AIで「作れる」時代の落とし穴|増えるのはシステムではなく、動かし続けるコストです

「AIで作れば、システムは安く済む」

最近、こうした提案を受ける会社が増えています。

半分は正しい。

業務アプリを作るコストは、たしかに大きく下がりました。

システムの乱立とは、部署や用途ごとに小さな仕組みが増え続け、会社全体として守りきれなくなる状態のことです。

誰が守っているか分からない「野良システム」も、ここから生まれます。

AIで下がったのは、作るコストだけです。

検証・連携・保守・責任といった動かし続けるコストは、下がりません。

作るのが安くなるほど、作る数は増えていきます。

そして数が増えるほど、守る手間は膨らむ。

では、増やす前に、何を決めておけばよいのか。

目次

この記事で分かること

  • なぜ「安くなると、かえって総量が増える」のか
  • AI時代に下がるコストと、下がらないコストの違い
  • 仕組みが増えた会社で起きる4つの段階
  • 作るか、選ぶか、作らないかを決める物差し
  • 増やす前に決めておく、2つのこと

読了時間の目安:約10分

効率化は、総量を減らすとは限らない

まず、歴史の話を一つだけ。

19世紀の英国で、蒸気機関の効率が改善されました。

同じ仕事に要る石炭が減ったのだから、石炭の消費は減る。

誰もがそう考えました。

実際には、逆のことが起きます。

安く使えるようになった結果、用途が広がり、国全体の石炭消費はむしろ増えました。

経済学者ジェボンズが、1865年の著書『石炭問題』で指摘した現象です(出典:イェール大学 Energy History、2026年9月確認)。

ジェボンズのパラドックスと呼ばれています。

同じ構造が、いまシステムで起きようとしています。

作るコストが下がると、これまで採算に合わなかったものが作れるようになる。

部署ごとの事情、顧客ごとの事情、担当者ごとの都合。

それぞれに合わせた小さな仕組みが、次々と生まれます。

一つひとつの判断は、どれも合理的です。

それでも総量は、着実に増えていきます。

作るコストは下がる。動かし続けるコストは下がらない

システムは、作って終わりではありません。

動き続ける限り、検証し、他のシステムとつなぎ、障害に対応し、誰かが責任を持つ必要があります。

この部分は、作るコストが下がっても、自然には下がりません。

対象AIによる変化理由
設計・実装大きく下がる生成を任せられる範囲が広がった
画面や帳票の追加大きく下がる都度作り直せるようになった
本番環境での検証下がりにくい実際の負荷とデータでしか確かめられない
システム間の連携・保守むしろ増えるつなぐ先が増えるほど手間は掛け算で増える
障害対応と責任の所在下がらない人が引き受ける部分は残る

作る量は増え、動かし続ける負担は減らない。

この二つが重なった現場を、次の章で追います。

システム全体の費用の見方は、NetSuiteのライセンスは高い?──「見えないコスト」と経営判断で扱っています。

中堅・中小企業で、実際に何が起きるのか

規模の大きくない会社ほど、この影響は早く出ます。

段階は4つです。

仕組みが増えた会社で起きる4つの段階 第1段階で便利なものが増え、第2段階で数字が合わなくなり、第3段階でつなぐ手間が膨らみ、第4段階で守る人が足りなくなる。 仕組みが増えた会社の4段階 1. 便利なものが増える 部署ごとに小さな仕組みが生まれる 2. 数字が合わなくなる 同じ数字が別々の場所に存在する 3. つなぐ手間が膨らむ 一か所の変更が、ほかに波及する 4. 守る人が足りなくなる 維持するだけで手一杯になる
仕組みが増えた会社で起きる4つの段階

第1段階:便利なものが増える。

部署ごとに、それぞれ最適な小さな仕組みが生まれます。

この時点では、たしかに現場は楽になっています。

第2段階:数字が合わなくなる。

同じ売上や在庫の数字が、別々の場所に存在するようになります。

どれが正しいのか、社内で判断できなくなる。

第3段階:つなぐ手間が膨らむ。

分断を埋めようとして、システム同士をつなぎます。

ところが、つなぐ先が増えるほど、一か所の変更がほかに波及するようになります。

第4段階:守る人が足りなくなる。

情報システムの担当者は、多くの会社で一人か二人です。

システムの数は増えても、守る人は増えません。

やがて、維持するだけで手一杯になります。

第3・第4段階は、机上の話ではありません。

ベンチャーネットの仕事は、ゼロからの導入よりも、他社のあとの引き継ぎや立て直し、他システムとの連携が多くを占めます。

相談の入口で目にするのは、たいていこの2つの段階の会社です。

分断がなぜ経営を鈍らせるのかは、サイロ化とは?で扱っています。

情報システム部門の負荷は、情シスアウトソーシングの限界と、止まらないIT基盤の作り方もあわせてどうぞ。

判断の物差し|作るか、選ぶか、作らないか

作れるようになったいま、選択肢は「作る」だけではありません。

仕組みの性格によって、合う選択が変わります。

仕組みの性格合いやすい選択守る負担AIとの親和性
会計・販売・在庫など、どの会社にも共通する土台NetSuiteのようなクラウドERP、国産ERP、Odooなどの既製品小さい。更新は提供元が担う高い。データが一か所にそろい、AIに渡しやすい
自社の競争力に直結する、独自の業務AIを使ったスクラッチ開発大きい。守る人と予算が要る高い。ただし土台のデータとつなぐ設計が前提
一部署だけの、一時的な便利ツール表計算や既製のSaaSで足りるか先に見る中くらい。放置されやすい中くらい。散らばると全体では使いにくい
守る人も予算も決まらないものいまは作らないなし—

ERPは、会社全体の業務データを一つにまとめるシステムのことです。

作ってよいのは、次の3つがそろうときです。

  • 自社ならではの業務で、既製品では競争力が落ちる
  • 5年後も守る人と予算を、いま決められる
  • 会計・販売・在庫の「正しい数字」の置き場所が決まっている

一つでも欠けるなら、作らない側に傾けます。

3つの条件で作るかどうかを決める流れを図にすると、次のとおりです。

作ってよいかを決める3つの問い 自社ならではの業務か、5年後も守る人と予算を決められるか、正しい数字の置き場所が決まっているか。3つそろえば作ってよく、一つでも欠けるなら既製品を選ぶか、いまは作らない。 作ってよいかを決める3つの問い 1. 自社ならではの業務か 既製品では競争力が落ちる いいえ はい 2. 5年後も守れるか 守る人と予算をいま決める いいえ はい 3. 数字の置き場所はあるか 会計・販売・在庫の正しい数字 いいえ はい 作らない 側へ 既製品を 選ぶか、 いまは 作らない 3つそろえば作ってよい AIを使ったスクラッチ開発 一つでも欠けるなら、作らない側に傾ける
作ってよいかを決める3つの問い

土台に既製品を選ぶ場合も、製品は一つではありません。

NetSuiteは、世界220地域・44,000社以上で使われているクラウドERPです(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月確認)。

国産ERPやOdooが合う会社もあります。

作るか選ぶかで迷ったら、AIでスクラッチ開発とERP、どちらを選ぶべきかが次に読む記事です。

すでに仕組みが増えてしまった会社へ

これから作る会社は、作る前に「5年後も守れるか」を一度問えば足ります。

手間がかかるのは、すでに増えてしまった会社のほうです。

まず、棚卸しからです。

何が動いていて、誰が守っていて、誰が使っているのかを一覧にします。

書き出すと、実は使われていないものが見つかることが少なくありません。

そのうえで、次の順に進めます。

  1. 使われていないものを止める
  2. 同じ数字を持つ仕組みを見つけ、正しい数字の置き場所を一つ決める
  3. 保守期限や更新が近いものから、行き先を決める

保守期限の考え方は、基幹システムの保守切れリスクとは?をご覧ください。

つまずく3つのパターンと回避策

パターン1:「作りやすさ」で作るかどうかを決める

起きること:「安く作れるなら作ろう」で話が進み、運用の担当が決まらないまま稼働する。

数年後、誰も中身を把握していない仕組みが残る。

原因:作るコストが下がると、判断のハードルも一緒に下がるからです。

本来決めるべきなのは、作れるかどうかではなく、持ち続けられるかどうかです。

避け方:「これは5年後も守れるか」を、作る前に一度問います。

作らずに済ませられるなら、それがいちばん安い選択です。

パターン2:受け皿を決めずに増やす

起きること:開発の予算はつくが、運用の予算はつかない。

担当者の異動や退職のたびに、引き継げない仕組みが出てくる。

原因:作ることは成果に見え、守ることは成果に見えにくいからです。

予算も人も、作る側に寄りやすくなります。

避け方:守れる量に合わせて作る量を決めます。

工場の生産管理では、最も遅い工程(ボトルネック)に他の工程を合わせる考え方が使われてきました。

制約理論と呼ばれる発想です。

システムでも、受け皿の能力が全体の上限を決めます。

パターン3:正本を決めないまま、連携で解決しようとする

起きること:数字がずれるたびに連携を足し、どこが起点か分からなくなる。

一か所の変更で、思わぬ場所が止まる。

原因:分断は、つなげば直ると考えがちだからです。

正しい数字がどこにあるかが決まっていなければ、つないでも食い違いは残ります。

避け方:「この数字はここを見る」という置き場所を、先に一つ決めます。

この置き場所を正本と呼びます。

会計・販売・在庫が一つにつながっていれば、連携で埋める必要そのものが減ります。

増やす前に、決めておく2つのこと

冒頭の問いへの答えは、2つに絞れます。

1. 何を土台にするか。

売上・在庫・原価といった会社の事実を、どこに置くのかを先に決めます。

ここが定まっていれば、周辺に何を足しても、経営の視界は保てます。

2. 誰が守るのか。

作る話と同時に、運用する人と予算を決めます。

決まらないなら、その仕組みはいま作らない、という判断もあります。

この2つが決まっていれば、AIで作れるようになったことは、素直に追い風になります。

決めないまま数だけ増やすと、数年後に「何がどこにあるのか分からない会社」ができあがります。

ベンチャーネットならこう見る|標準に合わせる/開発する/残す

NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱います。

SAPからのリプレイスにも対応しています。

「これを作りたい」という相談で、最初に伺うのは次の3つです。

  1. 土台か独自の業務か:どの会社にも共通する業務なら、作らずに選ぶ
  2. 正本はどこか:その仕組みが扱う数字の、正しい置き場所は決まっているか
  3. 誰が守るか:5年後の担当者と予算を、いま言えるか

型:棚卸しした仕組みを3つに仕分ける

すでに仕組みが増えた会社では、棚卸しの一覧を1行ずつ3つに仕分けます。

  • 標準に合わせる:業務のほうを、ERPなど既製品の標準機能に寄せる。守る対象から外れる
  • 開発する:自社の競争力に直結するものだけ、作り直すか作り足す。守る人と予算を同時に決める
  • 残す:いまの仕組みのまま使い続ける。正本とのつなぎ方と、担当者を書き残す

仕分けの見方を図にすると、次のとおりです。

棚卸しした仕組みの仕分け方:合わせる・開発する・残す どの会社にも共通する業務は標準に合わせ、競争力に直結する業務は開発し、いまのまま使うものは残す。標準に合わせる行が多いほど、守る量は減る。 棚卸しした仕組みの仕分け方 こういう仕組みなら こう仕分ける どの会社にも 共通する業務 標準に合わせる 守る対象から外れる 競争力に直結する 自社独自の業務 開発する 守る人と予算も 同時に決める いまのまま 使い続けるもの 残す 正本とのつなぎ方と 担当者を書き残す 「合わせる」が多いほど、守る量は減る
棚卸しした仕組みの仕分け方:合わせる・開発する・残す

1つ目に仕分けられる行が多いほど、守る量は減ります。

2つ目は、第4章の「作ってよい3つの条件」を満たすものに限ります。

仕分けは、つなぐ先を含めて見ないと決められません。

ベンチャーネットは、既存システムとの連携の設計も受け持ちます。

情報システムの担当が一人か二人の会社でも、進められる体制を組みます。

そのうえで、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発のどれでもなく、「いまは作らない」をお勧めすることもあります。

今日できること|仕組みの棚卸し表をつくる

1時間で、社内で動いている仕組みを一覧にしてみてください。

仕組みの名前扱う数字使っている人守っている人
(例)営業の案件管理表受注見込み営業部営業の○○さん

「守っている人」が空欄の行と、同じ数字を扱う行が複数ある箇所が、最初に手を入れる場所です。

表ができたら、各行の横に「合わせる・開発する・残す」のどれかを書き込んでみてください。

よくある質問

Q1. 内製はやめたほうがよいのですか

そうは考えていません。

自社の競争力に直結する部分は、自社で作る価値があります。

どの会社にも共通する土台は既製品に任せ、自社ならではの部分に作る力を集める。

この線引きが、増やしすぎを防ぎます。

Q2. 小さな仕組みを少しずつ増やす分には、問題ないのでは

問題になるのは積み重なったときです。

10個が20個になると、守る手間は2倍では済みません。

互いのつながりが増えるためです。

判断は一つずつでも、影響は全体に効いてきます。

Q3. 保守もAIがやってくれるようになりませんか

一部は担えるようになりますが責任は人に残ります。

障害の一次調査などは、AIに手伝わせる使い方も考えられます。

一方で、本番環境の確認や、止めるか続けるかの判断、結果への責任は人が引き受けます。

ここが残る限り、増やす量には上限があります。

Q4. すでに増えてしまった場合、何から手をつければよいですか

棚卸しからです。

何が動いていて、誰が守っていて、誰が使っているのかを一覧にします。

そのうえで、1行ずつ「標準に合わせる・開発する・残す」に仕分けます(第8章)。

Q5. 土台はERPでなければいけませんか

正しい数字の置き場所が一つに決まっていれば形は問いません。

規模が小さいうちは、会計ソフトと少数の仕組みで足りることもあります。

部署や拠点が増え、数字が合わなくなってきたら、ERPを検討する段階です。

Q6. AIで作った仕組みを、後からERPに寄せることはできますか

できます。

正本を先に決めておくと、寄せやすくなります。

どの数字をどこで持っていたかが分かれば、移す範囲を絞れます。

作る段階から、扱う数字と守る人を記録しておくことをお勧めします。

まとめ|作れるようになったからこそ、決めることが増えた

  • AIで下がったのは作るコストだけ。動かし続けるコストは下がらない
  • 効率化は、かえって総量を増やすことがある(ジェボンズのパラドックス)
  • 共通の土台は選び、独自の業務だけを作る。守れないなら作らない
  • すでに増えた会社は、棚卸しをして「標準に合わせる・開発する・残す」に仕分ける
  • 増やす前に決めるのは、何を土台にするかと、誰が守るか

「AIで作れば安く済む」は、作る日だけを見れば正しい言葉です。

次に提案を受けたら、「5年後、誰が守るのか」を一緒に聞いてみてください。

AIに任せる範囲の線引きは、AIエージェントに「任せる範囲」と、経営者が「握る範囲」で書いています。

経営の「見える化」の全体像は、データドリブン経営入門をご覧ください。

もう少し詳しく知りたい方へ

自社の仕組みがいまどうなっているのか、何から整理すべきか。

棚卸しの壁打ちからでも構いません。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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