DXを推進するプロジェクトマネージャーに必要な3つのスキル

「DXを進めたい。でも、率いる人が社内にいない」

中堅・中小企業の経営者から、よく聞く悩みです。

ただ、探している人の姿が、少し違っているかもしれません。

DX推進のプロジェクトマネージャーとは、デジタル技術を使った業務と組織の変革を、計画から定着まで率いる役割のことです。

要るスキルは3つ。技術への理解力、変革をリードする力、ビジネス視点の判断力です。

3つを1人で満たす人は、まずいません。

社内で必ず持つべきは判断力で、技術は外部と組めば補えます。

では、足りない部分を外と組むとき、社内には何が残るのか。

丸投げで終わる会社と、力が社内に積み上がる会社の差は、体制の組み方で決まります。

目次

この記事で分かること

  • DXの成否を「ツール」より「誰が率いるか」が分ける理由
  • DX推進役に必要な3つのスキルと、社内で持つべきもの
  • 推進体制の3つの型と、ERP導入での役割分担の具体像
  • 人と体制でつまずく、よくある3つの失敗

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DXとは、デジタル技術を使って業務を変え、会社そのものを変えていく取り組みです。

業務のデジタル化、作業の自動化、データの一元管理などが入り口になります。

経済産業省は、経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」にまとめています。

最新は2024年6月の「デジタルガバナンス・コード3.0」です。

2022年9月の改訂では、「デジタル人材の育成・確保」の観点が加わりました(出典:経済産業省公式、2026年9月確認)。

人材の目安には、「デジタルスキル標準」もあります。

経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が公表しているものです。

全員向けの「DXリテラシー標準」と、推進する専門人材向けの「DX推進スキル標準」の2つで構成されます。

令和8年4月にはver.2.0が公表され、ビジネスアーキテクトなどのロールとスキルが見直されました(出典:経済産業省公式、2026年9月確認)。

ビジネスアーキテクトは、ビジネスの変革を構想し、関係者を巻き込みながらDXを進める役割です。

この記事の「推進役」に近い役割です。

DXは、システムを入れれば終わるものではありません。

業務の流れも、組織の習慣も変わります。

だから長く複雑なプロジェクトになり、率いる人の役割が重くなります。

成否を分けるのは「ツール」より「誰が率いるか」

同じツールを入れても、結果は会社によって分かれます。

定着して成果を出す会社もあれば、使われずに終わる会社もあります。

差を生むのは、多くの場合、推進役がいるかどうかです。

業務の見直し、部門の間の調整、経営層との合意づくり。

どれも、ツールではなく人が担う仕事です。

DXは、人が動かす変革のプロジェクトです。

DX推進役に必要な3つのスキル

表の右の列は、候補者を社内で見極めるときの問いです。

スキル意味欠けると起きること社内で確かめる問い
①技術への理解力技術の動向を知り、使い道を判断する力開発側と話が通じず、見当違いの仕様になるデータの持ち方を、自分の言葉で説明できるか
②変革をリードする力業務と組織の変化を関係者と進める力現場の抵抗で計画が止まる部門をまたぐ改善を、最後までやり切った経験があるか
③ビジネス視点の判断力投資対効果で優先順位を決める力使わない機能に投資し、成果が出ない「やらないこと」を決めて、経営層に説明できるか

スキル①:技術への理解力

推進役は、技術をどう使えば成果につながるかを考えます。

システムの構造や、データの持ち方の理解も要ります。

プログラムを書ける必要はありません。

「このデータは、どこで生まれ、誰が使うか」を説明できれば十分です。

スキル②:変革をリードする力

変化には、抵抗がつきものです。

推進役は、なぜ変えるのかを示し、関係者の合意をつくります。

状況に応じて、方針を柔軟に直す力も要ります。

スキル③:ビジネス視点の判断力

DXの目的は、技術を入れることではなく、事業の成果を高めることです。

推進役は、投資対効果(ROI:投じた費用に対して得られる効果)で優先順位を決めます。

人と予算の配分、日程も、事業への影響で調整します。

3つのうち、どれを社内で持つべきか

スキル外部で補えるか理由
①技術への理解力補いやすい設計や開発は、パートナーが担える
②変革をリードする力一部は補える進め方の型は借りられるが、社内の人を動かすのは社内の人
③ビジネス視点の判断力補いにくい何に投資し、何をやめるかは、会社が決めること

ベンチャーネットの考えでは、社内で必ず持つべきなのは③です。

次に②で、①は外部と組んで補えます。

「技術が分かる人がいないからDXは無理だ」と考える必要はありません。

事業の優先順位を決められる人がいれば、始められます。

DX推進役のスキル:社内で必ず持つのは判断力 社内で必ず持つべきなのはビジネス視点の判断力。変革をリードする力は一部を外部で補え、技術への理解力は外部と組んで補える。 どのスキルを社内で持つか ③ビジネス視点の判断力 社内で必ず持つ 何に投資し、何をやめるかは会社が決める ②変革をリードする力 一部は補える 社内の人を動かすのは、社内の人 ①技術への理解力 外部と組んで補う 設計や開発は、パートナーが担える 事業の優先順位を決められる人がいれば、 技術が分からなくても始められる
DX推進役のスキル:社内で必ず持つのは判断力

システムは「人の判断」をどう支えるか

クラウドERP(会社全体の業務を1つのシステムで見える化する仕組み)は、推進役の判断の土台になります。

NetSuiteは、世界220地域・44,000社以上で使われているクラウドERPです(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。

たとえば、プロジェクトの進み具合・費用・採算を、同じ画面で見られます。

散らばったデータを集める手間が減り、推進役は判断に集中できます。

それでも、使いこなすのは人です。

機能の詳細は、NetSuiteのプロジェクト管理機能とはとNetSuiteで実現するプロジェクト管理で扱っています。

推進体制の3つの型

推進役をどう確保するかで、体制は大きく3つに分かれます。

型中身強みと弱みAIに任せられる範囲
A. 社内の1人に任せる専任者を1人立て、進め方も任せる人がいれば早い。異動・退職で止まる狭い。判断の根拠が本人の頭に残る
B. 社内チーム+外部の伴走社内の推進役とチームを決め、足りない技術や設計を外部と組む伴走の中でノウハウが社内に移り、止まりにくい広い。ルールとデータが文書とシステムに残る
C. 外部に丸投げ要件も判断も外部に任せる早く見えるが、契約の終了で止まる中程度。データはそろうが、使い方を社内で決められない

中堅・中小企業では、Bが現実的なことが多いです。

推進役は社内に置き、足りない部分を外から借ります。

AIを業務に使う段階になると、この差はさらに開きます。

何をAIに任せるかは、業務のルールとデータが整っているかで決まるからです。

B型の具体像|ERP導入での役割分担

ERPの導入に当てはめると、B型は3者の分担になります。

NetSuiteの場合の例です。

担い手担うこと推進役との関わり
自社(オーナーと推進役)何を変えるか、何をやめるかの判断。社内の合意づくり判断の場に出て、決める
導入パートナー要件定義・設定・カスタマイズ・アドオン開発・保守・PM技術と進め方の型を持ち込む
日本オラクルライセンス・トレーニング・製品サポート製品の仕様とサポートの窓口
推進体制B型:判断は社内、技術は外部 自社のオーナーと推進役が判断を担い、導入パートナーが要件定義から保守・PMまでを担い、日本オラクルがライセンスと製品サポートを担う。週次定例と課題管理表で決めたことを文書に残す。 推進体制B型:判断は社内、技術は外部 自社|オーナーと推進役 何を変え、何をやめるかを決める 社内の合意をつくる 導入パートナー|PM兼コンサル 要件定義・設定・開発・保守・PM 提案から稼働まで同じ人が担う 日本オラクル ライセンス・トレーニング・製品サポート 3者をつなぐのは、週次定例と課題管理表 決めたことを文書に残す
推進体制B型:判断は社内、技術は外部

図のとおり、判断は社内に、技術と進め方は外部に置きます。

推進役が技術に詳しくなくても進められるのは、この分担があるからです。

その代わり、判断の場から推進役とオーナーが抜けると、B型はC型に崩れます。

判断の物差し|自社はどの進め方が合うか

社内で推進役を立てられる会社

  • 業務と数字の両方が分かる管理職がいる
  • その人の時間を、通常業務から切り出してDXに割ける
  • 経営者が、月に1回は判断の場に出られる

3つがそろえば、社内の推進役を中心にB型で進められます。

外部と組んだほうがよい会社

  • 候補者はいるが、通常業務で手一杯
  • 情報システムの担当がいない、または1人だけ
  • 採用や育成を待つと、保守の期限や事業の計画に間に合わない

3つのスキルをすべて満たす人は、採用市場でも見つけにくい人材です。

全部を社内でそろえようとすると、動き出しが遅れます。

推進役が決まった後の、製品の選び方

推進役が決まると、次にツールを選びます。

手を動かせる人が社内にいて小さく始めたいならOdoo、自社だけの業務が強みならAIスクラッチ開発も候補です。

比べ方は、OdooとはとAIでスクラッチ開発とERP、どちらを選ぶべきかで扱っています。

推進役が決まらないうちは、いまは入れないのが正解です。

6-1から6-3を1枚にまとめると、次のとおりです。

自社に合う進め方:社内で推進役を立てられるか 推進役の候補がいて時間を切り出せるなら、社内の推進役を中心にB型で進める。候補者が手一杯で情報システム担当がいない・1人だけなら、外部と組む前提で体制を組む。推進役がまだ決まらないなら、いまはツールを入れない。 自社に合う進め方は? 社内で推進役を立てられるか? 候補がいて、 時間を切り出せる 社内の推進役を 中心にB型で進める 候補者が手一杯 情報システム担当が いない・1人だけ 外部と組む前提で 体制を組む 推進役が まだ決まらない いまは ツールを入れない 3つのスキルを満たす人は、 採用市場でも見つけにくい
自社に合う進め方:社内で推進役を立てられるか

これから始める会社と、推進役が抜けた会社

これからDXを始める会社は、製品より先に次の3つを決めます。

  1. 経営層の誰がオーナーになるか
  2. 社内の推進役は誰か
  3. 何の数字を、いつまでに、どう変えたいか

パートナーを選ぶ段階に進んだら、NetSuiteパートナーの選び方が次の一歩になります。

システムは入れたが推進役が抜けた会社では、まず次の3つを見ます。

  • 設定の理由や業務のルールが、文書に残っているか
  • 保守の契約と、相談できる相手が決まっているか
  • 使われていない機能と、手作業に戻った業務はどれか

止まった原因が人にあるのか、パートナーにあるのかで、打ち手が変わります。

見直し方は、NetSuiteが使いにくい・活用できていないと感じたらとERP導入失敗の原因はパートナーにあり?で扱っています。

よくある3つの失敗

失敗1:経営層が関与せず、担当者任せにする

起きること:予算は承認されたが、部門の間の調整が進まない。判断が止まり、計画が宙に浮く。

原因:DXは部門をまたぐ変革です。利害の調整は、経営層の関与なしには進みません。

避け方:経営層の1人をプロジェクトオーナーにします。

報告を受けるだけでなく、判断の場に出る日を先に決めておきます。

失敗2:推進役が決まらないまま、ツールを先に選ぶ

起きること:製品の選定と発注が先に進む。業務の見直しも定着も進まず、システムが使われない。

原因:「入れれば変わる」という期待が先に立ち、旗振り役を決めていなかった。

避け方:ツールを選ぶ前に、誰が率いるかを決めます。

社内にいなければ、外部と組む前提で体制を組みます。

失敗3:推進役を1人に背負わせる

起きること:DX担当が事実上1人になる。その人の異動や退職で、計画が白紙に戻る。

原因:長いプロジェクトを、1人の知見に頼っていた。

避け方:推進役を支えるチームを社内外で組みます。

決めたことは文書とシステムに残し、2人以上が説明できる状態にします。

属人化のほぐし方は、業務属人化がDXを止めるで扱っています。

導入でのつまずき全般は、NetSuite導入の失敗が参考になります。

ベンチャーネットならこう見る|外と組んでも、力が社内に残る体制

ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。

DXの相談で最初に伺うのは、次の3つです。

  1. 経営者が変えたい数字は何か:売上、粗利、決算の早さなど。1つか2つに絞る
  2. その数字に責任を持つのは誰か:経営層のオーナーと、社内の推進役
  3. 推進役に足りないのは3つのスキルのどれか:足りない部分だけを外部で補う

製品の話は、そのあとです。

ベンチャーネットの進め方:最初に伺う3つ、製品はそのあと 変えたい数字、その数字に責任を持つ人、推進役に足りないスキルの3つを最初に伺う。製品の話はそのあとで、伝言ゲームにしない体制と週次定例・課題管理表を組み込む。 最初に伺う3つ、製品はそのあと 1. 変えたい数字は何か 売上・粗利・決算の早さなど。1〜2つに絞る 2. 責任を持つのは誰か 経営層のオーナーと、社内の推進役 3. 足りないスキルはどれか 足りない部分だけを外部で補う 製品の話は、そのあと 伝言ゲームにしない/週次定例と課題管理表
ベンチャーネットの進め方:最初に伺う3つ、製品はそのあと

そして外部と組むときは、次の2つの型を体制に組み込みます。

型1:伝言ゲームにしない

要件を聞くのは、営業ではなく導入コンサルタントです。

ベンチャーネットでは、PM兼コンサルが提案から稼働まで一貫して担当します。

推進役が話した内容が、別の人を経て設計者に届く。この間に、意図は少しずつずれていきます。

話す相手と作る相手が同じなら、推進役の判断がそのまま設計に届きます。

型2:週次定例と課題管理表で、決めたことを残す

毎週の定例で、課題管理表を一緒に見ます。

何が決まり、何が残っているか。誰がいつまでに決めるか。

表に残るので、推進役が替わっても、決めた理由をたどれます。

パートナーの側も受け身で待たず、足りない情報は取りに行きます。

この2つがあると、外と組んでも判断は社内に残ります。

冒頭の問いへの答えは、ここにあります。

丸投げと伴走の差は、判断の場に誰がいて、決めたことが文書に残るかどうかです。

稼働後の定着は、次の4つの手順で進めます。

データの整理を最初に行い、段階的に導入し、研修とサポートを厚くし、操作はシンプルに保つ。

使わない機能を盛らないことも、推進役の負担を軽くします。

今日できること|推進役の候補を書き出す

1時間あれば、次の表を埋められます。

候補者①技術②変革③判断
(例)経理課長(DXに割ける時間:週1日)△○○

3つのスキルを○・△・×で付け、名前の横にDXに割ける時間も書いてください。

×や△の多い欄が、外部と組む部分です。

候補者が1人もいなければ、それ自体が大事な判断材料になります。

よくある質問

Q1. DX推進のプロジェクトマネージャーには、どんな人が向いていますか

業務と数字が分かり部門をまたいで人を動かせる人です。

肩書きより、関係者を巻き込んで合意をつくれる力が効きます。

情報システムの経験者だけでなく、業務改善を率いてきた人も候補になります。

Q2. 必要なスキルを持つ人が社内にいない場合、どうすればよいですか

社内の推進役を決めて足りない部分を外部と組みます。

3つのスキルを満たす人は、採用市場でも見つけにくい人材です。

判断は社内に置き、技術と進め方を外部と組む形が現実的です(第5章)。

Q3. 専任のDX担当を1人立てれば十分ですか

1人に集めると異動や退職で計画が止まるおそれがあります。

専任者を立てること自体は良いことです。

ただし、決めたことを文書とシステムに残し、支えるチームを組んでください。

Q4. 外部に任せると、社内にノウハウが残らないのでは

丸投げなら残りません。一緒に手を動かす伴走なら残ります。

判断は社内で行い、設計や技術を外部と組む形にします。

週次の定例と課題管理表で、決めたことを文書に残すと確実です(第9章)。

Q5. 推進役が決まるまで、ツールの検討は止めるべきですか

発注は推進役が決まってからにします。情報を集めるのは構いません。

製品の説明を聞くと、変えたい業務が具体的になることもあります。

ただし、比較の軸は推進役とオーナーが決めてください。

Q6. DX人材の目安になる公的な基準はありますか

経済産業省とIPAの「デジタルスキル標準」が目安になります。

全員向けのDXリテラシー標準と、専門人材向けのDX推進スキル標準の2つで構成されます。

令和8年4月にver.2.0が公表されています(第1章)。

まとめ|DXは「何をやるか」の前に「誰とやるか」

  • DXの成否は、ツールより誰が率いるかで分かれる
  • 推進役に要るのは、技術への理解力・変革をリードする力・ビジネス視点の判断力の3つ
  • 3つを1人で満たす人はまれ。社内で持つべきは判断力で、技術は外部と組める
  • 外と組むなら、伝言ゲームにしない体制と、週次定例と課題管理表で判断を社内に残す
  • 推進役が決まらないうちは、いまは入れないのも正しい判断

率いる人が社内にいないなら、まず判断する人を1人決めてください。

足りない力を外と組んで補うのは、妥協ではありません。前に進むための現実的な選択です。

もう少し詳しく知りたい方へ

推進役がいない、育てる時間が足りない。

そう感じている方は、体制の組み方からご相談ください。

製品を決める前の段階でも、お話を伺います。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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