現状は描けた。でも「で、何を変えるのか」で手が止まる
現状業務の棚卸しはできた。業務フロー図も描いた。機能の一覧も並べた。ところが、そこから先が進まない——。中小企業の経営の現場で、よく起きることです。
「現状(As-Is)」とは、今の業務がどう流れているかを、ありのままに書き出したものです。「あるべき姿(To-Be)」とは、これからの業務がどう流れるべきかを描いたものです。現状は手元にあるのに、「では何を、どう変えればいいのか」が言葉にならない。
改善提案を作ろうとして、白紙の前で止まる。あるいは現場やベンダーから「あれもこれも」と要望が出て、どれから手をつけるか決められない。
本記事では、現状(As-Is)から、あるべき姿(To-Be)へ。その差分を、そのまま改善提案に変える進め方を紹介します。ベンチャーネットが現場で使っている考え方です。
なぜ、改善提案が出てこないのか
理由は大きく2つあります。
1つ目は、To-Beを「現状とは別物」として、一から考えようとすることです。白紙にあるべき姿を描こうとすると、理想ばかりが膨らみ、現実から離れていきます。手が止まるのは当然です。
2つ目は、優先順位の基準を持っていないことです。基準がないと、議論は「全部やる」か「何もしない」の両極端に振れます。要望は足し算で増えていくのに、引き算の物差しがない。だから決まらないのです。
裏を返せば、この2つを解けば、改善提案は自然と立ち上がります。鍵は、「To-Beを別物にしない」ことと、「差分に優先度をつける物差しを持つ」ことです。
ここから先の流れは、1枚にすると次のとおりです。
図1:差分を「改善提案」に変える4ステップ
解決①:As-IsとTo-Beを「同じ様式」で対にして描く
最初のコツは、As-IsとTo-Beを別々の資料にしないことです。同じ様式(フォーマット)で、左右に対にして描きます。
- 現状フロー ↔ 新フロー
- 現状機能一覧 ↔ 新機能一覧
同じ枠で並べると、変わる部分だけが浮かび上がります。たとえば、次のようになります。
| 観点 | As-Is(現状) | To-Be(あるべき姿) |
|---|---|---|
| 在庫補充 | 週1回、エクセルで集計してから補充 | 発注点を下回ったら、日々自動で補充 |
| 部門間の連携 | メールとエクセルでやりとり | システム同士で自動連携 |
| 入力作業 | 3つのシステムに同じ内容を入力 | 1回の入力で完了(担当を1人減らせる) |
| 帳票 | 紙の帳票を手作業で作成 | 画面で自動作成 |
部門間の連携は、EDI(企業間で受発注データをやりとりする電子的な仕組み)のような自動連携に置き換わります。
このとき変わるのは、たいてい「手作業・エクセル・紙の帳票」の部分です。それが「画面・自動」に置き換わる。その差分が、そのまま改善提案になります。
差分は、要求事項の一覧に落とします。一覧には、次の4つを並べます。
- 要求事項(何をしたいか)
- 現状の問題点(今、何が困っているか)
- 対策と効果(どう変えると、どれだけ良くなるか。数字と、数字にしにくい効果の両方)
- 業務側の話か、システム側の話か
ここで大事なのは、効果をできるだけ数字で書くことです。たとえば「1件5分かかる作業が日に60件、これを1件1分にする」「3つのシステムに入力していたものを、1回の入力にして担当を1人減らせる」。数字で書くと、提案は「やりたいこと」から「経営判断できる材料」に変わります。
ベンチャーネット代表の持田は、この型をこう言い表します。「As-IsとTo-Beを、同じ様式で描く。差分が、そのまま提案書になる」。ゼロから理想を描くのではなく、現状の隣に並べて差を見る。それが、止まらないコツです。
解決②:差分を「経営判断」に乗せる——金・銀・銅で優先度をつける
差分の一覧ができた時点で、改善提案の中身はもう揃っています。残るのは、それを経営が判断できる形に並べ替えることです。ここで使うのが「金・銀・銅」の物差しです。
まず、要求事項を3つに仕分けます。
- 今すぐ使える(既存のやり方・標準の機能ですぐ対応できる)
- 設定で対応できる(少し手を加えれば対応できる)
- 対応方法を確認中(検討が要る)
そのうえで、重要度を「金・銀・銅」でランクづけします。判断する軸は3つです。
- 経営へのインパクトは大きいか
- それがないと業務が止まるか(不可欠か)
- 業務の効率に、どれだけ効くか
最後に、件数 × 工数 × 費用の表にまとめます。「金ランクが何件あり、それに必要な工数と費用はどれくらいか」を一覧にすると、改善提案が経営会議の議題に乗ります。印象ではなく、数字とランクで「何から着手するか」を決められるようになります。
解決後の姿——投資判断が「印象」から「表」に変わる
ここまでを揃えると、現場はこう変わります。
- 「あれもこれも」という要望が、金・銀・銅で整理された一覧になる
- 「いくらかかって、何が良くなるのか」が、件数・工数・費用の表で見える
- だから経営会議で、着手の順番を合意できる
この段階まで来て、はじめてシステム選びの話に進めます。クラウド型のERP(販売・在庫・会計などを1つにまとめて管理する基幹システム)を検討するにしても、「どの業務を、どの順で変えるか」が決まっているほど、検討は速く、ぶれません。ベンチャーネットがクラウドERPの導入を支援するときも、出発点はいつもこの差分の整理です。製品ありきではありません。
よくある疑問と、実践のコツ
Q. To-Beは、理想の姿を描くべきですか?
いいえ。理想を追いすぎると、手が止まります。To-Beは「現状のどの手作業を、画面・自動に置き換えるか」という、具体的な差分で描くのがコツです。
Q. すべての業務でやる必要がありますか?
いりません。金・銀・銅で優先度をつけ、まず効果の大きいものから着手します。全部を一度に変えようとしないことが、続けるコツです。
Q. 関係者の意見が割れたら?
描いた差分を、関係者の共通認識にしておくと、判断がぶれません。この「合意づくり」については、別記事〔2-8 見える化は「合意づくり」である〕で詳しく扱います。
AIでやるなら
差分の洗い出しや、要求事項一覧のたたき台づくりは、AIに任せられる部分が増えています。ヒアリングの記録を渡して、現状フローと新フローの差分案を下書きさせる。要求事項の一覧を、仮に整理させる。
ただし、その案が現場の実態に合っているかを確かめるのは人です。AIに下書きさせ、現場を歩いて確かめるのは人。この順番は変わりません。(このAI手順は、技術の進歩に合わせて見直していきます。)
まとめ——差分は、いちばん正直な改善提案
改善提案は、白紙から生み出すものではありません。現状(As-Is)の隣に、あるべき姿(To-Be)を同じ様式で並べる。すると、変わる部分=差分が浮かび上がり、それがそのまま提案になります。あとは金・銀・銅と、件数・工数・費用で優先度をつける。これで、経営判断に乗ります。
- 現状業務の描き方(5点セット)は〔2-4 現状業務分析のつくり方〕
- 業務フロー図そのものの描き方は〔2-5 業務フローの書き方〕
- 関係者の合意づくりは〔2-8 見える化は「合意づくり」である〕
そして、優先度の決まった改善提案は、次の一歩であるシステム選定(RFI・RFP・稟議)へとつながります〔2-10 見える化の成果物を、システム選定につなぐ〕。ここまでが「見える化」。この先は、見えたものを「わかる化」していく段階です〔3-1〕。
差分の整理は、自社だけでも進められます。ただ、毎日見ている業務ほど、当たり前が差分として見えにくいものです。外の視点が一つ入るだけで、差分の地図はぐっと正確になります。現状は描けたのに、次の一手で止まっている——そんなときは、ベンチャーネットにご相談ください。

