その「消えていく感覚」に、心当たりはありませんか
ベテランの社員が辞めるとき、引き継ぎ書には載らないものが、一緒に消えていきます。
あの取引先への話の運び方。原価を見るときの、さじ加減。現場が回るための、ちょっとした段取り。どれも、その人の頭の中にしかありませんでした。
こうした「自社だけが持つ知」を、ここでは経験情報と呼びます。商談の進め方、原価のつかみ方、現場の工程、言葉にならないベテランの勘。データの形になっていない、自社固有の知識のことです。
なぜ今、これが大事なのか。AIが急速に広がるなかで、最新のAIの性能は、いずれ各社で横並びになっていきます。誰もが同じ道具を使えるようになるからです。
だからこそ、他社がまねできない「自社だけのデータ」が、これからの経営の地力になります。その正体が、経験情報です。
経験情報がなぜ自社の強みになるのか——その考え方は、なぜ経験情報がAI時代の強みになるのかで詳しくお話ししています。この記事は、それを読んで「で、何から始めればいい?」と思った方への、最初の一歩です。
なぜ経験情報は、消えてしまうのか
経験情報は、放っておくと3つの形で消えていきます。
1. 退職と一緒に消える
頭の中にしかない段取りは、その人が辞めれば終わりです。特定の人に仕事が偏る「属人化(ぞくじんか)」が進むほど、その人が抜けたときの穴は大きくなります。
2. 残っていても、探せない
個人のメモ、メールの履歴、チャットのやりとり、口頭の指示。あちこちに散らばっていて、必要なときに出てきません。「あるはずなのに見つからない」状態です。
3. AIに渡せない
紙のまま、バラバラのファイルのままでは、自社のAIに学ばせる素材になりません。AIに手伝ってもらおうにも、渡せる形になっていないのです。
図:経験情報は、放っておくと3つの形で失われていきます。
つまり経験情報は、「ある・ない」よりも「貯まる形になっているか」で決まります。まずは現実をそのまま見てみると、多くの会社で、経験情報は“消える前提”のまま放置されています。
第一歩は「貯まる仕組み」——なぜNotionから始めるのか
ここで多くの方が、いきなり高価なシステムを入れようとします。でも、最初の一歩はそこではありません。
第一歩は、経験情報が貯まる器を、まず1つ持つことです。
その器として、ベンチャーネットがおすすめしやすいのがNotion(ノーション)です。Notionは、メモやデータベースを1か所にまとめられるツールです。選びやすい理由は、次の4つです。
- 安い:小さく、低コストで始められる
- 速い:その日から使える。準備に何か月もかかりません
- 全員が使える:ITに詳しくない人でも、書き込めます
- 後から繋がる器:貯めた情報を、いずれAIや基幹システムへ渡せます
ただし、大事なのはNotionそのものではありません。ツールは、あくまで手段です。要件(安い・速い・全員使える・後から繋がる)を満たすなら、別のツールでもかまいません。目的は、経験情報が貯まる流れを作ることです。
貯まる流れは、3つの段でとらえると進めやすくなります。
- 貯める:捨てずに置いておく場所を、まず決める
- 整える:タグや分類をつけ、頭の中の勘(暗黙知)を、誰でも探せる形(形式知)に変える
- 活かす:人がすぐ引き出せる。そして、いずれAIが答えられる
図:本記事が扱うのは「貯める→整える→活かす」まで。貯めた知識をAIに答えさせる段階(RAG)は、別記事で解説します。
このうち「活かす」の後半——貯めた知識をAIに“答えさせる”仕組みは、別の段階の話になります。社内の文書をAIに探させて答えてもらう仕組み(RAG)は、貯めた知識をAIに答えてもらう仕組みで扱います。この記事は、その手前の“貯める入口”までを、しっかり踏み固めることに絞ります。
貯まった経験情報は、こう効いてくる
経験情報が貯まる器を持つと、それは後から大きな意味を持ちます。
貯まった情報は、いずれ基幹システムやAIに繋がります。たとえばNetSuite(クラウド型の基幹システム)に経験情報が流れ込めば、これまで勘で回していた判断を、数字で支えられるようになります。器に貯めておくほど、後の選択肢が広がります。
ベンチャーネット自身も、社内に積み上げてきた知を資産に変える取り組みを進めています。約800冊分の読書、13年分の音声、すべての議事録を、AIが扱える形に整え直している最中です。最初から完成形だったわけではなく、貯める器を持つところから始めました。
高価な仕組みから始める必要はありません。まず、貯まる器を1つ持つ。それが、AI時代の経営基盤づくりの、確かな最初の一歩です。
よくあるつまずき(Q&A)
Q. Notionでなければダメですか?
いいえ。Notionは手段の一例です。安い・速い・全員使える・後から繋がる、という要件を満たすなら、使い慣れたツールでかまいません。大事なのは“貯まる流れ”です。
Q. 全部を入力する時間がありません。
最初から完璧を目指さないことです。まずは1つの業務、1つのテンプレートから始めます。流れが回り始めれば、少しずつ広げていけば十分です。
Q. 機密や顧客情報は、どう扱えばいいですか?
貯め始める前に、「誰が見られるか」の権限を決めておきます。見える範囲を先に決めることが、安心して貯めるための第一歩です。
まとめ:まず、貯まる器を1つ持つ
経験情報は、AI時代に他社がまねできない、自社の地力です。なぜそれが強みになるのかは、なぜ経験情報がAI時代の強みになるのかでお話ししています。
貯める入口を踏み出したら、次は“答えさせる”段階です。貯めた知識をAIに探させて答えてもらう仕組みは、貯めた知識をAIに答えてもらう仕組みへ続きます。AIと経営をどう繋いでいくかの全体像は、AIと経営をどうつないでいくかでご覧いただけます。
「自社の場合、何から貯め始めればいいか」を一緒に整理したいときは、ベンチャーネットにご相談ください。最初の一歩を、具体的な業務に合わせて設計するお手伝いをします。

