、データから出した配置案を同じ条件で比べます。
同じ曜日・同じ時間帯で、店長のシフトとデータにもとづくシフトを並べ、粗利を見る。
勘が勝てば、それも残すべき知恵です。
型2:守り→攻め→次へ
人時生産性も、この3段で深めます。
- 守り:粗利と総労働時間を、同じ範囲で毎月正しく出せる
- 攻め:時間帯別に配置を変え、定型の集計は自動化する
- 次へ:人時生産性を部門のKPIにし、管理会計と並べて経営会議で見る
失敗2のどんぶり計測は、守りを飛ばして攻めに進んだときに起きます。
人時生産性は、人を減らすための指標ではありません。
限られた人の力をどこに活かすかを考えるための物差しです。
今日できること|1時間で自社の人時生産性を出す
- 先月の粗利を、会計ソフトから出す
- 先月の総労働時間を、勤怠の記録から合計する(パート・アルバイトを含む)
- 粗利 ÷ 総労働時間 を計算する
- 部門や店舗ごとに、同じ計算をしてみる
- 「範囲があいまいだった時間」を書き出す
5で書き出したものが、次に決めるべきルールです。
翌月も同じ手順で出し、2か月を並べてみてください。
よくある質問
Q1. 人時生産性と労働生産性は、何が違いますか
見る単位と使う場面が違います。
労働生産性は、付加価値額を労働投入量で割り、全社の生産性を見ます。
人時生産性は、粗利を総労働時間で割り、1時間あたりの粗利を見ます。
現場・店舗・シフト単位の管理に向いています。
Q2. 人時生産性を上げると、現場の負担が増えませんか
時間を削ることだけを追うと増えます。
分母を削れば、見かけの数字は上がります。
しかし現場が疲れ、提供価値も下がります。
分子の粗利を増やす打ち手を、必ず並べて考えてください(第5章)。
Q3. 総労働時間には、何を含めればよいですか
残業を含む実際の労働時間の合計が基本です。
本部の時間や研修の時間を含めるかは、会社で決めます。
部門ごと・月ごとに、同じ範囲で計算することを守ってください(第1章1-1)。
Q4. 業界平均より低い場合、どうすればよいですか
平均との差より自社の数字の動きを見ます。
同じ業種でも、単価や営業時間で数字は大きく変わります。
部門別・時間帯別に分け、低い場所がどこかを探すほうが打ち手につながります。
Q5. Excelで管理しても大丈夫ですか
店舗や部門が少なく月単位で見るなら十分です。
部門別・商品別に細かく見たい場合や、集計に数日かかる場合は、仕組みを考える時期です(第7章)。
Q6. NetSuiteを入れると、人時生産性はどう変わりますか
測る・判断する・改善するの流れが回しやすくなります。
販売・原価・会計のデータが1つのデータベースにそろい、部門別の粗利が出しやすくなります。
ただし、数字を判断に使う場と習慣がなければ、変わりません。
まとめ|人時生産性は「人を活かす」ための物差し
- 人時生産性は、粗利 ÷ 総労働時間。1時間あたりの粗利を見る
- 労働生産性は全社、人時生産性は現場を見る指標
- 打ち手は、分子(粗利)を増やすことを先に考える
- 数字を比べる前に、総労働時間の範囲をそろえる
- 1周目は1業務・1KPIに絞り、勘とデータを同じ条件で比べる
A店とB店のどちらが良い店かは、1時間あたりの数字だけでは決まりません。
まずは先月の自社の数字を、同じ範囲で1つ出してみてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
人時生産性の測り方の設計から、毎月見る画面づくりまで、ご相談をお受けしています。
NetSuiteが合わない場合は、その理由もお伝えします。
