新規より、既存客を太らせる——LTVと顧客維持の経営

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広告費をかけて新規を採っても、利益が残らない

「広告にお金をかけて新規のお客様は増えた。なのに、利益はちっとも積み上がらない」

そんな手応えのなさを感じたことはないでしょうか。

採っても、しばらくすると離れていく。空いた穴を埋めるために、また広告を出す。気づけば、獲得の費用が利益を食いつぶしている。まるで、底に穴の空いたバケツに水を注ぎ続けているような状態です。

このとき、多くの会社が「もっと新規を採らなければ」とアクセルを踏みます。けれど、本当に見直すべきは、入れる量ではなく、漏れている穴のほうかもしれません。

この記事では、新規獲得に偏った経営を、既存のお客様を「太らせる」発想へとずらしていく考え方を整理します。

なぜ利益が積み上がらないのか——獲得偏重という構造

利益が残らない理由の多くは、コストの構造にあります。

マーケティングの世界には、古くから知られる経験則があります。「1対5の法則」です。新規のお客様に買ってもらうには、既存のお客様に買ってもらう場合の、およそ5倍のコストがかかる、というものです。米国のコンサルタント、フレデリック・ライクヘルド氏が提唱したとされています。

理由はシンプルです。新規のお客様は、まず自社を知らないところから始まります。知ってもらい、信頼してもらい、ようやく一度目の取引にたどり着く。その間に、広告費も、人の手間も、時間もかかります。

一方、既存のお客様は、すでに自社を知っていて、一度は信頼してくれた相手です。二度目の取引までの距離が、はるかに短い。

ここで注意したいのは、この「5倍」という数字を鵜呑みにしないことです。これは1990年代から2000年代に生まれた経験則で、業種や時代によって変わります。大切なのは正確な倍率ではなく、「新規の獲得は、思っているよりずっと高くつく」という構造のほうです。

獲得だけにアクセルを踏み続けると、コストの高い入口ばかりが膨らみます。これが、新規は増えるのに利益が残らない、という現象の正体です。

既存客を「太らせる」3つの打ち手

では、どこに目を向ければいいのか。鍵になるのが、LTVという考え方です。

LTV(顧客生涯価値)とは、一人のお客様が、取引の始まりから終わりまでに、自社にもたらしてくれる利益の総額のことです。一回いくら売れたか、ではなく、そのお客様と長く付き合った結果いくらになるか、で見る物差しです。

この物差しで見ると、既存客を「太らせる」方向が見えてきます。打ち手は、大きく3つです。

既存客を「太らせる」3つの打ち手 1 離反を止める 去っていく理由を なくし、関係を つなぎ止める 2 回数を増やす 一度きりで終えず 二度、三度と 買ってもらう 3 幅を広げる 今の商品の隣に 別の商品やサービス を添える 一人ひとりのお客様の LTV(顧客生涯価値)が太る = いま手元にある資産でできる、確かな「儲かる化」

既存客を太らせる3つの打ち手——離反を止める、回数を増やす、取引の幅を広げる。3つが重なると、一人のお客様のLTVが太っていきます。

ひとつめは、離れるのを止めること。先ほどのライクヘルド氏は、もうひとつの経験則も示しています。この維持の効果を表す経験則が、「5対25の法則」です。お客様が離れていく割合を5%改善するだけで、利益は最低でも25%改善する、というものです。これも厳密な数字というより、「離反を防ぐ効果は、想像以上に大きい」という目安として読んでください。

ふたつめは、買ってもらう回数を増やすこと。一度きりの取引で終わらせず、二度、三度と続く関係をつくる。リピートが積み重なれば、同じお客様からのLTVは大きくなります。

みっつめは、取引の幅を広げること。今買ってもらっている商品の隣に、別の商品やサービスを添える。一人のお客様との取引の幅が広がれば、その分、太っていきます。

近年は『ファンベース』(佐藤尚之)や『「顧客消滅」時代のマーケティング』(小阪裕司)のように、新規を追い続けるより、既存のお客様との関係を経営の軸に据える発想を説く書籍も増えています。流れは確実に、「採る」から「育てる」へと動いています。

なお、どのお客様が離れそうか、誰が優良客かを見極める作業は、近年AIが計算を助けてくれるようになりました。ただし、そのお客様とどう向き合うかを決めるのは、あくまで社長自身です。AIは判断の材料を出す道具であって、判断を肩代わりするものではありません。

バケツの穴を塞ぐと、儲かり方が変わる

獲得偏重から維持中心へ。重心をずらした会社では、何が起きるでしょうか。

まず、利益の質が変わります。コストの低い既存客からの売上が厚くなるため、同じ売上高でも、手元に残る利益が増えていきます。

次に、経営が落ち着きます。毎月ゼロから新規を追いかける自転車操業から、積み上がった顧客基盤の上で商売をする状態へ。土台があるぶん、先が読みやすくなります。

これは、ベンチャーネットが繰り返しお伝えしている「儲かる化」の発想と、まっすぐつながっています。儲かる化とは、派手な新しい何かを足すことではありません。いま手元にある資産を、きちんと太らせることです。そして、お客様こそが、会社にとって最も大きな資産です。ただし、この資産は、こちらが一方的に削って太らせるものではありません。お客様の商売がうまくいくほど、取引は自然に続き、太っていきます。

業種ごとの利益率の相場の中で、なぜ上位5%だけが「異常値」として儲かるのか。その照準の合わせ方は、別の記事「儲かる会社は、業種の『異常値』である」で詳しくお話しします。

実践の注意点とよくある疑問

最後に、実際に取り組むときに出てくる疑問に答えておきます。

「維持だけに集中していいのか?」

いいえ。新規の獲得をゼロにはできません。お客様は、満足していても引っ越しや事情の変化で必ず一定数は離れます。自然減を補う新規は要ります。大事なのは、獲得か維持かの二択ではなく、配分です。立ち上げ期の事業なら獲得寄り、成熟して常連客がいる事業なら維持寄り、というように、自社の段階で重心を決めます。「見つけてもらう」獲得側の話は、「AI検索時代の「見つけてもらう経営」」で扱っています。本記事とは表裏の関係です。

「うちは一見客ばかりの商売だが?」

それでも、まず始められることがあります。誰がリピートしてくれているのか、どのお客様が離れたのかを、数字で見えるようにすることです。

ここが、実は多くの会社のつまずきどころです。1対5も5対25も経験則にすぎません。自社で本当はどうなのかは、自社の数字でしか分かりません。LTVも、離反率も、見えていなければ打ち手の打ちようがない。

だからこそ、維持の経営は「見える化」から始まります。お客様ごとの取引履歴やリピートの状況を、勘ではなく数字で捉える。その土台づくりについては、「経営の羅針盤としてのNetSuite」で触れています。

まとめ——顧客に儲けてもらい、その利益を、次へ投資してもらう

新規をどれだけ採っても、底に穴が空いていれば、利益は溜まりません。

経営の重心を、獲得から維持へ、少しずらしてみる。離れるのを止め、回数を増やし、幅を広げる。一人ひとりのお客様を、長い目で育てていく。それが、いま手元にある資産でできる、確かな「儲かる化」です。

そして、既存客を太らせる最も確かな方法は、こちらが取ることではありません。お客様自身に、儲けてもらうことです。

取引を通じてお客様の商売がうまくいけば、お客様はまた戻ってきます。利益が出れば、その利益を、次の取引や新しい挑戦に投じてくれる。お客様が儲かるほど、自社との取引も太っていく。これは、相手から搾り取る関係ではなく、共に大きくなる関係です。

維持の経営が行き着く先は、この好循環です。お客様を儲けさせ、その利益がまた自社へ巡ってくる。一度きりの売上ではなく、回り続ける関係を育てる。それが、息の長い「儲かる化」だと、ベンチャーネットは考えています。

ベンチャーネットは、お客様の維持率やLTVを「見える化」し、どこに手を打てばこの好循環が回り始めるのかを、一緒に考える支援をしています。自社の顧客資産が今どうなっているのか、一度数字で確かめてみたい——そう思われたときは、お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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