孫子・五輪書に学ぶ、変化の時代の経営の「構え」

目次

「まず動かなきゃ」——変化に追われる経営者の日常

新しい経営手法が次々に生まれ、AIの道具も毎月のように増えていきます。展示会に足を運べば、「これをやらないと乗り遅れる」という言葉が、あちこちで並んでいます。何から手をつけるべきか、気持ちがざわつく。変化が速い時代ほど、経営者は「まず動かなければ」と焦りがちです。

けれど、手を動かした数だけ経営が安定するかというと、そうとは限りません。新しい道具を入れても、しばらくすると元の忙しさに戻っている。そんな感覚を持つ方は、少なくないはずです。

手数を増やすほど、経営が落ち着かない理由

なぜ、忙しく動いているのに、経営はなかなか落ち着かないのでしょうか。

理由の一つは、道具や手数よりも手前にあるものが、揺れているからです。それは、経営者自身の「構え」。世界をどう見て、どこで力を入れ、何を手放すか、という姿勢のことです。構えが定まらないまま道具だけを増やすと、流行を追いかけるだけで疲れてしまいます。

変化が激しいときこそ、動く前に構えを整える。この順番は、遠回りのようでいて、実は近道です。

変化の時代こそ、「構え」を整える

昔の人は、変化のなかでの「構え」を、驚くほど深く考えていました。

孫子は二千年以上前に、戦いの前にまず全体を測れと説いています。理念で人の心が一つになっているか。時流はどうか。自社はどんな状況に置かれているか。率いる者の力量はどうか。仕組みは回るか。動く前に、この五つで足元を見よ、という教えです。

宮本武蔵は『五輪書』のなかで、うわべの動きではなく、その奥にある流れを見通す目を大切にしました。そして、平時も有事も心を変えない落ち着き——不動の平常心を説いています。緊張しすぎず、緩みすぎず、心を真ん中に据えておく。そうすれば、変化が来ても体が自然に応じられる、というのです。

ベンチャーネットが大切にしてきたものも、根っこは同じ「構え」です。私たちの出発点には、こんな問いがありました。このまま流されていけば、三十年後も同じ景色を見ているかもしれない。ならば、構造のなかでただ動くのではなく、構造そのものを設計する側に回ろう。そう考えて、この仕事を始めました。

変化の時代の経営を、私たちは「荒波を越える舟をつくること」だと考えています。波そのものは止められません。止められないのなら、波に振り回されない構えを持つしかない。古典が伝える構えと、私たちが現場で持ち続けてきた構えは、不思議なほど重なっています。

構えを整える三つの動き——観る・択ぶ・捨てる

では、構えを整えるとは、具体的に何をすることなのでしょうか。私たちは、三つの動きに分けて考えています。

一つ目は「観る」。孫子の「彼を知り己を知る」で本当に難しいのは、相手ではなく“己”を正しく知ることです。理想に燃えているときほど、自社の実情は見えなくなります。だからまず、数字で自社の現在地を映し出す。ベンチャーネットが「見える化」を出発点に置くのは、この“己を観る”を最初に済ませるためです。

二つ目は「択ぶ」。武蔵は、構えは固定するものではないと考えました。型は状況に応じて自在に変わってよい、型に縛られるな、という姿勢です。経営も同じで、どこで力を入れ、どこでは戦わないかを、その時々で択んでいきます。ただし、どの市場でどう戦うかという戦い方そのものは、それだけで一つの大きなテーマになります。ここでは深入りせず、別の記事に譲ります(→小さく強い市場の見つけ方弱者の戦略とニッチ)。ここで言いたいのは、選択肢を一つに固めないこと自体が、一つの構えだということです。

三つ目は「捨てる」。孫子は、ずるずると長引く消耗戦を戒めました。武蔵は、こだわりや我執を手放して本質をまっすぐ見る境地を、最後に置いています。あれもこれもと抱え込むほど、構えは重くなる。手放す判断もまた、立派な経営判断です。

近ごろは、この三つの動きをAIが助けてくれる場面が増えました。数字を映すのも、選択肢を並べるのも、道具はずいぶん速くなっています。ただ、道具がどれだけ進んでも、その奥の流れを観て、択び、捨てる。最後に構えを定めるのは、やはり人間です。AIは経営者の構えを支える相棒であって、構えそのものを代わりに持ってはくれません(→道具が変わっても人が意志を入れる)。

あなたの会社の「構え」は、いま、どうなっているか

ここで少し、立ち止まってみてください。あなたの会社の「構え」は、いま、どうなっているでしょうか。

正直に言えば、古典を読んだから経営がうまくいく、というものではありません。構えは一冊の本で身につくものではありませんし、武蔵が生涯をかけて鍛え続けたように、日々の積み重ねでしか育ちません。私たちベンチャーネット自身も、二十年以上この仕事を続けながら、いまだに自社の構えを問い直しています。

それでも、道具に振り回されそうになったとき、「まず構えを整える」という順番を思い出すだけで、次の一手は驚くほど落ち着きます。焦って動く前に、一度、全体を観る。それができる経営者は、変化を必要以上にこわがらなくなります。

道具の数ではなく、崩れない構えを

変化の時代に本当に問われているのは、最新の道具をいくつそろえたか、ではありません。波のなかでも崩れない「構え」を、経営者自身が持てるかどうかです。

ベンチャーネットは、システムの導入をゴールにしません。数字で会社を観えるようにし、その意味をわかるようにし、儲かるところまで、経営者の隣で伴走します。厄介なことに、自分の構えの歪みは、自分ではいちばん見えにくいものです。だからこそ、隣で一緒に全体を観る相手がいると、構えは整え直しやすくなります。それは、道具を売る仕事というより、経営者が構えを整えるのを支える仕事だと考えています。同じ荒波のなかにいる者として、ただ一緒に流されるのではなく、構えを共につくり直していく。そんな関わり方をしたいと思っています。

もし、自社の構えを一度見つめ直してみたいと感じたら、次の記事もあわせて読んでみてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次