「業務を見える化したい」
「そろそろ、新しいシステムも入れたい」
そう思っても、いざ動こうとすると手が止まる。中堅・中小企業の経営者から、ベンチャーネットはこんな声をよく聞きます。
「何から手をつければいいのか、分からない」
システム会社に相談しても話が噛み合わない。現場に聞けば、部署ごとにバラバラの要望が返ってくる。気づけば、最初の一歩が踏み出せないまま時間だけが過ぎていきます。
この記事では、その「何から」のつまずきがなぜ起きるのかを整理し、解決の地図として「現状業務分析の5点セット」をご紹介します。特別な準備は要りません。順番に揃えていけば、会社の全体像が自然と見えてきます。
なぜ「何から」でつまずくのか
理由はシンプルです。会社の全体像という「地図」がないまま、目の前の部分から触ろうとしているからです。
地図を持たずに、個々の要望や個々のシステムから手をつける。すると、ある部署では便利になっても、別の部署にしわ寄せが出る。全体としては、かえって複雑になってしまいます。
いきなり「理想の姿」から描くと、うまくいかない
「どうせなら、理想の業務を描こう」と考える方は少なくありません。気持ちは分かりますが、ここに落とし穴があります。
専門用語を2つだけ整理します。
- As-Is(アズイズ):いまの業務やシステムの「現状」
- To-Be(トゥービー):これから目指す「理想の姿」
いきなりTo-Be(理想)から描こうとすると、関係者の要望が言いたい放題になり、現実離れした絵になりがちです。だからこそ、先に手をつけるべきはAs-Is(現状)。現状を直視することが、最初の一歩になります。
健康診断にたとえると、分かりやすい
現状分析は、会社の「健康診断」のようなものです。
体のどこが悪いか分からないまま、いきなりメスを入れる医者はいません。まず健康診断で悪いところを洗い出し、それを治した結果が、健康な体です。
会社も同じです。現状をきちんと調べ、課題をあぶり出す。それを解決した先に、目指す理想の姿があります。
現状分析とは、突き詰めると次の2つを並べる作業です。
- 何をしているのか(現状の把握)
- なぜしているのか(目的の確認)
こんな「あるある」が眠っている
実際に現状を調べ始めると、ふだんは見えていない事実が次々と出てきます。
- 現場が知らないうちに、独自のシステムを導入していた
- 入れたはずのシステムが使われず、結局はExcelで運用していた
- 新しい事業が始まったのに、システムが追いついていない
- 担当者しか分からず、業務がブラックボックスになっている
どれも、全体像がないと見えてきません。だからこそ、最初に「地図」が必要なのです。
5点セットがあれば、全体が見える
では、その地図をどうつくるか。ベンチャーネットが実務で使っているのは、5つの成果物(5点セット)を揃えるという整理です。
この5つが揃うと、会社の業務とシステムの全体像が、一枚の地図のように見えてきます。
図:現状業務分析の5点セット=全体像の地図
| # | 成果物 | 何を書くか | 何のために |
|---|---|---|---|
| ① | 業務概要 | いまの業務を一覧にする | 全体像と、見直す範囲(スコープ)を決める |
| ② | 業務フロー | 業務の手順・流れを図にする | 部署をまたぐモノ・情報の流れを俯瞰し、改善点を見つける |
| ③ | 機能一覧表 | いま使う画面・帳票・Excel作業を並べる | 今の業務が新しいシステムに合うかを確認する |
| ④ | 要求事項一覧 | 現状の課題と、目指す対策・効果を並べる | 経営者・現場・システム会社が同じゴールを共有する |
| ⑤ | システム関連図 | 各システムのつながりを図にする | 会社全体の情報の流れを把握する |
少し補足します。②の業務フローは、「処理」「判断」「画面」「帳票」「Excel」「紙」といった記号を使って、誰が・何を使って・どう流しているかを表したものです。
難しく構える必要はありません。付箋やホワイトボードに、業務の流れを書き出すところから始められます。
5点が揃うと、同じような作業を複数の部署で重ねていたこと、手作業に頼っている箇所、システムが抜けている箇所が、一目で分かるようになります。
5点が揃うと、何が変わるか
5点セットができると、次の3つが手に入ります。
1. 「差」が改善点になる
現状(As-Is)と理想(To-Be)を並べると、その「差」が見えます。この差こそが、優先して直すべき改善点であり、新しいシステムへの要求事項になります。
2. 関係者が同じゴールを向く
バラバラだった現場の要望が、優先順位のついた1枚の要求事項一覧にまとまります。経営者・現場・システム会社が、同じゴールを共有できます。
3. 後工程の手戻りが減る
最初に全体を見たかどうかで、その後が決まります。地図を持たずに進めると、設計や開発の段階で「実はここが抜けていた」と総崩れになりがちです。
図:現状(As-Is)と理想(To-Be)の差が、改善点・要求事項になる
例:ある卸売業のケース
たとえば、ある卸売業では、現状業務分析を始めるまで、次の状態が「当たり前」になっていました。
- 各店舗や拠点の販売実績・粗利が、月初の第5営業日まで見えない
- 物流部門から購買部門への補充手配が、メールとExcelの手作業
- 各店舗の在庫が本社や他店とつながっておらず、欠品のたびに電話で確認
- 月次の締め処理が月末月初に集中し、経理担当が残業続き
5点セットで全体を書き出すと、これらが一枚の地図の上に並びました。すると「販売実績を早く見える化したい」「補充手配を自動でつなぎたい」「他店の在庫を参照したい」といった声が、優先順位のついた要求事項に変わっていきました。
バラバラだった不満が、改善の地図に変わる。これが、5点セットを揃える効果です。
なお、「どのシステムが自社に合うか」という製品選びは、この5点が揃ってから考える話です。道具を先に決めてしまうと、自社に合わない買い物になりかねません。まずは地図を完成させることが先決です。
つくるときの、つまずきと注意点
最後に、現状分析を進めるときのコツと、よくある疑問をまとめます。
現状分析でつまずきやすい点と、その対策を整理しました。
| よくあるつまずき | 対策 |
|---|---|
| いきなり細かく書こうとして、途中で力尽きる | まず全体を粗く描き、重要な業務だけ詳しくする |
| 「なぜその業務が必要か」を確認しない | 目的から問い直し、やめてよい業務を見つける |
| システムの中だけを見てしまう | 手作業・口頭・紙のやり取りも、業務として拾う |
| 現場の協力が得られず、業務が見えない | 関係者とよく話し、ヒアリングから気づきを得る |
5点が揃った後は、ECRS(やめる・まとめる・順番を変える・簡単にする)の視点で見直すと、ムダな業務を減らしていけます。
よくある質問
Q. どこから手をつければいい?
まず①業務概要で、全体を粗く一覧にしてみてください。細部はあとからで大丈夫です。
いきなり細かい業務フローから書こうとすると、途中で力尽きがちです。大きな業務のかたまりを書き出し、そこから少しずつ細かくしていくと続きます。
Q. どこまで細かく書けばいい?
細かすぎると、かえって全体が見えなくなります。まずは粗く描き、重要な業務だけ詳しく書き込むのがコツです。
目安は「部署をまたぐ流れ」と「問題が起きている業務」。そこだけ詳しくし、それ以外は粗いままで構いません。
Q. 自社だけでできる?
できます。ただ、客観的な第三者が入ると、社内では「当たり前」になっている業務のムダや問題に気づきやすくなります。
特に、長く同じやり方を続けてきた業務ほど、中の人には違和感がなくなっています。外からの問いかけが、その見落としを拾うきっかけになります。
まとめ:最初の一歩は、地図づくりから
現状業務分析の5点セットは、見える化の「最初の一歩の地図」です。
ここが見えると、会社は見える化から「わかる化」、そして「儲かる化」へと進んでいけます。
次の一歩として、こんな記事も用意しています。
- 各成果物の具体的な書き方を知りたい方は、「業務フローの書き方」へ
- 現状(As-Is)から理想(To-Be)へ描き直す進め方は、「As-IsからTo-Beへ」へ
- AIと一緒に進めたい方は、「AIと一緒に現状業務分析をつくる」へ。AIは人を置き換える道具ではなく、人手不足を補う味方として活用できます
5点セットは、自社だけでも作り始められます。ただ、長く続けてきた業務ほど、その「当たり前」は中にいる人には見えにくいものです。外からもう一つ視点が入ると、地図はぐっと正確になります。
「何から始めればいいか分からない」——その状態は、決して珍しいことではありません。最初の地図づくりから、ベンチャーネットが伴走します。

