生き残るためのどん底サバイバルガイド

商売をやっていると、一定の確率で「どん底」がやってきます。

資本主義社会において「全員が成功する」ことはあり得ません。ですから、いつだって誰かは「どん底」にいると思って間違いありません。そして、世の中には「どん底を避けるテクニック」は数多存在しても、どん底を生き残るテクニックというのはほとんど存在しないだろうと思います。

ロシア人が言っていましたが、不幸のバリエーションというのは幸福に比べてあまりにも豊かです。百人いれば百通りのどん底があります。それらは、それぞれにオンリーワンでナンバーワンの苦しみなのです、少なくとも主観的には。故に、生存術というべきものは具体的でテクニカルというよりは、抽象的な心構えといったものにならざるを得ません。正直に言って「ないよりマシ」程度のものが上限かもしれません。しかし、ないよりマシなものをポケットに入れておいて損はありません。なにしろ、文章というのはかさばりませんから。

掛値なしの苦しみ。人格の、能力の、過去の、未来の、人生の全否定たる「どん底」。
本日はそこを生き延びるための知恵について考えていきましょう。

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自衛的自制、嘲笑う人間はよく選ぼう

どん底が近づいてくると、選び得る選択肢はどんどん少なくなってきます。みなさんも「なんでそんなことをしてしまうんだろう?」と感じるような愚かな選択に至った経営者に覚えがあるでしょう。しかし、どん底サバイバルにおいてこの考え方は何より危険です。他人を嘲笑った槍は、あなたがどん底に落ちたとき待っていましたとばかりに上空から降って来て、あなたを頭からケツまでぶちぬきます。

実際のところ、「傍から見て愚かとしか言いようのない選択」は大抵の場合、主観的には「最善の選択」です。商売とはもつれあった事情と事情の間にしか存在しません。それはおおよそ合理的なものではなく、外部から岡目八目で判断すれば「愚か」としか見えないものです。

他人を嗤うのは本当に簡単です。込み合った事情一切なしで、外部から客観的に判断すればその評論は大抵の場合正しくなります。しかし、この世にノーリスクで評論するかのように行える判断など、一つたりとも存在しないのです。

どん底サバイバルには日頃の心がけが大切です。「どん底」の深さは、どん底に至るまでの道のりで決まるとさえ言えます。しかし、「他人を嗤うな」なんて道徳の話には落としません。他人を嘲笑うのは大いに結構。けれど、嘲笑う対象は「絶対に自分はあんな状況に陥ることはない」と確信できる人間だけにしましょう。このチョイスは極めて重要です。想像してみてください、あなたが散々バカにしていた人間と全く同じ状況に陥ってしまったら。その時あなたは生きていられますか?

人間を殺すのは、責め立てる債権者でも取引先でも従業員でもありません。日本という国は基本的に、「商売に失敗したから」死ぬシステムにはなっていません。あなたに最期の一撃を叩きこむのはいつだってあなたなのです。逆に言えば、「最期の一撃」さえ回避きできえればあなたは生き残れます。そして、生き残っている限りチャンスはあるのです。

何を守り抜けるか

繰り返しになりますが、どん底が近づくにつれあなたに選べる選択肢はどんどん少なくなっていきます。これがゼロ近傍に到達した場所が「どん底」であることは容易にご理解いただけると思います。選択肢が減るということは、あなたが守り抜けるものはどんどん少なくなっていくということです。「あれもこれも失いたくない」は通りません。あなたは極めてシビアな取捨選択をする必要に迫られます。

ここには様々な考えがありえますが、僕がこの「最後まで守り抜くべきもの」は「信用」だと考えています。「商売に失敗してどん底まで堕ちて信用もクソもないだろう」という考え方は間違っています。というのも、商売人というのはそれなりの数が「どん底」の経験者なのです。どん底を経ても守り抜ける信用というものは存在します。

どうしても抽象的な表現になってしまいますが、それは「最低限のスジを通せたか」でしょう。人間というのはどん詰まると攻撃的になり、他責的になります。もちろんその心理はよくわかります。あなたの商売がうまくいかなかったのは何から何まであなたの責任というわけでは、現実的にないでしょう。しかし、「大失敗した挙句、ひたすら周囲を罵った」人間になんの信用が残るかという問題がそこにはあります。

どん底は全てが憎い場所です。取引先も顧客も金融機関も法人会も飲み仲間も何もかもに腹が立つでしょう。しかし、それを呑み込んであなたが通すべき最低限の筋を守り抜けるか。そして、商売人というのは「どん底」の人をよく見ています。あなたがどん底を首尾よく切り抜けることが出来たなら、その時あなたは気づくでしょう。「生き延びた」その事実があなたの新たな信用を形成していることに。

意思ある保留

あなたがどん底の近くをうろうろしている時期、「寄ってくる人間が変わった」ことに気づくと思います。彼らは「逆転のチャンス」をあなたに提供しようとします。僕にもそういった人々がたくさん訪れました。「産業廃棄物処理場のオーナーになってみないか?」なんて、暖かな言葉が僕にもたくさん投げかけられました。

これは極めてわかりやすい自然現象です。群れからはぐれて弱った個体の方が捕食しやすいなんて、そこらへんにいるワンちゃんでもわかる話ですよね。人間というのは生きていて戸籍があってサインする手がついていれば、まだ金になります。平常な判断力を持っていれば誰でも回避できるような落とし穴に、あなたは頭から飛び込んでしまいます。

資本主義社会においては、誰もが捕食者であり被捕食者です。しかし、「どん底」にいる人間は全員が「食われる」側です。そして、どん底にいる人間は藁にでもすがりたいのです。すがったものが藁ならそれは救いのある話ですが…。

高度8000メートルを超えると、人間の判断能力は六割方失われてしまうそうです。「どん底」も同様です。体感で言えば8割くらいは失われていると思います。「失わない」ことはおそらく不可能としか言いようがなく、そこで生死を分かつのは「自分は現在正常な判断力を有さない」という自覚だけです。捕食者たちは「チャンスは逃げるぞ、バスに飛び乗れ」といいます。「このウスノロめ、チャンスに飛びつけないからおまえは失敗するんだ」とあなたを罵るでしょう。そして、あなたを運転席に括りつけたバスは崖に向かって爆走していきます。

どん底において「生き残りたい」という意思を持ち続けるには不断の努力を要求されます。勢いよく崖に突っ込んでいくバスに「飛び乗りたい」気持ちが必ず現れます。しかし、それはどん底があなたの思考力を奪っているにすぎません。いつか必ずあなたは正常な判断力を取り戻します。

「意志ある保留」こそが、どん底を生き延びるためには最も重要です。あなたは判断など出来る状況にないのです。それを認めてしまいましょう。大切な決断は、大切な決断をするのにふさわしい場所で、精神状態で行うべきなのです。

生き残りましょう。

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この記事を書いた人

1985年、北海道生まれ。大学卒業後、大手金融機関に就職するが2年で退職。
現在は不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。
著書に『発達障害サバイバルガイド: 「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』(ダイヤモンド社)、『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(KADOKAWA)がある。

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