不確実性へのジャンプ力

商売は難しい、仕事は難しい。

実際、この文章を書くのも仕事なわけですが、やはりこれも怖いわけです。僕はつまるところただの発達障害者であって、本が売れて作家でございなんて顔をしていても所詮は人気稼業の水商売、来年くらいにはインターネットで「仕事ください…」って言ってる可能性がめちゃくちゃ高いわけです。これを「5年後」にするとちょっと想像力のブレイカーが落ちる怖さになる。こうして仕事をいただけるありがたさを噛みしめつつも、また不調でこの原稿は遅れております。本当に申し訳ありません。

そういうわけで、商売というのは難しいわけです。

僕も26歳で起業に打って出て来年には36歳。資本主義の洗礼を受けてちょうど10年を迎えようとしているわけですが、10年やってこれだけ多くの人を見て、未だに必勝法が見えてこないんだから資本主義というのはすごい。まぁ、プレイヤーが70億人くらいいる超大規模ゲームですからそりゃ難しいよって話ではあるんですが、そろそろ押したら無限にお金が出てくるボタンの一つも見つからないものかといつも思っています。

しかし、「勝ち方」は見えなくても「これは負ける公算が大きい」みたいなものは少しずつ見えて来た気がします。ここを読んでいる人は起業やフリーランス、もっとダイレクトに言えば金儲けに強い関心がある人が多いと思いますので、何かの役に立てばと書かせていただきます。

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不確実性への耐久力

このまえ、金融業の友人と酒を呑んでいて「不確実性に耐える能力は筋トレと同じで、定期的にやっていないとどんどん衰える」という話を聞きました。この「不確実性に耐える」という概念、噛みしめてみると味がどんどん出てきます。つまるところ、商売とは不確実性に耐えることである、そんな気さえしてくる。

格好つけて「不確実性」なんて言い回しをしましたが、単純に商売というものはやってみないとわからないわけです。キラキラした経歴の人材を集めてピッカピカの創業計画書を書き、クソデカい資金を引っ張るスキルというのも間違いなく存在しますが、そういった能力と商売の成否はまた別物であることをみなさんはよくご存じでしょう。詳しい話はカドが立つので各自深めていただきたいのですが、最高に成功しそうなプランを描く能力と「成功させる」ことの間には恐ろしいほど深い断絶が存在します。

どれほど有能な人間でも、どれほど練り上げた創業計画も、最後の最後は不確実性の崖に向かって飛ぶことでしかありません。これは本当にこわい、僕も一度転げ落ちた人間ですのでもう一回飛ぶことを考えるだけで怖気が走ります。しかし、もう少し考えていくともっと怖いものが存在することがわかってきます。

「飛べなく」なることです。

もちろん、あなたが定年まで重厚長大企業を勤めあげ、退職金を念頭に人生のプランを描いているならこの「飛べない」は一つの能力です。飛べてしまったばかりに持っていた全てを失う人というのは決して少なくありません。しかし、あなたが起業やフリーランスといったら組織に囚われず商売で稼ぐことをプランに入れている人であれば、この「飛べない」状態ほど恐ろしいものは存在しないことに気づけるはずです。

生きていると時間はどんどん過ぎていきます。もちろん、体調が悪かったり風向きが悪かったり何もかもが悪かったりするときにじっと身を縮めて耐えるのは英断と呼べるものですが、一方でただ単に「飛べない」まま時間が経過していくのは恐ろしいことです。ましてあなたが「何も持っていない」人であれば、「飛べる」ことこそがあなたの持っている最大の資産であるとさえ言えます。この状態で「飛べなく」なることは、その先の人生に何のイベントも起きなくなるということです。

そして、最近僕は思うのですが「不確実性に耐える」能力、「飛ぶ」能力はなにも起業やフリー転身といった大きな決断に限らないように思うのです。

ところで先日、僕は半年ほど悩みに悩んでギターを一本買いました。お値段は6万円くらい。15歳の男の子にはスカイツリーから飛ぶような決断ですが、35歳の男が悩むには少々せせこましいお値段です。しかし、正直なところを言うと僕はギターが本当にヘタなのです。弾くのは大好きなのですが、人前で弾ける技量では到底ありません。つまり、この6万円は僕にとって投資を回収できる見込みの小さい、極めて不確実性の高い決断だったのです。この決断は僕にとって非常に難しかった、小さい男と笑っていただきたいのですが、本当に決断できなかったのです…。過去にやった一千万単位の投資より悩んだと思う。

勝つことでしか肯定されない勝負をする力

ところで、商売の必勝法は一つたりともわかりませんが、「これは負ける確率が明らかに上がる」と言い切れるものが一つあります。それは、「負けても肯定される勝負をしようとする」ことです。負けの言い訳の効く勝負しかしないことと言っていいでしょう。あるいは「そもそも勝負をしないこと」も含まれてくるかもしれません。

不確実性に怯えてしまうと、人は無意識に負けることを前提とするようになります。要するにこういうことです。「35歳にもなって上手くもならないギターを買うなんてダセー」と言われるのが僕はとても怖かったのです。「家の中で思いっきりかきならせるサイレントギターが欲しい、ジャカジャカやって気持ちよくなりたい」みたいな欲望と「ダセー」みたいなせせこましい自意識が半年近くも拮抗していたわけです。結果といして購入に踏み切れなかった。冷静に考えるとこれが一番クソダサいというのは今になってやっと気づいたことなのですが…。

何を言いたいかというと、日頃から小さなことでも構わないので自分の意志で不確実性に向かって飛んでみよう、不確実性耐久筋トレをしようということです。ちょっと高い炊飯器を買ったり鼻セレブを買ったりするくらいのことでもいいかもしれません。

もちろん、高い炊飯器を買った結果は「言うほど味なんて変わらなかった」かもしれません。少なくとも、僕がAm7をかき鳴らして武道館を沸かすギタリストになる可能性は限りなくゼロでしょう。しかし、この不確実性へのジャンプ力は日頃から意識して鍛えておかないと、友人の言う通りどんどん衰えます。どんどん飛ぶのが怖くなります。勝つためには負ける勝負をしなければいけないのです。

「俺は儲けるんだ!」と心に決めて勝負に出たあなたがどんな結果になろうと、僕は笑いません。勝負する前に負けた時の言い訳を用意しようとする悪癖を、お互い追い払っていきましょう。負けたら負けたでいい、次は上手くやりますでいい。もちろん、崖から転げ落ちた時のリスクはヘッジするべきですが、それとこれとは別の話です。言い訳を用意する必要はないんです。負けたら負けた、失敗したら失敗したでいいんです。

コロナ禍もいよいよ底が見えず、社会は混迷を深めています。もうやってらんねえよというところも多々ある。それでも、不確実な未来に向かって怯えながら、泣きながら、あらん限りの声を張り上げて、飛んでやろうじゃないですか。

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この記事を書いた人

1985年、北海道生まれ。大学卒業後、大手金融機関に就職するが2年で退職。
現在は不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。
著書に『発達障害サバイバルガイド: 「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』(ダイヤモンド社)、『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(KADOKAWA)がある。

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