「正しいけど、重い」現状分析が後回しになる理由
新しい仕組みを入れる前に、まず今の業務を書き出して整理する。いわゆる現状業務分析です。
これが大事なことは、多くの経営者が頭では分かっています。それでも、つい後回しになりがちです。
理由はシンプルで、手間がかかるからです。
- 現場にヒアリングして、話を聞き取る
- 聞いたメモを清書する
- 業務の流れを図にする
- 使っている機能や帳票を一覧にする
どれも地道な作業です。担当者の頭の中にしか残っていない仕事も多く、整理に時間がかかります。
しかも、書き方は人によってバラつきがちです。粒度がそろわず、あとで見返しても使いにくい。こうして「いつかやろう」のまま、現状分析は棚上げされていきます。
ただ、ここに生成AIを「下書き役」として加えると、この重さはずいぶん軽くなります。AIがたたき台をつくり、人がそれを確かめて整える。その進め方を、この記事で具体的に見ていきます。
この記事で分かること
- AIを「下書き役」にした現状分析の進め方
- AIに任せてよい所と、人が確かめる所の線引き
- つまずきやすい点(機密・精度・属人化)への対処
なぜ、手作業だと重くなるのか
現状業務分析がなぜ重いのか。分解すると、3つに整理できます。
① 作る成果物が、ひとつではない
現状分析でそろえる中身は、1枚では足りません。ベンチャーネットでは、次の5つを「現状業務分析の型」として整理しています。
- 業務概要(その業務が何をしているか)
- 業務フロー(モノと情報の流れ)
- 機能一覧(使っている機能・帳票)
- 要求事項(現場の困りごと・要望)
- システム関連図(システム同士のつながり)
この5点がそろうと、業務の全体像が見えます。裏を返せば、それだけ作るものが多いということです。(5点セットの詳しい作り方は別記事「現状業務分析のつくり方」で扱います)
② 「聞く・起こす・図にする」の手間が積み重なる
どの成果物も、まず現場の話を聞くところから始まります。聞いた内容をメモから起こし、流れを図にし、一覧に落とす。この地道な往復が、時間を食います。
③ 人によって、粒度がそろわない
同じ業務でも、書く人によって細かさが変わります。あとで見比べると粒度がバラバラで、整え直す手間がさらに乗ってきます。
整理すると、現状分析が重いのは「やる気がないから」ではありません。作業量の多さと、属人化という構造が原因です。だとすれば、その作業量を軽くする道具があれば、話は変わってきます。
AIと一緒に、下書きをつくる
ここからが本題です。先ほどの「重さ」を、生成AIに肩代わりしてもらいます。
大事な考え方は一つ。AIに完成品をつくらせるのではなく、たたき台(下書き)をつくらせることです。しかも一度に全部を頼まず、段階を分けて指示を重ねていきます。
具体的には、こんな流れです。
Step 1:ヒアリングを文字に起こす
現場へのヒアリングを録音し、AIの文字起こしでテキストにします。手で書き取る手間が、ここで一気に減ります。
Step 2:業務概要に整理させる
文字起こしをAIに渡し、「誰が・何を・どの順で」やっているかを要点に整理してもらいます。これが業務概要の下書きになります。
Step 3:業務フローのたたき台を出す
同じ内容から、業務の流れを文章で並べてもらいます。次に、判断(分岐)が入る場所を洗い出してもらう。最後に、その流れを図に変換できる形式(Mermaidなどの記法)でAIに出力してもらい、無料の作図ツールに貼ると、フロー図のたたき台ができます。
Step 4:機能一覧を抜き出す
業務で使っている機能・帳票・システムを、AIに箇条書きで拾わせます。これが機能一覧の下書きです。
図:AIと一緒に下書きする4ステップ(文字起こし→業務概要→業務フロー→機能一覧)
ポイントは、Step 1から4を一度の指示で済ませないことです。前の出力を見て、次の指示を重ねる。この「段階を分けて指示する」進め方が、下書きの精度を上げるコツです。
こうして、5点セットのうち「業務概要・業務フロー・機能一覧」の下書きまでが、短時間で形になります。残る「要求事項」「システム関連図」も、同じ要領で起こせます。
具体例:受注業務で試すと
たとえば、受注業務のヒアリングで、現場からこんな話が出たとします。
「注文はFAXかメールで来ます。内容を基幹システムに手入力して、在庫を確認して、足りなければ仕入れ担当に連絡して、出荷を指示します」
これをAIに渡すと、業務フローのたたき台はこう返ってきます。
- 注文を受け付ける(FAX/メール)
- 受注内容をシステムに入力する
- 在庫を確認する
- 在庫が足りなければ仕入れ担当に連絡する
- 出荷を指示する
ここで人の出番です。現場の責任者に見せると、こう言われました。「あ、入力の前に与信チェックが入ります。当たり前すぎて、言い忘れてました」。
図:AIの下書きに無かった「与信チェック」を、人が現場で気づいて足す
この「当たり前すぎて言い忘れる工程」こそ、AIには拾えず、人が確かめて初めて出てくる部分です。下書きがあるから、抜けに気づける。これが、AIと人の役割分担の実例です。
AIに任せる所、人が確かめる所
ここで一度、立ち止まります。AIが下書きを出せるようになっても、そのまま使ってよいわけではありません。
下書きは、あくまで出発点です。たとえば業務フローの分岐(「金額が一定以上なら上長承認」など)は、AIが一般論で埋めてしまうことがあります。自社の実態と違えば、そこは直す必要があります。
そこで、役割をはっきり分けます。
AIに任せてよいこと
- ヒアリングの文字起こし
- たたき台(業務概要・フロー・機能一覧)の生成
- 文章の整形、抜け漏れ洗い出しの補助
人が確かめること
- 分岐や例外が、自社の実態と合っているか
- 要求事項の「本当の意味」や優先順位
- 機密情報を、どこまでAIに入れてよいか
図:下書きはAIに、見極めは人に
この線引きの根っこにあるのは、シンプルな考え方です。作業の手は速くできても、業務を理解して判断する部分は、人に残ります。AIに下書きを任せて浮いた時間を、現場を歩いて確かめることに使う。この順番は崩しません。
自分の業務の「当たり前」ほど、自分では見えにくいものです。だからこそ、確かめる目は一つより二つ。社内のもう一人でも、外からの伴走でも、別の視点が入ると、分岐や例外の抜けに気づけます。
そして、この進め方には思わぬ効用があります。下書きを「一緒に直す」過程そのものが、現場との合意づくりになるのです。完成品をいきなり見せるより、「ここ、合っていますか?」と確かめながら進めるほうが、納得が積み上がります。
分析が速く回り、しかも現場と合意しやすくなる。これが、AIと一緒に現状分析をつくる本当の価値です。
つまずきやすい所と、よくある質問
最後に、やってみると引っかかりやすい点を、Q&Aで先回りします。
Q. 機密情報を、AIに入れても大丈夫?
A. 入れる情報は最小限にするのが基本です。社外秘や個人情報は、伏せる・置き換える(マスキング)か、会社として利用が認められた環境だけで使います。迷ったら、まず社内のルールを確認してください。
Q. AIが出した下書きは、そのまま使える?
A. 使えません。あくまでたたき台です。特に分岐や例外は、自社の実態と照らして人が直す前提で使います。
Q. AIはどこまで正確?
A. 話を整理して文章や図に整える作業は得意です。一方で、自社固有のルールや判断の根拠は外しがちです。得意な所は任せ、苦手な所は人が補う、と考えるとちょうどよく付き合えます。
Q. これで属人化は解消する?
A. 一歩進みます。頭の中にあった手順を、文書として共有できるからです。ただし作って終わりにすると古くなります。業務が変わったら下書きを作り直す。AIなら、その更新も軽くできます。
よくある失敗
- 検証せずに清書してしまう:実態とズレた分析が、正しいものとして独り歩きします。下書きは必ず人が確かめます。
- 一度の指示で全部やらせる:粒度がそろわず、抜けも出ます。段階を分けて指示を重ねるのが、結局は近道です。
まとめ:下書きはAIに、見極めは人に
現状業務分析は、正しいけれど重い作業でした。その重さを、生成AIに下書き役として肩代わりしてもらう。これが、この記事の提案です。
やることは、シンプルです。
- ヒアリングを文字に起こし、AIに整理させる
- 業務概要・業務フロー・機能一覧の「たたき台」を出す
- 段階を分けて指示を重ね、下書きの精度を上げる
- 出てきた下書きは、人が現場と照らして確かめる
AIに任せて浮いた時間を、現場を歩いて確かめることに使う。その確かめ合いが、そのまま現場との合意づくりになります。
次の一歩として、いくつか道をご用意しています。
- 現状分析の「型」そのもの(手作業での5点セットの作り方)を知りたい方は → 「現状業務分析のつくり方」へ
- 下書きを現場と確かめ、納得を積み上げる進め方は → 「見える化は合意づくり」へ
- 「今」が描けたら、次は「あるべき姿」との差を見つける番です。差分がそのまま改善提案になります → 「As-IsからTo-Beへ」へ
- AIにどこまで任せ、どこを人が持つか。その考え方は → 「AIに任せる考え方」へ
最後に、ひとつだけ。AIは、人を減らすための道具ではありません。人手の足りない現場で、人の手と時間を、本当に大事な判断に振り向けるための味方です。下書きはAIに、見極めは人に。その役割分担さえ守れば、現状分析はもう、後回しにする重荷ではなくなります。
自社だけで進めるのが不安なら、伴走しながら一緒に整える進め方もあります。気軽にご相談ください。

