「最新のAIが日本に来てから考えよう」
NetSuite NextやAsk Oracleなど、自律的に動くAIの話題が増えました。
そう考えて、AIの検討を先に延ばす会社も少なくありません。
NetSuite Text Enhanceとは、NetSuiteに組み込まれた、文章の作成・手直し・翻訳を助ける生成AIの機能です。
Prompt Studioは、そのAIへの指示を自社向けに整える機能です。
この2つは、日本語でいま使えます。
しかもText Enhanceは初期設定で有効なので、多くの会社ではボタンがもう画面にあります。
それなのに、押されないまま眠っていることが多い。
では、使われるAIと眠るAIは、どこで分かれるのか。
この記事で分かること
- Text Enhance・Prompt Studioの仕組みと、日本での提供状況
- 用途ごとの向き・不向きと、使い始めるまでの設定
- ChatGPTなど外部のAIとの使い分け
- 「1業務で90日」の1周目の回し方と、その先の3段階
NetSuite Text Enhanceとは
生成AIは、指示に応じて文章などを作るAIのことです。
Text Enhanceは、営業メール・商品説明・発注書・求人情報・社内メモなどの下書きと手直しを助けます(出典:Oracle NetSuite公式)。
NetSuiteの中のデータを材料に書く
Oracleのヘルプでは、Text Enhanceは編集しているページの情報を使って文章を作ると説明されています。
在庫品目の販売用の説明文なら、品目名や仕入先の説明などを使います(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
ゼロから書くのではありません。
NetSuiteにある情報が、そのまま材料になります。
裏を返せば、品目の情報が空欄だらけなら、AIの下書きも薄くなります。
この点は、第6章でもう一度触れます。
入力したデータの扱い
Text Enhanceは、OCI(Oracle Cloud Infrastructure、Oracleのクラウド基盤)上の生成AIを使っています。
日本オラクルの発表では、顧客のデータがLLM(大規模言語モデル、文章を作るAIの本体)の提供元と共有されることはないとされています。
他の顧客に公開されることもありません。
NetSuiteの権限の設定が働き、利用者には閲覧できる内容だけが示されます(出典:日本オラクル発表、2024年7月17日)。
日本での提供状況
2024年7月の発表で、日本は英語圏以外でText Enhanceを導入する最初の市場とされました。
(出典:日本オラクル発表、2024年7月17日、2026年9月確認)
いまOracleのヘルプを見ると、Text Enhance・翻訳・Prompt Studioの提供地域は「全地域」です。
言語は「NetSuiteが対応するすべての言語」とされています(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
Text Enhanceは初期設定で有効になっていて、管理者が無効にできます。
Text Enhanceでできること
文章の作成・改善
- 営業メール・問い合わせへの返信の下書き
- 商品説明・発注書・求人情報・社内メモの作成
- 読みやすい言い回しへの言い換え、誤字の修正
- 文章を長くする・短くする調整
22言語への翻訳
テキストの項目を、22の言語に翻訳する機能(Text Enhance Translate)もあります(出典:日本オラクル発表、2025年7月23日)。
海外の拠点とのやり取りや、多言語での顧客対応がある会社に役立ちます。
用途ごとの向き・不向き
| 用途 | AIとの親和性 | 理由 | 人が見ること |
|---|---|---|---|
| 商品説明の下書き | 高 | 品目の情報が材料としてそろっている | 仕様・数値の正しさ |
| 問い合わせへの返信の下書き | 高 | 型が決まっていて、言い回しの調整が多い | 約束してよい内容か |
| 催促状・社内メモ | 中〜高 | 定型の文章が多い | 相手との関係に合う表現か |
| 仕訳の説明文 | 中 | 短い定型の文章は速くなる | 取引の事実と合っているか |
| 契約や価格の条件を含む文書 | 低 | 誤りの影響が大きい | すべての条件 |
親和性の高い用途には、共通点があります。
材料がNetSuiteの中にそろい、文章の型が決まっていることです。
向く用途の見分け方を図にすると、次のとおりです。
経理の場面でも、催促状や取引の説明文など、書く作業は意外と多くあります。
請求書の読み取りや異常の検知といった経理のAIは、NetSuiteの財務・経理をAIで自動化するで扱っています。
AIをどの業務から入れるかを比べたい方は、次にこちらを読むと判断の材料がそろいます。
日本語での活用例
日本の現場で書く量が多いのは、品目の説明や週報です。
次の2つのサンプルは架空です。
① 空欄の品目説明を埋める
- 元データ:品目名「ステンレスボルトM6」、材質SUS304、長さ20mm。説明欄は空欄
- 操作:品目画面の説明欄で「生成」を押す
- 下書きの例:「錆びにくいSUS304製のM6ボルト。長さ20mm。」
- 人が確認すること:仕様と違う内容がないかを見てから保存する
Text Enhanceは、販売用と購買用の説明文を別々に作ります(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
② 走り書きのメモを報告文にする
- 元データ:「サンプル商事 訪問。新製品の見積依頼あり。納期短縮の要望。来週再訪。」
- 頼み方:「上司向けの丁寧な報告文(3〜4文)にして」
- 下書きの例:「本日サンプル商事様を訪問し、新製品の見積依頼をいただきました。あわせて納期短縮のご要望がありました。」
- 人が確認すること:メモにない約束や数字が足されていないか
日本は、Text Enhanceが英語圏以外で最初に入った市場です(第1章)。
海外拠点から届く英語のメモも、項目の中で日本語に訳せます。
訳のあとは、日数や品名が正しいかを見直します。
言い回しが社内の書き方と合わないときは、Prompt Studioに「です・ます調、誇張表現なし」のようなルールを書きます。
どの下書きも、確定させるのは人です。
NetSuite Prompt Studioとは
プロンプトは、AIへの指示文のことです。
Prompt Studioは、AIが返す文章の形式・トーン・表現の幅を設定する機能です(出典:日本オラクル発表、2025年7月23日)。
Oracleのヘルプでは、次のことができると説明されています(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
- Text Enhanceのプロンプトとアクション(「作成」などの操作)を管理する
- 自社独自のアクションを作る
- 標準のアクションとプロンプトを上書きする
- SuiteScript(NetSuiteの開発言語)から使うプロンプトを管理する
使えるのは、管理者か、Setup Prompts の権限を持つロールです。
Text Enhanceが「文章を作る側」なら、Prompt Studioは「作り方のルールを決める側」にあたります。
使い始めるまでの設定
| 設定 | 場所 | 初期の状態 |
|---|---|---|
| Text Enhanceの有効・無効 | 設定 > 会社 > AI > AIプリファレンス(Text Enhanceのタブ) | 有効 |
| 顧客・仕入先などの外部ロールでの利用 | 同上 | 無効 |
| 自社のOCIの認証情報を使う | 同上 | OCIの設定がある会社のみ |
| プロンプトとアクション | Prompt Studio | 標準のアクション |
設定を変えられるのは管理者です(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。
画面の構成は更新されることがあります。
細かな操作は、公式ヘルプで見てください。
自社のOCIの認証情報を使わない場合は、毎月の無料で限られた利用枠から使います(出典:同上)。
まず試すだけなら、新たな契約は要りません。
組込型AIと外部AIの使い分け
| 観点 | 組込型(Text Enhance/Prompt Studio) | 外部AIを直接使う(ChatGPTなど) | 外部AIをつなぐ(AI Connector) |
|---|---|---|---|
| データの連携 | 編集中のページの情報を使う | 手でコピーして貼る | NetSuiteに接続して操作する |
| データの扱い | OCI上で動き、LLMの提供元と共有されない | 社外に送る内容に注意が要る | 権限の設定で制御する |
| 日本語 | 対応 | ツールによる | 提供の条件を確認 |
| 向く場面 | NetSuiteの中の文章の作成・手直し | NetSuiteの外の汎用的な作業 | ふだんの言葉でのデータの問い合わせ |
どれが優れているかではなく、目的で使い分けます。
詳しい比較はNetSuiteの「純正AI」と「外部AI連携」は何が違う?で扱っています。
外部AIからNetSuiteを操作する仕組みは、NetSuite AI Connector(MCP)解説をご覧ください。
したいことから逆に引くと、次のとおりです。
ベンチャーネットならこう見る|眠るAIを起こす2つの型
使われないAIには、たいてい同じ理由があります。
機能はあるのに、使う業務と、うまくいったかを測る物差しが決まっていない。
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、生成AIの相談を、機能の説明からは始めません。
次の2つの型で考えます。
型1:1業務・1KPIで回す「90日の1周目」
最初の1周は、業務を1つ、見る数字を1つに絞ります。
データを使った経営の支援で、ベンチャーネットが最短90日の1周目として組む型です。
Text Enhanceに当てはめると、次のようになります。
- 業務を1つ決める:問い合わせへの返信、商品説明など、書く量の多いもの
- 数字を1つ決める:1件を書き上げるまでの時間や、手直しの回数
- 人の下書きとAIの下書きを並べる:同じ案件で、同じ条件で比べる
- 手直しした点をPrompt Studioへ:自社の言い回しや定型を指示に反映する
3つ目が抜けると、「なんとなく便利」で終わります。
同じ条件で比べてこそ、広げるかどうかを数字で決められます。
型2:守り→攻め→次へ
Text Enhanceは、NetSuiteの中の情報を材料にします。
だから、品目や取引先の情報が整っているほど、下書きの質は上がります。
データの整理を最初に置くのは、そのためです。
ベンチャーネットは、NetSuiteが定着した先を3つの段階で見ています。
- 守り:在庫・販売・会計を1つにし、業務が回る。品目や取引先の情報がそろう
- 攻め:そろった情報を使って打つ。Text Enhanceの下書きは、ここに入る
- 次へ:KPIや管理会計で、経営の判断そのものが変わる
守りが固まっていれば、Text Enhanceはすぐに攻めの道具になります。
守りの途中なら、まず情報を整えることが、いちばんの近道です。
自律型のAIが日本に来たときも、この順番は変わりません。
最新のAIの日本での提供状況は、NetSuite Nextとはで扱っています。
判断の物差し|合う会社と、先に別のことをする会社
合いやすいのは、次のような会社です。
- NetSuiteをすでに使っていて、商品説明やメールなど、書く量が多い
- 海外の拠点や取引先とのやり取りがある
- 社外の生成AIにデータを貼ることを、社内の規程で制限している
一方で、別の手から始めたほうがよい場合もあります。
| 状況 | 合う選択肢 |
|---|---|
| NetSuiteを使っておらず、生成AIを試したいだけ | 社内の規程を決めたうえで、汎用の生成AIから試す |
| 文章より、データの集計や問い合わせをAIにさせたい | 外部AIとの連携や、AIスクラッチ開発 |
| 使う業務が決まっていない | いまは入れない。まず業務を1つ決める |
Text Enhanceのために、NetSuiteを新たに入れる理由にはなりません。
価値は、NetSuiteを使っている会社が追加の開発なしで試せることにあります。
これから検討する会社なら、デモに自社の商品説明や返信メールを1つ持ち込んでみてください。
販売・在庫・会計が業務に合うかを見るついでに、文章の作業がどれだけ減るかも比べられます。
よくある3つの失敗
失敗1:有効なのに、誰も使っていない
起きること:ボタンは見たことがあるが、押したことがない。管理者が有効にしたきり、現場に伝わっていない。
原因:用途ときっかけが現場に伝わっていない。機能があるだけでは、人は新しい操作を試さない。
避け方:使う業務を1〜2個に絞って始める。
たとえば「問い合わせへの返信の下書き」から始めます。
1つうまくいけば、現場は自然に他の用途へ広げていきます。
失敗2:標準のまま使い、「それっぽいが使えない」文章になる
起きること:自社のトーンや言い回しと合わず、毎回手直しが要る。「AIは使えない」と結論づける。
原因:標準のままでは、無難な文章になりやすい。自社の定型が反映されていない。
避け方:手直しした点をPrompt Studioの指示に反映する。
自社の言い回しや定型に合わせるほど、手直しの量は減ります。
失敗3:AIの出力を確かめずに使う
起きること:生成された文章を、見直さずに顧客へ送る。金額や在庫の数字を裏取りせずに使う。
原因:生成AIはもっともらしい文章を作るが、内容の正しさまでは保証しない。
避け方:「下書きはAI・確定は人」を最初に決める。
特に数字と約束ごとは、担当者が必ず見ます。
冒頭の問いに戻ると、使われるAIと眠るAIを分けるのは機能の差ではありません。
業務を1つに絞り、手直しを指示に返し、確定する人を決めたかどうかです。
今日できること|1時間で「最初の1項目」を決める
- 管理者に、AIプリファレンスでText Enhanceが有効かを見てもらう(10分)
- 先月、書くのに時間がかかった文章を3つ書き出す(15分)
- そのうち1つを、NetSuiteの該当の項目でText Enhanceに作らせる(20分)
- 手直しした点をメモし、Prompt Studioで直せそうかを管理者と話す(15分)
手直しのメモが、次の設定の材料になります。
そのメモを90日ためれば、1周目の答えが出ます。
よくある質問
Q1. 入力したデータが、外部のAIに学習されませんか
LLMの提供元と共有されない設計です。
Text EnhanceはOCI上の生成AIを使っています。
日本オラクルの発表では、顧客のデータがLLMの提供元と共有されたり、他の顧客に公開されたりすることはないとされています。
Q2. ChatGPTと何が違うのですか
NetSuiteの中の情報を材料にできる点とデータの扱いが違います。
Text Enhanceは、編集中のページの情報を使って文章を作ります。
NetSuiteの外の汎用的な作業には、外部のAIのほうが向く場面もあります。
Q3. 日本語で使えますか
使えます。
Oracleのヘルプでは、提供地域は全地域、言語はNetSuiteが対応するすべての言語とされています。
2024年7月の日本オラクルの発表では、日本は英語圏以外で最初の導入市場とされました。
Q4. 追加料金はかかりますか
毎月の無料の利用枠があります。
Oracleのヘルプでは、自社のOCIの認証情報を使わない場合、毎月の無料で限られた利用枠から使うと説明されています。
枠の量や、枠を超える場合の条件は、契約によって異なることがあります。
Oracleに問い合わせてください。
Q5. 顧客や仕入先のポータルでも使えますか
初期設定では使えません。
外部ロールでの利用は初期設定で無効になっていて、管理者が有効にできます。
社外の人が使う場面は、確認の手順を決めてから広げます。
Q6. Prompt Studioは誰が使えますか
管理者かSetup Promptsの権限を持つロールです。
現場の意見を集め、管理者が指示に反映する流れが現実的です。
Q7. 週報や報告文の下書きにも使えますか
使えます。
走り書きのメモを、丁寧な報告文の下書きにできます。
メモにない約束や数字が足されていないかは、人が見ます(第2章)。
まとめ|最新のAIを待つより、今ある生成AIから
- Text Enhanceは、NetSuiteの中の情報を材料に、文章の作成・手直し・翻訳を助ける生成AI
- Prompt Studioは、AIへの指示を自社向けに整える機能
- 提供地域は全地域、言語はNetSuiteが対応するすべての言語。初期設定で有効
- 自社のOCIの認証情報を使わない場合は、毎月の無料の利用枠から使う
- 1周目は、1業務・1KPIで90日。手直しを指示に返し、確定は人が行う
ボタンは、もう画面にあるかもしれません。
まず1つの項目で押してみて、手直しのメモを取るところから始めてください。
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