賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与を一定以上増やした場合に、法人税や所得税の税額控除を受けられる制度です。
最低賃金の引き上げや人手不足を背景に、「給与を上げたいが、利益が圧迫されないか不安」という経営者の声をよく耳にします。賃上げ促進税制は、その背中を押してくれる心強い制度です。
ただし、控除率の数字だけを見て賃上げ幅を決めてしまうと、思わぬ落とし穴にはまることもあります。
本記事では、賃上げ促進税制の仕組みを2026年時点の最新内容でわかりやすく解説します。あわせて、賃上げを「続けられる」経営体質のつくり方と、NetSuiteを使った人件費管理の効率化までご紹介します。
※税制の適用可否や控除額の最終的な判断は、税理士などの専門家にご相談ください。本記事は制度の概要を理解するための解説です。
賃上げ促進税制とは?制度の基本をわかりやすく
賃上げ促進税制とは、給与等の支給額を前年度より一定以上増やした企業が、その増加額の一部を税額から控除できる制度です。
ここでいう「給与等支給額」とは、国内の従業員に支払った給与・賞与などの総額を指します。「税額控除」とは、納める税金そのものから一定額を差し引ける仕組みのことです。
中小企業にとっては、人材確保や従業員の定着、生産性向上につながる有効な制度といえます。
現行制度は、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象です(出典:中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制」)。
控除率の仕組み(要件別)
控除率は、賃上げの幅や教育訓練費の増加に応じて段階的に上がります。主なポイントは以下のとおりです。
- 給与等支給額が前年度比1.5%以上増加:増加額の15%を税額控除
- 給与等支給額が前年度比2.5%以上増加:増加額の30%を税額控除
- 教育訓練費が前年度比5%以上増加:控除率を10%上乗せ
- くるみん・えるぼし認定など一定の要件を満たす場合:控除率をさらに5%上乗せ
これらを組み合わせると、最大で増加額の45%の税額控除を受けられます(出典:中小企業庁)。
ただし、控除できる金額には上限があります。税額控除額は、その年度の法人税額の20%までが上限です(出典:国税庁タックスアンサーNo.5927-2)。賃上げ額が大きくても、全額が一度に控除されるとは限らない点に注意が必要です。
繰越控除制度(令和6年改正のポイント)
令和6年度の税制改正で新設されたのが、繰越控除制度です。
これは、その年度に控除しきれなかった金額を、最大5年間繰り越して使える仕組みです(出典:中小企業庁)。
従来は、赤字などで法人税額が発生しない年度には、賃上げをしても控除の恩恵を受けられませんでした。繰越控除により、一時的に赤字の中小企業でも、将来黒字化したタイミングで控除を活用できるようになりました。
これは「赤字だから賃上げ税制は関係ない」と考えていた企業にとって、見逃せない改正点です。
賃上げ促進税制で得られる3つのメリット
賃上げ促進税制を活用することで、中小企業には大きく3つのメリットがあります。
- 節税効果による負担軽減:税額控除により、賃上げにかかるコストの一部を抑えられます
- 人材確保と定着率の向上:給与アップは、優秀な人材の獲得や既存社員の満足度向上につながります
- 従業員のスキルアップ:教育訓練費の増加が要件の一つのため、人材育成に投資しやすくなります
ただし、一度上げた給与を維持し続けるには、経営基盤の強化が欠かせません。賃上げ税制を活用しながら、中長期で利益を生み出す仕組みづくりにも取り組むことが大切です。
賃上げを「コスト」でなく「投資」として捉える
賃上げ促進税制を本当に活かせるかどうかは、賃上げをどう捉えるかで変わります。
人件費を「利益を削るコスト」と見るか、「会社を強くする投資」と見るか。どちらが正しいという話ではありませんが、視点を切り替えると、打つべき手が変わってきます。
| 観点 | コストとして見る | 投資として見る |
|---|---|---|
| 賃上げの捉え方 | 利益を削る固定費の増加 | 生産性・定着率を高める原資 |
| 判断の起点 | 「いくら控除されるか」 | 「賃上げで何を生み出すか」 |
| 税制の位置づけ | 節税策そのもの | 投資を後押しする手段 |
| データの見方 | 給与総額だけを見る | 部門別・生産性と紐づけて見る |
| 結果 | 控除終了後に固定費だけが残る | 賃上げを続けられる体質になる |
賃上げ促進税制は、あくまで「投資を後押しする手段」です。税制をきっかけに、賃上げが生産性や定着率にどうつながるかまで見据えることで、はじめて制度を活かしきれます。
賃上げ促進税制の落とし穴|活用前に知っておきたい注意点
賃上げ促進税制は心強い制度ですが、進め方を誤ると本来の効果を得られません。
ここでは、賃上げでつまずきやすい3つのパターンと回避策をお伝えします。いずれも、NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットが経営支援の現場で見てきたものです。
これは制度の利用を思いとどまらせるためではなく、「賃上げを続けられる会社になってほしい」という思いから共有するものです。
控除率の数字だけ見て、賃上げ幅を決めてしまう
よくある現象
- 「最大45%控除されるなら」と、控除額から賃上げ幅を逆算する
- その年度のメリットだけで判断する
- 控除を受けたあとの固定費負担を試算していない
なぜ失敗するか
税額控除は、増えた給与の一部が「一度だけ」戻ってくる仕組みです。しかも控除額には、法人税額の20%という上限もあります。
一方で、上げた給与は翌年以降も固定費として残り続けます。控除の数字に目を奪われると、この継続的な負担を見落としてしまいます。
どう回避するか
控除のメリットと、賃上げ後数年の固定費の推移を、両方そろえて試算してから決めることが大切です。
ベンチャーネットは、人件費データの見える化を通じて、この「先々の負担」まで一緒に見通すお手伝いをしています。
賃上げの原資づくりを後回しにする
よくある現象
- 賃上げを先に決めてから、原資をどうするか考える
- 値上げや生産性向上の計画がないまま賃上げに踏み切る
- 「税制があるから大丈夫」と判断する
なぜ失敗するか
一度上げた給与は、簡単には下げられません。原資を生む仕組みがないまま賃上げすると、利益率がじわじわと削られていきます。
その結果、翌年以降の賃上げが続かなくなり、せっかく高めた社員の期待を裏切ることにもなりかねません。
どう回避するか
賃上げと同時に、「どこで原資を生むか」を設計することが重要です。
NetSuiteで部門別・製品別の利益構造を見える化すれば、賃上げを支える収益源を特定しやすくなります。
人件費データが分散し、試算も判断もできない
よくある現象
- 給与データがExcelや各部門に散らばっている
- 教育訓練費がすぐに集計できない
- 決算前になって慌てて数字をかき集める
なぜ失敗するか
賃上げ促進税制は、給与等支給額や教育訓練費の正確な集計が前提です。データが分散していると、控除を受けられるかの判断も、賃上げの意思決定も後手に回ります。
どう回避するか
人件費データを一元化し、いつでも試算できる状態にしておくことが有効です。
NetSuiteなら、賃上げが業績に与える影響を事前にシミュレーションでき、税理士への相談もスムーズになります。
本当に大事なのは「続けられる賃上げ」
3つのパターンに共通するのは、賃上げを「単年度のイベント」として捉えてしまうことです。
賃上げ促進税制は、賃上げの「きっかけ」にすぎません。本当に大事なのは、賃上げを毎年続けられる経営体質をつくることです。
税額の計算や申告の最終判断は、税理士の領域です。一方で、その土台となる人件費の見える化や、賃上げを支える利益構造づくりは、経営の領域です。
ベンチャーネットは、この経営の土台づくりを、対等な立場で一緒に考える伴走者でありたいと考えています。
NetSuiteを活用した人件費管理で、税制効果を最大化する
賃上げ促進税制を活かすには、人件費に関するデータを正確に把握・管理することが欠かせません。この点で、クラウド型ERP「NetSuite」は有用なツールです。
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、会計・販売・在庫・人事など、会社全体の仕事を一つのシステムで見える化する仕組みのことです。
NetSuiteでは、以下のような人件費管理が可能です。
- 従業員ごとの給与・手当・賞与などの詳細な管理
- 部門別・職種別の人件費の可視化とシミュレーション
- 教育訓練費の管理と分析
- 人事評価と連動した賃金改定の効率化
NetSuiteに蓄積された人件費データを使えば、賃上げ促進税制の適用可否や控除額の試算がしやすくなります。賃上げが業績に与える影響を事前にシミュレーションし、最適な施策を立てることも可能です。
さらに、NetSuiteは財務会計や管理会計とシームレスにデータ連携できます。賃上げが企業全体の業績にどう影響するかを多角的に分析でき、持続可能な賃上げ戦略を立てやすくなります。
人件費の「削減」だけでなく「賃上げを前提とした管理」へ。視点を切り替えるための土台として、データの一元化が効いてきます。
よくある質問(FAQ)
賃上げ促進税制について、経営者・経理担当者からよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 賃上げ促進税制は、赤字でも使えますか?
繰越控除制度を使えば、赤字の年度でも将来活用できる可能性があります。
令和6年度の改正で、控除しきれなかった金額を最大5年間繰り越せるようになりました(出典:中小企業庁)。賃上げを実施した年度が赤字でも、その後黒字化したタイミングで控除を受けられる余地があります。「赤字だから関係ない」と判断する前に、専門家に確認することをおすすめします。
Q2. パート・アルバイトの給与も対象になりますか?
はい、対象に含まれます。
賃上げ促進税制の「給与等支給額」には、賃金台帳に記載されたパート・アルバイト・日雇い労働者への給与も含まれます。一方で、役員(使用人兼務役員を含む)や、役員・個人事業主の特殊関係者への給与は対象外です(出典:中小企業庁ガイドブック)。正確な対象範囲は、税理士に確認しながら集計するのが安心です。
Q3. 控除を受けるために、何のデータを準備すればいいですか?
給与等支給額と、その前年度との比較データが基本になります。
具体的には、当年度と前年度の給与等支給額、教育訓練費の額などが必要です。これらが部門ごとにバラバラだと集計に時間がかかります。人件費データを一元管理しておくと、控除額の試算も申告準備もスムーズです。NetSuiteのようなERPは、この一元管理を支える土台になります。
Q4. 賃上げを続けるために、税制以外に何を考えるべきですか?
賃上げの「原資」を生み出す利益構造づくりが欠かせません。
税制はあくまで一時的な後押しです。賃上げを毎年続けるには、値上げや生産性向上によって原資を確保する仕組みが必要です。そのためには、部門別・製品別にどこで利益が出ているかを見える化することが第一歩になります。ベンチャーネットは、この利益構造の見える化を一緒に設計します。
まとめ|税制は手段、目的は賃上げを続けられる経営体質
賃上げ促進税制は、中小企業が賃上げに踏み切る際の強力な後押しとなる制度です。控除率や繰越控除の仕組みを正しく理解し、メリットを最大限に活かしましょう。
ただし、忘れたくないのは、税制はあくまで「手段」だということです。本当の目的は、賃上げを毎年続けられる経営体質をつくることにあります。
そのためには、人件費を「コスト」ではなく「投資」として捉え、賃上げを支える利益構造を設計していく視点が欠かせません。
税額の計算や申告は税理士の領域です。その土台となる人件費の見える化と利益構造づくりは、ベンチャーネットが伴走してお手伝いします。
「賃上げはしたいが、続けられるか不安」——そう感じている方は、まず自社の人件費と利益構造を見える形にすることから、一緒に始めてみませんか。
もう少し詳しく知りたい方へ
- 賃上げを続けられる利益構造を、データから一緒に設計したい方へ:NetSuite × 会計ブリッジ伴走サービス(CFO向け)
- NetSuiteで人件費を見える化したい方へ:ベンチャーネットのNetSuite関連サービス
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