決算は黒字。なのに、月末になると通帳が薄い
帳簿の上では、利益が出ている。決算も黒字だった。それなのに、月末が近づくと支払いに追われる。手元の現金が、いつもぎりぎりだ。
そんな経験はないでしょうか。これは経営者の感覚が鈍いからではありません。利益(損益)と現金(資金繰り)は、そもそも別物だからです。
決算書の利益は「儲かったかどうか」を表す通信簿。一方で資金繰りは「いま手元にいくら現金があるか」という別の物差しです。この2つはズレます。そして、そのズレが大きくなると、黒字のまま資金が尽きてしまう。
中小企業庁の白書や調査会社の集計では、休廃業・解散した企業のおよそ半数が、廃業の直前は黒字だったと報告されています。黒字は、安全を意味しません。
倒産そのものも、落ち着いてはいません。2025年の企業倒産は1万300件で、前年より2.9%増え、2年連続で1万件を超えました(東京商工リサーチ)。背景には人手不足や物価高があり、資金繰りの悪化が引き金を引いています。
この記事では、「黒字なのにお金がない」がなぜ起きるのかを構造から解き、現金の流れを測って手を打つための見方を整理します。
「黒字なのにお金がない」は、なぜ起きるのか
原因は、利益と現金の「タイミングのズレ」にあります。利益は売上が立った時点で計上されますが、現金が動くのは別のタイミングだからです。
ズレを生むのは、主に3つの場所です。
- 売掛金(売上債権):売上は立ったのに、入金はまだ先。商品を渡しても、現金が戻るのは数十日後になる。
- 在庫(棚卸資産):仕入れたが、まだ売れていない。現金が「モノ」に姿を変えて、倉庫で眠っている。
- 買掛金(仕入債務):仕入れたが、支払いはこれから。これは現金が出ていくのを少し先送りできる、数少ない味方。
ここで「売上債権」とは、売上は計上したがまだ受け取っていないお金(売掛金や受取手形)。「棚卸資産」は売れ残っている在庫。「仕入債務」は仕入れたがまだ払っていないお金(買掛金や支払手形)のことです。
売上が伸びるほど、このズレは大きくなりがちです。受注が増えれば、先に仕入れと人件費の支払いが膨らみ、入金はあとから追いかけてくる。だから「忙しいのに、お金がない」が起きる。成長している会社ほど、資金繰りに気を配る必要があります。
利益は出ているのに現金が足りない。その正体は、性格の問題でも運の問題でもなく、お金が「どこかで寝ている」という構造の問題です。
現金がどこで寝ているかを測る——運転資本とCCC
構造の問題なら、測れます。測る物差しが、運転資本とCCCの2つです。
運転資本は、事業を回すために立て替えている現金の量です。
運転資本 = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
入金待ちのお金と在庫に寝ているお金を足し、支払い待ちのお金を引く。残りが、自社が立て替えている金額です。これが大きいほど、現金は手元に戻りにくくなります。
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は、その立て替えが「何日続くか」を日数で表したものです。仕入代金を払ってから、その分の売上が現金で戻るまでの日数、と考えてください。
CCC = 売上債権回転日数 + 棚卸資産回転日数 − 仕入債務回転日数
それぞれの回転日数は、次のように出します。
- 売上債権回転日数 = 売上債権 ÷ 売上高 × 365(入金までの平均日数)
- 棚卸資産回転日数 = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365(在庫が眠る平均日数)
- 仕入債務回転日数 = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365(支払いまでの平均日数)
図にすると、現金が出てから戻るまでの「空いている期間」が一目で見えます。
図:キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の考え方。仕入代金の支払いから売上の入金までの空白期間が、借入などで埋める必要のある現金です。
CCCが長いほど、現金が戻るまでの空白を借入などで埋める必要があり、資金繰りは苦しくなります。逆にCCCが短ければ、少ない現金で事業を回せます。
打ち手は、計算式の3つの要素に対応して3つあります。
- 入金を早める:請求を遅らせない。納品やサービス提供が終わったらすぐ請求する。与信を確かめ、回収の遅れを防ぐ。
- 在庫日数を縮める:必要なときに必要な分だけ仕入れる。眠っている在庫を減らす。
- 支払いの猶予を整える:仕入先と支払い条件を見直す。ただし無理な先延ばしは取引先の資金繰りを圧迫し、信頼を損ねます。関係を壊さない範囲で。
数字の目安は業種で大きく変わります。在庫を多く持つ製造業や小売業はCCCが長くなりやすく、在庫を持たないサービス業は短くなりやすい。だから他社の数値と比べるより、自社のCCCが先月より縮んだか伸びたかを追うほうが役に立ちます。
在庫の圧縮そのものについては、儲かる化の各論記事でくわしく扱います。ここではまず、「現金がどこで何日寝ているか」を測る習慣を持つことが出発点です。
現金の流れを「見える化」から「わかる化」へ
ここまでの計算は、決算書の数字さえあれば電卓でも出せます。問題は、それを毎月、止まらずに続けられるかどうかです。
売掛金は会計ソフト、在庫は別の管理表、買掛金はまた別の場所。データが散らばっていると、CCCを出すだけでひと仕事になります。月次が固まるのも遅い。気づいたときには、現金が足りなくなっている。
ここで効いてくるのが、データを1か所にまとめることです。売掛・買掛・在庫が同じ仕組みの上にあれば、現金の流れはいつでも見えます。さらに、入金と支払いの予定を重ねれば、「来月の資金は足りるか」を先読みできる。
数字が見えるだけが「見える化」なら、その裏の構造(どこで現金が寝ているか)が分かるのが「わかる化」です。資金繰りは、見える化からわかる化へ進む、いい題材です。
この「経営の計器盤」をどう仕立てるかは、別の記事で掘り下げています。あわせて読んでみてください。
→ あなたの会社の計器盤は、正確ですか——経営の羅針盤としてのNetSuite
よくある疑問
Q. 黒字なのに資金が足りないのは、経営が下手だからですか?
いいえ。多くは利益と現金のタイミングのズレが原因です。売上が伸びている会社ほど、先に出ていく支払いが膨らみ、入金が後追いになります。構造の問題なので、測って手を打てば改善します。
Q. CCCの「ちょうどいい数値」はいくつですか?
業種によって大きく異なるため、ひとつの正解はありません。在庫を多く持つ業種は長く、持たない業種は短くなります。他社比較より、自社のCCCが前の期間より縮んでいるかを見るのが実用的です。
Q. 仕入先への支払いを遅らせれば、資金繰りは楽になりますか?
計算上はCCCが縮みます。ただし、支払いの先延ばしは仕入先の資金繰りを圧迫し、信頼や取引条件の悪化につながります。関係を壊さない範囲にとどめるのが前提です。
Q. まず何から始めればいいですか?
直近の決算書から、売上債権・棚卸資産・仕入債務の3つの回転日数を出し、自社のCCCを一度計算してみることです。現金がどこで何日寝ているかが見えれば、打ち手の優先順位がつきます。
利益は通信簿、現金は血液
利益は「儲かったか」を映す通信簿。現金は、会社を止めずに巡らせる血液です。どちらも欠かせませんが、性質が違う。だから両方を、できれば同じデータの上で見続ける必要があります。
「見える化(数字が見える)」から「わかる化(構造が分かる)」へ、そして「儲かる化(手を打って利益を残す)」へ。資金繰りは、その儲かる化を仕上げる最後の関門です。利益を出すだけでなく、現金として残す。ここまでできて、はじめて経営は安定します。
とはいえ、毎月の数字を一人で追い続けるのは、想像以上に骨が折れます。ベンチャーネットは、散らばったデータを1か所にまとめ、現金の流れを見える状態にするところから経営を支えています。自社の現金がどこで寝ているのか、一度いっしょに測ってみませんか。
現金に余力が生まれれば、守りだけでなく攻めの一手も打てるようになります。次は、儲かる会社が業界の中でどう違うのかを見ていきます。
→ 儲かる会社は、業種の「異常値」である——上位5%を目指すのが経営戦略
→ 単一DBが、見える化・わかる化・儲かる化を貫く【集大成】

