「AIを使えば、必要なシステムは自社で作れます」。
最近、こうした提案を受ける機会が増えているのではないでしょうか。実際、業務アプリを作るコストは大きく下がりました。これまで「あったら便利だが、費用が見合わない」と見送ってきたものが、作れる範囲に入ってきています。
ここで、一つだけ確認しておきたいことがあります。下がったのは、作るコストです。では、作った後に掛かり続けるコストは、どうなったでしょうか。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、ここに次の課題が生まれると考えています。
この記事で分かること(読了 約7分)
- なぜ「安くなると、かえって総量が増える」のか
- AI時代に下がるコストと、下がらないコストの違い
- 個別システムが増えた会社で、実際に何が起きるのか
- 増やす前に決めておくべき、2つのこと
効率化は、総量を減らすとは限らない
まず、歴史の話を一つだけ。
19世紀の英国で、蒸気機関の効率が改善されました。同じ仕事に必要な石炭が減ったのだから、石炭の消費は減る。誰もがそう考えました。
実際には、逆のことが起きます。安く使えるようになった結果、用途が広がり、国全体の石炭消費はむしろ増えました。これは経済学者ジェボンズが1865年に指摘した現象で、ジェボンズのパラドックスと呼ばれています。
同じ構造が、いま起きようとしています。
システムを作るコストが下がると、これまで採算に合わなかったものが作れるようになります。部署ごとの事情、顧客ごとの事情、担当者ごとの都合。それぞれに合わせた小さな仕組みが、次々と生まれます。
一つひとつの判断は、どれも合理的です。それでも総量は、着実に増えていきます。
作るコストは下がる。動かし続けるコストは下がらない
ここで重要なのは、下がったのが「作るコスト」だけだという点です。
システムは、作って終わりではありません。動き続ける限り、検証し、他システムとつなぎ、運用し、障害に対応し、セキュリティを保ち、誰かが責任を持つ必要があります。この部分は、作るコストが下がっても、自然には下がりません。
| 対象 | AIによる変化 | 理由 |
|---|---|---|
| 設計・実装 | 大きく下がる | 生成を任せられる範囲が広がった |
| 画面や帳票の追加 | 大きく下がる | 都度作り直せるようになった |
| 本番環境での検証 | 下がりにくい | 実際の負荷とデータでしか確かめられない |
| システム間の連携・保守 | むしろ増える | つなぐ先が増えるほど手間は掛け算で増える |
| 障害対応と責任の所在 | 下がらない | 人が引き受ける部分は残る |
作る量が増え、動かし続ける負担が減らない。この二つが重なると、どうなるか。次に、実際の現場で起きることを見ていきます。
なお、システム全体の費用の見方については〈NetSuiteのライセンスは高い?──「見えないコスト」と経営判断〉で解説しています。本記事では、費用の計算ではなく「増えることそのもの」の話に絞ります。
中堅・中小企業で、実際に何が起きるのか
規模の大きくない会社ほど、この影響は早く現れます。順を追って整理します。
第1段階:便利なものが増える。 部署ごとに、それぞれ最適な小さな仕組みが生まれます。この時点では、確かに現場は楽になっています。
第2段階:数字が合わなくなる。 仕組みが増えると、同じ売上や在庫の数字が、複数の場所に別々に存在するようになります。どれが正しいのか、社内で判断できなくなります。
第3段階:つなぐ手間が膨らむ。 分断を解消しようとして、システム同士を連携させます。しかし、つなぐ先が増えるほど、一箇所の変更が他に波及するようになります。
第4段階:守る人が足りなくなる。 情報システムの担当者は、多くの会社で一人か二人です。システムの数は増えても、守る人は増えません。やがて、維持するだけで手一杯になります。
この分断がなぜ経営を鈍らせるのかは、〈サイロ化した業務システムの解決策〉で詳しく扱っています。情報システム部門の負荷については〈一人情シスの限界とアウトソーシング〉もあわせてご覧ください。
つまずく3つのパターンと回避策
責めるためではなく、避けていただくために整理します。
パターン1:「作りやすさ」で作るかどうかを決める
よくある現象
- 「安く作れるなら、作ってしまおう」で話が進む
- 作った後の運用担当が、決まらないまま稼働する
- 数年後、誰も中身を把握していない仕組みが残る
なぜ起こるのか
作るコストが下がると、判断のハードルも一緒に下がるためです。しかし本来決めるべきなのは、作れるかどうかではなく、持ち続けられるかどうかです。
どう回避するか
「これは5年後も守れるか」を、作る前に一度問うことです。ベンチャーネットがご相談を受けたとき、最初に確認するのもこの点です。作らずに済ませられるなら、それが最も安い選択になります。
パターン2:受け皿を決めずに増やす
よくある現象
- 開発の予算はつくが、運用の予算はつかない
- 担当者の異動や退職のたびに、引き継げない仕組みが出てくる
- パッチ当てや障害対応に追われ、前に進む仕事ができない
なぜ起こるのか
作ることは成果に見え、守ることは成果に見えにくいためです。予算も人も、作る側に寄りやすくなります。
どう回避するか
守れる量に合わせて、作る量を決めることです。工場の生産管理では、最も遅い工程(ボトルネック)に他の工程を合わせる考え方が古くから使われています。制約理論と呼ばれる発想です。システムでも同じで、受け皿の能力が全体の上限を決めます。
パターン3:正本を決めないまま、連携で解決しようとする
よくある現象
- 数字がずれるたびに、システム間の連携を追加する
- 連携が増え、どこが起点なのか分からなくなる
- 一箇所の変更で、思わぬ場所が止まる
なぜ起こるのか
分断は、つなげば直ると考えがちなためです。しかし、正しい数字がどこにあるかが決まっていなければ、つないでも食い違いは残ります。
どう回避するか
先に「この数字はここを見る」という基準の置き場所を一つ決めることです。会計・販売・在庫が一つにつながっていれば、そもそも連携で埋める必要が減ります。ベンチャーネットは、この土台の整理から伴走しています。
増やす前に、決めておく2つのこと
複雑な話ですが、判断そのものはシンプルにできます。ベンチャーネットからお伝えしたいのは、次の2点です。
1. 何を土台にするか。 売上・在庫・原価といった会社の事実を、どこに置くのかを先に決めます。ここが定まっていれば、周辺に何を足しても、経営の視界は保てます。
2. 誰が守るのか。 作る話と同時に、運用する人と予算を決めます。決まらないなら、その仕組みは今つくるべきではない、という判断もあり得ます。
この2つが決まっていれば、AIで作れるようになったことは、素直に追い風になります。逆に決めないまま数だけ増やすと、数年後に「何がどこにあるのか分からない会社」ができあがります。
ベンチャーネットがクラウドERP「NetSuite」を軸に置いているのは、作らずに済む範囲を広げられるためです。ERPとは、会社全体の業務データを一つに統合するシステムを指します。会計・販売・在庫が標準機能で一体になっていれば、その分だけ、個別に作って守る対象を減らせます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 内製はやめたほうがよいのですか?
そうは考えていません。自社の競争力に直結する部分は、自社で作る価値があります。
大切なのは使い分けです。会計や在庫のように、どの会社にも共通する土台は、標準の仕組みに任せる。自社ならではの部分に、作る力を集中させる。この線引きが、増やしすぎを防ぎます。
Q2. 小さな仕組みを少しずつ増やす分には、問題ないのでは?
一つひとつは問題になりにくいです。難しいのは、積み重なったときです。
10個が20個になると、守る手間は2倍では済みません。互いのつながりが増えるためです。判断は一つずつでも、影響は全体で効いてきます。
Q3. 保守もAIがやってくれるようになりませんか?
一部は担えるようになると考えています。実際、障害の一次調査などは自動化が進んでいます。
一方で、本番環境で何が起きているかの確認や、止めるか続けるかの判断、そして結果への責任は、人が引き受ける部分として残ります。ここが残る限り、増やす量には上限があります。
Q4. すでに増えてしまった場合、何から手をつければよいですか?
まず、棚卸しからです。何が動いていて、誰が守っていて、誰が使っているのかを一覧にします。
書き出すと、実は使われていないものが見つかることが少なくありません。減らせるものを減らしてから、残す仕組みの土台を整える。この順番が現実的です。
まとめ|作れるようになったからこそ、決めることが増えた
AIによって、システムを作るコストは確かに下がりました。これは大きな前進です。
ただし、下がったのは作るコストだけです。動かし続けるコストと、増えた仕組みを守る人の負担は残ります。効率化がかえって総量を増やすことは、歴史が繰り返し示してきました。
だからこそ、増やす前に決めることが大切になります。何を土台にするのか。誰が守るのか。この2つが決まっていれば、作れる時代は追い風になります。
自社の仕組みが今どうなっているのか、何から整理すべきか。棚卸しの壁打ちからでも構いません。お気軽にご相談ください。
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