落ち着かなさは、故障ではない——あがきであり、陣痛である

この記事でわかること

  • 不安を「故障」ではなく「陣痛」と見る、という見立て
  • 事業を伸ばそうとする力と落ち着かなさが、同じ源から出ている話
  • 我慢の勧めでも成長の証明でもない、という読み方の注意点

前回は、業績では埋まらない層がある、という話を書きました。最後に、達磨大師の公案を一つだけ置きました。

不安を持ってきなさい、と言われて、探したらどこにもなかったという話です。

紛らすのでも、埋めるのでもない、三つ目のやり方がそこにある。ただ、中身は書きませんでした。

その埋まらない層は、いったい何なのか。

『禅の正門』は少し先で、それに一行で答えています。

目次

本の答えは、「陣痛」でした

第一章の第二節に、こうあります。

「人間の一切の不安、苦悩は、完全、無限の本質が、現象界に現われている不完全、有限の自己を否定し、」
「本質を現象界に顕現せしめようとするあがきであり、陣痛である」

あがきであり、陣痛である。

読んだとき、言葉の選び方に立ち止まりました。陣痛は、壊れているから起きるのではありません。生まれようとしているから起きます。

痛みの種類が違う、という話です。

これは本の主張で、私が検証できるものではありません。ただ、見立てとして受け取ると、経営の現場にそのまま当たります。

同じ落ち着かなさを、どう見立てるか 故障として見る どこかが壊れている 早く直す・早く消す 紛らす対処へ向かう 陣痛として見る 何かが生まれようとしている 何が形になろうとしているか 見つめる対処へ向かう 痛み自体は同じ。見立てが変わると、次の手が変わる 出典:『新版 禅の正門』第一章第二節(本文27ページ)。左右の対比は本記事の解釈

図1 故障と見るか、陣痛と見るか——同じ痛みに、二つの見立て

なぜ、生まれながらには分からないのか

その前段で、本は、不安がどこから出るのかを説明しています。

「人間の一切の不安、苦悩は、人間が本質において完全円満、無限絶対の実在でありながら、」
「現象としては不完全きわまる、有限相対の、はかなき、いと罪深き存在として現われており、」
「しかも人間は、生まれながらにしては、自分の……本性を知ることができない、という事実から発生するのである」

長い一文ですが、構造は単純です。

本当はそうなのに、自分ではそれが分からない。そのズレから不安が出る、と言っています。

本の言葉では、前者を仏、後者を凡夫と呼びます。仏教の用語なので、そのまま受け取らなくても構わないと思います。

受け取れる形に言い直すなら——自分の中に、まだ形になっていないものがある。それが出てこようとしている。

伸ばそうとする力と、落ち着かなさは、同じ源から出ている

この節で、私がいちばん驚いたのは次の一文でした。

「人間のあらゆる精進、努力ないし闘争も、この本質の自己開現の活動であって、」
「われわれが人間の本能と呼ぶ一切の衝動の本源もここにある」

努力も、闘争も、不安も、同じ源から出ていると言っています。

経営に置き換えると、こうなります。

事業を伸ばそうとする力と、夜中に目が覚める落ち着かなさは、別のものではない。

片方だけ残して片方を消すことはできない。同じ蛇口から出ているからです。

だとすれば、落ち着かなさを全部消したときに何が起きるかも、だいたい想像がつきます。

同じ源から、二つに分かれる 本質が現れようとする力 一切の衝動の本源 精進・努力・闘争 伸ばそうとする側 不安・苦悩 落ち着かない側 片方だけを消すことは、できない 出典:『新版 禅の正門』第一章第二節(本文27ページ)。分岐の図示は本記事の表現

図2 努力と不安は、同じ源から分かれた二本だった

「だから苦しんでいい」という話ではありません

ここは、いちばん誤解されやすいところだと思います。

一つ目。本は、苦悩を勧めていません。

この節の続きで、本は不安も苦悩も消えるほうへ話を進めます。陣痛という言葉は、痛みを我慢しろという意味ではなく、痛みの出どころを説明するために使われています。

耐えることを美化する読み方を、私は取りません。

二つ目。落ち着かなさを、成長の証明として使わないこと。

「不安があるのは伸びている証拠だ」と読むと、しんどさを放置する理由になってしまいます。この見立ては診断の道具ではありません。

しんどさが長く続いているとき、それは見立ての問題ではなく、休みや、人に相談することの問題です。経営者は一人で抱えがちなので、ここだけは分けて考えたほうがよいと思っています。

この記事が言えるのは、一つだけです。落ち着かなさを「不具合」と決めつけなくてよい場合がある。それだけです。

本はこのあと、どう続くか

本は、自分の本質に目覚め、それを自ら納得したとき、一切の不安、苦悩はいっぺんに雲散霧消すると書きます。そのときの歓喜は筆舌に尽くしがたい、とも。

これは本の主張であり、この記事はそれを約束するものではありません。

ただ、一つだけ確かなことがあります。本は、思想的に理解するのではなく、体験として納得することをこの節の要としています。

読んで分かった、では届かない場所がある。それが本の立場です。その先は坐禅の話になるので、別の記事に譲ります。

まとめ——見立てを変えると、次の手が変わる

  1. 本は、不安を「あがきであり、陣痛である」と呼ぶ。壊れているから起きるのではなく、出てこようとしているから起きる、という見立てです
  2. 努力する力と、落ち着かなさは、同じ源から出ている。片方だけを消すことはできません
  3. これは我慢の勧めでも、成長の証明でもない。しんどさが続くときは、見立てではなく休みと相談の問題です

心を高める、経営を伸ばす。この二つが同じ源から出ているのなら、並んで置かれているのも当然だと、この節を読んで思いました。高めるほうを止めて伸ばすほうだけ取る、ということはできません。

次回は、同じ第一章の少し手前に戻ります。会社の中の「道徳」の話です。よりどころを示せない指針で、人は育つのか。

明日、一つだけやってみる

落ち着かなさを感じたら、「早く消す」前に、何が形になろうとしているのかを一行書き出してみてください。しんどさが長く続くときは、休みや人への相談を先にしてください。

よくある質問

Q. 落ち着かないとき、具体的にどうすればよいのですか。

この節は原理の説明に絞られていて、方法は書かれていません。

ただ、見立てが変われば最初の一手は変わります。故障だと思えば「早く消す」に向かいます。陣痛だと思えば「何が形になろうとしているのか」に向かいます。後者のほうが、少なくとも書き出すことはできます。

Q. 不安がなくなったら、成長も止まるということですか。

本はそこまでは言っていません。言っているのは、衝動の本源が同じだということまでです。

ただ、紛らして消した場合には、前回書いた構造(効き目が落ちるから量が増える)のほうに入っていきます。消え方によって結果が違う、とは言えそうです。

Q. 宗教的な話として受け取るべきですか。

私はそうは読んでいません。本は仏教の用語で書いていますが、この節が説明しているのは、不安がどこから出るのかという構造です。

用語を外しても、構造は残ります。まだ形になっていないものがあり、それが出てこようとしている。私はそこだけを借りました。

出典

  • 山田耕雲『新版 禅の正門』(春秋社)第一章第二節「禅(正しくは禅道仏法=仏道)による人間救済の原理」の「二 禅道仏法と他の宗教との比較」。本文27ページ
  • 「人間の一切の不安、苦悩は、人間が本質において完全円満……という事実から発生するのである」は本文27ページ。本記事では括弧内の仏教用語(仏/本来成仏/凡夫/衆生/仏性)を引用から省き、省いたことを本文で示している
  • 「人間の一切の不安、苦悩は、完全、無限の本質が……あがきであり、陣痛である」は本文27ページ
  • 「人間のあらゆる精進、努力ないし闘争も、この本質の自己開現の活動であって……」は本文27ページ
  • 「一切の不安、苦悩はいっぺんに雲散霧消する」「この時の歓喜は全く筆舌につくしがたい」の要旨、および「思想的に理解するのではなく、体験として見得し、納得することが禅のねらい」は本文27ページ
  • 引用はすべて、同書のスキャン原本の該当ページ画像(400dpi)で字句を確認した(本文27ページ)
  • 本文中に人名として記したのは達磨大師のみです。坐禅会の関係者のお名前は記載していません
  • 本記事は書籍のみを素材としており、坐禅会の録音は使用していません
  • 本記事は特定の宗教を評価・推奨するものではありません。同書の主張の紹介であり、その内容を保証するものではありません

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この記事を書いた人

Takuomi Mochidaのアバター Takuomi Mochida 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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