価格競争はなぜ終わらないのか——中小企業のためのゲーム理論

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また値下げ。この消耗はいつまで続くのか

競合がまた価格を下げた。だから、うちも下げざるを得ない。

その繰り返しで、利益だけが少しずつ削られていく。とくにネット販売では、同じような商品の値段がひと目で並びます。気づけば、原価ぎりぎりまで下げている。そんな経験はないでしょうか。

多くの経営者が、これを「自分の努力が足りないからだ」と受け止めます。営業力が弱い、商品力が足りない、と自分を責めてしまう。

けれども、値下げが止まらない本当の理由は、努力や根性の問題ではありません。そこには、抜け出しにくい「構造」があります。この記事では、その構造をゲーム理論というレンズで見える化し、抜け出すための考え方を整理します。

値下げが止まらないのは「性格」ではなく「構造」のせい

値下げ合戦の正体を説明するのにちょうどよい道具が、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」です。

囚人のジレンマとは、数学者タッカーが1950年代に定式化した、ゲーム理論を代表するモデルです。ひとことで言えば、それぞれが自分にとって最善を選んだのに、全員が損をしてしまう状況を指します。

これを値下げに当てはめてみます。

ここで効いてくるのが「価格弾力性」という考え方です。価格弾力性が高い商品とは、少し値引きしただけで一気に売れる商品のことです。家電や日用品など、消費者が値段を見比べて買うものが当てはまります。

こうした商品では、次のことが起きます。

  • 相手が値下げしてくるなら、こちらも下げないと客を取られる
  • 相手が値下げしてこなくても、こちらが下げれば客を取れる

つまり、相手がどう動こうと、自社は「値下げした方が得」になってしまう。このように、相手の出方に関係なく選ばれてしまう一手を、ゲーム理論では「支配戦略」と呼びます。

両社にとって値下げが支配戦略になると、どうなるか。お互いが合理的に値下げを選び、二社とも利益を削り合う状態に落ち着きます。お互いが最善を尽くした結果、全員が損をする。この行き着く先を「ナッシュ均衡」と言います(数学者ジョン・ナッシュにちなむ呼び名です)。

図1 値下げが「支配戦略」になる構造 競合の動き 競合が値下げ 競合は据え置き 自社の動き 自社が 値下げ 自社は 据え置き 両社とも利益を削る (消耗が続く) ナッシュ均衡 自社が客を取る (短期は得をする) 自社が客を奪われる 本来いちばん良い (でも、保てない) 相手がどう動いても「下げた方が得」に見える。だから、両社とも値下げに追い込まれる。

図1 値下げが「支配戦略」になる構造。相手がどう動こうと「下げた方が得」に見えるため、両社とも値下げを選び、利益を削り合う状態(ナッシュ均衡)に落ち着く。

ここが大事なところです。値下げ合戦は、誰かの性格が弱いから起きるのではありません。価格弾力性の高い商品をふつうに売っていれば、構造として、ほぼ必ずこの消耗戦に入っていきます。

「ネットで売り始めたら原価割れして困った」という声をよく聞きますが、これは例外的な不運ではなく、構造から見れば起こるべくして起きていることなのです。

抜け出す道は「上手に戦う」ではなく「ゲームを変える」

では、どうすれば抜け出せるのか。

ここで多くの人がやってしまうのが、「同じ値下げ合戦の中で、もっと上手に戦おう」とすることです。もっと安く仕入れる、もっと薄利で回す——。けれども、同じ土俵で勝とうとする限り、ジレンマからは出られません。土俵そのものが、全員を消耗させる仕組みだからです。

ベンチャーネットがこの考え方から受け取った答えは、「ゲームの中で勝とうとするのではなく、ゲームそのものを変える」ことです。

具体的には、こう考えます。

  • 価格弾力性の高い商品(値引きで一気に動く商品)は、中小企業はそもそも主戦場にしない
  • いったん消耗戦に入ると抜け出すのは本当に大変なので、「入る土俵」を最初に選ぶ
  • 戦う場所——市場・客層・提供する価値——をずらし、価格で比べられない領域に立つ

これが「戦わない戦略」です。戦って勝つのではなく、消耗するゲームから降り、自社が相対的に強くなれる場所を選ぶ。値下げの土俵で消耗するより、よほど経営は健全になります。

図2 ふたつの道の違い 観点 同じゲームで戦う (値下げ合戦) ゲームを変える (戦わない戦略) 戦い方 相手の値下げに合わせて下げる 戦う市場・客層・価値をずらす 行き着く先 両社が消耗するナッシュ均衡 価格で比べられない場所に立つ 利益 削り合いで先細りになる 価値で選ばれ、確保しやすい 中小企業 との相性 体力勝負になり不利 限られた資源を活かせる

図2 ふたつの道の違い。同じ土俵で戦うほど消耗し、土俵を変えるほど価値で選ばれる。

戦う場所のずらし方は、ニッチ市場の見つけ方や、勝てる市場の選び方として、別の記事で具体的に掘り下げます(記事末尾の関連リンクを参照してください)。

価格ではなく価値で選ばれる経営とは

ゲームを変えた経営は、どう見えるでしょうか。

ひとことで言えば、価格ではなく価値で選ばれる状態です。相手の値下げに反射的についていく必要がなくなり、自社の都合で値づけができるようになります。

ここで、いくつか補助線を引いておきます。

まず、値引きそのものを否定しているわけではありません。たとえばクーポンは、ただの安売りに見えて、実は「少しでも安く買いたい客」と「価格を気にしない客」を分ける道具(スクリーニング)として設計できます。意図して使う値引きと、相手に合わせて反射的に下げる値引きは、まったく別物です。

次に、取引が続く関係なら、別の戦い方もあります。平時はこちらから崩さず、相手が崩してきたときだけ応じる。これは、ゲーム理論で「繰り返しゲーム」と呼ばれる構えです。長く付き合える相手を選ぶこと自体が、戦略になります。

そして根っこにあるのは、自社の構造を理解することです。自社のコスト・客層・本当の強みを「見える化」し、その裏にある構造を「わかる化」する。そこではじめて、「どこで戦い、どこで戦わないか」を冷静に決められます。

ありがちな三つの負けパターン

値下げの消耗戦は、よく似た入り方で始まります。代表的な三つを挙げておきます。

  1. 反射的に追随する——競合が下げたから、考える前に下げる。これが「値下げが得」という構造をさらに強め、ジレンマを深めます。→ 下げる前に、「この値下げは、誰と・どの土俵で戦っているのか」を一度問う。
  2. 価格弾力性の高い商品で正面勝負する——少しの値引きで客が一気に動く商品は、構造として価格競争に入りやすい。→ そうした商品を主戦場にせず、価値で選ばれる領域に軸足を移す。
  3. 入ったゲームから抜けない——一度消耗戦に入ると、抜け出すのは本当に大変です。気づけば原価割れ寸前まで来てしまう。→ 「勝ち方」より先に、「どの土俵に入るか」を選ぶ。

どれも根っこは同じです。戦術(どう戦うか)の前に、戦場(どこで戦うか)を選べているか。ここが分かれ目になります。

よくある疑問(FAQ)

Q. 値引きは一切するな、ということですか?
いいえ、値引きそのものが悪いわけではありません。問題は、相手に合わせて反射的に下げてしまうことです。意図を持って客層を分けるための値引き(スクリーニング)は、むしろ戦略になります。狙いのある値引きと、追い込まれての値引きを、分けて考えてください。

Q. ゲーム理論って、難しい数学の話では?
数式で深く突き詰める世界もありますが、経営に効くのはもっとシンプルな視点です。「自分の一手だけでなく、相手の出方まで含めて全体の構造を見る」。この見方さえ身につけば、計算は使わなくても十分に役立ちます。大事なのは、目の前の値下げを「個人の判断」ではなく「構造」として眺め直すことです。

Q. うちには差別化できる強みがありません。どうすれば?
強みは「すでにあるものを探す」より、「戦う場所をずらして、自社が相対的に強くなれる場所を選ぶ」と考えるほうが現実的です。同じ商品・同じ人でも、戦う市場や客層が変われば、価値の見え方は変わります。まずは自社の構造(コスト・客層・得意な場面)を書き出すところから始めてください。

Q. 競合がずっと値下げを仕掛けてきます。追わないと客を取られませんか?
価格弾力性の高い商品で正面から張り合えば、取られます。だからこそ、その土俵で勝とうとせず、価格以外で選ばれる理由をつくる方向へ切り替えます。すべての客を追うのではなく、「価格だけでは動かない客」に向き合う、と考えると整理しやすくなります。

まとめ:値下げは根性ではなく、戦う場所の問題

値下げが止まらないのは、あなたの努力不足のせいではありません。価格弾力性の高い商品で正面から戦えば、構造として消耗戦に入っていく。それがゲーム理論の教えるところでした。

裏を返せば、構造が見えれば、戦う場所を選べるということです。消耗するゲームから降り、価格で比べられない場所に立つ。これが、中小企業が利益を守るための現実的な一手です。

そして、その判断の土台になるのが、自社の構造を理解し続けることです。数字を見える化し、その裏にある構造をわかる化する。今回のゲーム理論も、そのための一つのレンズでした。

戦う場所のずらし方は、次の2本でさらに具体的に見ていきます。

  • 中小企業が生き残るニッチ戦略——どの市場で「戦わない」かを決める考え方
  • 勝てる市場を見つける——自社が相対的に強くなれる市場の選び方

厄介なのは、自社の事業の構造ほど、自分からはいちばん見えにくいことです。値下げの渦中にいると、「どこで戦わないか」を冷静に選ぶ視点そのものを持ちにくい。外からもう一人が一緒に構造を見ると、止まっていた判断が動き出します。

自社の構造を一緒に見える化し、「どこで戦わないか」を整理したいときは、ベンチャーネットにご相談ください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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