若きフリーランサーのための、意識の低い信用の話

フリーで個人としてビジネスを行う上で最も重要なものは何かと考えると、「信用」は最有力候補で間違いないでしょう。信用があれば何が出来るか、もちろん何でもできます。資金も引っ張れますし、人も付いてきます。取引先も選べます。売上も上がるでしょう。ではその信用をもたらすものは何かと言えば、それは個人の業務遂行能力に他なりません。つまらない結論ですが、「デキる奴は信用される」これは世界の真理と言っていいでしょう。

「そうだな、信用は大切だな。納期を守り常に質の高い仕事を心掛けよう」と話を閉じることが出来れば素晴らしい。しかし、人間はいつもそう上手く行きません。事実、僕はこの原稿を既に半月以上「もうすぐできます」と言いながら遅れさせています。本当にお詫びすることしかできず言い訳の余地は一切ないのですが、それでも人によって程度の差こそあれ生産性のブレ幅は必ず生じるものです(無理やり一般化しました)。個人で仕事をする方は、この大問題に一度は直面することになるでしょう。組織と違って人員のバッファが存在しないのですから。

「いや、納期守って質の良いモン出せよ」は大正論です。そうあるべきです。しかし、常にそうあることも出来ないのが人間というもの。本日はこの点について本当にダメな奴の視点から、徹底的に意識低く考えて行きたいと思います。

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仕事の質が高く納期を守る奴はすごいギャラを取れちゃうんですよね…

ライティングでも庭掃除でも内装工事でも、外注仕事をお願いしたことがある人ならわかると思いますが、「仕事の質が高く、納期を完璧に守る」人は実際のところそれほどいません。正確に言えば、そんな人はあらゆる方面からひっぱりだこになるので、そう簡単に仕事をお願い出来なくなります。なので、大抵の場合「完璧ではないどころかポンコツ野郎ダメ太郎だが、この仕事には適している」みたいな人間を選んで仕事を振るしかありません。僕とかのことです。

これはどういうことか、個人で仕事をするからといって完璧超人を目指す必要は必ずしもないということです。もちろん質と納期を両立する完璧超人であるのが最も望ましいのは言うまでもありませんが、それが出来ないのであれば自分なりの「信用」の作り方を考えていく必要があります。それこそ、「あいつはどう考えてもポンコツのダメ太郎だが、~だけはやる」のようなものが、我々のようなダメ太郎には必要なのです。そして、我々にとってとてもありがたいことに、社会のかなり多くの部分はダメ太郎たちによって回っています。こうして僕が仕事をいただけているように(本当に申し訳ありません)。

質か?速さか?まずは最適バランスを見極めよう

そこで誰もが思いつくのが、質か速さのどちらかを犠牲にする考え方です。これは、どちらも戦法としてはあり得ます。実際、極めて高度かつ専門的な技術を持ったフリーランサーには、「納期なんて守ったことがない」みたいな人も存在します(本当にいるんですよ!)し、逆に「質はそれなりだがとにかく速い」を売りにする人もたくさんいます。僕自身、外注仕事を出すときはこの両極の業者を必要に応じて使い分けます。どちらが良いとか悪いではなく、いずれも社会に求められる役割分担にすぎません。

問題は、あなたにとってこの最適バランスがどこにあるかということです。もちろん、あなた自身の適性に加え、業種や景況といったものも考慮しなければいけませんが、これを気にするあまり自分の適性からかけ離れたやり方を選ぶのは致死的な失敗になりえます。

数年前、インターネットではWEBライターバブルと呼ぶべき状況がありました。大量の新興メディアが立ち上がっていた時期を覚えていらっしゃる方もいると思います。この時期はライティングの需要が信じられないほど高まり、とにかく「速い」ライターが非常に重宝され、僕自身もその収益性にとても魅力を感じました。

今思えば、この時は完全に岐路でした。素早く大量に原稿を書けば儲かることはわかり切っていました。しかし僕は市場の流れの逆、一つ一つの商品の質を高めて製作ペースを落とす選択をしました。実を言えば、これは僕自身の決断ではありません。尊敬するイラストレーター様に共同制作を持ちかけていただいたので、それに乗っからせていただいただけです。

この原稿を遅れさせているのを見ればわかる通り、僕は「素早くそれなりの質のものを書く」能力が非常に低いと認めざるを得ません。もし、「速さ」の市場に乗り込んでいれば、僕は「遅くて質の低い」ライターとして極めて低い評価を受けていたことは疑いないでしょう。今思い出してもヒヤっとする思い出です。当時駆け出しライターだった僕に、こんな選択は一切認識出来ていませんでした。尊敬するイラストレーターさんと仕事がしたいミーハー根性に救われたわけです。

質と速さのどのラインでバランスをとって信用を得るか、これはフリーで仕事をする人間にとってまさしく生き死にを左右する決定といえます。どうか、悔いのない決定をされてください。恥ずかしながら、僕が生き残ったのは完全に運です。

それでもだめなら、最後は人間力アタックしかない

しかし、現実は厳しい。「おまえのその文章、納期ぶっちぎった分だけ質上がってるのか?」と言われれば僕は静かに目を伏せることしかできないように、ままならない事態というのは時に起こります。僕はしょっちゅう起こります。本当に申し訳ありません。

しかし、ここでももう一つ差がつきます。というのも、仕事の納期に遅れてしまった時に「申し訳ありません」と頭を下げ、出来る限りの打開策を打てる人というのは決して多くないのです。「納期をぶっちぎった挙句仕事の質は限界を越えた低さ、挙句の果てに逆ギレカマして全てを破壊していった」みたいな人に出会った経験がある方も多いでしょう。僕の担当する現場が跡形もなく吹き飛んだこともありました…。

「まぁ、借金玉は悪い奴じゃないし一生懸命やってるよ、ポンコツだけど」

僕をこう評してくださったクライアント様がいらっしゃいましたが、これはもう本当にありがたいとしか言いようのない評価です。僕の年齢(35歳)でオマエそれでいいのか? と心の中で正論を吠えている奴は存在しますが、それはそれとしてありがたいことに変わりはありません。特に、若い方はこの評価を勝ち取ることが出来ればそれは最早「勝ち」と言っていいでしょう。これからの成長に期待してもらえるわけですから。

実際のところ、仕事の依頼を出す時に考慮するのは能力だけではありません。感じのいい、一生懸命な人とは誰もが仕事をしたいし、多少の粗相は免罪したくなるものです。この人間力は、多少の業務遂行能力の差など軽くひっくり返すすさまじいパワーを持っています。

人間力の出し方は到底一般化などできませんが、一つだけほぼ確実と言える効果を持つものがあります。「ありがとうございます」と「申し訳ございません」の二つを適切に用いることです。感謝を述べるべき場面でしっかりと礼を尽くし、謝罪するべき場面ではしっかり謝罪する(もちろん、これは不適切な謝罪をしないということでもあります)。この二つを具備していれば、少なくとも20代の若手フリーランスであれば「なかなかいい感じだな」と思ってもらえる確率がとても高くなります。そして、30代でも40代でもこれが出来ないばかりに大損している人もたくさんいます。僕自身、「きちんとやっておくべきだった」後悔は山ほどあります。人間は感情がどうしても入るので、ついつい不適切な言動や行動をとってしまいがちですよね。まして、自分の仕事が上手くいっていない時などは…。僕にもお恥ずかしい記憶が多々あり、その節は大変申し訳ございませんでした。反省しております。

なんだそんな簡単なことかと思われたかもしれませんが、是非意識して周囲を見てみてください。こんな些細なことが大きな差になっていることに気づけるのではないかと思います。もしかすると、このあたりのラインでなんとか生き残っているダメ太郎の姿も観測できるかもしれません。どんなやり方であれ、仕事は生き残った者が勝ちです。意識を下げて見習えるものは見習いましょう。

僕もそろそろフリー(法人は持っていますが社員は僕一人なので実質フリーランスです)として働きだして4年くらいでしょうか。そろそろ色々なことをなんとかしていかなければいけない時期です。とにかく、次の原稿は納期を守れるように頑張ります。フリーで働くみなさま、厳しいご時世ですがなんとか生き抜いていきましょう。そして、どこかで仕事をご一緒することがあればよろしくお願いいたします。一生懸命頑張りますので、何卒…。

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この記事を書いた人

1985年、北海道生まれ。大学卒業後、大手金融機関に就職するが2年で退職。
現在は不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。
著書に『発達障害サバイバルガイド: 「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』(ダイヤモンド社)、『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(KADOKAWA)がある。

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