NetSuiteの固定資産管理(FAM)とは?資産台帳・償却・除却と「3つの実装パターン」の選び方

固定資産の管理は、地味でありながら経理にとって負担の大きい領域です。資産台帳の整備、月次の償却計算、年度末の償却資産申告。手作業やExcelで回している企業も少なくありません。

NetSuiteを導入すると、この固定資産管理も統合できます。ただし「NetSuiteで固定資産をどう運用するか」には、実は選択肢が複数あります。

正解は1つではありません。会社の会計基盤・資産規模・グローバル要件によって、最適な進め方は変わります。

本記事では、NetSuiteの固定資産管理(FAM)の基本を押さえたうえで、現実的な3つの実装パターンと、その選び方を解説します。

この記事で分かること

  • NetSuiteの固定資産管理(FAM)でできることの全体像
  • 固定資産を運用する「3つの実装パターン」とそれぞれの長所・短所
  • 自社に合う実装の選び方と、よくある失敗の回避策

読了目安:約10分

目次

NetSuiteの固定資産管理(FAM)とは

NetSuiteの固定資産管理(FAM)とは、資産の取得から償却、除却までのライフサイクルを一元管理する機能です。

ここで前提となる言葉を整理します。

  • ERP:会社全体の業務データを1つに統合して管理する基幹システム
  • SuiteApp:NetSuiteを拡張する追加モジュール(アドオン)
  • FAM(Fixed Assets Management):固定資産管理を担うNetSuiteのSuiteApp

つまりFAMは、NetSuite本体に追加してインストールするモジュールです。標準のNetSuiteだけでは固定資産管理の専用機能は持たないため、この点は最初に押さえておきましょう。

FAMでできること

FAMは、固定資産の主要な業務を自動化します。

  • 資産台帳の管理:取得した資産を登録し、台帳として一元管理する
  • 減価償却の自動計算:償却ルールに沿って償却費を計算し、仕訳をまとめて作成する
  • 除却・売却の処理:使わなくなった資産を帳簿から外す処理を行う
  • リース会計への対応:リース資産・負債の計上や利息の仕訳を扱う

補足として、用語を簡単に定義します。減価償却とは、資産の取得費用を耐用年数にわたって費用として配分する会計処理です。除却とは、使用をやめた資産を帳簿から取り除く処理を指します。減価償却の会計上の考え方は、別記事「減価償却とは?」で詳しく解説しています。

会計と税務を分けて管理できる

固定資産の管理では、会計上の償却と税務上の償却が一致しないことがあります。

FAMでは、この会計償却と税償却を別々の帳簿として管理できます。事業のニーズに応じて、資産ごとに償却方法を選べます。日本の税法に準拠した償却方法にも対応しています。

複数の会計基準を1つの取引から並行管理したい場合は、「NetSuiteマルチブック会計」も関連します。

日本の税務レポートへの対応と注意点

日本では、別途「Japan Fixed Assets Reports」というSuiteAppを追加することで、償却資産税のレポートに対応できます。これはFAMの資産データを基に、地方自治体向けの償却資産税レポートを生成する仕組みです。

ただし注意点があります。NetSuiteの固定資産管理には、現時点(2024年4月時点の公式情報)で日本では未対応の機能も含まれています。導入時には、自社が使いたい機能が日本で利用できるかを必ず確認してください。

なぜ「固定資産の運用方法」を先に決めるのか

固定資産管理は、機能の有無だけで決めるべきではありません。「どう運用するか」を先に決めることが、後の使いやすさを左右します。

ここからは、NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットの視点も交えて解説します。

「財務会計まで全部NetSuiteに寄せるか」は経営判断

経営者の方からは、「販売や在庫だけでなく、財務会計もすべてNetSuiteに一本化したい」というご相談をよくいただきます。

全体最適を目指すお気持ちはよく分かります。ただし、ここは一度立ち止まって考えるべき論点です。

  • 国内のクラウド会計ソフトは、「日々の経理工数を減らす」ことに特化しています
  • NetSuiteは、「経営全体を統合する」ことを重視しています

両者は得意分野が異なります。日々の会計処理だけを見れば、国内ツールのほうが操作の手数が少ない場面もあります。

固定資産管理も同じ構図です。「税務の細かな処理は専用ソフトに任せ、経営データの統合はNetSuiteで担う」という役割分担も、有力な選択肢になります。

顧問税理士の業務フローとの整合も確認する

見落とされがちなのが、顧問税理士との連携です。

NetSuiteから出力される帳票やデータ形式が、顧問税理士の業務フローに合うかどうか。ここを確認せずに進めると、あとで双方に負担がかかります。

固定資産の運用方法を決める前に、関係者でいちど話し合っておくとリスクを減らせます。

「なぜ今か」──2027年の制度変更が見直しの好機

固定資産・リース管理を見直す外部要因もあります。新リース会計基準が2027年4月から強制適用され、一定の早期適用も可能です。

この基準対応を機に、固定資産とリースの管理をどう構築するかを検討する企業が増えています。詳しくは「新リース会計基準にNetSuiteで対応する方法」をご覧ください。

NetSuiteで固定資産を運用する3つのパターン

NetSuiteで固定資産を運用する方法は、大きく3つに分かれます。ここがこの記事の核です。

比較軸①純正FAM(SuiteApp)②勘定奉行+CSV連携③マネーフォワード+自動連携
日本税務の厚さ日本税法準拠の償却に対応。別SuiteAppで償却資産税レポートも可。※一部機能は日本未対応最も厚い。別表十六・償却資産税申告書・eLTAX、減損・資産除去債務に対応厚い。償却資産申告書・別表16に対応し、税制改正に自動対応
運用負荷(自動化度)NetSuite内で完結=連携の手運用がゼロ。ただし設定の難度は高めCSVによるバッチ連携=手運用が残るリアルタイム自動計算・自動仕訳で手運用が最も少ない
既存会計基盤との整合会計もNetSuiteに寄せる前提すでに奉行を使う企業に最適すでにマネーフォワードを使う企業に最適
リース・新基準(2027/4)IFRS16/ASC842準拠で対応の土台になる標準対応対応(詳細は要確認)
データ統合度・AIとの親和性単一データベースで最も高い。分析や外部AI連携と直結別システムのため連携先で分断別システムのため連携が必要
向いている企業グローバル/IFRS対応・資産が多い・データ一元化を重視日本税務を厳密にしたい・奉行を既に利用運用負荷を最小にしたい・MFを既に利用・中堅成長企業

純正FAM:データを1つに統合したい企業へ

純正FAMは、NetSuiteの中だけで固定資産を完結させる方法です。

最大の強みは、データの統合度です。固定資産のデータがNetSuiteの単一データベースに乗るため、経営分析や外部AIとの連携と直結します。グローバル展開やIFRS対応、リース会計を一本化したい企業に向いています。

一方で、日本税務の細部はそのままでは作り込みが必要になる場合があり、設定の難度は高めです。

勘定奉行+CSV連携:日本税務を厳密にしたい企業へ

固定資産奉行は、日本の税務に最も厚く対応する選択肢です。別表十六や償却資産税申告書の出力、eLTAXによる電子申告、減損や資産除去債務といった複雑な処理にも対応します。

資産は奉行側で管理し、仕訳データをCSVでNetSuiteへ連携します。すでに奉行を使っている企業や、日本税務を厳密に回したい企業に向いています。

注意点は、CSV連携が手運用のバッチになることです。連携のタイミングにずれが生じたり、担当者に依存しやすくなったりするリスクがあります。

マネーフォワード+自動連携:運用負荷を最小にしたい企業へ

マネーフォワード クラウド固定資産は、自動化による運用負荷の低さが強みです。減価償却をリアルタイムに自動計算し、自動仕訳まで行います。償却資産申告書や別表16にも対応し、税制改正にも自動で追随します。

写真管理やコメント機能で属人化を防ぎやすく、現物管理の部門でも使えます。すでにマネーフォワードを使う企業や、手運用を減らしたい中堅・成長企業に向いています。

自社に合う実装はどれか

3つのうちどれが正解かは、自社の状況で決まります。次の3つの問いで方向性が見えてきます。

  1. 既存の会計ソフトは何か … 奉行を使っているなら②、マネーフォワードなら③が自然です
  2. グローバル・IFRS対応が必要か … 必要なら①の純正FAMが土台になります
  3. 運用負荷をどこまで下げたいか … 手運用を極力なくしたいなら③が有利です

決裁レイヤーで見え方が変わる

同じ「固定資産管理」でも、立場によって重視する点が違います。

  • CFO・経理部長:税務の正確性、決算の早期化、申告の確実性
  • 情シス・CIO:連携の保守性、属人化の回避、システムの拡張性
  • 経営者:財務をNetSuiteに一本化すべきか、という全体戦略

この3者の視点がそろわないまま進めると、後で手戻りが起きます。最初に論点を共有しておくことが大切です。

固定資産管理でよくある失敗パターンと回避策

NetSuiteで固定資産を運用するとき、つまずきの多くは「どの実装にするか」より前の進め方で起きます。

ここでは、ベンチャーネットが現場で見てきた失敗を、4つの根本原因に整理してお伝えします(出典:公式記事「ERP導入はなぜ失敗するのか」)。

売り込みのためではありません。「失敗してほしくない」という思いから、正直に共有します。

失敗①:実装方式を決めずに着手する(目的が曖昧)

よくある現象

  • 「とりあえず固定資産台帳をシステム化したい」から始める
  • 純正FAM・奉行連携・MF連携の3択を比較せず進める
  • ベンダーの提案をそのまま受け入れてしまう

なぜ失敗するか
目的に具体性がないと、本当に必要な機能を見極められません。結果、使わない機能に投資が膨らみます。

どう回避するか
「償却計算の手作業をゼロにする」「償却資産申告の工数を減らす」といった、測定できる目標を先に決めましょう。そのうえで、3つの実装のどれが自社の要件に合うかを検証します。

失敗②:既存台帳の運用をそのまま移植する(現行踏襲)

よくある現象

  • 今の例外処理や属人的なルールをそのまま新システムへ
  • 「なぜこの処理が必要か」を誰も説明できない
  • 「とにかく今と同じ動きを」とカスタマイズが増える

なぜ失敗するか
非効率なロジックを引き継ぐと、いわゆるブラックボックスの再生産になります。真の課題が残ったままになります。

どう回避するか
移行のタイミングで「本当に必要な業務」と「惰性で続けている業務」を仕分けます。実データと現場ヒアリングを突き合わせ、不要な処理は思い切って廃棄します。

失敗③:純正FAMに日本税務を作り込みすぎる(過剰な造りこみ)

よくある現象

  • 「うちの償却ルールは特殊だから」と標準を避ける
  • 日本税務の細部までアドオン開発で再現しようとする
  • 連携(奉行・MF)に任せる選択肢を検討しない

なぜ失敗するか
作り込むほど業務への適合度は上がりますが、拡張性と保守性が失われます。近年は、業務を標準機能に合わせる「Fit to Standard」や、本体の追加開発を最小限に抑える「クリーンコア」という考え方が重視されています。

どう回避するか
標準機能でカバーできる範囲を先に確定します。日本税務の細かな要件は、固定資産奉行やマネーフォワード固定資産に任せて連携するのも有力な選択肢です。ここで改めて「3パターンのどれが最適か」に立ち返ります。

失敗④:稼働後の「定着」と連携運用を軽視する(定着軽視)

よくある現象

  • 「本番稼働日」をゴールにしてしまう
  • CSV連携を手運用のまま放置し、属人化する
  • 償却資産申告のタイミングを取りこぼす

なぜ失敗するか
定着の工程がないと「前のやり方が早い」とExcelに逆戻りします。固定資産は申告期限がある領域なので、運用の取りこぼしは実害につながります。

どう回避するか
稼働後3〜6ヶ月の定着計画を、プロジェクト開始時から組み込みます。操作研修・マニュアル整備・運用ルールの明文化・モニタリングを行い、連携は可能な範囲で自動化します。

4つに共通する落とし穴

これらに共通するのは、固定資産管理を「経理の作業」とだけ捉えてしまうことです。

しかし、どの実装にするかは、会計基盤・資産規模・グローバル要件にかかわる経営判断です。

だからこそ、「何でもできます」と要望を全部受けるより、「それは純正で作り込まず、奉行やMFに任せた方がいい」と正直に言えるパートナーのほうが信頼できます。

ベンチャーネットの考え方

最後に、ベンチャーネットが大切にしている考え方をお伝えします。

それは、「正解は会社ごとに違う。だから一緒に選ぶ」という姿勢です。

ベンチャーネットは、純正FAM・勘定奉行連携・マネーフォワード連携の3つの実装すべてに、導入支援の実績があります。特定の方式に誘導するのではなく、「自社にどれが合うか」を中立に整理し、一緒に選ぶ伴走者でありたいと考えています。

基幹刷新の事例

たとえば、長年使ったSAP R/3の保守終了を機に、基幹システムをNetSuiteで全面刷新した株式会社アペックス様の事例があります。古い基幹システムの限界に直面したとき、どう移行を進めたのか。詳しくは「お客様の声」でご紹介しています。

固定資産管理も、こうした基幹刷新の一部として設計することで、データの分断を防げます。

よくある質問(FAQ)

NetSuite標準だけで固定資産管理はできますか?

標準のNetSuiteだけでは、固定資産管理の専用機能は持ちません。

固定資産管理(FAM)はSuiteApp(追加モジュール)として提供されています。資産台帳・償却・除却を本格的に扱うには、FAMの追加が前提になります。日本の償却資産税レポートには、さらに別のSuiteAppの追加が必要です。

減価償却と固定資産管理は何が違いますか?

減価償却は「会計上の考え方」、固定資産管理は「その運用の仕組み」です。

減価償却は、資産の取得費用を耐用年数にわたって配分する会計処理を指します。固定資産管理(FAM)は、その償却計算を含め、資産の取得から除却までを実際に回すための機能です。会計概念としての減価償却は「減価償却とは?」で解説しています。

日本の償却資産税申告や別表十六に対応できますか?

実装パターンによって対応の仕方が変わります。

純正FAMの場合は、別途「Japan Fixed Assets Reports」を追加して償却資産税レポートに対応します。勘定奉行やマネーフォワードの固定資産は、別表十六や償却資産税申告書の出力に標準で対応しています。日本税務を厳密に回したい場合は、②③の連携も有力です。

すでに勘定奉行やマネーフォワードを使っています。固定資産はどうなりますか?

既存ソフトを活かす連携が現実的です。

固定資産は奉行やマネーフォワードで管理し、仕訳データをNetSuiteへ連携する構成にできます。奉行はCSV連携、マネーフォワードは自動連携が選択肢です。既存の運用を大きく変えずに、経営データの統合だけNetSuiteで進められます。

新リース会計基準(2027年4月)にNetSuiteで対応できますか?

対応の土台になります。

NetSuiteの固定資産管理(FAM)にはリース会計の機能があり、IFRS16やASC842のリース基準に準拠しています。2027年4月から強制適用される新リース会計基準への準備として活用できます。詳細は「新リース会計基準にNetSuiteで対応する方法」をご覧ください。

まとめ:自社に合う「固定資産の運用」を選ぶために

NetSuiteの固定資産管理(FAM)は、資産台帳・償却・除却を一元化する強力な機能です。

しかし大切なのは、機能の多さではありません。「純正FAM」「勘定奉行連携」「マネーフォワード連携」のどれを選ぶか。それは、自社の会計基盤・資産規模・グローバル要件で決まる経営判断です。

独力で「自社にどれが合うか」を見極めるのは簡単ではありません。次の一歩として、現状の運用と要件を整理することから始めてみてください。

ベンチャーネットは、3つの実装すべての導入支援実績をもとに、中立的な選定をお手伝いします。お気軽にご相談ください。

もう少し詳しく知りたい方へ

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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