うまくいっているはずの事業が、ある日ふっと伸びを止める。同じやり方を続けているのに、昔ほど利益が残らない。多くの経営者が、どこかでこの感覚に出会います。
描いたビジネスモデルは、なぜ古びるのか
第5章では、ビジネスモデルを「描く」道具を見てきました。価値提案を研ぎ澄まし、勝てる市場を選び、一枚のキャンバスにまとめる。
ところが、描いた瞬間がいちばん新しいだけで、市場も技術もお客様も動き続けます。だから、どんなに上手に描いたモデルにも、少しずつ「ずれ」が生まれます。
問題は、その「ずれ」にいつ気づき、どう描き直すかです。
「賞味期限」とどう付き合うか
ビジネスモデルキャンバス(BMC=事業の仕組みを一枚で表す図)を世に広めたアレックス・オスターワルダーは、優れたビジネスモデルにも「賞味期限」があると言います。市場も技術もお客様も動き続けるのだから、当然です。
では、その賞味期限とどう付き合えば、会社は成長し続けられるのか。ベンチャーネットの答えは、シンプルです。
探索と深化——会社の中にある2つの世界
会社の中には、性質のまったく異なる2つの世界があります。
- 探索:まだ形のない新しい事業を、「実行」ではなく「描いて、試す」こと
- 深化(活用):すでにある事業を、磨き・伸ばし・守ること
この2つを同じやり方で回そうとすると、どちらも中途半端になります。攻めの仕事に守りのものさしを当てれば芽は育たず、守りの仕事に攻めの勢いを持ち込めば足元が揺らぐ。経営学では、この両方を同時に持つことを「両利きの経営」と呼びます(入山章栄氏の解説で、日本でも広く知られる考え方です)。
ベンチャーネットがこの考え方を大切にするのは、中小企業ほど「片方」に偏りやすいからです。日々の仕事に追われれば深化に寄り、新しさに焦れば探索に走る。
大事なのは、両方を一枚の絵の中で持つことです。BMCは、今の事業を点検する道具であると同時に、次の事業を描く道具でもあります。同じ道具で、2つの世界を行き来できます。
図:会社の中にある「探索」と「深化」。両方を一枚の絵で持つのが、両利きの経営。
では、どう「回し続ける」のか
両利きを絵空事にしないために、ベンチャーネットが手がかりにしている考え方が3つあります。
1. 探索は「小さく賭けて、当たりに乗る」
新しい事業は、当たらないことのほうが多い。だから一発勝負にしない。少額で複数を試し、手応え(エビデンス)が出たものに本腰を入れる。この漏斗のような進め方を「イノベーション・ファネル」と呼びます。
2. ビジネスモデルには「強い・弱い」があり、段階的に進化する
会社ができたばかりのモデルを仮に「ビジネスモデル0」とすれば、成長とともに1、2…と強いモデルへ進化していきます。毎回ゼロから売るモデルは弱く、継続的に積み上がるモデルは強い。たとえばアマゾンは、ネット書店という弱いモデルから始まり、出品者と買い手をつなぐ市場へ、さらにクラウドの基盤事業へと、段階的に強いモデルを重ねてきました。この「弱から強への進化」を、早稲田大学の井上達彦教授は数多くの企業の歩みから整理しています(同教授の講演より)。
図:ビジネスモデルは0→1→2と、弱い型から強い型へ段階的に進化する。
3. 一枚で捉え、回し続ける
探索で見つけた芽と、深化で磨く幹を、BMCで一枚に重ねる。「今のモデル」から「これからのモデル」への移行を一枚で描く道具もあります。
描いて終わりにせず、回し続ける。経営とは、この弾み車(ジム・コリンズの言う、一度回り始めると加速していく好循環)を設計し、止めないことだと、ベンチャーネットは考えています。
あなたの会社は、いまどちらに偏っているか
ここで一度、立ち止まってみてください。「うちは今、深化(守り)と探索(攻め)の、どちらに偏っているだろうか」。
答えは一つではありません。攻めるべき時もあれば、賢く守りを固める時もある。事業をあえて賢く小さくする選択も、立派な戦略です。
最近は、複数の小さな試みを見比べたり、回り始めた好循環の異変に早く気づいたりする場面で、AIが手伝ってくれるようにもなりました。
ただし、どちらに賭けるかを決めるのは、最後まで人の仕事です。データは選択肢を照らしますが、選ぶ責任は経営者に残ります。この線引きを持っている会社は、攻めにも守りにも芯がぶれません。
ビジネスモデルは「設計し続ける」もの
ビジネスモデルは、描いて終わりではありません。今を磨きながら、次を試し続ける。その両輪を止めずに回すことが、「成長を設計する」ということです。
第5章で見てきた各論は、必要なところから読み返せます。
- ビジネスモデルとは何か
- ビジネスモデルキャンバスの描き方
- 価値提案の磨き方
- 勝てる市場の見つけ方
- 導入(ICT)の順序
- 現在から将来への移行を一枚で描く方法
次に進むなら、「成長する事業に、なぜERPが要るのか」へ。回し続ける弾み車の土台に、「一つの真実のデータ」がどう効くのかを掘り下げます。そして、変わり続ける経営そのものについては、終章で改めて考えます。
描き直しは、まだ終わっていない。そう感じた方こそ、ベンチャーネットが伴走したい相手です。一緒に、次の一枚を描くところから始めましょう。

